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1話 魔法学院



大都市イムヌスから南方の地。
南方はこの世界において比較的魔物が強くない地とされていた。
環境も人間が過ごしやすいものとされ、穏やかな土地を求めてそこに居ついた人々もいる。

だがいくら魔物が強くないと言っても、そんな事が可能なのは一握りの強者に過ぎない。
何もない平野であっても、人間がそこにいれば魔物は襲ってくる。
この世界はどこまでも人間に優しく出来ていない、理不尽が極まった世界なのだから。

此処はそんな人間達が集まった地か?
それともそれ以外の理由か?
いずれにせよその魔法使いの地は確かに存在していた。

いま、”この時代”においては。


その地の名こそは魔法使いの地カデンツァ。
文字通り魔法使い達が集まって造り出された都。
人はこの地をこう呼ぶ。

魔法使いの楽園だと。

総人口は約5万。
この時代において、イムヌスに次ぐ人類の居場所だった。
文字通り魔法使いの地と呼ばれたそこは、魔法使いだけが住まうことを許された地。
……という訳でもないが、魔法使いの人口比率がイムヌスに比べて格段に大きいことには変わりがない。

その地の一区画。
その区画の巨大な宮殿にカデンツァを代表する者たちが集まっていた。
「……今日からとうとう貴方が学院長になったのですね。
 エルカサス。」
その中心に立つ老齢の女。
推定70を超えるその女性は、目の前に立つ長身の女性に向かってその言葉を投げた。
「はい、ありがとうございます議長。
 今年の新入生からは、必ずやカデンツァを……いいえ、人類を代表する魔法使いが誕生することでしょう。」
自信に満ち溢れたその女性エルカサスは豪語する。
だが議長と呼ばれた老齢の女は窘めるように。
「認識を誤ってはいけませんよ、エルカサス。
 私達カデンツァの民の目的は、迫害された魔法使い達を救うことです。
 決して……」
「勿論です、議長。
 だからこそ人類を代表するほどの魔法使いが必要なのです。
 我等カデンツァの民がイムヌスと同等の力を得るためにも。
 そしてあの神楽魔姫(かぐらまき)に……」
「……エルカサス。」
「失礼。少し”本音”が出てしまいました。
 ですが。」
その女性は笑う。
「いつでも時代を率いる者は、若い世代から現れるというもの。
 このエルカサス・フォト。
 学院長を任された身としてその礎になれることは何よりもの幸せですわ。」
その言葉はどこまでが本音か。

そしてその女性エルカサスはまた別の宮殿に足を踏み入れる。
その若い世代が集まる場所に。

カデンツァ魔法学院に。


一つの広い空間に集められた数十人の少年少女達。
彼等こそがこのカデンツァ魔法学院の新入生たち。
……そう。
(……いわゆる俺のクラスメイト、って奴だったか?)
下層住民だった俺にその言葉は馴染みがない。
教育だの、学院だの、そんなものは下層には存在しない概念だったからだ。
そいつらは規則正しく整列をしており、俺もそれに倣った。
つくづく貧乏くじを引いたと思うほかなかった。
そこに現れる長身の女。
教師って奴等のトップ……学院長、だったか?
その女は俺たちの前に現れて演説らしきものを始める。
「ようこそ魔法学院へ。
 わたくし学院長エルカサス・フォト。貴方達を歓迎しましょう。
 貴方達は厳しい入学試験を乗り越え、今ここに立っております。
 それはこの魔法使いの地カデンツァの未来を担う魔法使いを……」
(……こういう奴はどこ行っても話が長そうだな。)
それしか感想がなかった。
俺にとってこのカデンツァの未来なんてものはどうでもいいのだから。

