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12話 ハートフェール家
ハートフェール家。
イムヌスの貴族の家系の一つ。
だがリオン曰く俺たちの時代ではもう続いていない家らしい。
となると子世代、孫世代が絶えてしまった、という事になると思うが。
「今のハートフェール家当主の子供は6人。
レラインはその末っ子だ。
上に兄が4人、姉が1人いる。
……いや、いたというべきか。」
「……死んだ、ってことか?」
「あぁ。
既に残っているのは2人だけらしい。
第5子であるインファイトと第6子のレラインのみだ。
死んだ4人の兄弟の死因は不幸な事故で片づけられたらしい。」
「不幸な事故、ねぇ。」
きな臭い話だ。
いろいろ家にとって都合の悪い事実があって隠蔽された。
もしくは他の理由か、それは知らないが。
「一応4人が死んだ時の話も聞いておくか?」
「あぁ。」
長男は行方不明となり、死亡扱い。
長女はカデンツァへの遠征中、魔物に殺されて死亡。
次男は窓から身投げし死亡しているのが後に発見。
三男は首吊り死体が発見され、自殺とされた。
(……死因はバラバラ。
行方不明ってのは気になるが、特に共通点らしきものはない。
けど自殺もあるのに不幸な事故扱いか。
まぁ深く考えても仕方ないが。)
「死んだ順番は?」
「上から順だ。」
……となると次は5男が殺される?
なんらかの関係性があるならそういう解釈になるが。
(……どうにも不気味だな。)
下層にいた頃の俺なら絶対に関わらないような案件だ。
「……レライン?
あぁあの赤毛の子?
急にどうしたよ聖二。
まさかホの字って奴か?ん?」
「はは、まぁそんなところだ。」
俺はガライにレラインについての話を聞いてみた。
他に聞く奴がいないと言われればそれまでだが、こいつはイムヌスの貴族って話だからな。
同じ貴族のレラインの事だってもっと知ってるかもしれない。
「まぁ確かに事故については悪い噂もいろいろあったなぁ。
でも事故は事故な訳で、あんま嗅ぎまわるなって兄貴にも言われたが。」
「……お前にも兄貴がいるのか?」
「あぁ、まぁな。
聖二にもいるのか?」
「あ、あぁ、まぁ……」
深掘りされても困るので、適当に濁しておく。
……そういえば今頃どこで何してるんだろうな。
「あ、そういえば兄貴があのレラインって子の兄貴と親しかったな。」
「……レラインの兄貴。
インファイト・ハートフェール、だっけか?」
「そうそう。
いつもレラインの傍にくっついてる男だよ。
なんつーかシスコンって奴?
確かに顔は割と可愛い系ではあるしなぁ。」
「兄妹なのに学年は同じなのか?」
「まぁこの学院、入学に歳は関係ないからなぁ。」
……レラインが醜悪の悪魔の件と関わりがある可能性を考えると。
いきなりレライン本人に突入するより、その兄貴と接触した方がいいのかもしれない。
「その兄貴はどんな奴なんだ?」
「うーん、俺の兄貴情報だけど、変わり者ではあるけどいい奴って言ってたぜ。
けど……」
「けど?」
何かを怪訝に思ってるかのようなガライの顔。
「……イムヌスにいた頃はすっげーシスコンなんて話、
そんなに聞いた記憶ねぇんだよな。
兄貴からもそんな話は聞いたことねぇし……」
「今みたいにべったりじゃなかったって事か?」
「あぁそうそう。多分そんな感じだ。」
気になるな。
醜悪の悪魔の件と関係があるとは思えないが。
「そうか。いろいろありがとう。
ちなみにその兄貴、何か好きなものとかあるのか?」
「好きなもの?
