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最終話 ナイツ・オブ・グローリア



父様。
かつて、あたしは。
父様と一緒にいられればいいと思っていた。
でもその記憶も、造り物で。
自分は独りになってしまったと思った。
でも、違った。
あたしには頼れる仲間が出来たんだ。
混じり物であるにも関わらず。
彼等は、あたしを迎え入れてくれた。
可愛い、後輩達まで出来て。
あたしは、幸せだ。


「……なんですか?このモノローグ。」
私は勝手に空間に流れた文字の羅列に唖然とする。
内容的に瑪瑙のもの、だろうか?
「え?
 いまその子が見てる夢を、
 端的に示した方がいいと思って。」
巡り続ける真那とか名乗った女は、親切をしてあげたとでもいうようにそう言った。
「……いや。
 貴方、プライバシーとかそういうのは。」
「プライバシー?
 その子の事も知らないで、
 私はどうやってその子を救わないといけないわけ?
 ちょっとは考えて欲しいなぁ。」
やれやれとジェスチャーで示す。
なんだこいつは。
「訳の分からない話はもういいです。
 貴方が黒鉄さんや雨宮古都が言ってた、
 瑪瑙が起きるのを邪魔してる奴ですか?」
そんな事を聞いて素直に答える訳はないが。
「いいや違うんじゃん?
 私は他人の邪魔なんてした事ないからね。
 いつでも世のため人のためになるよう頑張ってるつもりだよ。
 結果はさておき。」
……なんか話が通じていない気がする。
構わない方がいい気がしてきた。
「……まぁいいです。
 邪魔しないなら、瑪瑙は連れ帰らせて貰いますよ。
 あのまま眠ったままだと、いつ起きるか分かったもんじゃありませんし。」
「……はぁ?連れ帰る?
 あのさぁ、君には人の心ってもんがないの?」
……はぁ?
「……なんで今の話で人の心がない事に?
 このままだと死ぬって言ってるんですが。」
「いいや、死なないさ。
 人の心は永遠なのだから。
 たとえ肉体が死しても、その心は永遠。
 ってよく聞くでしょ、そんなフレーズ。」
……マジで何なんだこいつは。
「そんな哲学めいた話は誰もしていません。
 私はそいつを……」
「ではズバリ聞いちゃおう!
 現実のその子の状態はどうなってるのかな?」
現実の瑪瑙の状態?
「腕は?足は?まともに使えるの?
 目や耳は?君は盲目の人がどれだけ苦労して日々を過ごすのか考えた事はあるのかな?
 だいたい歩けないってのはとても、とても辛い事なのさ。
 誰かの助けがないと歩く事すら出来ないのは、優しい子ほどとても辛く、苦しい。
 ていうか仲間の騎士君たちは誰も残ってないんじゃなかった?
 先輩だけならいざ知らず、後輩にまで死なれて、
 これからその責任とか、重圧とか、守れなかったとか、そんな苦しみを抱えて生きていけとか。
 生きてこそ幸せとか。
 死は逃避だとか。
 五体満足で普段の生活に何の不自由もない人間が、なんか偉そうに放つ正論もどきとか。
 そんな薄っぺらな言葉だけで、達磨みたいにされてしまった人間に生きろとか。
 もしかしてお前らは悪魔?鬼?死神?畜生?
 だったら人の心なんてある訳ねーな。
 そんな子たちにはちょっぴり罰ゲームで、七罪魔を百体ほどプレゼントしてやるよ。
 でもその後は慰めてあげるよ。
 安心して。
 私は誰も見捨てない。
 何故なら、そう。
 人は弱く、弱く、弱く、弱く、みな弱い。
 誰もが幻想の幸せを抱いて生きていくしかないんだ。
 あぁ、苦しいね、そんなものは。
 逃避が駄目なんて理屈はどこにもないんだよ。
 それは国家権力の強者の都合で生み出された戯言に過ぎないんだ。
 大丈夫さ。この子は私が必ず救う。
 だから君は彼女の代わりに現実に帰り、騎士たちの無念を晴らすんだ。
 それこそが、君の生きた証。彼女の生きた証になるんだから。」