長い演説が終わり、その場には集まった少年少女だけが残った。
少年少女といっても10代後半から20代前半くらいとまちまちだが。
そいつらは学院長とやらがいなくなってから、いくつかのグループを作り出した。
(……なんで?)
話をあまり真面目に聞いていなかったからか?
既にいくつかのグループが出来ている。
そんなことを指示されてはいなかったと思うのだが。
「よう、あんたも一人か?」
そんな中、俺は一人の男に話しかけられた。
第一印象は、ちょっとチャラいような、なんかライゼルとか聖とかに似てる感じだ。
「あ、あぁ。
 一人っていうかなんていうか……」
「俺はガライ。
 ガライ・キーファって言うんだ。
 宜しくな♪」
「あ、あぁ。俺は聖二って言う。」
初対面であまりにフレンドリーに接してくるものだから少し動揺してしまった。
……いや、動揺した理由は他にあるんだが。
「な、なぁ、少し聞いていいか?
 分かれば、でいいんだが。」
「おう。俺に分かることならなんでも答えるぜ。」
それはさておき、いまいちこういうタイプは苦手なんだよなぁ。
どうにも主導権をとられるというか。
「なんでこいつらは急にグループを作り出したんだ?
 そんなことを指示された覚えはないんだが。」
「え?
 そりゃあ有望株に今から唾をかけておきたいからだろ?
 もう戦いは始まってるって感じだな。」
「……戦い?」
ガライと名乗った男は周りを見渡し、どこか羨望の眼差しでいろんなグループを見ていた。
……そういやこの学院は、将来の偉大な魔法使いを目指すためとかなんとかさっきの学院長とかいう女が言ってたっけか。
「なんだよ聖二はそんなことも知らないのか。
 だったら俺が手取り足取り教えてやるぜ♪」
「あ、あぁ、頼む。」
とりあえず情報はあった方がいい。
哀音の言ってたことが正しいとも限らないしな。
「まずあそこの一番大きいグループの中心にいる男がキリング・アスレイ。
 いわば今期の本命ってやつだな。
 名門アスレイ家の御曹司で入学試験の成績はトップだったらしいぜ。」
「へー……」
名門とか言われても俺にはよく分からないが、要はお偉いさんのボンボンか。
「で、あっちの男共に囲まれてる女がレライン・ハートフェール。
 名門ハートフェール家の末妹って話だ。
 ハートフェール家は生成魔法が得意な……」
(……レラインね。
 とんだ偶然もあったもんだ。)
けど背恰好もサウザンドのあの女になんとなく似てるような。
まさか奴の先祖とかじゃないだろうな……
「で、あそこのグループの中心にいる女がコダマ・オラトリオ。
 田舎村出身らしいんだが、入学試験の成績はキリングに次ぐ2位だったってことで、
 早くも注目されてるらしいぜ。
 地方の強者ってやつはいるからなぁ。」
ガライはどこか羨ましそうに言った。
「まぁ俺の調べた限りはこの3人が有力株だな。
 ていうかみんな知ってるもんだと思ってたけど。」
「はは、悪いな。
 俺はそういうことに疎くてな……」
とはいえ情報収集も兼ねているので、あまり疎かにしていい事ではなかったかもしれない。
ここは素直に反省した方がいいだろう。
しかしそう考えると俺はその有力株とやらとちゃんと話した方がいいのではないだろうか。
でもあんな人が集まってる連中の中に割って入るのもなぁ……
「……もしかして俺たち、浮いてる?」
「あぁ、浮いてるぜ。
 今頃気づいたのか?」
よくよく見ればその3つのグループ以外には、俺たち二人しかいない。
これってもしかしてまずい?
「……あれ?」
だが一人。
孤立してる女がいた。
「おい、あんた。」
「は、ひゃい!?」
ついつい話しかけてしまった。
別に放っておけばいいものを。
「お、君も一人か?
 俺と聖二も二人っきりなんだ。
 仲良くやろうぜ♪」
後からやってきたガライがフォローしてくれた。
こいつコミュ能力高いな。
「あ、あの……えっと。
 宜しくお願いしますっ!
 私は、詩織(しおり)って言いますっ。」
「あ、あぁ、よろしく。
 俺は聖二だ。」
戸惑いながらも、なんとか俺たちもグループを作れたようだ。
これが必要なことなのかどうかはいまいちよく分からないが。
(……友人、か。)
思い出さずにはいられない。
雫やライゼルのことを。
だが今は。
(俺は俺のやるべき事をしなくちゃな。)
感傷に浸る時ではない。
そのために俺はこんな場所にいるのだから。


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