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異世界者と眺める者(中編)



私がこの世界に来てから、4日ほど経った日。
このコートとかいう変態は私の前に現れた。

「わーお、生き残ってるー☆
 やったね、やったね、コートちゃんやったー☆」
「……え?
 だ、だれ……?」
なんとなく、ちょっと気持ち悪い。
他人のフリをして無視することにした。
「って、ちょっとちょっとー。
 無視するとか酷いよ、千里ちゃーん☆」
「……っっ!?」
私の名前を、知ってる?
そういえばこの声、どこかで聞いたような気も。

……なたに、あたえら……りょくは……

「あ、思い出してくれたカナ?
 私は眺める者コート☆
 この世界の案内人でーす★
 ほら拍手☆」
「あ、そう……」
もっと興味を向けるべきな気もするけど、微妙に気持ち悪い。
とりあえず服が無駄に派手で、なんか関わりたくないなぁ。
「100時間の洗礼期間を超えて無事生き残った貴方には☆
 この眺める者コート直々に、この世界の説明をする義務がありまーす★
 それまでは姿を見せちゃいけないって決まりなの☆
 ごめんね、千里ちゃん★」
「そ、そうなんだ……へ、へぇ……」
私は引き気味にそう応える。
というか普通に引いている。
「この国は大都市イムヌス。
 知ってると思うけど、上層、中層、下層に分かれてて貧富の差もひっどーい☆
 でもこの国の外はもっとひどくて、魔物ばっかり。人類大ピンチな大変な世界でーす★
 異世界と聞いて喜んだ子はごめんね。
 この世界、人類は割と終わり気味なんです。くすん☆」
魔物とかがいるというのは、ここで最初に知り合った冒険者に聞いた。(ロッキーって人)
まぁそんなこと聞いたところで、私にはどうしようもないけど。
「私達眺める者は、そんな大変な異世界者のちょっとしたサポートをしてあげるよ☆
 そのために与えられたのが思春期の子が喜びそうな特殊能力★
 いわば超能力?スーパー能力?あ、どっちも同じ意味だねー。てへ☆」
ほんとうっとうしいなぁ、この子。
でも能力って、まさか?
「眺める者の運命ルーレットによって、貴方が引き当てた能力は〜☆
 ジャジャジャジャジャジャジャ、ジャーン。
 それは……っ!!」
「……病気が分かる?」
「ガクッ!
 ちょっと、説明する前に答えないでー。
 空気読んでー!」
よく分からないが、これはこの子のいう能力とかいうものらしい。
なんとなくだが自分の見えるものに違和感があったのだ。
いよいよ幻覚でも見始めたかと思ったが、そうではなかったようだ。
「まぁ正直外れ能力だよねー☆
 病気の種類が分かったところで、それで何が出来るって感じ?
 まぁそっちの知識がある人なら、下層で一目おかれるかもしれないけど……」
「………」
私はコートという子の言うことを聞き流しつつ、その能力とやらについて考えてみた。
病気が分かる能力。
分かっても治せる訳ではないが、断定できるというのであれば、ある程度の対処法はある。
運命なんてものを信じてる訳ではないが。
そういうものを、私はこの時、感じていたのかもしれない。


「ぜっしびょう〜〜〜??」
「そ、知らない?」
この能力は私にとっては便利だが、知らない病気の事は対処のしようがない。
まぁもともと大病をどうにか出来る能力は持ち合わせていないのだが。
だがこの一カ月、私が視た限りでは不思議とその手の病気にかかった人はいない。絶死病を除いて。
「う、う〜ん、アート君なら知ってるかもだけど、
 絶対に教えてくれないだろうし……」
「あんたのお仲間?
 まぁいいや。」
別に期待してた訳ではないので、私はさっさと次の仕事に向かう。
「あ、待ってよ千里ちゃ〜〜ん☆
 たまにはコートちゃんにも千里ちゃんの仕事ぶりを見せて〜〜★」
「ガキの遊び場じゃない。」
「いやいや、このコートちゃんは千里ちゃんよりも……」
なにか話し始めたが、どうでも良さそうな話なので無視した。
そんなファンタジー的な話をされても、反応に困るだけだ。

