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34話 ただ貴方を眺め続けて



眺める者は、物語の観察者であり、観測者だ。
広義の意味ではこの物語を知る、視る、眺める、その全ての存在が眺める者といえる。
だがここではもっと狭義の意味。あくまで”われわれ”についてのみ言及しよう。

”われわれ”の役割は特定人物の観察だ。
まだ物語も筋書きも出来ていなかった頃、運命の悪魔が選定した眺める者100人。
それは物語の主人公達を彩るための、いわばサブキャラ、脇役、エキストラを選定するための部品の一つ。
この巨大な物語を構成するための、いわば末端に過ぎない。

100人中、母が生み出した眺める者は僅か6人。
それ以外の94人の中には元人間の眺める者も多く存在していた。
何故そんな内訳にしたのかは私には分からないが、選定に問題があったのではと思わざるを得ない事は多々あった。
元人間の眺める者は簡単になびくのだ。眺める対象となる人間たちに。
気に入るのは良いとして、眺める対象に肩入れし過ぎた結果、与えてはならない情報を与えたために消滅した眺める者もいた。
そうでなくとも人間の側についてしまい、その世界で人生を終えた眺める者もいた。
そうして離脱した眺める者の数、38人。

で、それとは別に。
母の八つ当たりで消滅した眺める者の数、55人。
私達は地上の連中の攻撃で死んだとしても、”われわれ”自体が消滅する事はない。
だが母は別だ。
母は"われわれ"を消滅させる事が出来る。
しかも大体がものすごくいい加減な理由だった記憶がある。
私がまだ生きてるのも偶々だ。

最終的に生き残った眺める者の数は僅か7人。
運命の悪魔曰く、丁度いい数が残ったとのことらしい。
それを聞くに最初から離脱込みの選定者100人だったのかもしれない。
というか、おそらくは。
この眺める者の選定も、永遠に揺蕩う観客たちの見世物の一つなのだろう。

まぁ要するに。
”われわれ”も所詮はその程度の消耗品。
地表の人間達とそれほど大差のない存在なのかもしれない。

「やぁ、久々だね、アート君。」
「あぁ誰かと思えばワートじゃないですか。
 そういえば貴方は戒を狙わなかったのですね。」
ペンギンの姿のワートが声をかけて来る。
私同様、古株の眺める者。
生き残った7人のうちの一人だ。
「そういえば君は初期の頃から彼に執心してたね。」
「私の選択肢は主人公のどれか、しかなかったんですよ。
 だったら一人に決まってるでしょ。」
母に生み出された身だからか、最初から役割が決まっていた。
それに疑問を覚えた事はない。
我々は物語を構成する末端の存在であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「成程ね。確かにその選択肢ならボクでも彼を選ぶね。」
「でしょう。
 そういえばワートは誰を眺めているのですか?」
「誰?
 それは少し妙な質問だね。
 ボクは個体への執心などないよ。」
ワートは特定の人間を眺めている訳はないらしい。
運命の悪魔の指示に応じて、その日その日に応じて別の人間を眺めている。
実際は人間ではなかったりもするだろうが。
「忙しないですね。
 いろんな人を眺めるのも、それはそれで面白いかもですが。」
「そうかな、ボクは普通だよ。
 寧ろ危ないのはアート君、君だ。」
「危ない?」
「お気に入りに熱を上げるのは結構だけど、
 最近執心し過ぎてないかな?
 あまり眺める者として良い事とは思えないね。」
「私が戒に執心し過ぎて、
 与えてはならない情報を与えるとでも?」
「そこまでは思わない。
 ただ眺める対象が彼から変わった場合、存在意義を失って、
 君が消滅の危機に陥るんじゃないかとは思ってる。」
「………」
存在意義を失う。
それはおそらく"われわれ"にとっての死だ。
肉体は端末に過ぎないが、其方に存在が寄り添っている分、その意義の消失こそが死へと繋がる。
「まぁ注意はしておきますよ。」
「あぁ、注意した方がいい。
 なにしろ残りは7人だけだ。
 まぁ仮にボク一人になったしても、おそらく何も思うことはないだろうが。」
何も思うことはない。
眺める者として彼は優秀過ぎた。
本当に眺める者が彼一人になったとしても、彼は一切支障なくその行為を続ける事だろう。


