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37話 もう一つの結末
大都市イムヌス。
騎士達と闘争の悪魔の決戦からはや数年。
人々は何事もなかったように、安寧の日々を送っていた。
「お母さん、あの人形がいいよぉ。」
「……そうね。値段もそんなに高くないようだし。」
「ありがとうございます。
人形のお名前は何にしますか?」
「えーと、ワンプちゃん!」
「ワンプちゃんですね。宜しいですか?ご婦人。」
「えぇ、それでお願い。」
一組の母子が購入した人形は、ニコリと子供に微笑む。
「宜しくねー。私はワンプちゃんだよー。」
「わー、可愛いー。」
「良かったわね。」
「そういえばあのタイプの人形の性格って、誰ベースなの?」
赤の魔導師の衣装に身を包んだ女性が聞く。
「むかし一緒に旅した吸血鬼よ。
まぁそんなには似てないんだけどね。」
「ふーん。」
人形の技術レベルは向上している。
それでもまだ”自分達”のレベルには到底届かない。
そもそもこうして成長する自分達は、はたして本当に人形なのか?
疑問を抱かざるを得ない。
「……多分だけどやり方が根本的に違うんだわ。
あの人がやっていた事とは。」
「……かもしれないわね。
ところでエキドナ。あんたにまた国からの要請が来てるわよ。」
「なに、またなの?
はぁ、有名になり過ぎてしまったのも考え物ね。」
「あんたが無駄に目立つからでしょ。」
私は王都に向かう。
元々は上層と呼ばれていた区分の場所。
今ではそんな区分けも既にない。
それでも貧富の差が完全に消えた訳ではないだろうが。
(巡教会じゃなくて、
王都直轄の魔法使い部隊に推薦されてはいるけど。)
さすがにそこまで行くと動きにくくなる。
それに今は必要以上に力が求められる時代でもない。
(古都と連携するのも手間になるしね。
ただあいつとも長い間会ってないけど。)
あれから古都からの連絡はほぼない。
自分達が生きてる間に七罪魔結界は復活しない可能性も十分にあるのだが。
そうだとしても、また中途半端に終わってしまった感は否定できない。
トゥルルルルル
「……電話?
え、古都?」
いったい何年ぶりの連絡か。
「エキドナさんですか?」
「えぇそうよ、エキドナ様よ。
あんたってほんと用がなかったら一生連絡して来なそうよね。」
「何をいまさら。」
相変わらずだが、こんな奴でもいまや旧知の一人だ。
「それより私の部下が黒鉄さんを目撃しました。
エキドナさんにも捜索を依頼したいのですが。」
「……黒鉄さんって?
あぁ、あの瑪瑙って娘と一緒にいた?」
「えぇ、そうです。
”貴方からの条件”はこれで満たせます。」
「ど、どういう事よ。」
話が急すぎてついていけない。
「必要と言ってませんでしたか?
貴方とはタイプの違う巡真那の人形がもう一体。」
「……っっ!?
そういう事か!」
あくまで私の推測ではあるが。
私と違うタイプの人形であれば、確認しておきたい事があった。
「で、黒鉄って人はどうなったの?」
私は古都と落ち合う。
先程は黒鉄という人を探してと言われたが。
「どうやら足取りは掴めたそうです。
私の部下からの報告によると音羽さんと一緒にいるとか。
ただおそらく長くはないとのことです。」
私はゴクリと喉を鳴らす。
つまりは時間がないという事だ。
「以前エキドナさんが語っていた推測。
”こちら”から”あちら”に精神だけでも辿り着く方法。
それが備わっている人形が存在すると。」
「……えぇ、そうよ。
ただ私にはないみたいだけど。」
「あとはご本人が認識してるか、ですかね。
黒鉄さんが機能停止すれば、そちらの機能も停止してしまうと思われます。
すぐに黒鉄さんに真偽を確認しましょう。」
「……確認って。
あとどれくらい持つわけ?」
「分かりません。
下手をすれば今日明日かもしれません。」
「……それって。」
「もし黒鉄さんにその機能が存在するのでしたら、
今日仕掛けます。
メンバーはいませんが仕方ありません。」
「……はっ、上等。」
まさに棚から牡丹餅と言ったところか。
いや私達が準備をしていたからこそのこの状況だ。
ただ運に賭けてた訳じゃない。
先に古都が黒鉄って人に状況を説明。
こちらの推測が当たっていたら、黒鉄さんに備わってる機能を利用し、私が音羽を”あちら”に送り込む。