下層第15区域の離れ。
他の下層の場所とは違い、此処には出歩く人は一人もいない。
それも当然。此処は絶死病にかかった子を隔離するための場所。
子供以外にはかからない病気との事だが、ウィルス感染の類ならウィルスの性質が変化する可能性もある。
大人とて油断していい訳ではない。
とはいえ……
「……またあんたか、ロッキー。
 此処は私が視るって言っただろ?」
「あ、あぁ。
 それは、分かってるんだが、やっぱりミリィの事が心配でさ。」
若い冒険者の男、ロッキーはそう罰が悪そうに言った。
病は気から、という訳ではないが、関係者がお見舞いに来る事は許可する事になった。
ただこの時間は私が視る時間だ。あんまりうろちょろされても困る。
「ほんとにわりぃ。
 仕事の邪魔をする気はなかったんだ。」
「まぁいいんだけどさ。
 しかしあんたも妹想いだねぇ。」
「……そりゃまぁ、こんな病気になっちまったらさ。
 あんたは兄弟とかいなかったのか?」
「……まぁいない事はなかったが。」
……妹か。
あれはどうする事も出来なかったからな。
そしてこの病気も、きっと。
ギリ、と私は歯ぎしりする。
私は医者になれない、向いてないとかつて教授に言われた。
こんな能力があっても、私が今やってる事は看護婦がやるようなそれだ。
「千里ちゃん。
 貴方はいま貴方に出来ることを精一杯やってますよ。
 コートちゃんはこの1ヶ月、貴方の事をひっそりと眺めてたから分かります☆」
「……あぁ?」
コートがなんか一丁前の事を言う。
てかそれはただのストーカーだろ。警察とかいないの?この国。
「お、そこのガキはいい事言うじゃねぇか。」
「だからガキじゃないんだけどなー☆
 そこのモブ君★」
「あん?誰がモブだって?」
コートとロッキーが阿呆なやり取りをしてる間も、私は一人ずつ診察する。
……診察と言っても、健康状態の推移とか、病状が悪化してないか、その程度の事しか出来ないのだが。
「……ハァ……ハァ……」
……一人の少女を視る。
40度は間違いなく超えているな。薬も効いている様子がない。
病状は明らかに悪化している。
……おそらく、今までの傾向からして、あと2,3日が潮時だ。
この子の関係者にもそう報告した方が……
(……いや、この子にはそういう人もいなかったな。)
どんな気持ちだろうか。
誰にも親しい人に看取られずに、苦しみながら死んでいくというのは。
大丈夫だ、きっと元気になる。
そうありえない未来を話して、元気づける事は出来るのかもしれない。
そうじゃなくても、もっと気が利いたことを何か一つでも……
(私は、看護婦にも向いてないんだろうな……)
だったら教育学部にも向いてないだろ。
教授の過去の言葉に文句をつけつつ、私はこの地域を去った。
我ながら根に持っているらしい。
……そんなどうでもいい事を考えて思考を紛らしてるのが、私の卑屈なところなのだろう。
外面は変わっても、中身は何も変わっていない。

日も暮れる。
そういや夕飯はどうしたものか。
昼飯もろくに食べていないから、だいぶ空腹だ。
とはいえ、今この下層の食料事情は逼迫している。
中層から食料が輸入できてないとか、そんな話らしい。ほんと大丈夫なのかこの国は。
今日はさすがにあの子から譲ってもらうしかないかなぁ。
さすがに気は引けるが。

「よしおまえら。
 一人ずつ順番に並ぶんだぞ。」
「私が一番〜〜♪」
「……またお前が一番かよ。」
人の列ができている。
冒険者たちがルームなんとかってところから、食料を調達しているらしい。
この異世界の更なる異世界?ってところの食料を持ってきてるようだ。
ほんと謎だらけだなぁ、異世界。
そんなどうでもいい事を考えつつ、私は人々の中心にいる少女に話しかける。
「今日も人気だねぇ、刹那ちゃん。」
「ん、おまえ千里か?
 ちゃんと並ばないと駄目だぞ。」
「はいはい。」
言われたとおり、私は列に並ぶ。
そういやコートの奴も、食べたり飲んだりするのだろうか?
「あんたはどうするんだい、コート?
 割といけるぞ、あの魔物料理とやら。」
と思って後ろに話しかけたが、コートの姿はなかった。
あり、さっきまでいたと思うんだけど。
まぁいいか。あいつはあいつでどっかで食べてるだろ。食べるなら。


「………」
コートは賑わう人々から離れた場所で、一人佇んでいた。
普段のおちゃらけた様子はまったくない。
「なにびびってるんですか?コート。」
「……っっ!?」
コートの後ろに人影。
「……アート君って結構暇なんですか?」
「暇じゃないですよ。
 貴方も知ってるでしょう。」
アートはめんどくさそうに言う。
「私は”今回は”貴方達の査定も仕事のうちに入ってるんです。
 貴方達のような下っ端とは違ってね。」
「ふ〜ん☆
 やっぱり眺める者のエースは違うなー★
 憧れちゃうなー☆」
「強がるなよ。
 ☆とかきもい性格演出するな。」
「……っっ!?」
アートは声色を変えてコートに迫る。
不機嫌さを隠しもせず。
「我々はただ人間達を眺めていればいい。
 眺める対象の人間に感情移入をするな。」
そしてもう一つとつけ加える。
こっちの方が重要だと何度言えば分かるのかと嫌味を言いながら。
「"あの"女をちゃんと眺めろ。
 肝心なところで逃げてどうするのか?
 さっさと人間時代の自分から脱却しろ。
 それが出来ないのであれば。」
アートは背を向ける。
「貴方も落第だ。
 今までの24人の眺める者もどきと同様にね。
 次はないと思ってください。」
それだけ言ってアートは姿を消す。
だがコートは消えたアートの方ではなく、賑わう人々を遠目に眺めていた。
ずっと、ずっと、眺めていた。


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