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異世界者の末路
目を覚ました時、そこは俺の知らない景色だった。
荒れている路上。
殴り合いをしている男たち。
ピクリとも動かない、横たわっている子供。
そんな光景を気にも留めない、周りの人々。
……ここは、どこなんだ?
少なくとも日本ではない、と思う。
外国だろうか?
だが言葉は聞き取れる。日本語だ。
どういうことなんだ?
俺はポケットの中を確認する。
スマホで場所を確認するが、やはり圏外。
電話しても誰にも繋がらない。
……まさかと思うが、俺は異世界にでも来てしまったのか?
俺は自分の中の一番新しい記憶を辿る。
確か学校に登校するところだった、と思う。
まさかトラックに轢かれて異世界転生しましたなんていうお約束だろうか?
……なたに、あたえら……りょくは……あぁ、まぁまぁ……
頭がズキンとする。
何かと話していた、記憶?
これは誰だ?
とにかく言葉が通じるなら、地元民に聞いてみるほかない。
……などと頭では分かっているが。
俺のようなコミュ障にとって、他人に話しかけるなんて行為はハードルが高すぎる。
しかも周りはガラの悪そうな男たちばかり。
あんなのに話しかけられる訳ないだろ。
「ねぇねぇ、そこのお兄ちゃん。」
と思ってたら幼い女の子に話しかけられた。
……子供とはいえ、俺が女の子に話しかけられるなんて。
「な、なんだい?」
「なんか変わった格好してるね、お兄ちゃん。
それどこの服なの?偉い貴族様の服?」
……貴族?いつの時代の世界なんだろうか此処は?
服、と言えば、俺は制服だった。
この世界では珍しいものなのだろうか?
「え、えっとね。
これは、えっと、制服って言うんだけど。」
「……へー。
もしかして高いものなの?」
「ど、どうだろう?
普通の服よりは、高いと、思うけど。」
親が買ったものだから、よく分からないけど、多分高いと思う。
「ふーん、そうなんだ。
ねぇねぇ、あっちで一緒に飲み食いしようよっ。」
強引に連れて行かれる。
思ったより力が強かった。
それでも振りほどくことは出来ただろうが、確かに空腹だったし。
女の子は飲み物を買ってくれた。
ジュースだろうか?
あとやはり日本円は使えないようだ。
「はいっ。お兄ちゃん。」
「あ、ありがとう。」
そうお礼を言って渡されたものを飲む。
「……うっ。」
……まずい。
なんだこれは?砂でも飲んでるのか?
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「う、うぅん、なんでも……」
女の子は気にせず俺と同じものを飲んでいる。
……この世界?だとこんな飲み物が普通なのだろうか?
「それで、えぇと、此処はどこなのかな?」
「え、何言ってるのお兄ちゃん?
此処は下層でしょぉ?
お兄ちゃんは上の方から来たんじゃないの?」
「か、かそう?」
この国は上層、中層、下層という場所に分かれているらしい。
上の方が住んでる人が豪華で、この下層は治安が凄く悪いそうな。
どうせ異世界転生するなら、偉い貴族の子供とかに転生させてくれればいいのに。
でも服も制服のままだし、転生というよりワープ的なあれ?
「あ、あれ?」
なんだか眩暈がしてきた。
「……にやっ。」
女の子の不敵な笑み。
それを見て、凄く嫌なものを感じつつ、俺は気を失った。
「……さむっ。」
気が付いたら、辺りは夜だった。
この国?は夜になるとこんなに寒くなるのか?
「……いや、違う。嘘だろ……」
俺は裸だった。
そりゃ寒いに決まってる。
「ど、どうして……?」
まさかと、思うが。
身ぐるみを、剥がされた、のか?
「お、落ち着け……」
落ち着かないが、それでも自分を落ち着かせる。
いま俺の着ている服は、シャツが一枚に、あとはパンツ一丁。
下も着てないので、財布もスマホも残っていない。
「まさか……さっきの女の子に……?」
俺は、もしかして、罠に嵌められた?
そういえば、制服は高いものなのか?と聞かれた気がする。
「ちっくしょうっ!!」
辺りを見回す。
先程の女の子は見かけない。
それ以前に辺りは暗くてよく見えない。
明かりがろくにないのだ。
「……う、さむ……いやこれはまずいぞ……」
このまま凍え死ぬ、なんてことは……?
なんだよ憧れの異世界に来て、いきなり俺死ぬのかよ!
異世界に来たなら、何か能力の一つくらい……
……あなたに、あたえらた……のうりょくは……ぷく……
また頭がズキンとする。
なんだってんだよ、ほんとに、ちくしょうっ!
俺は走る。
昼間に比べれば人気は少ないが、それでも人は多い。
……というか、路上で寝てる奴が沢山いるのだ。
まさかと思うが、この下層って場所では、家もろくにないのか?
