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16話 英雄劇の筋書き
こうして東方から始まった謎の肉塊軍団との戦いは終わった。
あの戦いの後、改めて東方の調査がされたそうだが(私はダメージが大きくて参加できませんでした)
既に東方にあの肉塊の姿は発見できなかったらしい。
その代わりに東方の村の一つに、地下道を発見。
その地下道の先に、記憶収集装置とやらに似た装置を発見したという。
上層部にてその装置の取り扱いによる議論がなされ、結論が出るのはまだ先の話とも思われたが。
「……お願い、です。
あの装置を、破壊して、ください……」
瑪瑙が上層部にお願いした結果なのか、はたまた別の理由か、その装置は破壊する事が決定された。
この装置とあの肉塊軍団が無関係とは考え難いし、負力とやらの件もある。
遊ぶ者プレイとやらの話がどこまで事実だったかは分からないが、七罪魔がこの騒動の裏に関わっていた可能性も大いにある。
勿論、裏の陰謀を知るためにしばらく残すという考えもあったのだろうが。
「……となると、もう未踏の事は思い出せないって事ですか。」
「……はい。
もう、顔を思い出す事も……」
私はダメージも癒え、瑪瑙に記憶の件について尋ねていた。
とはいえ、そのことは上層部を通してもう聞いていたし、この会話はまぁ雑談のようなものだ。
世話の焼ける後輩だし、いろいろ状況に変化があった事で、また打ちひしがれてるのではないかと思ったのだが。
「……案外、元気そうですね。」
「そう、ですね……
なんだか、すっきりした、というか。」
以前のどことなく危うい雰囲気も大分払拭されたように見える。
瑪瑙がよく口にしていた似非英雄という言葉。あれは本物の未踏の怨念だったとでもいうのだろうか。
だが話を聞く限り、未踏はそんな程度の低い男のようには思えない。
となると負力とやらの影響で、そういう英雄”染みた”ものに憎しみを覚えていただけなのだろうか。
「……正直、分かりません。
今、分かるのは……」
瑪瑙は周りを見渡す。
そこにあるのは人々がただ日々の生活を享受する平和な光景だ。
瑪瑙は何を語ることなく、穏やかにその光景を見ていた。
「……悪くない、顔じゃないですか。」
「……え?」
瑪瑙は驚いたように振り返った。
……何故、誉めてやったのに、そんな顔をする。
「……音羽、先輩……
今日は、機嫌がいい……?」
「……貴方は私が機嫌よくないと、
後輩を誉める事すらしないと思ってるんですか。」
「……え、違うの?」
……訂正。前と大して変わっていない。
せめて目上のものに対する礼儀くらいは教えなければならない。
私は心が広いからいいが、序列上の騎士には……あまり気にするような人はいなかった。
あの変態騎士とかはどうせ猫可愛がりするだけだろうし。(瑪瑙はいいが私はいい加減やめろ)
「それで負力とやらはもう使えなくなったんですか?」
「使う、ことは出来るけど……
でも師匠は、基礎が出来るようになるまでは禁止、だって……」
「そう、ですか……
まぁ、そうでしょうね。」
瑪瑙はグレイスさんがみっちり鍛える事にしたらしい。
いくら才覚があっても、あんな負力とやらに頼っていては、せっかくの才覚も無駄になる、とのことだ。
……逆に言えば、それだけの事をする価値がある、という事なのだろう。
「……まぁ、そりゃそうか。」
「音羽先輩……?」
私の反応に瑪瑙は不思議そうにしているが。
「……ま、今だけですけどね。
必ずこの桃騎士音羽が貴方から序列を、奪い返してみせます。」
「……それは、無理なんじゃ……」
「あぁ!?」
……それくらいは言わせろ。
きっと瑪瑙はまだまだ強くなる。
この国最強の零騎士グレイスが鍛えると言ったのだ。
だったら、そう。
「……強くなって、くださいよ。」
「……?
はい……」
私にはそれしか言えないのだ。
何故なら、きっと、これからも……
「あぁ、素晴らしい!
僕は英雄の芽が咲く瞬間に立ち合えたのですっ!
