SS TOPに戻る
前へ
次へ
28話 深奥にあるもの
「ア、アァアアア……」
「くそっ、フレイムっ!」
不気味な声で襲い掛かって来る巨大な木の魔物に対し、魔法を放つ。
火属性魔法が弱点とは思うが、如何せん俺の魔法では威力が低すぎて大したダメージを与えられない。
かと言って。
「炎砲斬っ!」
物理攻撃も大した効果はない。
効いてない訳ではない。
魔物の枝を斬り落としたりと、効果自体はある。
「オ、オオォオォ……」
だが焼け石に水。
木が集まったような魔物に対し、枝の1本や2本落としたところで殆ど意味はない。
その枝は少しずつまた再生を始めているのだ。
単純な火力不足。
俺一人ではどうやっても埋めることの出来ない問題。
(くそ、どうする。)
魔物は枝を腕のように伸ばして俺の方に近づいて来る。
俺は再び応戦しようと剣を構えるが。
(……いや、ちょっと待て。)
先程から俺はこの魔物に対し、何度も攻撃を加えている。
だがよくよく考えれば魔物の方からは一度も攻撃を受けていない。
単に攻撃を受ける前に俺が対処してるだけ、とも考えられるが。
(これほどの耐久力を持っていながら近づかないと攻撃手段がない?
いやそれはないだろう。)
普通のトレントですらストームソング等の魔法を使える。
その上位種と思われしこの魔物がその程度の攻撃手段を備えていないとは思えない。
となると。
「……貴様は何をしている?」
俺の思案を破り、不愛想な声が響く。
予想してたとおり、その声の主はハイド・サンドドルだった。
「あ、あんた……」
「……あぁ。ユグドラシルか。」
ハイドは溜め息を吐いて俺の前に、ユグドラシルと呼ばれた魔物の前に立つ。
魔物は怯えたように縮こまってるように見えた。
「この人間は貴様の主人とは何も関係ない。
おとなしくしろ。
さもないと分かっているな?」
ハイドは威圧しながら言葉を放つ。
「ウ、ウウウウ……フェイ、リィ、サマ……」
魔物はすごすごと去っていく。
……どこに帰るんだ?そもそもどうやって此処に入って来たんだ?
疑問はあるが俺の目的とは関係ないか……
「まさか本当に貴様一人で来るとはな。
口から出まかせだと思っていたが。」
「なんだよそれは。
信じていいと思ったから警備を空けてくれたんじゃないのか?」
「さぁな。」
ハイドが扉の近くで何かしらの手動操作を行うと大きなドアが開く。
……下から上に上がるのか。変わったドアだな。
「おい急げ。
あまり長く開けておきたくはない。」
「あ、あぁ……」
ハイドが扉の中に入るのに俺も倣った。
中は非常に暗く、正直殆ど何も見えない。
「さすがに明かりはつけられないが、こうする事は出来る。」
「……っ!?」
急に激しい光が放たれ俺は反射的に目を腕でガードする。
その光はハイド自身から放たれていた。
「天使の翼……成程、便利なもんだな。」
「貴様が見えないだろうから出しただけだ。
俺たち天使はこの程度の暗闇、問題にしない。」
「なるほど……まぁ助かる。」
ハイドの光のおかげで周りのものが少しばかり見えるようになった。
魔道具らしきもの。
牢獄に閉じ込められた魔物。
そして……
「……あの光は?」
ハイドのものとは違う、金色?の光。
その光はまるで何かを囲んでいるように見えた。
(……人?)
囲まれてる何かは人の、娘の姿をしている。
いやよく見ると背中に……
「余計なものを見るな。」
「え?あ、あぁ……」
少しばかり前を歩くハイドが苛立ってるように見えた。
けどその背中は、なんだろうか。
苛立ってる、というよりは。
「………」
……いや、やめておこう。
おそらくこいつにとって触れて欲しくないことなんだ。
俺は黙ってハイドに続くが。
「……さて、この辺りでいいだろう。」
ハイドが足を止める。
そして俺に向き直る。
本題、てところか。
「まずはこれを見ろ。」
「え?」
哀音の魔法みたいに空中で画面が映し出される。
そこには見覚えのある姿があった。
「……あれは教師シャルライト。
それにアンヌ・ポルクスの妹、ランラン・ポルクス……」
だが重要なのはそこではなく。
「背中に、翼……!
