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14話 意思の刃



「……音羽、先輩が、勝った……?」
死力で構成されたあの黒い人型。
ボクの力で強大になってしまったあの怪物を、あの音羽先輩が?
音羽先輩の無駄な自信は、実は無駄じゃなかった……?
「……瑪瑙様。」
驚愕しているボクに黒鉄が声をかける。
そういえば音羽先輩はボクの事をなんであんなに知っていたんだ?
ボクはハッとして黒鉄の方を向く。
「全部、話したんだ……」
「……申し訳ありません。
 今がその時と、感じたもので。」
……そう。ボクが知らなかった事も含めて。
だったら、そう。
ボクのしてきた事は全てが間違っていたのだろうか。
「……そんな難しいことじゃ、ないでしょう……」
音羽先輩は、血の気の引いた顔で憎まれ口を叩く。
いやまぁ本当に血の気が引いてる気がするんだけど……
「別に、未踏の事が嘘の記憶だったとしても……
 貴方は人を助ける事が出来ていた、のでしょう……?」
助けること……?
「何が切っ掛けであったとしても……
 切っ掛けなんて、それほど重要な事なんですか……?」
「……その通りです、瑪瑙様。
 東方の村の方々を、鬼の手から守って来たのは、
 瑪瑙様だったではありませんか。」
「で、でも……」
この肉塊たちの出現で、それも、結局は……
「……なんだ貴様、聞いていないのか?
 東方の人々は先んじて避難が済んでいたんだぞ。」
「……え?
 オレンジの人、本当、ですか……?」
「誰がオレンジの人だ!?
 せめてアカシャ先輩か、橙騎士と呼べ!
 ……フン、零騎士様のご采配に間違いなどある訳がない。
 我等ナイツ・オブ・グローリアは人々を守る騎士なのだ。
 強さなどそのための手段に過ぎん。」
「……は、はい……っ!」
だったら、今するべき事は。
「……残った肉塊共の殲滅だ。
 貴様も桃騎士音羽から序列6位を奪ったのであれば、
 その実力、この場で見せてみろ!」
「……分かり、ました……!」
ボクは両刀を構える。
死力は使うべきではない、だろう。今は。
だがそれでも。
「……それでも、問題はありません。
 元よりあのような力なくとも、
 瑪瑙様は、お強いのですから。」


「……たまにはいいとこあるじゃないですか。
 ホモオレンジ……アカシャ。」
私は意識が朦朧としながらも、瑪瑙とアカシャのやり取りを聞いていた。
アカシャの”嘘”による安心を。
あの状況で避難が出来た訳がない。
瑪瑙も後になって冷静に考えれば気づける筈だ。
だが今はその時ではない。
……あぁ、そんな事より視界がぼやけてきた。
「だ、大丈夫なのかい、音羽。」
叔父さんは心配するが、ぶっちゃけ大丈夫ではない。
既にまともな戦闘態勢は維持できない。
「無茶しますねぇ、音羽せんぱぁい。」
「……チルッチル。」
あっちの部隊はどうした、と問い詰めるべきなのかもしれないが。
「……まぁ、助かりました。」
「どういたしましてぇ。
 たーだぁ、私が昇進するためのお手伝いさえ、してくれれば、ねぇ?」
……分かりやすい女だ。
「心配しなくても、あっちはドジな黄色君が頑張ってくれてるでしょ。
 まぁあっちには肉塊連中来てないみたいだし、11位のボクちゃんには丁度いい仕事じゃないの?」
「えぇ、まぁ、そう、ですね……」
……どのみち私の今回の仕事はここまでだ。
遊ぶ者プレイとやらは倒したのだし、これで肉塊共の統率も崩れるだろう。
残った奴らの殲滅は他のナイツに任せれば……

ズズズズズズズズズ

「……揺れている?」


「ギ、グギャアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
肉塊たちが咆哮を上げる。
それらはグネグネと膨張と収縮を繰り返す。
やがて一つの肉塊が一つの肉塊を喰らいはじめる。
喰らわれた方も喰らう方を喰らいはじめる。
喰らい、喰らい、お互いに喰らい、喰らい、喰らい、喰らい、更に喰らい。
それらは膨れ上がり続ける。
既にそれらは、否、それは肉塊と呼ばれるものではなかった。
膨れ上がったそれは、強靭な腕と爪を持ち、悪魔のような角を持ち……
「グ、ギヒ、ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
一つの混沌を司る悪魔が、ここに誕生した。
それは、ある世界においてこう呼ばれていた。
グレーターデーモン、と。


「な、なんだこいつはっ!?」
巨大に膨れ上がった肉塊、いいやもはや肉塊とは呼べないその化物は巨大な口を開き。

ドラゴン・ブレス!!

