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30話 魔導の探求者



「……まさかこんな事になっているなんて。
 派手にやってくれたようね。」
「……学院長、エルカサス。」
何故、この女がこの場所にいる?
外では天使達が魔導研究所に入るために戦っているのに。
「……そういうことか、貴様。
 予めこの場所への転移装置を……」
「……転移装置?」
エルカサスしか知らない、この場所に転移するための代物があったということか?
まぁ相手は学院長というだけでなく、カデンツァ全体の次期代表らしき女。
それくらいの備えがあるのは当然といえば当然のことかもしれない。
「それで中位天使ハイナー。
 この状況の言い訳はしてくれるのかしら?」
エルカサスは俺たちのやり取りなど無視して、ハイドの方を鋭い視線で凝視する。
俺の事は眼中にないのか、どうなのか。
「………」
ハイドは何も答えることが出来ない。
回答に窮してるのか、それとも。
「まぁいいわ。
 貴方達天使の問題は、貴方達で解決して貰うとしましょう。
 それともう一人。」
エルカサスは俺の方をぎょろりと見る。
その仕草は威圧的だった。
何がこの女をそう見せるのか。
「貴方は新入生、封座聖二。
 入学試験の成績も好成績だったと聞くけれど、成程。
 どこの組織の手のものかは知りませんが。」
……好成績、か。
何度も同じ試験を受けてれば誰だってそうなる。
そんな事よりどうする?
なにしろ学院長に見られたんだ。
もう俺は学院にいられないだろう。
だったらいっそのこと。
「勝手にこの場所に入ったことは謝罪する。
 ただ時間がないんだ。
 早くしないと七罪魔がこの都を滅ぼして……」
「……七罪魔?
 なるほど、それを知っているなら、"そういう事"ね。
 中位天使ハイナーが協力してるのは疑問だけど……」
「……知っている?」
それはどういう意味で……?
この女は七罪魔のことを、まさか……?
「ならば話すことは何もなさそうね。」
エルカサスから強大な魔力が流れる。
俺はその魔力に気圧される。
この魔力量は、カディスさんより上か?
「なんて、言ってる場合じゃねぇだろっ!!」
相手は、魔法学院のボスだぞ!
魔法を撃たせたらもう終わりと思え。
だがエルカサスとの距離はまだ離れてる。
俺が一足飛びで接近戦を仕掛けられる距離じゃない。
だが俺が魔法攻撃なんてしたところで……
「ドラゴンメテオ。」
しまったっ、詠唱をっ!?
しかもこの魔法は……
「悪いがそうはさせんっ!」
ハイドは既にエルカサスの目の前まで迫っていた。
接近戦を仕掛け、一気に決着をつけるつもりか?
「嘘よ。」
「……っ!?」
だがハイドを漆黒の何かが襲う。
この魔法は、確か……
「ぐ、あああぁぁぁっっ!?」
漆黒の雷。
ジゴスパーク。
カディスさんが得意とする、闇属性を含んだ雷属性Lv3最強の魔法。
天使には効果大の魔法だ。
ハイドが来ることを見越していたってことか?
「そして今度は本物よ。」
虚空より4発もの小型の隕石が到来する。
今度は本物。文字どおりあの魔法は兄貴が得意としていた魔法。
「く、この程度で……っ!」
ドラゴンメテオ。
この女、これほどの魔法を次から次へと。
さすがは学院長と言ったところか。
だがハイドも天使というだけあり、すぐに態勢を立て直し……
「遅すぎる。」
ハイドの周囲の空間が歪む。
今度は、なんだ?
「ぐ、あぁぁぁっ!」
その空間の崩れがハイドを巻き込んだ。
ぶちぶちとハイドから血が流れる。
あの魔法は、たしか心が使ってたような……
ハイドはついに飛ぶのがきつくなったか、地に堕ちる。
「さすがにこの3つの魔法の応酬は中位天使といえどきついようね。
 実践の機会を与えてくれて感謝するわ、中位天使ハイナー。」
……デス・メギド。
詳しくは知らないが、あれは魔属性の……
この女、兄貴やカディスさん、心が使う最強クラスの魔法を次から次へと。
学院長の冠は伊達ではなかった。
俺とは何もかも格が違う。
「”開発した”甲斐があったわ。」
「……開発?」
どういう意味だ?
この時代ではその3つの魔法はまだ?
いや、確かこの時代の基礎魔法の中には確か……