この幸運をどう表現すればいいか……
そう、それはたとえるなら赤子が初めて両親の名を呼ぶ時の……」
「それで?」
一人テンションが上がるマーティン・ハイケル。
否、希殺に対し、窘めるように淡々とした声が響く。
「その様子だと、上手くいったという事でいいのかな?」
「えぇ、連盟代表。
きっと貴方の目論見通り、来たるべき決戦の時には、
英雄達が魔王に戦いを挑むその光景が、今でも僕の脳裏に……っ!」
「……こういう、事だったんですね。」
その場にもう一人の人影が現れる。
連盟代表、砂上楼閣の前で嬉々と報告するは新連盟マーティン・ハイケル。
……否、そうではなかった、のだろう。
……それとも、この英雄狂がマーティン・ハイケルに扮していたのか。
いずせにせよ、砂上楼閣がそれを粛々と受け止めているという事は。
「……こういう、事だったんですね。」
「そう怒らないでくれ、古都。
いずれは連盟全員に共有するつもりだったよ。」
どうだか。
とはいえ、私以外の連盟は既に知っているのかもしれない。
「……それで、”仕込み”はどこからだったんですか?」
どこから。
瑪瑙の件か、肉塊の件か。
いいや、今の会話からすれば。
「君ならもう察してると思うが、
今回の件は外野の彼女をナイツに迎え入れるための仕込みだ。」
「……黒鉄という方がグルだと?」
「いいや、そこは偶然だ。
……その言い方は少し卑怯か。
彼らが来たから、行動を始めさせて貰った、といったところかな。」
彼らが来たから。
となるとつまり。
「……彼らの事はかなり前から知っていたみたいですね。」
「えぇ、雨宮古都。
僕はこれでも英雄候補を見る眼はあるんですよ♪」
私は嬉々とする希殺に対し、うんざりするように溜息を吐く。
この男の相手はしたくないので、結論だけを説明してくれる方と話を続ける。
「……彼女がナイツに入ると察していた、という事でしょうか。
だったらそれだけで話は済んだ筈。
……いや。」
「あぁ、そうだ。
あんな力に溺れるような人間は、ナイツには必要ない。」
……それは理解できる。
だがいくらなんでも都合が良すぎはしないか?
あの肉塊達、遊ぶ者プレイ、黒鉄の行動にしてもそうだ。
1つくらいなら偶然の要素に任せたかもしれない。
だがそうでないとしたら。
「もちろんそうではないっ!
偶然のみに頼るなど、英雄劇を綴る者として落第っ!
ですから僕は連盟代表に提案しました!」
貴方には聞いていない。
聞いていないが、黙りそうもない。
砂上楼閣も諫めるのが面倒なのか、黙って経過に任せている。
「肉塊たちに”遊ぶ者プレイ”という記憶を”与え”、
英雄の芽のための礎としたのです!
あの劣化装置でもそれは可能でしたっ!」
……だから、か。
だから証拠隠滅のために、東方の装置は即座に破壊を決定した。
まさに、英雄劇のための筋書き作り。
だが、それは。
「……東方の人々を犠牲にしたのですね。」
「えぇ、それが何か問題でも?
全ては英雄劇のため、この国の未来のため。
なにか僕は間違っていますか?
ねぇ、雨宮古都?」
「……別に。」
……となると緑騎士に調査を命じたのも、偽装工作の一環だろう。
緑騎士リードレイトはそんな事を許容できるような人間ではない。
彼は善人だ。
本当に東方を調査していたのは、その弟であるこの狂人だった。
「……あの肉塊たちはなんですか?
機械仕掛の失敗作か何かですか?」
「それは正確には分からないな。
だが矛盾曲の死骸や、カケラと呼ばれた存在達と同種だろう。」
……偶然、というよりかそっちを利用したか。
元々東方の地下に眠っていたのだろう。
何故そんなものが眠っていたのかまでは分からないが、それをわざわざ掘り起こした。
「……負力を始めとした情報は、肉塊達から得たんですね。」
灰騎士幸玄が遊ぶ者プレイから得た情報。
……この人たちは既に把握していた情報。
「あぁ、完全ではなかったようだがね。
さすがに本当に知られたくない情報は検閲がかかっていたようだ。」
この件でイムヌスの被害は殆ど出ていない。
首が取れた兵士達も最初から肉塊の偽装に過ぎなかった。
実質的な被害が出たのは国外の東方住人のみ。
あやうくナイツに死人が出る可能性はあったが、それもきっと。
「……あの程度で死ぬようなナイツは、
闘争の悪魔との戦いで何の役にも立たないから、ですか。」
「そうだ。何の役にも立たない。
それは奴と戦った君が一番よく知っているだろう。」
あぁ、本当に。
全てが、正しい。
”国のため”に、全てが、正しい。
黒騎士瑪瑙がこんな事を知れば、間違いなく上層部に復讐するに違いない。
だが、私が彼女に肩入れする義理はない。
一人絶頂してる男は無視して、私は砂上楼閣だけと対峙する。
「……貴方は、ナイツに反逆されるとは考えないのですか?」
「されたら何か困る事でも?」
されても、別に構わないと。
それはそれで、悪の上層部を倒したという、英雄劇になるのだから。
この男は、どこまでも合理の化物だった。
「……東方、だけではないのでしょうね。」
「もちろんですっ!
西方、南方!
次の英雄の卵の目星はもうついているのですっ!
僕の英雄劇は、あぁ、着々と完成に向かっていくぅっ!!」
もういい。
それでこの国が生き残るのなら、別にそれでいい。
私も、善人ではない。
私は善性を語るために、連盟になった訳ではない。
だから去り際に一言だけ。
「さぞ貴方は刹那さんが苦手だったでしょうね。」
砂上楼閣はその言葉には苦笑した。
だがこの計画も。
希殺曰く英雄の卵が孵化するためにも。
丁度いい”引き立て役”がいなければ上手く行く可能性は大分下がっただろう。
「……さすがに、まぁ。」
音羽さんに同情せざるを得ない。
そう、これからも、きっと。
私の後輩たちは、私を超える才覚を持って。
私を飛び越え、あっち側に飛び立って行くのだ。
私が、辿り着く事の叶わない。
英雄と呼ばれる、騎士たちに。
真のナイツ・オブ・グローリアに。
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