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10話 時渡
カデンツァが滅んでから1週間。
俺と哀音は魔天獄……いや、イムヌスを訪れていた。
天衣魔縫ことリオンとの情報共有のためだ。
「……話は聞いている。
イムヌスの方もちょっとした騒ぎになっている。」
「ちょっとした、か。」
イムヌスからすれば”その程度”の事なのかもしれない。
俺は遣る瀬無い思いを感じずにはいられなかった。
「イムヌスではまだカデンツァが壊滅した原因は不明、とされている。
まもなく調査が始まるとは思うが……」
「いまさら原因も何もあるか。
カデンツァを滅ぼしたのは間違いなくあの化物だ。」
醜悪の悪魔ダルバック。
何度も何度も雫の元となった少女がいた施設を滅ぼした存在。
どれだけ世界をやり直してもその結末は変わらなかった。
だが。
「……どうしてだ?
今まではあのカデンツァって場所は滅ぼされたりなんてしなかった筈だ。」
「……と、いうか。
この段階でカデンツァが滅ぼされてたら、
あの子たちは三魔女なんて呼ばれていない。」
あの子たちというのは、後にカデンツァの代表となる娘たち。
セレリア、イビレア、エキドナの3人。
この世界ではまだ小娘に過ぎないその3人が三魔女となりカデンツァの代表となる。
だが逆に言えばそれは。
「……学院長エルカサス。
あの女はどうなったんだ?」
「……詳しい事は分からない、けど。
順当に考えれば。」
「……排除されたってことか?」
エルカサスは三魔女の怒りを買うような事をしたのだろうか?
どのみち今の俺たちには分からないし、”この”世界ではそれはもう起こり得ない未来だ。
肝心のカデンツァ自体が滅びてしまったのだから。
「……でも、あの子達は幼少時代にそのカデンツァから一度は逃げてきた。
けれどそのカデンツァはもうない。
だったら、あの子達は、どうなるの……?」
「………」
考えても分からない。
だがこれでカデンツァの案は振り出しに戻ってしまった。
……これから一体どうする?
「……あんたの方はどうだったんだ?
何か収穫はあったか?」
俺は黙って話を聞いていたリオンに尋ねる。
「……閣下については未だこの世界に戻られていない。
だが……」
リオンは苦虫を噛みしめるような顔をする。
俺はどことなく嫌な予感がした。
「……おい。何があったんだ?」
「……私がかつて世話になった施設。
つまりお前が言っている雫という女性の元となった少女がいた施設。
その施設の事だが……」
「……え?」
……まさか?
「……3日前に、破壊されたそうだ。」
俺はぐらりと眩暈がしたかのような錯覚を起こす。
……は?3日前?
馬鹿な!まだ先の筈だ、どうしてこんな早く!
「……原因は、やはり……」
「奴等、だろうな……
それ以外に考えつく存在はいない……」
あの化物は1週間前にカデンツァを滅ぼしただけに飽き足らず。
その僅か4日後に……
「くそ……ちくしょうっ!!」
俺は地面を思いっきり叩く。
……なんだこれは?今までより更に悪化している。
哀音も顔面を蒼白にしていた。
「そ、それじゃあ、あの子達はどうなったの……?」
「……い、いや。
そもそも哀音、お前の言う子供たちは、この世界ではまだあの施設には来ていないんじゃないのか?
となると……」
リオンの冷静な指摘に哀音も足元がよろめく。
……おそらくあのカデンツァのどこかにいたのだろう。
つまりは、そういう事になる。
幼少用の学院でもあったのだろうか?
そんな話は一度も聞かなかったが。
「……今回は完全に失敗、としか言えないな。
もうやり直すしかない。」
俺や哀音が打ちひしがれてるからか、リオンが明言する。
だがやり直すも何も。
「悪化してんだぞ!
このままやり直したところでどうにもならない!
俺がカデンツァに入学してから2ヶ月ちょっと!