「う、うあぁぁっっ!?」
突如現れたその化物は特大規模のブレスを放ち、ボク達は突然の事に対応できず吹き飛ばされる。
特に今は、そう。
「……っ!
 音羽先輩っっ!!」
先輩は今はまともに戦える状態ではない。
「音羽の事は叔父さんに任せろ!
 それよりもその化物を!」
「なんなのさ、この化物はぁぁぁぁっっ!!」
紫の人が3色に富んだ矢を放つ。
あれは虹色の矢だ。
だが化物はその攻撃にはまったく意を介さず。
「ギャアアハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!」
巨大な腕を大地に叩きつけた。
大地が砕け、砂煙が舞う。
「あぁぁぁあぁぁぁぁっっっ!!?」
紫の人が飛ばされる。
だが飛ばされる前に、化物は長い腕を伸ばし彼女を掴んだ。
……まずい。
「ぐ、ぅっぅあぁぁぁっっっ!!」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
弄ぶように化物は掴んだ彼女の骨を砕き始める。
……もはや一刻の猶予もない。
「この、化物めぇぇっ!!
 獄炎斬っっ!!」
オレンジの人、橙騎士が逆方向から攻撃を仕掛ける。
殆ど意に介してないようにも思えたが、化物は橙騎士の方をギロリと向いた。
だが橙騎士はニヤリと笑い。
「……今だっっ!!
 隙が出来たぞ、黒騎士っっ!!」
……っっ!?
思考するよりも早く身体が動く。
両刀を抜き、ボクは紫の人を掴んでいる化物の腕まで跳び。
「両刀・聖爆剣!!」
その腕を、斬り落とした。
「グ、ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
化物が悲鳴を上げる。
巨大な腕が地面に落下する。
「……う、あぁぁ……うぅぅ……」
……だが紫の人も、もう戦えない。
叔父さんがすぐに彼女を回収しに向かうが、逆にいえば叔父さんは積極的に攻撃に参加できない。
だがそんな事を考える前に……
「グ、ギィィィィアアァァァァァ!!!」
化物の口から数体の肉塊がボクに向かって発射された。
空中では回避行動が取れない。
「やらせはせんっっっ!!」
黒鉄が一閃を放ち、肉塊たちを二分割する。
……駄目だ、黒鉄、それではっ!!
肉塊たちは分割されても一切構わずにそのまま飛び掛かってくる。
……あれに両腕両足を掴まれれば見動きできなくなる。
そうなれば紫の人の二の舞だ。
案の定、化物はもう橙騎士を無視して、ボクに焦点を定めている。
けれど、この態勢から攻撃は放てない。

「……っっ!!
 どうにかしなさい、瑪瑙っっ!!」

音羽先輩が血を吐きながら叫んでいた。
……いやどうにかしろって、言われても。
ボクは空中。
そのうえ聖爆剣を2発も放った直後に攻撃など撃てる訳がない。
腕で、手で、刀で、撃てない以上は、どうしようも、ない。

だったら、もう。

どこでもいい。

どこ”から”でもいい。

常識など、理屈など、考える必要はない。

やるべきことを、ただ、成せ。


「……っっ!!
 どうにかしなさい、瑪瑙っっ!!」
無茶苦茶言ってるのは分かってるが、そう叫ぶ以外なかった。
私達は所詮、ただの人間だ。
空中で自由に動き回る事など出来やしないのだ。
そんなものは漫画の中の世界の出来事。
だが。
だが、それでも。

それを成すのが、英雄というものだろう?


「そう!
 ”その”技は”どこからでも”撃てル!!
 それはそういうモノナノダ!!
 ”負の力”を持って、”負の力”を制することコソが!!」
マーティン・ハイケルはそう提唱する。
提唱?そうではない。
それは単なる事実だ。

「簡単に言ってくれるよねぇ。」
テンションの上がるマーティンの隣で、闇月はうんざりした顔で呟いた。
「あたしは死にかけでこのスキルを手に入れたんだけどぉ。
 ま、それと同じ状況っていえば状況なのかなぁ?」
まぁ一つだけ言えることは。
「こぉんな英雄馬鹿に目をつけられたのは、
 災難、って事だけだねぇ♪」

その黒い刃は放たれる。
否、それは混沌を切り裂く混沌の刃。
だがその刃の本質は、刃にして刃ではない。

「意思!
 人々の意思!
 英雄の意思!
 そう、それだけで僕たちは、至ることが出来るのだ!」
マーティン・ハイケル。
否。
希殺はいつものように英雄への願望を叫ぶ。


「こんっ、とんっ、ぎりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


肉塊たちは混沌の刃に沈む。
細切れにされた肉塊はその活動を停止する。
瑪瑙は刀からではなく、”意思”だけで、その刃を放った。
それは、だから、きっと。

私には、桃騎士音羽には、進むことが出来ない道。
"そちら"側に行けない、私には。

瑪瑙はなんとか着地に成功する。
だが一度に何発ものスキルを放った代償か、着地の瞬間、膝から崩れ落ちる。
先の刃は肉塊たちを完全に消滅させ、あの化物にも直撃していた。
化物はその一撃で悲鳴を上げた、のだが、それは化物の急所にまでは到達していなかった。

化物は怒り狂う。
眼前の脅威をすぐに排除すべきと考えたのか、化物は瑪瑙をその図体で圧し潰そうとする。

「だが、それはいまだ英雄の芽でしかない。
 そう、新たな英雄は、一人ではない。
 それを、さぁ!
 僕のような、ただ叫ぶしかない、小物に、見せてくださぁい!!」

圧し潰そうとし。
”逆に”圧し潰された。

”その”黄金の槍に。
黄金の槍を”率いる”青い騎士に。

「……英雄じゃねぇ。
 俺は勇者を”夢”見ただけだ。」

その”夢”を望んだ、勇者になれなかった男に。


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