SS TOPに戻る 前へ 次へ


17話 魔王再臨



「くぅぅぅっっ!?」
私は衝撃のあまり弾き飛ばされる。
もはや立ち上がる事も出来ない。
……いいや、まだだ。
これは、私の、ナイツとしての人生を賭けた戦いなのだ。
私はフルモーニングスターを杖のようにして立ち上がる。
「……ど、どうしました?
 ここからが、本当の戦い、ですっ!」
それが虚勢である事など誰の目にも明らかだ。
だが虚勢でもなんでも。
たとえ相手との実力差がかけ離れていようとも。
相手の首さえ取れば勝機はあるのだ。

あれさえ、撃てば、勝てるかもしれない。
桃騎士奥義、桜ノ調さえ、撃てれば。

私はその誘惑を瞬時に断ち切る。
あれは相手を殺す事しか出来ない。
これは試合なのだ。決闘なのだ。
「さぁ、私の最後の一撃を受けなさい!
 緑騎士リコッタ!」
相手の少女は。
私よりも6つは下のその幼さが残る少女は。
「わかっタ!
 音ねぇに、わたしは、勝つカラっ!」
彼女は涙を堪え、私に対して武器を構える。
得物は私と同じフルモーニングスター。
……本当に素直な子だ。
……強く、天真爛漫で、でも本当は臆病で。
……そんな、彼女を、見守る日々も……
「これで、最後っ!!」


「……勝負ありだ。
 勝者は緑騎士リコッタ!
 よって緑騎士リコッタが序列7位!
 桃騎士音羽が序列8位に入れ替わる!」
……終わった。
私は、そろそろ気絶するな、と他人事のように考えながらも、相手の少女を見ていた。
「お、音ねぇ……」
「顔を上げろ!
 セブンズ・ナイツ最後の一人は貴方です!」
「……う、うんっ!
 今までありがとウっ!!」
そうして彼女は。
私の最後の後輩は。
私の前から離れていくのだった。


主天閣の会場に人々が集まる。
国の殆どの人々がいまこの場に集まっているのかもしれない。
彼らを虜にしているのは12人の人間。
「今ここに!
 イムヌスの命運を背負った12人が集った!
 我等人類の先頭に立つ、英雄達!
 セブンズ・ナイツと、それを補佐する者たち!
 セブンズ・ナイツ筆頭・零騎士グレイス!
 セブンズ・ナイツ次席・白騎士ユグド!
 セブンズ・ナイツ3席・赤騎士アーカイド!
 セブンズ・ナイツ4席・黒騎士瑪瑙!
 セブンズ・ナイツ5席・青騎士エクス!
 セブンズ・ナイツ6席・灰騎士カイゼル!
 セブンズ・ナイツ7席・緑騎士リコッタ!
 カデンツァ三魔女筆頭・エキドナ!
 カデンツァ三魔女次席・セレリア!
 カデンツァ三魔女3席・イビレア!
 パペットマスター・来栖!
 サポートスペシャリスト・マイクソン!
 以上12名こそが3日後の闘争遊戯の代表!
 3日後に全てが決まる!
 だが臆する事はない!
 我等の魂はこの国の英雄達と共にある!
 必ずや、我等の英雄達は勝利を持ち帰る!
 ナイツ・オブ・グローリアアァァァァァァァァァ!!」
その日の人々の大熱狂は国中に広がった。