うーん、兄貴はなにか言ってたっけなぁ?」
好きなものから話題を広げる。
安直だが有効な一手だ。
「あ、そうだ。
なんか将来は兄貴みたいな強い剣士になりたいとか言ってた気がするぜ。
俺の兄貴も同じでさぁ。いろいろ昔は聞かされて……」
「……剣士。」
だが今は魔法使いの教育機関であるこのカデンツァ魔法学院にいる。
どうにもいろいろちぐはぐに感じた。
(……多分だが、何かある。
まだ推測でしかねぇけど……)
それがレラインに直接関係する事なのかどうかはまだ分からないが。
「は〜い。
じゃあ今日の授業はここまでねぇ。」
5時限目、アンヌ先生の授業が終わる。
今日も素晴らしい1日だった。
勿論この授業の内容も綺麗にまとめている。
我が愛しの妹のために。
妹が立ち上がる。
そのタイミングに合わせ、私も立ち上がる。
だが。
「……今日は、ついて来ないで。
先に家に戻ってて。」
「……む?どうしたレライン。
帰り道に何かがあったら事だぞ。」
此処はイムヌスではなく、田舎の魔法使いの棲家。
妹の可愛さに嫉妬した魔法使いが、何かいじめをしないとも限らないからな。
「……いいから。
これは、"命令"。」
「……う、うむ。
分かった……お前の言うことなら当然、私は従うぞ。」
レラインがそれを望むのであれば仕方ない。
兄は妹の言うことを聞くものだ。
……だがこんなこと、初めてじゃないか?
少しとはいえ、胸の内が空っぽになったような、そんな。
「……おっと。それどころではない。
早く寮に帰って妹の夕飯の準備をしなくては。」
私は私のやるべき事を見据えて部屋を出ようとする。
「なぁ、あんた。
あんたがインファイト・ハートフェールか?」
出ようとしたところで声をかけられた。
……黒髪の男。確か同級生だったと思う。
「……そうだが、私に何か用かね?
すまないが私は忙しいのだ。」
私は足を止めずに部屋を出る。
早く私は妹の夕飯の準備を……
「あんた、剣士になりたかったんだってな。」
部屋を出たところで私の足が止まる。
何故?
止まる理由などない。
私の全ては妹の……
「……俺もなんだ。
強い剣士になって周りの奴等を守りたかった。
まぁ、過ぎた願いだったんだけどな。」
過ぎた、願い?
……もう通り過ぎた、願い。
違う。私は妹のために……
「兄貴みたいに、俺は強くなれなかった。
才能が、俺にはなかったんだよ。」
「私は必ず、兄上のように、
理想の剣士である兄上のように、
貴方の、ように!
なって見せます!!」
「あぁ、愉しみにしている。
だが今はお前を守らせてくれ。
可愛い”末っ子”を守るのは、兄の務めなのだからな。」
「……うぅっ!?」
インファイトは頭を抱える。
その顔は酷く青ざめていた。
正気には、俺には見えない。
(……見覚えがあるな、この手の顔。
下層の中にはヤクに頼って自分を見失ってしまった奴もいる。
こいつも、おそらくその類だ。)
俺自身は薬なんてキメた事はないが記憶の混乱現象には覚えがある。
このカデンツァに似たような現象があるのかは分からないが。
同じような類の魔法がないとは断言できない。
俺は脳内でよく吟味して言葉をかける。
「あんたの兄貴は、どんな奴だったんだ?
誰よりも、憧れてた人なんだろ?」
先程インファイトは、兄上、という言葉を零していた。
おそらくは兄、という言葉がキーワード。
「……憧れ、て、いた……
尊敬して、いたんだ……
貴方の、ように、なりたいと……」
インファイトは崩れ落ち、頭を抱えながらもたどたどしく言葉を零した。
俺はその言葉を一語一句聞き逃さないよう、耳を傾ける。
「……だから、ありえないんだ……
あの人が、兄上が、あんな風に、死ぬなんて……
でもどうして、私は……わたし、は……」
「……そうか。」
俺には優しい言葉なんてかける事は出来ない。
こいつとその兄との関係など、俺は何も知らない。
だから俺はその言葉を、懺悔を、真剣に聞くことで応えた。
「……みんな、みんな、いなくなってしまった……
だから私が、兄に、兄にならないと、いけなかった……
たとえ、実の妹で、なかったとしても……
私は、妹を、レラインを守るために……」
「………」
記憶の改竄。
かつて真那が俺にしたこと。
真那にとってはそれは親切心だったのかもしれない。
けどこんな。
「……でも、どうして……?
私は、いつから、私を……?
失って、なくして……?」
こんな、姿だったのだろうか。
兄から見た、俺の姿は。
(……そりゃあ、怒りの一つや二つ、沸くよなぁ……)
尊厳も。
誓いも。
知らぬ間に、見失う姿。
それをこうしてまざまざと見せつけられるのは、こんなにも。
(また少しだけど、あんたの事が分かった気がするよ。
馬鹿兄貴。)
だけど。
今度は俺の番だ。
雫の悲劇を、この都の悲劇を、終わらせるためにも。
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