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2話 時の放浪者たち
「ギャハハハハハハハハハッ!!
ごみカス共がァ!!」
「皆さん、はやく、はやく!!
少しでも私がっっ!!」
「うるせェ、カス。
あァ、もう死んでやがる、つまんねェなぁオイ。」
「シ、シスター!!」
「うっ……
み、みんな早く……」
「おォ、アブねぇアブねぇ。
あっさり全部殺しちまったらつまらねぇからなァ!!」
「……待ちなさい。
それは後々使えるかもしれません。」
「あァ、なんか言ったか?
いま我はこのごみカスで遊んでるところだぜ。
邪魔するんじゃねぇ。」
……何度その光景を見たことか。
終わらぬ、繰り返し続く、悲劇。
もとい単なる虐殺。
俺ではどれだけ繰り返しても終わらせることの出来ない悪夢。
……だけど。
「……諦めるのか?
こんな事でお前は諦めてしまうのか?」
その悪夢を終わらせることを望んだのは俺一人ではなかった。
「……奇妙な縁もあったものだ。
いいや、これはもう運命と、
言ってもいいのかもしれないな。」
だがあいつらは俺より強いせいか、いわゆる”縛り”が強かった。
奴等とまともに戦う事は出来ない。
「私たちでは干渉できない。
そして奴等と戦っても勝利することはできない。
ならばそれ以外で助けられる術を探すまで。」
「……他にもまだ手はある。
多分この時代ならカデンツァが存在している。」
だったら手段を模索する。
必ず、今度こそ。
「俺達で必ず……!」
俺たちで助け出す、救い出す道を。
だが。
「……いない?
この世界に覇帝が?」
そう都合よく事が運ぶほど現実は甘くない。
「……あぁ。
残念な事だが”別の世界”に出ておられるようだ。
当然、といえば当然かもしれないが。」
元連盟の一人、天衣魔縫(今はリオンと呼んでいる)は半ば予想してたという風にそう言った。
「くそ、魔天獄にいないって言うなら、
なんとか手分けして探して……」
「……違うぞ、封座聖二。
魔天獄にいないのではなく、”この”世界にいないんだ。」
「……?
どういう意味だ?
ルームメイターで異世界に行ってるって意味だろ?」
「……お前はあの方の力を一時期持っていたのに知らないのか?」
若干呆れたようにリオンは言う。
悪かったな、所詮は元下層住人だよ。
「ルームメイターの先は異世界なんじゃない。
あくまでこの世界のどこかに出るだけだ。
あれは世界を超えることが出来る魔道具じゃない。」
「……そうなのか?」
よく分からないがそういう事らしい。
早い話があの英雄様を俺たちが追う事は出来ないってことか?
「あの方がこの世界にいるのだったら、
奴等が暴れた次の瞬間、奴等を取り押さえている。
閣下ならこの世界のどこにいても数秒もあれば駆けつけることが出来るからな。」
……滅茶苦茶だな。
「要するに奴等が暴れてるのに駆けつけて来ないから、
覇帝はいないって事になるのか。」
「そういうことだ。
もちろんこちらの方針を諦める訳じゃない。
閣下さえいれば、奴等を確実に撃退できるんだからな。
だが他の方針も考えるべきだろう。」
「……他の方針。
それはカデンツァとかいう……」
「あぁ。
そっち方面は彼女が調べてくれている。」
彼女。
真那の人形の一体とかいう、哀音って女だ。
いまいち接し方がよく分からない奴ではあるが。
「……もしかして俺。
このなかで一番何もしてない?」
「………」
リオンは何も言わなかった。
沈黙が一番きつい。
そして数日後。
戻って来た哀音が、カデンツァとやらについて話してくれた。
「……やっぱりカデンツァはこの時代に存在している。
でもその指導者はまだあの子たちじゃない。」
哀音の言うあの子たちって言うのは、哀音の孤児院のガキ連中。
名前はたしか、セレリア、エキドナ、イビレア、だったか。
どうもそのガキ共は真那が過去の魔女を模して造り出した人形らしい。
なんでそんな事をしたのかは俺には分からないが。
「今のカデンツァの最高指導者はバーパイア・カデンツァ。
カデンツァの創始者の一人らしく、もう結構な歳のお婆さん。
魔法使いとしての力量もまぁまぁだと思う。
たぶん私達の時代のオーガストって人くらい?」
……それはまぁまぁ、なのか?