…………
……………………
………………………………
…………………………………………


あぁこいつ。
あぁなるほど。
こいつは、そう。
ただひたすら駄目だ。

それだけは理解した。


「もう結構です。
 邪魔するなら容赦はしません。」
問答は無駄だと悟り、私は武器を構える。
……武器なんて持ってきてたっけ?まぁ細かい理屈はいいや。
目の前にこんなものがいる事に比べれば、大した事じゃない。
「あーそうやってすぐ戦って物事決めようとするんだから。
 頭ガラハドかよ。
 まぁでもぶっちゃけその子自身の意思はどうなわけ?」
「……瑪瑙の意思?」
……そういえばさっきのクソ長話の中でそんな話があったか?
「夢に逃避する事に何か問題が?
 その子はやっと手に入れた仲間を失ったんだよ。
 これが普通ってもんじゃない?」
……そうやって眠ってしまう事が普通?
あぁそうですね。
下々の人間はそうなのかもしれませんね。
私はくだらないとばかりに武器を向ける。
「私達は市民ではありません。
 私達はナイツ・オブ・グローリア。
 仲間を失う可能性がある事だって分かっていた。
 みんな、先輩たちも、後輩たちも、それを覚悟して戦いに臨んだんです。
 それを、こうやって眠ってしまう事が、普通ですって?
 ……侮辱も大概にしろ!このキチガイ女!」
私は武器を振り上げそいつの顔面に叩きつけた。
「でもさぁ。」
そいつは私の”後ろ”から言葉を投げかける。
「君だって泣いてたじゃん?」
どこでデバガメしてたんだこいつ?
「私は知ってるのさ。
 そんな言葉は強がりだって。
 そんな言葉は虚構だって。
 そんな言葉はまやかしだって。
 無理しちゃ駄目だよ。素直になって。
 私は本当は寂しいんだって。
 私は本当は辛かったんだって。
 その心の内を吐き出してしまえばいい。
 大丈夫。
 誰も笑ったりしない。
 だってみんなそうなんだ。
 ただ言えないだけ。世の中の都合的なそういうやつで。
 でも此処は境界線。
 現実の理など此処にはない。
 そう。」
それは慈愛の言葉。

「君は、決して一人では、ないのだから。」

どれだけ攻撃をぶつけても。
どれだけ叩き潰しても。
こいつは次から次へと現れる。
砕けはしない。
力では、砕けない。
「……あぁ、そうですか。
 そういう事ですか。」
心でこいつに勝たなければ、ならない。
力自慢など、無意味。
だったら言ってやる。
このスカポンタン女に教えてやる。
私は武器を置き、言い放った。
自分の言葉で。
「強がり?虚構?まやかし?
 心が折れれば終わりだって?
 どんなあまちゃん人生ですかそれは?
 心なんて何度でも折れるに決まってるでしょう。
 心が折れない人間って、もうそれは人間なんですか?
 自分に才覚ないとか。
 子供の頃に調子乗ってただけだったとか。
 そんな事は別に知ってるし、それでだから何だって言うんですか?
 生きる事が苦痛?
 そりゃ苦痛の一つや二つくらいあるに決まってるでしょ、馬鹿ですか貴方は。」
そして。
だからこそ。
「そんなものを全て呑み込んで、
 胸に秘めて、
 それでもなお人々の先頭に立って戦う。
 だからあの人たちは、ナイツ・オブ・グローリアはかっこいいんですよ。」
一般市民サマの愚痴なんて知るか。
市民の代弁がしたいんだったら、勝手に一人でやっていろ。
だから私は目の前のスカポンタンは無視し。
いまだ寝ている可愛くない後輩にだけ言葉を投げる。
「だから思い出しなさい。
 貴方はその一人。黒騎士瑪瑙。
 別にちょっと寝る位で怒ったりはしませんが、長すぎですよ。
 私達のかっこいい先輩や可愛い後輩に恥かかせる気ですか。」
ていうか。
「いい加減、起きろボケ!!
 いつまでもヒロインごっこやってんじゃねぇ!!」
瑪瑙の顔面に武器を投げつけた。
「ぎゃぶっっっっ!!!」
瑪瑙は酷い顔で吹っ飛ばされる。
いい気味だ。
私に何年も看病させるとか、生意気にも程がある。


