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13話 襲撃計画



「……やっぱり此処に来てから、ってことか。」
「……そうだ。
 イムヌスにいた間の事は今ははっきり覚えている。
 もともと私はこの学院に入学する予定すらなかった。
 だが気が付いたら……」
今に至るって、ことか。
インファイトは元々はレラインの入学試験の時に付き添いで来ただけだったと言う。
何故ならば。
「……そうだ、私は魔法戦士だ。
 まぁどちらの技量もそれほど高い訳ではない、が。
 此処にはレラインの護衛で来ただけだった。」
……魔法戦士、か。
魔法戦士はどちらにも才がある代わりに、特化した力を持つ者は殆どいない。
だがどちらでも戦える、という利点もある。
イムヌスから此処までの道程を考えれば、護衛には適していると言えるだろう。
「だったら入学試験であんたに何かが起きた筈だ。
 些細な事でもいい。
 何か思い出せないか?」
「……何か、か。
 レラインを試験会場まで送り届けたところまでは覚えてる。
 そのあと食事をとろうとして、確か魔法使いの女性に同席を……」
……魔法使いの女性、というだけではこの国には山ほどいる。
だが。
「それはこんな女じゃなかったか?」
俺は写真を見せる。
アンヌ・ポルクスの写真だ。
ちなみに哀音の魔法による盗撮である。(万能かあいつは)
「……どうだった、だろうか。
 服は黒くなかったし、さすがに顔までは……」
仮に本人だったとしてもさすがに服くらい変えるか。
「……そうか、ありがとう。
 いろいろ聞いて済まなかった。」
俺はお辞儀をして立ち去ろうとする。
「……待ってくれ。
 その女が私をこんな状態にした張本人なのか?」
「……それは。」
話の流れからそう察するのは当然だろう。
誤魔化すことが出来ない訳ではないが。
「……あくまで可能性の段階だ。
 まだそうと決まった訳じゃない。」
「……だったら、私にも協力させて貰えないか?」
インファイトは立ち上がる。
目の前に立たれると結構身長差を感じる。
190近く、はあるか?
戦士として理想的な身体だ。
少しばかり羨ましく感じる。
「……いいのか?
 正直かなり危険な相手だと思っている。」
アンヌ・ポルクスが醜悪の悪魔を呼び出した犯人だとしたら危険どころではない。
だから俺は脅すように声色を低くして聞いた。
「危険など覚悟のうえ。
 この件にはレラインもなんらかの形で関わっている筈だ。
 だったら見て見ぬふりをする事など、
 残った兄の一人として私には出来ない。」
「……いいんだな。」
更に念を推す。
危険、という意味合いだけでなく。
「……あぁ。」
レラインを殺す事になるかもしれない、という意味も込めて。
「……分かった。
 だったら宜しく頼む。
 俺は封座聖二だ。
 まぁ同級生なのに今更だったか?」
「なに互いに初対面のようなものだ。
 私も妹のこと以外ほとんど認識していなかったからな。
 宜しく頼む、聖二。」
インファイトが手を差し出す。
俺はその手を強く握った。


