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1話 西方の国
大都市イムヌスから西方の地。
夜の世界を抜けたその先は広大な砂漠。
だがそんな砂漠にも人間の住居は存在する。
たとえば巡教会本部。
その場所は砂漠の幻影の中に隠されており、特定の場所で特定の人間の血を掲げることによってその姿を現す。
その力の源は天使か、はたまた退廃の悪魔か。
巡教会の信者達は前者だと主張するだろうが、今の時代の人間たちにそれを証明する術はない。
幻影を持って自分達の居場所を隠す力。
それは無論、魔物が蠢くこの世界で暮らす人間達にとって、非常に有用な技術。
その技術を有しているのが巡教会本部だけとは限らない。
ここにもう一つ、その技術を有している国が存在した。
名はカイゼル。
国といってもその規模は大都市イムヌスの100分の1にも満たない。
その国の建物は我々の世界でいえば、イスラム文化といった雰囲気を感じさせる。
その国を国として成り立たせているのはカイゼル王家が持つ強大な力に起因した。
その力は先に説明したとおり、国を砂漠の幻影に隠す力。
この力がなければ、小国に過ぎないこの国はたちまち魔物に滅ぼされていたことであろう。
だが効果こそ巡教会本部のものと同じであれど、その力の源は天使でも退廃の悪魔でもない。
その力を有する者こそが、カイゼル王家だった。
「カイゼル王。お招き感謝します。」
身なりの良さそうな男が軽くお辞儀する。
「頭を上げて頂きたい、パニッシュ卿。
其方とは対等な関係を築きたいと思っている。」
黒と白の衣装に身を包んだガタイのいい王はそう答える。
彼こそは現カイゼル王、カイゼル14世。
彼の周りには彼を守る近衛らしきも者たち、そしていま頭を上げたイムヌスの貴族。そして。
「まずはゆっくり腰を落ち着けようではないか。
部屋への案内を頼む。」
「はい、王様。
あとは分かるわね、ライン。」
王の近くに控えていた女性が、更に控えていた女性に合図を送る。
ラインと呼ばれたその女性はこちらですと、身分の差を意識した振舞いで貴族を部屋へと案内した。
これからカイゼル王とイムヌスの貴族との交流が始まる。
代々王家が持つ力によって存続してきたカイゼルだが、それももう限界が近い。
詳しい歴史は知らないが、この国の民も年々数を減らしているらしい。
だとすればイムヌスの貴族を招き入れた目的は概ね推測が立つだろう。
その目指すところはイムヌスの属国か、それとも。
いずれにせよ下っ端の侍女に過ぎない私がその会合を見届ける事は出来ないし、興味もない。
私にとって重要なことはただ一つ。
いまカイゼル王はこの部屋に釘付けであること、その一点のみだ。
(……ただ問題は。)
現カイゼル王。カイゼル14世。
歳は50越えといったところか。
カイゼル王が崩御すればカイゼル王家の力も途絶える。
ゆえにその力を受け継ぐ子を儲けるのは至極当然の成り行き。
だがその力は必ずしも子供に受け継がれる訳ではないという。
現にカイゼル王の第1子、息子のエイジ・カイゼルにはその王家の力は宿らなかった。
その力は彼より更に下の妹、カレン・カイゼルに受け継がれた。
王自体は第1子が継ぐのが恒例らしいが、実質の王はその妹になるのか、それは分からないが。
なんにせよその次期王。お坊ちゃま。
力が受け継がれなかった反動か、王子のくせして下手な冒険者よりも武を学んでいた。
そちらの方面には才があったのか、齢15にして魔物討伐隊の隊長を既に兼任している。
その技量はイムヌスのナイツでいえばどれ程のものか。
少なくとも序列下位のナイツを上回ることは確実だろう。
そして問題は。
王が王室を離れる間、この王子が周囲の見張りを務めること。
そのせいで私は思い切った行動がとれない。そんなもの部下の兵たちだけにやらせていればいいものを。
それの何が問題か?
私はカイゼルの下っ端侍女、ライン。
……ではない。
(それなりに長い時間かけてこの国の侍女として信用されて来たんだからねぇ。
どうにかして王室を探りたいところだけどぉ。)
元イムヌスの暗部。通称、闇月。
それがこのスーパー侍女ラインちゃんの正体である。
事の始まりは今から3年程前。
あの闘争事変から2年程経ったある日のこと。
「……あー、ドジ踏んだなぁ……」
逃げた先は崖。
袋小路に追い詰められた幸薄い美少女。
最後はドラゴンの手によってその命散る。
「しかもレッサーじゃない方かぁ……なぁんでこんな追ってくるかなぁ……」
子猫一匹くらい見逃して欲しいものだ。
だがそこに現れる救いのヒーロー。
……とかだったら良かったのだが。
「助かりたいか?」
ドラゴンの後ろから声。
見覚えのある陰気な男がそんな事を言う。
ルキ・サンドドル。
かつてイムヌスの貴族だった男。
今は単なる無名の冒険者。
いま名乗ってるその名は、戒。
「……はいはい、分かった分かったよぉ。
なんでも……はさておき、可能な限り1つ言うこと聞くからさぁ。」
この男に借りを作るのは怖いが、命には代えられない。
「で、何か用でもあるのぉ?」
ドラゴンを撃退して疲弊してた私は投げやり気味にそう言った。
いったいどんな無茶ぶりを強要されてしまうのか。
闇月ちゃんの処女は散らされてしまうのだろうか。
あぁ悲劇の子猫になってしまう。
動物愛護団体に訴えてやる。(そんなものはない)
「貴様は普段何を感じている?」
だがこの男はそんなことを言った。
なんだそれは?何かの謎かけか?
「言葉通りの意味だ。
貴様は自分が、自分の意思でない行動をしたと感じたことはないか?」
「………」
意味不明。
そう返すのが正常な人間の思考だが。
別に私は人間ではないのでいいだろう。
「たまに綺麗な筋書き染み過ぎてて気持ち悪いと思うことはあるねぇ。
で、それが何なのさぁ?」
個人的に感じてる違和感を口に出す。
奴はやはりな、と独り言のように呟き。
「その筋書きを描いてる奴をぶち殺したいと、そう考えたことはないか?」
そんな事を言い出した。
あの男は、そう。
存外夢見がちな男だったのかもしれない。
神殺しなど、希殺あたりが喜びそうな単語だ。
だがそういうのも悪くはない。
普段ならそんな荒唐無稽に付き合う気などおきないのだが。
謡さんの言ってた聖戦とか、ニュアンス的にはそういうものに近いよねぇ。
ただ、どうせイムヌスからも追われる身だ。
そんな夢見がちな、馬鹿な願望に付き合うのも。
悪くないと、そう、思ったんだ。
イムヌスで英雄のようにもてはやされてるナイツと、私達は違う。
彼等が光なら、まさに私達は闇。
なぁんて、表現が安直すぎるかなぁ?
ただもしこの世界に、自分たちの筋書きを好き勝手に操るような輩がいるのなら。
「そんなの決まってるじゃぁん。
その最期にどんな遠吠え聞かせてくれるのか。」
愉しみで仕方ない。
そしてその最期の願いをも踏みにじる。
その瞬間が来るまで。
今日も地道な仕事を頑張る、健気なラインちゃんなのでした☆
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