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闘争の一日(前編)
イムヌスが誇る騎士達ナイツ・オブ・グローリア。
その筆頭である零騎士命閣。
彼は既に全盛期を過ぎていながら、未だ国民や他の騎士達の憧れの対象である。
今日も魔物討伐の凱旋にて、他の騎士達の先頭に立ち、国の熱狂の中心にあった。
……だがその男の心中を知る者はこの場にはいない。
(……つまらぬ。)
零騎士、砂上命閣という男の心の中で。
その暗い嘆きは響いた。
闘争の悪魔ガラハド。
七罪魔の一角たる彼が”本来の”砂上命閣の存在をカケラとし、このイムヌスに来てから数年程が過ぎていた。
砂上命閣の中の嘆きは、あくまで闘争の悪魔の力の一部が呟いたものに過ぎない。
彼の本体はこの国の下に眠る魔城パンデモニウムの玉座にて瞑想している状態にある。
次の闘争を開始する、その時のために。
……だがそれを願って、もう何年が経ったのか。
命閣がただの国の一兵士から、ナイツの筆頭たる零騎士になってから約3、4年。
ならばこの悪魔がイムヌスに来てから大体その程度の年月が流れたのであろう。
だが闘争の権化たる彼はそのような細かい時の流れなど関心の外だ。
(……つまらぬ。)
また同じ嘆きが流れる。
何故そこまで彼はいま極度の退屈を感じているのか。
どうせ魔城にいたところで彼の渇きを癒せる存在などいない。
だからわざわざグリモアごときの指示で騎士達が君臨するというこの国に出向いた。
その行動の源泉は主に二つ。
一つはこの国の現最強。双剣鬼・巡剣座郎。
その最初の邂逅は彼が零騎士となってから数日後。
「……主が新たな零騎士か。」
「……あぁ。」
その言葉はあくまで”砂上命閣のもの”だが、僅かに闘争たる彼が表に出て来た。
(あぁ成程。力は感じる。)
……悪くはない。
……だがそれだけだ。
……この男はいま停滞している。
……ならばその眠り、醒ましてやるのも一興ではないか?
そう考えて滾ろうとしたところで、彼に魔力の波動が流れる。
”この場”の砂上命閣にではない。
瞑想している闘争の悪魔ガラハド。その本体に対してだ。
ガラハドはその相手に対して口を開く。
「少しの戯れも許容出来んとは。
あいも変わらずつまらぬ奴だ。」
(……勝手な真似をするな。
いまその男と戦っても、貴方は何も得られないでしょう。)
双剣鬼と会うと聞いて見張っていたのか、巨大な目玉が魔城の天井に張り付いていた。
それは掌握の悪魔グリモアの意思端末の一つである。
ガラハドはそれ以上の言葉は発さず、瞑想を再開する。
砂上命閣の意識に戻って来る。
(まぁ別に良かろう。)
所詮は一時の気まぐれでしかない。
戦うべきその時は、いずれやって来る。
……まぁその停滞がずっと続いて数年になるわけだが。
目的の一つはずっと停滞している。
ならば残り一つ。
この国の最強の騎士達、ナイツ・オブ・グローリア。
その歴史がいつから始まったのかは分からない。
時代によっては騎士達は無双の強さを誇ったとも聞く。
だがいろいろと復活のタイミングが合わず、この時代までまともに邂逅できた事がなかった。
その機会を得られるというのであれば、是非もなし。
しかも都合のいいことにナイツ筆頭の資格は、もっとも強い騎士であることだ。
以前ならば、そこに自分を潜り込ませる事など出来なかった。
カケラの技術が完成していない、覇帝や矛盾曲が健在だった、といった理由でだ。
まぁその辺りの細かい段取りはグリモアが勝手にやっており、どうでもいい。
自分にとって重要な事はただ一つ。
「……命閣。やっと見つけたぞ。」
「リードレイトか。何か用か?」
「いや用じゃないだろまったく……」
緑騎士リードレイトが自分を追いかけて来てたようだ。
これも概ね見慣れた光景だ。
「毎回毎回、私に事務作業を押しつけてどっか行って。
私だって少しは遊び……げふっげふっ。」
「そうか。それは悪かったな。」
相変わらず真面目な男だ。
少しは自己の欲求に従って動けばいいものを。
緑騎士リードレイト。
灰騎士裂憧。
この二人と砂上命閣は旧知の仲だ。(命閣の記憶を読み解く限り)
あの竜王率いるドラゴン達との戦いをなんとか生き残った二人。
それ以外の当時のナイツは全員その戦いで亡くなったと聞く。
(双剣鬼曰く、相当な強者揃いだったようだが。)
少し過大評価が過ぎる気もするが、あの男にそう言わせるだけのものはあったのだろう。
「おい。聞いてるのか命閣。
お前も少しは仕事を……」
「悪いが、今日は急用がある。」
「おま、いつもそればっかりだな……」
別に自分にとってはどうでもいい用だが命閣の日常の一部として無視する訳にもいかない。
少なくとも”砂上命閣は”そう判断し、その場を離れる。
(余が”動かしても”構わない、が。)
それはやるなとグリモアに禁じられている。
カケラが壊れてしまう、とかなんとか。
命閣の自我が壊れようとどうでもいいことではあるが。
まぁせっかくの愉しみの機会を自分から壊す必要もないだろう。
いまは命閣の意思に従っておくとしよう。
ひそ、ひそ、ひそ
衆愚の噂話が聞こえる。
どうでもいいことだが、どうせ暇ゆえ耳を傾ける。
(……あれが命閣様。)
(なんであの人が、ナイツ筆頭なんだ……?)