その足でそのまま寮に戻って来た。
インファイトとは明日また落ち合う約束をしている。
だがその前に俺たちの間での状況報告だ。
「レラインはヨーロの夜会の常連だ。
 そしてインファイトはカデンツァに来てからおかしくなったと言う。
 レラインの背後にアンヌ・ポルクスという女がいるのはほぼ確実だろう。」
「……ヨーロの夜会を数日程張った。
 レラインは夜会の日でもないのに、アンヌ・ポルクスのところに来ていた。
 この二人が何かしら怪しい動きをしてるのは確か……」
二人の関係性はもはや確実だろう。
次はリオンの報告だ。
「やはりと言うか、私も魔導研究所とやらの中に入る事は出来なかった。
 時の放浪者としてのなんらかの特性が、あの場所に入る事を拒否している。
 だが私が張ったところ、あそこは相当きな臭い。」
「どうきな臭いんだ?」
「……異質な魔力が複数。
 ただ数が多過ぎてそれが醜悪の悪魔のものかの判定は難しい。
 だがあの巨体が今の段階でいる可能性はないだろう。
 奴の悍ましさをあの研究所の魔力で隠せるとは思えない。」
「……成程。
 とはいえシロ、という判断は出来ないか。」
「だが七罪魔の件でなくとも、気になる魔力も確認された。
 あの聖なる力はおそらく天使のものだ。
 一時期高位天使の端末となっていた私だ。間違いない。」
「悪魔の次は天使、か。
 つくづくきな臭い都なことで。」
俺は溜め息を吐く。
この都の連中はいったい裏に何を隠しているやら。
まぁ結局どっちも怪しいってことだ。
「……これ以上は探りレベルじゃ何も判明しそうにないな。
 仕掛ける時か。」
「あぁ。問題はどっちに仕掛けるか、だが。」
「……魔導研究所に仕掛けるのは現状じゃ不可能、だと思う。
 私達では、近づく事が出来ない。
 となると貴方一人で仕掛けることになる訳だけど。」
俺一人で天使だか吸血鬼だかがいる場所に突入する。
それは自殺行為に等しいだろう。
消去法でアンヌ・ポルクスの方に仕掛けるほかない。
その場合インファイトという味方もいる。
「そのインファイトという男はどうなんだ?
 封座聖二。」
「俺の見立てだが、少なくとも近接戦闘じゃ俺よりは上だと思う。
 魔法使いとしては、特別凄いって事はないだろうけど。」
「……貴方より強くても。」
哀音が怪訝な顔で言う。
やかましい。言われなくても分かっている。
「さすがに二人だけでは攻略は難しいだろう。
 相手はこのカデンツァの教師だ。
 私達も十全に動く事は出来ないとはいえ、手助けする位は可能な筈だ。」
「……なんとかアンヌ・ポルクスを家の外に引っ張り出すことが出来れば。」
哀音はあの家の中に入る事が出来なかったと言う。
逆に言えば外でさえあれば哀音が戦力になるということだ。
その条件はおそらくリオンも同じだろう。
元連盟、天衣魔縫であるリオンは俺たちの中でも純粋に強い。
十全でなくても、カデンツァの魔法使いの一人や二人なら問題にはならないだろう。
だがリオンは首を横に振った。
「……いや。
 私はその洞窟の外で待機しよう。
 考えてもみろ。
 アンヌ・ポルクスと魔導研究所に繋がりがある可能性がある。」
「……っ!?
 そうか、その可能性は十分あり得るな。」
アンヌ・ポルクスが醜悪の悪魔を呼び出している張本人とは限らない。
だが前の周の哀音の魔力探知に間違いがある可能性も低い。
その場合、魔導研究所とアンヌ・ポルクスの両方が、醜悪の悪魔の件において共謀関係にある事になる。
「七罪魔の危険性を分かっていない訳はないだろう。
 もし共謀関係であるなら私達が襲撃を仕掛ければ、必ず援軍を呼ぶ筈だ。
 その場合の備えはした方がいい。」
あんな怪しい夜会の中で挟み撃ちにされれば俺たちは全滅する。
だったらまだ洞窟の外で待機していた方がいい。
その役割に一番相応しいのは技能魔法両方を高いレベルで備えたリオンしかいないだろう。
「……戦力減だが可能性がある以上、仕方ない。
 だったらあとは決行日だな。」
「……レラインがインファイトが正気になってる事に気づいたら。
 アンヌ・ポルクスに報告が行く。
 その前に……」
「……仕掛けるほかない。
 のんびりしてる時間はねぇな。」
インファイトにも相談する必要はあるが、決行は早いに越したことはない。
明日はヨーロの夜会がある。
わざわざ多くの人間を巻き込む理由はないし、そもそも向こうに味方する可能性が高い。
決行は明後日で一旦落ち着いた。


「……ねぇ、アンヌ。」
「あら何かしら、レラインちゃん。
 心配しなくても調整の方は進んでいるわよ。」
進んでいる?
遅すぎる。
この女は私がどれだけムカついてるのか分かってないのか?
「話はそれだけかしら?
 特に”変わったこと”とかない?」
「……私は変えて欲しいと、言っている。」
「はいはい、分かった分かった。
 それじゃーまた”明後日”ね。」
……明後日?
明後日にはちゃんとあれを変えるってこと?
ほんと、むかつく。
どうして誰も、ちゃんと私を守ってくれない?


「あーあ。
 ほんとレラインちゃんは駄目な子だわぁ。
 やっぱりコダマちゃんが欲しかったわね。」
お馬鹿なレラインお嬢様を追い返して私は愚痴を叩く。
どうやら"兄の変化"にもまるで気が付いていないらしい。
周りが一切見えていないのだろう。
私がいなければとっくにおっ死んでいるってことも分かっていないのだ。
「お、お姉ちゃん。
 私、あの人、苦手……」
可愛い妹がぶるぶる震えながら小さく抗議する。
最近よくレラインが来るのが怖いのだろう。
私は優しく微笑む。
「……もう少しよ、ランラン。
 大丈夫。あれに用があるのも明後日までだから。
 ちょっと急ぐ必要が出て来ちゃったしね。」
私は目の前の”ソレ”に振り向く。
ズルズルと蠢く”ナニカ”
そして……
「さてどこのだれ君か知らないけど、そう都合よく事が回るとは思わないことね。
 お姉さんがその辺りをじっくり教えてあげるわ。」


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