たったそれだけの時間で何をどうすればいいんだ!?」
もっと前の時間に戻る事は出来ないのか?
……いいや、それは”聞いてみる”ほかないか。
「……待て二人とも。
”奴”を呼ぶ前に次の世界の方針を確認しておきたい。
カデンツァの壊滅を防ぐ、という方針で良いんだな。」
「それは……そりゃ出来ればそうしたいけど、でも……」
カデンツァで共に過ごした学友たちの顔を思い浮かべる。
あいつらを助けることが出来るのなら、そりゃ俺だって助けたい。
だがこれ以上欲張ってどうする?
俺が本来したかった事はそっちじゃない。
だったら、選ばないと、選ぶしか……
「思考を止めるな、封座聖二。
状況は既に変わっている。
……いいや、過去が”書き換えられてる”とでも表現すべきか。
滅ぼされるのはカデンツァの方が先なんだ。
そして戦力はあの施設に比べればカデンツァの方が圧倒的に上だ。」
「そ、それってもしかして……」
「……あぁ。カデンツァの魔法使い達と共に奴を撃退する。
そうすれば連鎖的にお前の目的だって叶うかもしれないんだ。」
奴をカデンツァで仕留める事さえ出来れば。
必然的に雫がいる施設が破壊される事もない。
現実に迫っている脅威があると事前に知る事が出来れば、カデンツァの魔法使い達だって黙っている訳にはいかないだろう。
「そして現状カデンツァ内で認識されるのは封座聖二。
お前一人だけだ。
そのお前がそんな状態では困るな。」
「……成程な。」
認識される以上は出来る事だってある筈だ。
勿論課題は山積みだが。
だったらこれ以上手をこまねいてる理由はない。
まずは”奴”に確認する事がある。
「……よし。
じゃあもう一度だ!
もう一度、俺たちはこの世界をやり直す!
だから……」
俺たちは片手を上げる。
「時渡を始めよ!!」
そして俺たちの姿はその世界から”消失”した。
俺たち3人は大量の時計らしきものが漂う世界にいた。
時の狭間。
”また”俺たちはこの場所に戻って来た。
「ふぇふぇふぇ。
まーたやり直すんだねオマエラ。
ほんと懲りねぇなぁ。」
そして姿を現す。
その姿は全長8メートル程の巨大な鳥のような生物。
いや生物ですらない。
何故ならば。
「よう、ルドーワ。
悪いがまた世話になるぜ。」
「ふぇふぇふぇ。
もっと誠意を込めて頼めよなぁ。
僕ちんはこれでも多忙なんだからさぁ。」
時渡の悪魔ルドーワ。
俺たちを何度も何度も過去の世界に……いいや、”別の世界”に飛ばしている悪魔。
一番最初に俺たちがこの悪魔と会った時、この悪魔は俺たちに説明した。
「僕ちんはこの時の狭間の管理人。
時渡の悪魔ルドーワ様だ。
時の奴隷に過ぎないオマエラは僕ちんに捧げものをすれば、
オマエラの望む世界に、いいや、オマエラの望む過去に戻してやるよ。
戻れる時間は捧げもの次第だ。」
俺たちは自由に好きな時間に戻れる訳じゃない。
あくまでこの悪魔に戻してもらっているに過ぎないのだ。
厳密には戻るのではなく、また違う可能性の世界の、その過去に戻る、という事らしいが。
「で、今回の捧げものは?
僕ちんを喜ばせてくれればなんでもいいよ。
ふぇふぇふぇ。」
「あぁ、今回はお前にとっては面白い話だろうぜ。」
「へーぇ。それは期待させてもらおうか。ふぇふぇふぇ。」
捧げものは極論なんだっていい。
面白い話でもいいし、美味しい食べ物でもいいし、要はこいつの気分次第だ。
俺は今までと過去が変わっていることをルドーワに説明した。
「……なんと?
そんな事が起こってるなんて。これは、いったいどういうことだ?