成程、あいつらがお前と同じ天使ってことか。」
「当然、俺はそんな事を聞きたいんじゃない。
あいつらはいま誰と交戦している?」
交戦。
画面に現れた天使たちは剣やら魔法やらを繰り出し、戦ってるように見えた。
だが何と戦っているのか分からない。
その画面には二人の天使しか映っていないのだ。
傍目に見て画面の天使が勝手に暴れてるように見える。
「どういうことだ?
誰と交戦してるって俺にそんなこと分かる筈がないだろう。」
「惚けるな。
あれは貴様の仲間による足止めだろう?」
……成程な。
そこまで勘づかれてるんだったらこれ以上は隠し立てできないか。
ハイド・サンドドルは俺たちに協力してくれるかもしれない。
だがこの男が独断で動いてることは予想が出来た。
となれば他の天使が邪魔してくるかもしれない。
その防止は必須だった。
だが長くはないだろう。
前回の戦い同様、一度この世界の存在に介入してしまえば徐々に介入できなくなって……
(……?)
……違和感があった。
その割には、戦いが長い。
あの天使たちの力は、アンヌ・ポルクスを超えるだろう。
そんな相手に対し、どうして長く立ち塞がる事が出来てるんだ?
俺にとってはいい事ではあるんだが。
「答える気はないのか?
だったら俺の方も考えがあるぞ。」
「ま、待て待て。
答える。けれど……」
僅かながらハイドから殺気を感じたので釈明に走る。
俺がこの天使と戦うことになったら悲しいことにあっさりやられるだろう。
「信じて貰えるかどうか……」
「それは貴様の気配が妙に薄くなってることに関係があるのか?」
当たり前かもしれないが、気づいていたらしい。
今の俺は強制介入の札を所有していない。
だが目の前の天使はまだ俺のことを認識している。
この状況は、ある意味信じて貰うのに都合がいいかもしれない。
「話せ。ここまでの事をしたんだ。
貴様とて退路はないだろう?」
「あぁ……」
ただ何故。
この天使はここまで協力的なのか。
俺は初めてこの世界の人間に(人間ではないが)時の放浪者についての話をした。
ハイドは特に茶化すこともなく腕を組んで俺の話を聞いていた。(茶化すようなタイプではないだろうが)
「………」
しばし無言の時間が続く。
俺の言葉の真意を考えているのだろう。
俺はハイドの言葉を待つしかなかった。
「……そうか、思い出した。
確かに奴がそんな話をしていたな。」
「奴?」
俺の疑問を余所に、ハイドは背中の画面を親指でクイと指す。
「だったらいま戦ってるのは貴様の仲間の時の放浪者とやらか?」
「あぁ。そうだ。」
「まったく、預言者の一族なんて話よりこっちの方がよっぽどまともに聞こえるものを。」
ハイドは呆れたように溜息を吐く。
……よくよく考えるとどっちも胡散臭い話ではあった。
だったら真実を最初から話しておいた方が良かったか?
いやこの状況でなければやはり信じては貰えなかっただろう。
「ただ一つ疑問がある。」
一つでいいのか?
「貴様の仲間たちは強いな。
奴等相手にどうにか食い下がっている。
だが。」
ひと息ついて。
「何故本命の潜入役が貴様なんだ?
貴様はどう考えても一番弱いだろう。」
「………」
ハイドが敵対する相手とは思えなかった。
だが他の天使は敵対する可能性があった。
だったら中に入るのは戦闘力に乏しい俺であるべき。
筋は通っている説明だし、実際この役割分担の理由の一つであることに違いはない。
だが本当の理由は別にある。
敢えて俺は本当の理由の方を話すことにした。
ここまでやってハイドにお咎めがないとは思えない。
だったら誠実に応えるべきだと、俺には思えた。
「……俺以外は、この魔導研究所に近づく事が出来なかった。
俺の仲間が俺より強いからだと、考えている。
けれど本当のところは正直分からない。」
「……近づけなかった?」
ハイドはそれを聞いて思案する。
そしてハッとしたように移動し、何かの機械を動かした。
「転移制限障壁。これの影響か。」
ハイドは何かのスイッチを押す。
すると天使しか映っていなかった画面に……
「……哀音?リオン?」
二人が映し出された。
一体これはどういうことだ?
更に戦いの行方が二人の方が優勢になりだした。
……まさか、あれは。
「……時の呪縛が、解けた?」
動きが以前のものに戻っている。
俺たちが時の放浪者となる前の頃に。
SS TOPに戻る
前へ
次へ