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38話 物語の破壊者
世界への適応。
世界は一つではない。
世界と世界が更に繋がり、繋がったものもまた世界となる。
自身の中にも世界があり、自身の外にも世界がある。
自身の知る世界があり、自身の知らない世界がある。
星一つを世界とも見れるし、宇宙全てを世界とも見れるし、宇宙の外にだって世界がある。
一つ言えることは。
全ての世界において共通の絶対ルールは存在しない。
どんな世界にも、その世界のルールが存在する。
とある世界では無双を誇ったとしても、別の世界ではまったく逆の立場に陥るかもしれない。
特に与えられた能力で無双してるような存在は、急に能力が使えなくなれば何もできなくなるだろう。
だからまぁ、極端な話。
どんな方面においても優れてるに越した事はない。
何か一つの能力に特化してるから、自分は大丈夫と思う輩ほど脆い者はない。
逆に自分にこんな能力があれば、と思ってる輩も同様。
何か一つあれば自分は成功できるとかいう考えは総じて浅く、地べたで這いずり回ってるのがお似合いだ。
そう。
本当に絶対の存在などいない。
たとえ世界がどうであろうと、また世界の環境が大幅に変わろうとも。
そこに適応できる存在こそが、いつだって世界を制する事が出来る。
そこで心が折れる存在など、淘汰されて当然。
これもまた、弱肉強食の理といえるのかもしれないが。
ただそれも仕方ない。
世界など所詮はそんなものである。
そこに不平不満を述べたければ、世界そのものを変える位の事はして見せろ。
たとえば、そう。
「……え?」
ずるり……
私の胸に何かが刺さる。
それは黒いもの。
それは私の中をかき混ぜるように動く。
痛みはないが、気持ちが悪い。
「な、何これ……気持ち悪っ。」
ゲームと漫画を投げ捨てる。
この気持ち悪いものを私からはがそうとする。
でもそもそもこれは何?
何かが分からないから、はがす術がない。
「なづけっ!?
どこにいるの!?
これは何?教えてってばっ!」
私は口だけの役立たずを呼ぶ。
だが何の反応も返って来ない。
ほんと、こういう時にあいつは何の役にも立ちゃしない。
「随分、慌てているな。
別に貴様にダメージがある訳でもないだろうに。」
声。
それはどこから?
私の、中から。
「ひぃっ!?
な、なに、なに、なんなの!?
なんなのお前はっ!?」
黒いものがズルズルと私の中に侵入する。
白が黒に浸食される。
何が起こってるのかよく分からないが、とにかく気持ちが悪い。
「成程な。
やはり心が乱れれば神としての力も弱くなるようだ。」
今度は、違う方向からの声。
それは私の正面にいた。
ただそれもまた黒い影のようなもの。
だが影は影でも、それは確かな人影だった。
「奴を喰らったことで、この世界への適応が早まった。
不愉快だが、今回だけは感謝してやろう。」
その人影は動き出す。
剣らしきものを構えて。
……あれは、いったい何?
「意味、分かんないけどっ。
もう1回、消えちゃえっ!!」
目の前の影を力で囲む。
その黒いものを白で圧縮する。
だが。
ざしゅっ
私の白は斬り捨てられた。
その黒い刃によって。
……あれは、いったい何?
「……な、何?
なんで効かないの?」
「分からないか?
まぁ理解して貰う必要性もないがな。」
その人影はあくまで影だが、剣だけは違う。
何かが根本的に違うと感じた。
「貴様らが物語の理で成り立つ存在だというのであれば。」
その剣は私に向けられる。
「俺はこの剣をこう名付けよう。」
そして一瞬。
その一撃は私の身体を斬り裂いた。
(いいや、ありえない……)
この男は覇帝じゃない。
だったら私を殺せる訳はないんだ。
だって、そう、言ってたし……
ピリッ
だが目の前にあるものを否定する事は出来ない。
頬と、手の甲に僅かだが。
傷が出来た。
その気になれば一瞬で回復できる程度の傷。
だが、それは確かに。
「う、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……っ!?」
私の心に恐怖を与えた。
「ストーリースレイヤー、とな。
俺がそう定義した。
ゆえに貴様を斬れる。」
斬れない相手なら斬れるようにすればいい。
身も蓋もない事を言えばそれだけのこと。
だがその適応難易度は、先の七罪魔の空間とは桁違いである事は間違いない。
だがいたじゃないか。
この世界の裏側に存在していた”奴”が。
巡真那の残骸が。
夢の世界とやらに適応していた存在が。
足りなければ、足りてる奴から奪えばいい。
簡単な話だ。
「……え、なに、死ぬ?