ふぇふぇふぇ。意味わかんないなぁぁあぁ。」
ルドーワは慌ててるのかふざけてるのか時の狭間を飛び回り始める。
どうやらこいつにも原因は分からないらしい。
「それで聞きたい事がある。
俺たちはどれくらい前までなら戻れるんだ?」
「ふぇふぇふぇ。オマエラは既に100年くらい戻ってるからね。
これ以上大きく戻る事は出来ないなぁ。
せいぜい2ヶ月かそこらってところだね。ふぇふぇふぇ。」
……2ヶ月。
つまりやり直せるのは入学前後からってことか。
更に1年前に入学すればカデンツァの魔法使い達を説得する時間も出来るというのに。
「どうにかもう少し前に戻せないのか?
せめてあと、1年くらい前に。」
「だめぇぇぇぇぇ。駄目駄目だめだめだめ。
ただでさえもう過去変わってるんだろぉ。
その大きな改変がオマエラの影響だとしたらこれ以上はやり過ぎィ。
絶対だめぇぇぇ。ふぇふぇふぇ。」
完全に駄目だしされた。
これ以上機嫌を損なうと過去に戻してくれなくなるかもしれない。
「……分かった、悪かった。
だったら2ヶ月前で構わない。」
「分かればいいのさ奴隷ども。ふぇふぇふぇ。
じゃあさっさとやっちゃるぜぇ。準備はいいかぁ?」
「……あぁ。」
世界が変わる。
時の狭間が見えなくなる。
俺たちは再びやり直す。
何度でも、何度でも。
彼女達を、彼等を、救うために。
「………2ヶ月前。仕方ないんだよぉ。
1年前じゃ”ルール違反”らしいからさぁ。ふぇふぇふぇ。」
聖二達の消えた時の狭間。
その八色の翼を持つ鳥は呟く。
「そういう”決めごと”が出来ちまったんだから。
僕ちんの”上”がそう決めたんだ。
新しい物語の始まりを。」
あぁそう、そうともさ。
これは”僕”のはじめた、新たなゲーム。
本来なら脇役であった者たちが、必死に抗う、そんなゲーム。
君たちの勝利条件は、君たちの求めるものにしてあげるよ。優しいだろう?
だが、そう。
ゲームである以上、敗北条件が存在する。
"僕"が世界転移の力を与えた、”あいつ”。
”あいつ”の望みが叶ったら、君たちの負けだ。
あぁそう、そうともさ。
これは新しい悲劇であり、新しい喜劇。
あのモブ共と、”あいつ”の戦いだ。
実際に破壊の限りを尽くすのはグリモアとダルバックだが。
”あいつ”の行動さえ阻止する事が出来れば、現象たちの行動を止める事が出来る、かもしれない。
つまりはそういうゲームさ。
……はい?これだけ説明してもまだ分からないプレイヤーがいるのかい?
頭悪いな。脳みそあるのか?ならばもっと分かりやすく教えてあげよう。
”僕”はただの演出家だ。
このゲームを仕組んだのは確かに”僕”かもしれないが。
”僕”には共犯者が存在する。そういう話さ。
あのモブ、えーと、封座聖二。
あいつがあの学院に入学してから、ダルバックの奴があの人間の都を破壊するまでの間に。
その間に出てきた奴等の中に。
”僕”の共犯者は存在する。
そいつを見つけ出し、その行動を阻止せよ。
それが君たちの勝利条件だ。
ただ頭空っぽで眺めているだけなのも退屈だろう?
僕の洒落た小クイズとでも思ってくれたまえ。
さて、2周目の開始だ。
だが無限に周回できるなんて思うなよ、モブ共。
こんなゲームを始めた事が調停者に露呈したら終わりだし。
そうでなくても、舞台ごと破壊してくる馬鹿が乱入してくるかもしれない。
まぁその時はその時。
その周回で終わりにしてしまうだけさ。
その場合は当然、勝者なし。
君たちは誰一人救うことが出来ない。
そんなつまらない結末だけは見せてくれるなよ。
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