「な、なななな、何すんですか!
 音羽先輩!!」
気持ちいい夢みてたらいきなり顔面に鉄球。
馬鹿なのか?
あ、馬鹿だったわこの人。
「うっさい!
 私はこういうことをごちゃごちゃ言うのは苦手なんですから、
 さっさと貴方が起きれば済む話なんです!」
「……だとしても、もう少し加減というものを……」
……ていうか此処はどこ?
あぁ、いい夢だったのに。
音羽先輩は神妙そうな顔で俯く。
いやそんなシリアス顔されても鼻血出てるんだけど。
「……それは、ただの夢です。
 もう、私達しか、いません。」
「……はい……」
知っている。
分かっている。
「……だから、教えてください。
 先輩たちはどれだけかっこよかったのか。
 後輩たちがどれだけ頑張ったのか。
 私は、知らないといけないんです。
 それは、私の、私達の、責務なんです。」
そう。
それを知っているのは。
あの戦いを知っているのは、もうボクだけだ。
「……うん。
 それが。」

「あーその前にちょっくら教えて欲しいんだけど。」

ボク達の前にそれは現れる。
それは人なのか、それとも夢なのか。
「その責務とかいうのはどこで発生するものなの?
 君たち自身の自虐?自己満足?それとも自慰?
 今後の参考のためにも聞いておきたいんだ。
 という訳で教えてくれない?駄目?」
少しも悪びれることなくそれは聞いてくる。

これだけ言っても理解できないのであれば。

これだけ聞いても何も感じないのであれば。

自分の身で体感しろ。




「それは、誇り。」

「それは、正義。」

「それは、魂。」

「それは、意思。」

それは。それは。それは。それは。

「それは、夢にまで響く、栄光の騎士たちなり!!」

そこに彼等は顕現する。
栄光の騎士たちよ。
ナイツ・オブ・グローリアよ。
私の憧れた先輩たちよ。
ボクの愛する後輩たちよ。
今ひとたび。
その魂を。
その想いを。

この救えぬ夢の残骸に教授せよ。

それが"夢幻"。
夢にまで届く現実の絆。
それは決して砕けぬ。
生死なき境界線だからこそ。
その夢幻は顕現する。

零騎士グレイス。
白騎士ユグド。
赤騎士アーカイド。
青騎士エクス。
灰騎士カイゼル。
緑騎士リコッタ。

無論、その夢幻は生死を問わず。

緑騎士リードレイト。
橙騎士アカシャ。
千騎士シグナム。
灰騎士幸玄。
紫騎士チルッチル。
黄騎士イエーロ。

そして。

「……お久しぶりですね、師匠。」

灰騎士裂憧。

「……黒鉄。お願い。」

人形騎士黒鉄。

「ナイツ・オブ・グローリア奥義!!」

あぁ、そう。

「この何色も届かぬ世界に!」

まぁ、これは。

「栄光の光を示せ!!」

私には、無理っぽい。


刹那の時を遥かに超える夢幻の光。
強い絆を持つ彼等に夢の世界は不要。
そういう事は、まぁ、知ってはいたのだが。

泣いていても。
苦しんでいても。
失っていても。
胸が張り裂けそうになっても。
人は、前に、進めるものらしい。

進むべきでない、とか。
それは、無意味。
それは、侮辱。
それは、唾棄。

いずれにせよ。

「"次の"巡り続ける真那にお任せします。
 これにて、終い。
 "私"は、これまで。
 "私"は、お前たちを、”救えない”
 "だから"、"私"の、”敗北”だ。」

