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眺める者研修



世界の中立な傍観者。
もといただの愉悦集団たる眺める者。
彼等も最初から眺める者だった訳ではない。
無から生み出された眺める者。
元人間の眺める者。
如何なる基準で選出されたかは眺める者たちにもよく分からない。
だが選出されただけではまだぺーぺーの新人眺める者に過ぎない。
どんな世界にも新人研修は必要なのだ。


「……というわけで第1回眺める者研修を始めます。
 講師のアートです。
 くそ、私の頃にはこんなものなかったのに。
 これだから最近の若手は。」
適当に作られた空間にてアートのプレゼン資料が映し出される。
眺める者の定義、眺める者の役割、といった特に面白くもない内容が淡々と説明される。
「ふわぁあぁぁぁぁ。」
「眠いー。」
しかし真面目に聞いている眺める者は半分もいなかった。
まだ学生気分……もとい人間気分が抜けないのかもしれない。
だが一応講師であるアートの方もどうでもいいらしく、気にせず説明だけ続ける。
「はい、次は要注意人物です。
 危ないから気をつけるように。」
刹那とか戒とかがピックアップされる。

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「目が合ったら殺されるかもしれないので眺める者といえど気をつけるように。」
そんなやる気のない説明が行われてる途中、初めて挙手が上がった。
「眺める者って死なないんじゃないんですかー?」
質問が上がった。
やる気のある若手もいるようだ。
アートは面倒くさそうに答える。
「少なくともその世界では死にます。
 それは眺める者としての仕事を遂行できなくなるということです。
 死んでも大丈夫とか眺める者としての意識が足りません。」
まぁそんな意識持ったことないけどと口走りそうになったのはここだけの秘密である。
「あとあまりやる気がないと母に殺されるので気をつけてください。
 まぁやる気があっても殺されますけど。
 その場合は復活できません。本当に死にます。」
「えっ?」
一部の眺める者が驚愕したがアートは無視して話を進める。
さっさと終わらせたいらしい。
30分ほどのプレゼンを終え、アートの説明は終わった。
続いてグループワークが始まる。
グループワークのお題はこちら。

”死なないためにどうするか”

何このお題と眺める者たちの心中は一致した。
最近、眺める者を増やしてもすぐ数が減ることが社会問題になっている。
母が無駄に殺し……じゃなくて眺める対象に感情移入してそこで一生を過ごしてしまう眺める者が問題になっている。
これは眺める者社会において遺憾であるとペンギンの眺める者が淡々と説明をした。
こうして離脱してしまう眺める者の数は全体の35%にも及ぶ。由々しき事態である。
なお残りの65%は何?という指摘は無視された。
とにかく新人眺める者たちによる議論が始まる。
先程よりはやる気があるようだ。
さすがに死ぬのは嫌らしい。
「ほらあれでしょ☆
 眺める対象なんてうんこか何かと思えばいいんだって☆」
「たとえが下品すぎる。
 せめてゴブリン位に。」
「えーゴブリン可愛いのにー。」
議論のレベルは低かった。
「死ななければいいとか、眺める者としての意識が低すぎます。
 我々は常に世界を中立に観察しなくてはならない。
 こんなレベルの低いお題を出されたのは納得が行きませんね。」
意識が高い眺める者もいるようだ。
しかし周りからはめんどくさい奴と陰口を叩かれていた。
この様子だと8割くらいはまた死にそうだなとアートは思っていた。
そんなこんなでグループワークは終わり、チーム毎に発表が行われる。
「一番可愛いのはペンギンだと思います。」
「主人公より脇役を眺めたいです。」
発表のレベルは低かった。

特に批評が行われることもなく、次の課題に移りますとベテラン眺める者たち。
お次は実地研修だ。
かつて某遊ぶ者が作った夢の世界の残骸が舞台となる。
「えーここはミゼラブルとかいう町ですね。
 まぁぶっちゃけ冥府の残骸だけど細かいことはどうでもいいでしょう。
 一応まだ町人(骨)は残ってるので適当に眺めてください。」
アートはとことんやる気がなかった。
町人などと説明されたが、見たところスケルトンもどきしかいない。
所詮残骸の世界なのでこんなものしか残っていないのだ。
さすがに骨を眺めて愉しめる性癖を持つ者はこの場にいないだろう。
「骨しかいないんですけどー。」
当然の疑問が上がる。
今度はゴーレムの眺める者がその疑問に答えた。
「眺める対象は自分で探して来るのだ。
 この世界はミゼラブルだけでなく、いくつかのダンジョンに分かれている。
 その中から推しを見つけるのだ。」
「えっ?」
訳の分からないことを言われ、一部の眺める者は困惑する。
とにかくいろんなところに行けやという指示と判断し、それぞれダンジョンに散らばった。
そして死んだ。


「えーでは最後にアンケートタイムです。
 今日中に提出するように。以上。」
こうして眺める者研修は終わった。
新人たちからの講師評価は大半がE評価だったのは言うまでもない。
だが講師をした眺める者たちも殆どの新人たちの評価をE評価とした。
この研修に何の価値があったのかは彼等にも分からない。
たぶん上司が分かっていればそれでいいのだ。きっと。
アートは適当にそう思っていた。
早く帰って戒を眺めたいのが本音だった。
だがベテラン眺める者たちには残業が待ち受けていた。
「今日の研修の結果をもとに、
 ブラッシュアップを行った第2回眺める者研修を明日開催する。
 今すぐ準備を進めるように。」
「明日……」
どう考えても深夜残業である。
結局一番問題なのは主催者なのではと眺める者たちは思った。


「や、やっと終わった……」
7日連続で続いた眺める者研修は終了した。
新人の眺める者たちはこれからいろんな世界に旅立っていくのだ。
ベテラン眺める者たちはそれを温かく見守ってくれないことだろう。
アートも含んだみんな文句を言いながら彼等は元の世界に帰っていった。
なおその後の眺める者の死亡率は特に下がったりはしなかった。


「……という訳で眺める者の世界もいろいろ大変なんですよ。」
「知ったことか。」
戒の感想はその一言で終わった。
ちなみに眺める者研修はそれ以降実施されることはなかった。
二度と思いつき企画はしないで欲しい。


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