闘争事変から10年経ったある日。
ついに奴は。人々にとっての悪夢は。
あの怪物は。闘争の悪魔ガラハドは。
人類の前に再びその姿を現した。


「ハ、ハ、ハ。
 それが今代の騎士達か?
 零騎士グレイスよ。」
奴が姿を現したのは北方の一地方。
私達ナイツはその情報を聞き、グレイスさんを先頭に奴の元に集結した。
その場にいるのは闘争の悪魔のみ。
かつてあれほど沢山いた魔物達の姿はない。
「……俺たちが来るのを待ってたのか?」
「無論よ。
 そういう約束だったであろう?」
「……まぁ、それには感謝しておくぜ。」
……約束?
「まさか本当に一般市民に手を出さないとは思ってなかったけどな。」
……約束?それが、約束?
かつてこの化物と、グレイスさんが交わした?
「……まぁとはいえ。
 一騎打ち、とまではいきまい。
 どだい余を一騎打ちで倒すなど人間には不可能よ。」
「………」
グレイスさんは押し黙る。
だが奴は特に気にした風もなく話を続ける。
……などと言葉で表せばそれだけのやり取り。
だが私を含め、特に奴と初めて対峙する騎士達は、この場に必死の思いで立っていた。
奴が言葉を話すだけで、空間が軋む。
奴の目を直視するだけで、呼吸困難に陥る。
本物の化物、というのを彼らはいま心の底から痛感しているのだろう。
……しかも、この化物は。
……10年前よりも更にその圧力を増していたのだから。
そのうえ、今この場でこの化物と戦う、ということを考えれば、その緊張も当然の……
「それで余から提案があるのだが。」
だが奴は妙な事を言い出して来た。
「12 vs 1、でも別に良いのだがな。
 実をいうと余は5年程前に、つい"張りきって"復活してしまったのだ。
 とはいえ十数年後に復活と言っておいてこれでは少々カッコがつかぬであろう?」
……何を言っているんだ、こいつは。
「せめてあと5年、と思ってな。
 遅すぎても貴殿の肉体の最盛期が過ぎてしまうし、その辺りが妥当と考えた。
 とはいえ5年は暇であろう?
 ゆえに戯れに竜界のドラゴン共を相手に修行をしていたのだが。」
……魔王が修行をするんじゃない。
これは笑えと言いたいのか?
確かに変な笑いは出て来た。
もちろん恐怖を打ち消すための乾いた笑いの方だが。
「まぁそんな事を暇潰しにやっていたら。
 貴殿等と戦いたいという者どもが増えてしまってな。」
「っっ!?」
突如、空間が歪む。
そして今まで感じなかった5つの巨大な圧力が私達を襲う。
「紹介しよう。
 貴族悪魔アルファ。
 雷竜スペーシアン。
 雷鬼レイザー。
 月の姫の信者ベステ。
 時魔導師エイプリル。
 余の新たな部下達だ。
 まぁアルファは元からだがな。」
この場にいたのは奴一人ではなかった。
あの時魔導師エイプリルとやらが空間を制御していた、という事だろうか?
魔法に縁がない私には推測しか出来ない。
「……それで、何が言いたい?」
「12 vs 6 にしよう。
 まぁ別に足りなければそちらは足しても構わぬが。
 ただそうなると、余の兵たちも我慢できずに参加を申し出るかもしれん。
 それでは零騎士よ、貴殿との約束が守れないかもしれぬであろう?」
……通常の魔物兵まで参加してきたら、10年前の闘争事変の二の舞だ。
一般市民まで巻き込まれる。
私達ナイツはそれを容認できない。
だからこれは奴にとっても、ただの確認でしかないのだろう。
「……分かった。その条件をのもう。」
「結構。流石はイムヌス最強の零騎士。
 余の後釜よ。」
「そんなものになった覚えはない。
 そんな事よりも。」
グレイスさんはこれが何より大事と言わんばかりに奴に言い放った。
「要は乱戦入り混じっての決闘って事だろ?
 ……まぁ、殺しちゃ駄目なんてルールはねぇだろうがな。
 だったら勝ったらどうするか、を決めないと話にならないだろ?」
「そうさな。
 余が勝った場合は、まぁわざわざ説明する事もないか。」
その場合は、イムヌスが、人類が滅びるだけだ。
「どうすれば良い?
 貴殿の望みを言え。零騎士グレイス。」
こいつは私達が望む事が未だに分からないらしい。
「二度とこの世界に現れないと……
 二度とこの世界で暴れないと……
 ……いいや、二度と復活しないと……
 誓え。」
グレイスさんはこれが何よりも大事と、圧力をかける。
奴はその圧力は歯牙にもかけず、というよりかグレイスさんの言葉の真意を測ろうとしてるかのごとく。
「……変わった望みよな。
 まぁ良かろう。」
真意が分からない、とでもいうようにそう答えた。
……あぁ、この化物は私達も戦いたい、とか思ってるのだろうか。
……私達が必死でこの日のために強くなってきたのは、何のためだと思ってるのだろうか。
今、私達12人が心から思う事はただ一つ。
二度とこの世界に、人類の前に現れるな。
それ以外に何もなかった。
「二度と余は貴殿等の前に、人類の前に姿を現さないことを、誓おう。」
「……その誓い。決して忘れるなよ。」
竜界とやらで諸共同士討ちしててくれ。
心の底からそう願った。


それが1週間ほど前の話。
奴が12 vs 6を提案したのは、単に私達ナイツが12人だから。
それ以上の理由はおそらくなかったのだろう。
だがこちらにとってはそうではない。
集団戦となると、戦士以外も必要。
その12人を決めるための時間が欲しい、と。
グレイスさんは闘争の悪魔に進言した。
そうして決まった最終的な決戦の日取りは。
10日後。
既に3日後。
3日後に人類の、全ての命運が決まるのだ。


でも私は。
私は。桃騎士音羽は。ただの桜坂音羽は。
その人類の命運の参列に加わる事すらなく。
その命運が決まるのを持つ事しか、もう出来ないのだ。

可愛い後輩達を死地に行かせ。
ただ、見送る事、だけしか。


SS TOPに戻る 前へ 次へ