あとは音羽次第になる。
ぶっつけ本番だが、如何せん時間がない。
「いるでしょ。此処に。」
「エキドナ!?」
音羽が示し合わせでもしてるのかという顔をする。
勘がいいわね。その通りよ。
「そうですね。条件は揃いました。
音羽さん、準備は良いですか?」
「いやいやいや。
あんたら話を進めるのが早すぎじゃないですか!?」
そりゃ予め打ち合わせしてたからね。
「ごちゃごちゃ考える必要はありませんよ。
貴方は境界線とかいう場所から、
瑪瑙さんを連れ戻せばいいだけです。」
「そうよ。
細かい段取りは私がやってあげるわ。」
音羽は少し考えてるようだったが、既にその決意は固まっているようだった。
「……じゃあ、お願いします。エキドナ。」
「えぇ。頑張ってらっしゃい。」
私は音羽の顔に手をかざす。
すると音羽はカクンと眠りについた。
……否。”あちら”側に迎えに行ったのだ。
この未だ眠っている音羽の後輩を。
「……古都様、エキドナ様。
お二人は、まさか……」
黒鉄さんは何かを勘づいたようだ。
だが今更辞める訳にはいかない。
”あちら”に人々を引き込んでる存在を撃退し、全員”こちら”側に引き戻す。
ただ既に”あちら”に引き込まれてる人との縁がなければ、それは成せないだろう。
音羽と瑪瑙はその状況にドンピシャだった。
”あちら”の事は音羽に任せるしかない。
だから……
ぱき、ぱき、ぱき……
何か気味の悪い音がする。
それは瑪瑙の肉体を繋いでいた黒いもの。
それは変形し、形を整える。
その形は漆黒の槍。
その槍は音羽の心臓を……
ドンっっ!!
「やらせると思ってるの?」
「やはり”こちら”側にも防衛機構が備わっていたようですね。」
クリムゾンとガトーレーザーで槍を撃退する。
だが更に槍は変形を始める。
それは人型の姿を模した。
「……まさかとは思いましたが。
ここまで準備を進めている人間がいたとは。」
それは酷く聞き取りにくい、吐き気を催す音だった。
「……滑稽。
あの程度の仕掛けで星の機構を崩せると本気で思ったか?」
口みたいなものから放たれる悪臭。
聞いてて不愉快だった。
「上から目線でお疲れ様。
でも残念ね。
私はスーパーな女なのよ。
スーパーってのは、誰も成せなかった事を成すって意味なのよ!」
私は魔力を集中する。
古都は私の意図を察して、黒い奴の前に出る。
「……貴方は良いのですか?
”こちら”と”あちら”が繋がらなくなれば、
二度と”あちら”の貴方が”こちら”で目覚める事はない。」
「もともと目覚めた事なんてないもので。」
敵の黒い爪を防御しつつ、ガトーレーザーで反撃する。
エキドナさんの魔力集中ももう終わる筈だ。
「……ならば。
二度とあの女に会えなくても良いということか?」
「………」
……あの女。
何故そんな事を知ってるのか知らないが、それは一人しかいないだろう。
だが。
「……あの人が本気で戻って来る気があれば、
どんな状況だろうと戻って来ますよ。」
そんな言葉でこちらを揺さぶるあたり、大分余裕がないか?
ならば私達の行動も無駄ではないということ。
「さぁ、行くわよ!
コロナプロージョンっっ!!」
結界破りの一撃が黒い人型に命中する。
その一撃は黒い部分を削り取り、ついでに病院も半壊させた。
「……やり過ぎです。」
「し、仕方ないでしょ……」
そして……
「ナイツ・オブ・グローリア奥義!!」
「この何色も届かぬ世界に!」
「栄光の光を示せ!!」
”あちら”の戦いも決着を迎える。
これが彼女達の結末。
彼女達が勝ち取った勝利。
夢と現実。その両側にて。
「"次の"巡り続ける真那にお任せします。
これにて、終い。
"私"は、これまで。
"私"は、お前たちを、”救えない”
"だから"、"私"の、”敗北”だ。」
その夢の残骸は、残骸らしく、光の中に溶けていった。
”だから”
それが完全に消える前に。
その残骸を噛み砕く黒い影。
残った残骸は全てその黒い影により貪られた。
「”見つけた”ぞ。」
その影は言葉を発する。
それはこの夢の世界に響いているのだろうか。
「”こちら”に完全適応するその機会をな。」
その意思は。
その精神は。
肉体が朽ちて尚。
止まる事はない。
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