治安が悪い以前の問題だ。
日本でもホームレスはいるが、辺り一面ホームレスだらけって感じだ。
「……だったら、いっそのこと……」
この寝てる連中から、服を奪う?
俺だって、盗られたんだ。
取り返しても、別に、いいよな……?
そもそもこのままだと凍え死しかねない。
でもよくよく見れば俺同様、裸のまま寝てる奴も何人かいる。
……ていうか、顔色が白すぎる奴がいるんだが。
「……くそ……」
……なんだよ異世界ってこんなにクソなのかよ。
なんかすごいスキルの一つ位、手に入ってもいいだろ?
とにかくこのままだと今夜にも死にかねない。
なんでもいい。ボロボロの服でもないよりはマシだ。
寝てる奴らから、俺に背丈が近い奴を探す。
「……悪く、思うなよ……」
俺と同じ位の歳の奴の服を、脱がそうとして。
「……え……?」
……よく分からない、感覚。
あつい、あつい、あつい、胸のあたりがあつい。
「い、ああぁぁぁぁああぁぁあああぁぁっっっっっっっ!!!!」
俺はみっともなく悲鳴を上げた。
俺の胸には、ナイフが刺さっていたのだ。
俺が服を脱がそうとした奴が、ナイフを俺に刺していた。
「……けっ。」
俺にナイフを刺した奴はそれだけ吐き捨てると、その場から立ち去っていった。
俺の事には見向きもくれない。
「……うるっせぇなぁ……」
周りの奴らもそう言うだけで、お腹から血を流す俺の事など気にも留めていなかった。
なんだよ、なんなんだよ、ちくしょうっ。
「きゅ、救急車を……だれか……」
俺はそんなことを呟きながら倒れる。
俺が倒れても、誰も何も反応しない。
……考えてみれば、昼間からそうだったのだ。
たまに見かけた不自然に横たわってる人々。
それは横たわってるのではなく、死体だったのかもしれない。
そして俺も……?
「……そん、な……」
異世界。
それはある種の、憧れのような世界だった。
もし俺がこんな異世界に生まれていたら。
なんて、妄想をした事もあるけど。
だが現実の異世界は、ただただ、冷たく、冷酷で、慈悲がないものだった。
そうして、俺の意識は。
暗い闇の底に、沈んでいった。
「スキルは、手に入れていたんだけどな。」
意識を失った少年の近くで、その人影は残念そうに呟く。
「あぁ、また死んだんですか?
イート。」
その人影に話しかけるもう一人。
「……アート。
なんでお前が此処に?」
イートと呼ばれた人影は不機嫌そうに言う。
「最近の戒は貴族様の方がメインなものでね。
近寄るなって言われてて暇なんですよ。」
「……そうかよ。」
イートはその場から去ろうとするが。
「しかし異世界の人間は、長持ちしませんねぇ。
殆どが、自分に与えられた能力すら分からず散っていく。
あの少年に与えられた能力は、なんだったんですか?」
聞いて来るアートに、イートは鬱陶しそうに答える。
「……うるせぇな。
お前はいいよな、主人公なんていう超有望株を眺められて。」
「はは、貴方は大変ですね。
異世界者を眺めるなんて、そんなの眺める対象が1日も持たないのに。
まったくまったく、情がない。」
「……あいつに与えられた能力は、反復横跳びが常人の3倍速くなる。
そういう能力だ。」
「……なんですかそれ?
割と当たりの能力なんですか?」
「当たりかどうかはその人間次第だな。
要は横向きでジャンプする時に限れば回避率が上がる能力だ。
少なくともそこら辺のチンピラ風情の攻撃なら確実に回避できる。」
「限定つきの回避能力ってことですか。
他にはどんな能力があるんでしたっけ?」
「……魚料理が上手くなる能力。
病気の種類が判別できる能力。
触れたものを硬くする能力。
最近だとそんな感じだな。」
「……しょっぼ。」
「しょぼくねぇよ。
まぁ主人公を眺めてるお前には分からないだろうけどな。」
イートは不機嫌そうに、今度こそその場を去っていった。
「……どんな能力もその人間次第。
意思の脆弱な余所の世界の人間じゃ、所詮はこんなもんって訳ですか。
まぁ知らない場所に放り込まれた人間の反応としては、普通も普通。
責めるのも酷というもの、かもしれませんが。」
ただ退屈だ。
有象無象を眺め続けるイートには同情するほかない。
まぁ幼女に服を取られてる時点で、あの人間には先がなかっただろう。
「……異世界に憧れる人間。
まぁまったく珍しくもない類ですが。」
どの世界に生まれようとも、所詮は同じ。
持っているものは、持っている。
持っていないものは、持っていない。
別の世界に生まれたら、なんていう仮定。まったく無意味。
「だから我々はね。
能力なんていう有象無象よりも、人の心を一番重要視する。
どうせ七罪魔の前では、人間如きの能力なんてたかが知れる。
次は当たりを引くことを祈ってますよ、イート。」
もう一つの人影も、音もなく消えていった。
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