もしかして、殺される?」
いいや、有り得ない。
私を殺せるのは、覇帝だけだ。
……あれ、でも、せー君ってその覇帝の力を一度使ってなかったっけ?
ぞくり
一度染みついた恐怖は止まらない。
覇帝に殺された時の恐怖が再び呼び戻された。
有り得ないと頭では分かっていても、もう止まらない。
「なづけっ!
次だよ、次っ!
早くしてっっ!!」
こんな世界にもう1秒とて長居したくない。
さっさと次の世界に私を送れ。
物語さえ変われば、あの男だって……
「逃げる気か?
冗談じゃない。」
恐怖が私に迫る。
な、なんでもいい。攻撃を、攻撃……
い、いや、そんな事はどうでもいいから、早くこの世界から……
その瞬間。
私の視界は書き変わった。
「ちぃっ!?」
一瞬で奴が消えた。
どこかに転送でもされたのか。
だがここで逃がせば次はいつになるのか。
いやそれ以前に俺自身の肉体は既に消滅している。
ここで止めをさせなければ、俺は終わる。
「そんな事もないだろう?」
知らない声。
だが口調には聞き覚えがある。
そこにいたのは道化師のような姿をした子供。
「また新たな超越者か?」
「あぁ君の言葉で言えばそうかもしれないね。
正直おどろいたよ。
ここまで僕の用意したゲームをぶち壊しにしてくれるとはね。
君も、あの連中も。」
あの連中。
俺以外にこの件で動いていた人間というと、やはり。
「だからこの辺りで満足してはくれないかな?
今回のゲームは君たちの勝ちだ。
あぁ、認めよう。
七罪魔システムの崩壊だ。
僕とてあの女さえいなければ、そんな事はあり得ないと思っていた。
誇りたまえよ、人間。」
何か道化師が言っているがそんな事はどうでもいい。
俺は殺すと決めたのだから。
「知ったことか。
七罪魔システム?そんなものはどうでもいい。
どうせ貴様らはまた別の世界とやらで同じ事をするだけだろう?
だったら総じて死ね。
この世界で。」
俺はその道化師と会話をしながらも、神崩れが消えた先を辿っていた。
まだ、追える。
俺自身がそう"決めて"しまえば、追う事が出来る。
ここは、そういう場所だ。
「さて困ったな。
このままだと君はあの女を追ってしまう。
なにせ追った先は永遠の物語だ。
さすがに其処だけは邪魔されたくないんだよね。」
永遠の物語。
此処とはまた違う、あらすじの世界。
おそらくはそういう事だろう。
「貴様らを困らせる事が出来るなら喜んでやらせてもらう。
分かっているだろう?」
「そうだね。
だから少しとはいえ遅延させてもらおう。」
道化師が手をパチンと叩くと何かが現れる。
それは何処かで見た、巨大な胎児。
それが、いくつも、いくつも、現れる。
「こんなもので俺を殺せるとでも?」
「そうは思わない。
だが永遠の物語さえ邪魔されなければ僕には十分だ。
僕とてずっと求めていた最後のゲームだからね。」
道化師の姿が消える。
おそらくは巡心を追って。
だったらこんなところで足止めを食らっている場合ではない。
「そんな事もないだろう?」
そう。
奴はここで止めを刺せなければ俺は終わるという、俺の思考に介入してそう言った。
何故ならば今の俺は。
「生死を既に超越している。
だがこの状態では。」
肉体がない。
現実の世界に存在する事の出来る肉体が。
(だが出来る筈だ。)
端末。
アートも使っていた、現実の世界の入れ物。
だがアートが眺める対象より強い肉体を得る事が出来なかったように。
「端末にも制限が存在する。
それは現実の世界である以上、意思や想いで覆せるものではない。」
夢の世界では意思が力となるが、現実ではそんな事はない。
現実における意思など、単なる決意表明でしかない。
そこを履き違えれば、今度は現実で絶命するだけだ。
「いいだろう。
次こそ貴様らを根絶やしにしてくれる。」
目ざわりな胎児を斬り捨てながら俺はそう宣言する。
こんなものは単なる決意表面に過ぎないが。
「それが力になるのであれば、何度でも宣言してやる。」
俺は追う。
追い続ける。
そして必ず殺す。
そこがどんな場所であろうとも。
この世の地獄であろうとも。
何故ならそんなものはとうに。
「聖二が死んだ時点で踏み越えた。
俺にとっては、もう全ての世界が地獄でしかないのだから。」
世界を超え。
人を超え。
終わらない戦いに。
終わらない殺戮に。
永遠に、臨み続ける。
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