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13話 桜ノ調



「……そんな奴の言うことを真に受けてまた落ち込むとか。
 相変わらずナイツとしての自覚が足りませんね。
 瑪瑙。」
また瑪瑙は何か打ちひしがれてるようだ。
敵の言うことなんていちいち真面目に聞くな。
「おぉ、音羽!
 いやいや助かるよ。
 叔父さん達だけじゃピンチだったんだ。」
ピンチの割には叔父様は余裕があるが、確かに楽観できる状況ではないだろう。
私は目の前の黒いやつに向かって一応問いかけてみる。
「……あー、貴方が遊ぶ者プレイとかいうやつですか?
 黒幕ということでいいんですか?」
「……あぁ?
 なんだよその態度。
 モブの分際でさ。」
なんかこんな風にモブモブ言う奴を前にも見たような。
「まぁ僕を知っていた事は誉めてあげよう。
 そう、僕こそが遊ぶ者プレイだ。」
……いや本当に答えたし。大丈夫かこいつ?
まぁ楽でいいけど。
「気をつけろ、桃騎士音羽!
 そいつに触れると……っ!」
「……なんか触れたところが黒くなるみたいなんだ。
 直接攻撃は避けた方がいいね。」
直接攻撃は避けるべき、か。
だったら。
「地層波動!」
触れなければいい。
とはいえ、この技は全体一掃用なので単体だと当てにくい。
案の定、遊ぶ者プレイとやらは鈍重な動きで躱した。
動けるデブというやつだ。
「なんだい、その鈍間な攻撃は。
 君のようなモブ如きに用はないんだよ。
 僕はいま愉しんでたのに邪魔をしないで欲しいもんだね。」
敵がどうでもいい事を言ってる間に瑪瑙の様子を見る。
お前がこの中で一番強いんだからさっさと立ち上がれ。
「……黒鉄さん。」
「……はい、ご配慮、感謝いたします。」
黒鉄さんが瑪瑙に駆け寄る。
「……瑪瑙様。」
「こ、この力は父様に……」
「……瑪瑙様。
 その力はおそらく悪しき者の力が瑪瑙様に流れたもの。
 おそらくは遊ぶ者プレイか、もしくは……」
「負力強化実験。」
黒鉄さんの言葉に割り込むかのように、黒いのが口だけで笑っている。
「記憶収集装置の贋作と一緒に、東方で行われていた実験さ。
 お前らモブ共はそのための実験材料に過ぎなかったのさ。」
さすが愉快犯。べらべらと情報を喋ってくれる。
瑪瑙はその言葉に青ざめた顔で。
「そ、それじゃあこの力は父様の力じゃ、ないの……?」
「んな訳ないだろ。阿呆か?
 未踏が負力なんてしょうもない力を振り回す訳ないじゃないか。
 何故ならあの男はこの世界の”本来”の……」
その時、べらべら話していた黒い奴の口が勝手に閉じる。
それを喋ることに不都合でもあるのだろうか。
しかし黒鉄さんの話と合わせれば、情報はもう出揃っている。
「……つまり瑪瑙は記憶の混濁に加え、更にその負力の実験とやらに巻き込まれ、
 今のような力を得た、という事ですか。」
「まぁそんな感じだろうね。
 生身の人間が負力なんて得たところで、それに呑み込まれて終わりなんだが。
 ま、未だに生還してるのはモブにしては出来る、といったところか。」
それは瑪瑙の才覚なのだろう。
不幸中の幸い、とでも言うべきなのかもしれない。
「うーん、成程。
 聞きたいことは全部音羽が聞いてくれて、僕は楽が出来たよ。
 しかし音羽も賢くなったなぁ。」
「……ちょっと叔父様。」
叔父様はなんか感動している。
賢くなったも何も、こいつがべらべら話すから便乗しただけなんですが。
しかしこの様子からして叔父様は予め東方の話を聞いていたのだろうか?
雨宮古都辺りと事前に打ち合わせでもしていたのかもしれない。
「まぁ聞きたい事は聞けたし、もう貴方に用はありません。
 さっさと死んでください、クソ外道。」
「はぁ?何言ってるんだい君は?
 君ごときモブの力でどうやって僕を倒すというんだい?」
ゲラゲラ笑う。
確かに物理攻撃がほぼ効かない以上、魔法使い隊の助力が必要だ。
しかしこの補佐隊の兵たちが見当たらない。
こいつによって分断でもさせられたのだろうか。
「……音羽様。
 私が時間稼ぎを致します。その間に……」
黒鉄さんが黒いやつの前に立つ。
だが。
「……ありえませんね。
 この国の騎士は私達です。
 ”民間人”を犠牲にする戦いなど論外です。」
「しかし……」
瑪瑙に立ち上がって欲しいと思っていたが、こいつの身体が負力とやらで出来ているのであれば、逆効果。
だが……