「ただそれはあくまで魔法使いとしての力量って意味で、
魔物と戦うとかそういう事が出来るような年齢じゃない。
今の魔法使いの主力としては数えなくていいくらい。
カデンツァでもっとも主要となってるのはこの人。」
哀音が映像的なものを見せてくれる。
よく分からないが映像を見せる魔法とやららしい。
「エルカサス・フォト。
今のカデンツァを率いてる魔法使いの中でも中心人物。
しかもこの人は神楽魔姫の実姉みたい。」
「かぐ……?
なんだって?」
「神楽魔姫。
この時代の連盟の一人で、この時代最強の魔法使い。
……うぅん、この時代どころか真那様曰く、この1000年間で5指に入るとかなんとか。」
なんで真那はそんなこと知ってるんだ?
まぁもう今更か……
「とにかくこのエルカサスって人に注目されれば神楽魔姫との接点にもなる。
そうすれば覇帝様との接点も生まれるかもしれない。」
「そうは言っても、そんな簡単なことじゃないだろ。
そもそも俺たちは誰にも認識されないんだからな。」
結局のところそれが最大の問題。
今の俺たちは時の奴隷とか時の放浪者とかそんな存在だ。
まったく、とは言わなくても基本的にはこの世界の誰にも認識されない。
七罪魔ですら誰かがいる位にしか認識しないのだから。
「……大丈夫。
その問題を解決するためにカデンツァを調べた。」
そう言うと哀音は変な紙の束を渡してきた。
「……なんだこりゃ?
魔道具とかそういうやつか?」
「私が造った。
強制的に私達を認識させるために。」
「おいおいそんなことが出来るなら最大の問題は解決じゃないか。
俺たちが認識されるんだったら、直接雫たちを避難させる方法だって……」
俺たちの目的はあくまであの悲劇を回避すること。
直接注意を呼び掛けることが出来るのなら話は変わってくる。
ただ当然そんな簡単な話ではないらしい。
「……そんな便利なものじゃない。
それ……強制認知の札って呼ぶことにするけど、
それは魔法空間内でしか作用しない。」
「……魔法空間。
確か上層とかにあるっていう……」
「……そう。
カデンツァの環境は魔法空間に近い。
だからその札はカデンツァ内でしか使えない。」
よく分からないが魔力云々が関係するらしい。
そのあたりの理屈は俺にはよく分からないが。
「……成程な。
だったら俺たち3人でこれを使ってなんとか乗り込んで……」
「うぅん、それは無理。
乗り込めるのは貴方だけ。」
……俺だけ?
おいおい魔法に詳しくない俺一人が魔法使いの国なんかに行ってどうすんだよ。
「……その強制認知の札は、使用者の体質が大きく影響する。
簡単に言うと潜在魔力が少ない人間しか使えない。
貴方の魔力はしょぼいから、私達の中じゃ貴方しか使えない。」
しょぼくて悪かったな。
「……となると私に出来ることはなさそうだな。
私は閣下の方の可能性を探ることに専念しよう。
カデンツァの方は封座聖二が乗り込み、哀音がサポートするという形にするほかない。」
「乗り込むって言ったって俺一人じゃ大した魔法も使えないぞ。」
当然の問題を口にするが、哀音は首を横に振った。
「……”大した”魔法、どころじゃない。
いまの貴方はおそらく魔法をほぼ使えない、と思う。
今までなんとなく魔法を使ってただけなら。」
「あん?」
言ってる意味がよく分からない。
「……だからこれから特訓する。
あの魔法学院に入れる位の実力が身に着くまで。
それくらいやらないと貴方じゃ入学すら出来ない……」
さっきから俺はこいつに貶されてばかりいないか?
入学?ってのが何なのかよく分からないが、既に乗り込む手段は考えているらしい。
俺は従うほかなかった。
……その後の哀音の特訓はマジで地獄だったが。
こいつ刹那がいる間はツッコミ役と化してたが、素は割とあれだなと内心思った。
まぁそんな経緯で。
俺はこのカデンツァ魔法学院とかいう場所に入学することになった。
とにかくまずはこの場所で実績を積んでエルカサスとかいうこの学院の偉い奴から注目される。
……とは言われてもそれって簡単なことじゃないよなぁ。
哀音が入学することさえ出来れば簡単な話だったのかもしれないが。
「……まぁ、やるしかないよな。」
弱音を吐いてる場合じゃない。
一つでも多くの手段を模索しないと、雫を救うことは出来ない。
そのために俺はこんな過去の世界にまで来たのだから。
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