「まぁでも、これは注意しようがないというもの、でしょう?」
母の八つ当たりによる消滅。
眺める行為を逸脱しなくても、終わりは突然やって来る。
まぁこの星の中心に眺める者が近づいた時点で、その可能性は十分あったのだが。

しかし、まぁ。
何故、私は戒という個体に執心したのだろうか。
彼以外を眺めることに対し、いつのまにか興味を失ったのか。
考えてみれば戒のレートは初期から高かった。
ゆえにその理由は私だけに限った話ではないと考えられる。
(おそらく、”われわれ”にはないからだ。
 何かに、執着して、執心する、ということが。)
だから、戒みたいな人間を眺める事で。
執心”みたいなもの”を自分の中に感じたり、することで。
何かを貰っている、気分になれるのかもしれない。
もちろんそれは単なる錯覚に過ぎないだろうが。

逆からも考えてみる。
戒のレートは初期から高かったが。
逆に刹那のレートは初期から0人だった。
まだ封座聖二の方が希望があった位である。
その理由は何か。
(”ない”からだ、あの女には。
 根本的に何かが、欠けている。)
だから"われわれ"は惹かれないのだ、あの女には。
でも物事にはいつも例外というものがある。
奴を希望した眺める者も過去に1人だけいた。
おそらく元人間の眺める者。
だが運命の悪魔はその申請を却下した。
100%あの女の色に染まる。そう判断された。
最初から眺める者として不適格だったのだろう。いつの間にかそいつは”われわれ”の前から消えていた。

”われわれ”はどこから来てどこに向かうのか。
それは人間がどこから来てどこに向かうのかを考える位、無駄なこと。
こんな事を考える時点で、私も限界が近いのだろう。
考えようによっては、これが”われわれ”の寿命と言えるものかもしれない。
だが。

「最期まで、眺められないのは……」
それでも、私の終わりは此処じゃない。
眺める者としての定義とか、どうでもいいから。

「認められない……っ!!」
私は、手を伸ばす。
その手が、届く事など有り得ない。
彼がそんな人間であれば、私は彼に惹かれてなど、いない。

そんな風に這いずり回ったりすれば身体が再生したり等、ある訳がない。
ありえない事を、ありえると本心から思う事など、私には出来ない。
ゆえに、機能しなくなった肉体は崩れ落ちていく。
そこに何も残す事はない。


「……成程、”そういうこと”だったのですねぇ。
 僕以外の人間であれば、いくらでも妄信できるのですが、ねぇ。」
ロンギヌス弾をついに使い切り。
再度囲まれた七罪魔3体の前に僕の命運は果てる。
カラクリに気づくのが遅すぎたが、仮に気づいても僕では無理だっただろう。
何故ならば。
「僕が求めるものは、英雄が穢れて落ちゆく姿だ。
 それは絶対的に、僕”以外”である事が大前提なのですから。」
ゆえに僕は、この場所を越えられない。


「あぁ、ちくしょう……」
ギリギリのところで闘争と火炎野郎から逃げてきたが。
明らかに時間をかけ過ぎた。
既に新手が私の周りを囲んでいる。
「………」
「………」
「……どんだけ夢見がちになれば良いってのかねぇ。
 そんな純粋な子供心、あの女のせいで5歳の頃には失われちまったって、ねぇ!」
最期の混沌斬を四方八方に放つ。
純真さを失った自分。
ゆえに私は、この場所を越えられない。


ざしゅっ

斬り捨てる。

ざくり

斬り殺す。

”分かって”しまえば何て事はない。
”こいつら”はただの夢の残骸共だ。
”こちら”が夢の境地に達した時点でもはや相手にならない。
つまりこれは、最初からそういう戦いだったということだ。
「全員散ったか。」
アートも含めて。
好める連中ではなかったが、まぁいろいろと勉強させて貰う事もあった。
それは遠慮なく、俺の糧とさせてもらう事にしよう。
(妙な気分だ。)
今までにない高揚感に満ちている。
此処に来るまでに混沌に蝕まれ重かった身体が、今では生き返ったかのように軽快だ。
まさに夢”見がち”だ。
(だがそれもいいだろう。)
そのような適応が必要だったというのならば。
これも一つの境地として俺の糧とするまで。
(では終わりにするか。)
さっさと殺して終わりにしよう。
その点だけはいつもと何も変わりはしない。
七罪魔だろうと神だろうと所詮やることは同じだ。
俺は底の終着点。
その出口となるであろう扉を開いた。


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