「あれは死力(しりょく)、または負力(ふりょく)と呼ばれる力。
 命力とは対極に位置する力でございます。」

「命力とは己の命を代償に発揮する力のことです。」


そう。
対極に位置する力であれば、あれを打ち消せるのではないか?
そしてその力とは。
「………」
私は武器を構える。
「おい桃騎士音羽!
 武器で攻撃するのは……」
「てかいつまで僕の前に立ってるんだよ。
 お前のようなモブに用はないって言ってるだろ。
 さっさと……」
黒い人型から黒い触手のようなものが大量に伸びる。
「モブらしく、退場しろってなぁ!」
それは一斉に放たれた。


「スター・ライト・アロー!!」
その全ては、紫騎士チルッチルの放った無数の光の矢に貫かれる。
「……教会の神官だった頃を思い出すから、この技嫌いなんだけどさぁ。
 これは一つ貸しだからね。
 序列最下位の音羽せんぱぁい♪」

そう、”それ”はやはり通じる。
自身の全ての力をフルモーニングスターに集中。
それは自らの命を差し出すかのように。

「打ち消せ!
 桃騎士・奥義!!」
その命を持って。
「桜・ノ・調!!」
大地を潤す糧とならんことを。

「な……!」
黒い人型は驚愕する。
それはモーニングスターから放たれたとは思えない光の粒の集合。
だがその無数の粒が黒に触れた瞬間。
黒は桜の花びらへと分解される。
黒は桃へと変質する。
「な、ば、ばか、な……!
 こんな、こと、モブ、ごと、き……が……」
瞬く間に黒い人型は、無数の桜の花びらとなり、風と共に散る。

「げふっ!?」
私は口から何かを吐き出す。
それは血の塊だ。
差し出す命の加減を誤った、のだろう。
「音羽!?」
叔父様が私の元に駆け寄る。
これがナイツにその人あり、桃騎士音羽の力だ!
……とか言いたかったのだが、とてもそんな余力がない。
私はおとなしく駆け寄ってくれた叔父様に身体を預ける。
……加減を誤ったとはいえ、たった一撃放っただけで、これか。
意識が朦朧とする中、私は過去の記憶を辿る。


「……何これ?
 魔法?」
エキドナがポカーンとした顔でその光景を見ていた。
私の放った一撃で、桜の花びらが発生するなどという異常現象。
確かにそれを見れば魔法としか思えないだろう。
「……音羽さん、貴方は。」
同じく見ていた雨宮古都が珍しく真剣そうに。
「刹那さんと同じ事をするつもりですか?」
そう、”忠告”した。
あの女と同じ。
奴のスキルの一つ、滅炎。
奴の場合は炎だったが、私の場合は桜の花びら。
自らの命を持って、別の力とする。
言葉にすれば、ただそれだけの話。
だがそれは。
「げふっ!?」
恐ろしい程の痛みと代償を伴うのだ。
「ちょ、ちょっと、音羽!?」
私は膝をつき、血を吐く。
これが、私の限界だとでもいうのだろうか。
あの女と同じ戦い方をすることはきっと間違っている。
それでも、私が上に上がるには……
「……それでも、おそらく、”そこ止まり”です。
 刹那さんの場合、あのスキルも通過点なのでは、と思います。」
やはり、あれは、化物だ。

でも、それでも。

「勝った……っ!!」

今回は私の勝ちだ。


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