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35話 神
神とは何か?
一般的にいえば偶像物。
人間を超越した宗教的な存在。
そんな解釈はこの場では求められていないだろう。
一つ言えることは。
この世界は神の目的を叶えるために物語という劇をなぞって動いている。
だが神の望みを叶えるだけならば、このような手間を取ったりはしないし、そもそも”できない”。
調停者は、作り上げた舞台や物語を、観客と呼ばれる存在達に提供する。
その内容が喜劇であろうと、悲劇であろうと、彼等にとっては大きな意味はない。
俗的な言い方をしてしまえば力を持つスポンサーといった解釈が妥当であろうか?
だがそのスポンサーなくして、この物語は成り立っていない。
ゆえに彼等にとっては必要経費。
そのスポンサーから得た莫大な力をもって、はじめて神は自身の願いを叶えるためのスタートラインに立つ。
いわば神といえどこの世界においては挑戦者に過ぎない。
願いを叶えるなんていう絵空事。本来はそれ位の力がなければ出来ないことなのだ。
戒の言う超越者達もまた、彼等自身のルールから逃れる事は出来ない。
だが、この男にはそんな事はまるで関係がない。
「……白い、空間。」
カイゼルで手に入れた力。あれに近い気がする。
そしてそこに鎮座する主もまた白かった。
「……んんんん……。
あ、死んだ。」
何か妙な音が聞こえる。
どこかで聞いた音な気がしないでもない。
その神の姿は神聖なんてものとは程遠かった。
何しろだらしなく寝転がりながら、よく分からない箱?をカチカチしている。
その周りには食べ散らかしたと思われる菓子類が広がっている。
「……アートの言ってた事から推測は出来たが、
確かに姿形は心のようだな。」
「……え、誰?」
少女はようやく気づいたのか、こちらを向く。
かつてよく見た心の姿だが、なにか根本的な違和感がある。
「貴様が神とやらか?」
「……あぁ、偽物のせー君か。
なんでこんな場所にいるの?
ここ私の引きこもりルームなんだけど。」
心の姿をしたそれはだるそうに、欠伸をする。
何の緊張感もありはしない。
だが偽物だの言ってた事には覚えがある。
偽物の俺だの、偽物のあの女(真那?刹那?)だの。
そんな事を囀っていたことは。
「ていうか名は何してんのさ。
此処って誰も来れないとか言ってなかった?
ほんとあいつの言うことは当てにならないなぁ。」
「さぁな。
こうやって来ている以上は、来れるのだろう。」
姿形は確かに心のものだ。
だがその精神性は俺の知る心とは大きく異なっている。
「貴様はこの地上で行われていた事は知っているのか?」
「さぁ?
偽物のお姉ちゃんが出て行った事は知ってるよ。
あれは本当に失敗だったよね。
いまごろ何もない場所で孤独死してるんじゃない?」
まぁどうでもいいけど、とお菓子をぽりぽり食べる。
この様子だと本当に何も知らないらしい。
嘘を吐こうとする気概すら何も感じられない。
というか、まるで関心がないといった方が正しいか。
「ハッ。」
どうやら俺がこの女に聞く事は何もないらしい。
神だかなんだか知らないが、ここまで地上の出来事に関心がないとは。
だがそれなら何故。
「何故、貴様が此処にいる?
何もする気がないのに、世界に干渉する必要はないだろう。」
「知らないよ。
私はお姉ちゃん達と同じ世界を過ごしたいだけ。
たったそれだけなのに名の言うことはいちいちめんどくさいよね。
正直嘘臭いとすら思ってるよ。
でも大丈夫だよ。
だってお姉ちゃんさえちゃんと生まれてくれば、何も問題ないんだから。」
「なに?」
なんだこいつは?
言ってることにどうにも脈絡が感じられない。
お姉ちゃんというのは、さすがに真那の事だとは思うが。
ちゃんと生まれてくればというのは。
(それはおそらく刹那のことだ。
だが先程は孤独死してるんじゃない?とまるで関心を示さなかった。)
「なんだそれは?
姉を求めているのに、何故そんな態度が出来る?」
「そんな態度ってなに?
意味分かんないんだけど。」
「孤独死しても良いと言っただろう?」
「なに言ってんの?
偽物のお姉ちゃんの事とかどうでもいいでしょ。」
……偽物。
またその単語だ。
今まで得た情報から、この女の価値観を分析する。
この女は確かに、姉のことを求めていた。
その姉が真那である事はさすがに間違いないだろう。
刹那では不足、という意味の可能性もある。
「刹那では駄目。
あくまで貴様が求めているのは真那か?」
「だからさっきからなに言ってるの?
私が欲しいのはお姉ちゃんに決まってるでしょ。」
……話が通じてるのか、これは?
欲しいのは、あくまで”お姉ちゃん”。
刹那だろうと真那だろうと、そこは”どうでもいい”。
……あぁ。
理解した。
幼稚過ぎて、その発想に至らなかった。
「貴様が欲しいのは、”貴様にとっての”理想の姉か。」
「は?理想?
知らないよ。
お姉ちゃんだって言ってるでしょ。」
つまりはそういうこと。
この女の中で無駄に肥大化した理想の姉。
それを手に入れるために、世界に干渉を続けて理想の姉が誕生するまでの茶番劇。
「……滑稽。
それ以外の言葉が何も思い浮かばない。」
「なに?
さっきからちゃんと答えてあげてるのに。」
俺はクツクツと笑う。
あぁ笑うだろう。これを笑わないでなんとする?
おそらく地上の全人類がこんな真実を聞いたら一度は笑うしかないのではないか?
「子供でもそんな都合のいい事は考えん。
こんなものが神とは笑わせる。」
「あぁそういえばいまの私って神様的なアレなんだっけ?
まぁどうでもいいけど。」
その女は俺の威圧にもまるで関心を示さない。
こいつ自身は神である自覚はないらしい。
だがアートがそう呼んでいた以上は、確定だろう。
「まぁいい。
貴様を殺せば何かしら変化はあるのだろう。
さっさと死ね。」
「……はぁ。
偽物のせー君の話って、ほんと疲れるなぁ。
せー君はもっと優しい人なのに。」
相変わらず菓子を弄びながら、変な箱をカチカチしている。
これ以上の問答は無駄と感じた。
理想の姉に、理想の俺。
この女は、自分にとっての理想がそこになければ全てを偽物扱いする。
ただそれだけの話だ。
(真実なんてものは、存外くだらないものだ。)
神とか言われてても、所詮はこんなもの。
壮大なものなんて何も持ってないし、人類にとっての神聖性などそこには何もなかった。
だが。
「……っっ!?」
俺は既に混沌斬を神もどきに向けて放っていた。
だがその斬撃は奴の肌どころか、髪の毛一本、それどころか菓子類にすら効果がなかった。
奴は何も気にせず菓子類を弄んでいる。
(……そういうところだけは、神ということか。)
隔絶した力の差。
そこだけは人類が神に求めるものだった。
神とは何か?
結局のところその答えは極めて陳腐。
ただ圧倒的な力を有し、物語の悪役である七罪魔を含めた地上の存在の全てが傷つける事が叶わない存在。
たとえその全てが自前のものではないとしても、その事実に一切変わりはない。
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