(本当なら零騎士は今頃、蓮次様のものだったのに。)
その名前は聞き覚えがある。
竜王との戦いで散った当時の黒騎士の名前だ。
ガルガンからの又聞きだが、過去の連盟である連剣鬼の子孫だったとかなんとか。
(いつでも、余の知らぬ間に知らぬ強者が散っていく。)
……あぁ、本当につまらぬ。
「やぁ、命閣。
忙しい時にすまないね。」
「構わない。
別にそこまで多忙ではない。」
仕事はリードレイトに押しつけたからな。
用とは連盟筆頭、砂上楼閣との密談のことだ。
「ナイツの調子はどうだい?
まだまだ人数が揃ってないようだが、兄上殿から見て有望株は?」
「今のところはいないな。
最近エクスという男がナイツを志望しているようだが。」
どこかで見た男ではあった。
例の夢の世界のガラハドがもしかしたら目撃したのかもしれない。
近いうちに三騎士が頭角を現すことを知識として知ってはいるが。
物語は予定調和だけでは面白くない。
「ほう。その男をナイツに入れる予定か?」
「今の段階では凡夫だがな。
まぁこれ以上ナイツを空席だらけにしておく訳にもいかない。」
竜王との戦いのせいで、ナイツ候補は大幅に減っている。
選出基準を大幅に引き下げる必要があると命閣は判断したらしい。
「あぁそれならマルシェロが一人推薦してる騎士がいる。
女性の騎士だがね。」
「ほう?」
「候補が不足してるのであれば検討しておいてくれ。
名前は愛莉と言う。」
聞いたこともない名だ。
勘だが訳ありか。
この男も何を考えているのか分からない。
(そもそも。)
この男は我々の関与にどこまで勘づいているのか。
グリモアはカケラの偽装は(覇帝と矛盾曲を除き)絶対に見破れることはないと言っていた。
過去の付き合いや、観察眼など意味を成さない。
その者の人格その他全てを”そのまま”利用し、使うことが出来るのがカケラだ。
余が直接口出しをしない限り、その隠蔽が表に出る事はない。
ゆえに砂上楼閣とて、見破ることは不可能。
(だが、カケラの”外側”ならどうなる?)
グリモアが懐に入れた命閣の父親とやらは相当な無能らしい。
そこから情報が洩れる可能性は十分にあるのではないか?
(無能な味方ほど邪魔なものはないと思うがな。)
有能すぎる味方をグリモアは恐れる。
ゆえに奴の部下には臆病者しか存在しない。
愚かなことだ。
(まぁどうでもいいことだが。)
退屈の度が過ぎるとどうでもいい事ばかり考える。
……あぁ、つまらぬ。
夜も更ける。
今日も退屈な1日が終わりを告げる。
この時間ならば別にいいだろうと、余は命閣に話しかける。
(その女もナイツに加える気か?)
先程の愛莉とかいう女の話だ。
「……そ、そうだ。
楼閣からの申し出だからな。」
命閣は怯えるように余の質問に答える。
(別に責めはせん。
だが間もなく、期待の騎士たちが頭角を現すだろう。
決して逃がすな。)
「あ、あぁ。」
今のナイツは弱い。
これでは到底、余を愉しませるには至らない。
リードレイトも裂憧も若い頃なら話は違ったかもしれない。
だが人間の全盛期は瞬きの間に過ぎてしまう。
(……つまらぬ。)
いっそのこと冒険者で有力な人間をナイツにすればいいのではないか?
だったらその候補はあの男しかいない。
(未来永劫リーダー、未踏。
違う世界のガラハドの記憶であっても、その魂をよく憶えているぞ。)
まぁ国の騎士になるような男ではないがな。
あれを一言で言うなら勇者という表現がもっとも適切なのだろう。
だが零騎士の身分で冒険者と戦うことは出来ない。
(いま考えると順番を間違えたな。
零騎士になる前に未来永劫と戦っておくべきであった。)
とはいえこの時代だと奴等もまだ未熟か?
少しずつ有名になってはいるようだが。
(あと数年。
数年だ。
その時が結実するまで。)
いまはただ待つのみ。
どれだけ退屈であっても。
運命の邂逅は必ずやってくる。
この世界はそういうものなのだから。
だがそれはそれとして、今は……
(……つまらぬ。
本当につまらぬ。)
それ以外のなにものでもなかった。
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