その夢の残骸は、残骸らしく、光の中に溶けていった。




そして。
瑪瑙は、目を覚まし。

黒鉄さんは、瑪瑙に。
瑪瑙は、黒鉄さんに。
感謝の言葉を。
祈りの言葉を。
そうして、長い稼働を遂げたあの人は、眠りについた。


私は瑪瑙の話を聞く。
それは短く、でも、とても長い話。
私達の先輩の話。
私達の後輩の話。
噛みしめて。
噛みしめて。
ただ、黙って聞く。
その、生き様を。
その、頑張りを。


「大丈夫だよー。安心してー。
 私お手製のスーパー義手にスーパー義足、
 寧ろ生身の時より動ける位なんだからねー。」
いつぞやのエルフもどきは自慢でもするように、瑪瑙の前にそんなものを持って来た。
あ、でもあの桃色の義足はちょっとかっこいいかもしれない。
私も一本位失ってみようかな。
「……せ・ん・ぱ・い(怒)」
「あ、はい。」
これはまぁ、私が悪い。

そして。


「遅く、なりました。
 本当に、申し訳ありません。
 こっちの寝坊助が悪いので許してください。」
「……うぐぅ……」
瑪瑙はそれには反論できず、食い逃げでもしそうな口調で唸っていた。
私達は先輩達の、後輩達の、墓標に剣を立てる。
「えっと、ユグドさんはこっちですね。
 アーカイドさんは、まぁ剣より少年少女をよこせとか言いそうですね。」
苦笑しつつ、瑪瑙の方の様子を見る。
「……はい。
 待たせてごめんなさい。
 沢山、沢山、食べてね。」
優しい手つきで団子を一つずつ置いていく。
私の時とはまるで態度が違う。
瑪瑙は後輩の事を本当に可愛がっていたから、まぁ仕方ないが。
「……あ。」
私達以外にも見える人影。
リードレイトさんだ。

「……そうか。
 本当に、ありがとう。」
私達よりもずっと前からナイツの一角であったリードレイトさん。
その言葉の重みは私達のそれよりも遥かに重い。
この人にとっては、全員が後輩。
その感謝の言葉一つとっても、そこにどれだけの想いがあったのか。
「……今の世は、とても平和だ。
 騎士が不要になった世界。
 それは、とても喜ぶべき事なんだろうね。
 でも。」
それも、また。
「……いつか、この平和も終わりが来る。
 永遠の平和は、ありえない。
 だからこそ、そう。」
「はい。私達が決して絶やしません。」
私と瑪瑙は声を揃えて、敬礼する。
それが、残った私達の役割。
そう、二人で決めた。
それは、決意。
この墓標で誓った決意。
「……ありがとう。
 本当に、本当に、ありがとう。」
リードレイトさんは寂しい背中を向けて去っていった。
初めて、あの人が本当に老けてしまったと、思った。


「さて、行きますか。」
「……あ、でもその前に義足の替えが、足りない。」
「はぁ?
 もう駄目になったんですか、前の義足。」
「……あ、そうだ。
 あのエルフの人を攫っていけば。」
「いいですね。
 不良品売りつけられたお礼をしないといけません。」

「まずは、やっぱり南方と西方、ですか。」
「……うん。いろいろ、言わないといけない事があるし。」
「……滅茶苦茶、怒られるでしょうね。」
「国の人が教えてないのかな?」
「……どうでしょうか。
 まぁ、でもそれも私達の役割でしょう。」

役割。
定め。
責務。

あの夢の残骸とやらはそれがどこから来るものだとか、あれこれ屁理屈を並べていた。
でもそうじゃない。
これは決意であり、意思だ。
私達が、そう決めた。
そこに小賢しい理屈など必要ないのだ。

私達は決意を背負い。

新たな世界を歩く。

先人の彼等に、恥じないように。

ナイツ・オブ・グローリアの一角として。


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