この時代においてその3つの魔法はまだ人類の魔法体系に組み込まれていない。
そもそもその魔法を開発したのは人類ではない。
闘争、退廃、虚偽の七罪魔三柱。
彼等が生み出した魔法である。
彼等にとっては生み出した、という程のことではないかもしれないが。

エルカサスは過去の時代の文献や技術を読み解き、彼等の魔法をこの時代で再現することに成功した。
無論、七罪魔のそれに匹敵するものではない。
だが劣化品だとしても、未来に人類が使える魔法のなかでもメインウェポンとなるほどの強大な魔法。
それがこの3つの魔法。
ドラゴンメテオ。
ジゴスパーク。
デス・メギド。
この時代においては、それらの魔法はエルカサスだけのオリジナル魔法に過ぎない。
だが未来においてそれは人類の魔法体系に組み込まれる。
これは間違いなく人類の魔法の歴史において偉業といえた。
すなわちエルカサス・フォトは魔法の歴史に刻まれるに相応しい偉人。
だが彼女の名前は後の世に残っていない。
何故ならば本来の歴史において能力に劣る三魔女に敗北し、カデンツァ自体も未来には残らない。
結局その魔法を生み出したという栄誉はイムヌスのものになってしまうからだ。


(……なんとか。)
驚いてる場合ではない。
中位天使ハイナーが戦ってる間に、なんとかこの女の隙を突いて……
「ジゴスパークは効果範囲が広すぎるわね。
 天使単独相手ならデス・メギドとドラゴンメテオの方が適しているかしら。
 まだこの魔法の実践経験がないものでね、ちょうど良かったわ。」
「……貴様。」
天使相手にエルカサスは魔法の実験をしている。
そのことがハイドにとっては屈辱なのか、
だがエルカサスは喋りながらも、”手で”詠唱を何度も終えていた。
そのたびにデス・メギドやドラゴンメテオがハイドに直撃する。
決して油断している訳ではない。
(ああいう詠唱方法もあるのか……)
感心してる場合ではないが。
さすがにあんな魔法を何発も喰らったら天使といえど瀕死。
このままではまずい。
なんとか一撃を加えなくてはならない。
いくら強大でも相手は魔法使い。
あれだけの魔法を詠唱してる存在が、分身だったというオチはないだろう。
物理攻撃を決めることさえ出来れば……
「ぐあぁぁぁっっ!?」
ドラゴンメテオの連発により、ハイドは攻勢に転じることが出来ない。
エルカサスは攻撃の手を一切緩めない。
だが今が最大の好機。
(この一撃でっ!)
俺はついにエルカサスの背後をとった。
「ダブルソー……っっ!?」
だが次の瞬間。
その隕石は俺めがけて到来した。
「ぐ、あああぁぁぁぁあぁぁっっ!?」
俺は弾き飛ばされ、壁に激突した。
奇襲に、気づかれていたか?
「そう、貴方めざといわね。
 フラットの夜会で決勝まで進出できたのもそのおかげかしら?」
「なに……?」
どういう意味だ?


ドラゴンメテオは特定の相手に狙いをつけて打ち込む魔法ではない。
"特定範囲内"の敵対相手に、ランダムに小型の隕石を放つ魔法である。
つまりその特定範囲内に聖二が入ってしまったため、聖二も攻撃を受けた。
ただそれだけの話であり、エルカサスは聖二の奇襲には気づけなかった。
彼女はあくまで魔法使いであり、魔法戦士ではないのだ。
だがエルカサスに詳細を説明する義理はない。
そしてドラゴンメテオを使った事がない聖二にそこまでのことを推察することは出来なかった。
「なんにせよ、ここまでのようね。
 結局、外で戦ってる彼等が本命だったのかしら?」
中位天使ハイナーは既に瀕死であり、封座聖二はまったく脅威にはならない。
だが外で中位天使と戦ってる彼等は未だ未知数の実力者。
特にエルカサスの目を引いたのが。
(……あの魔法は確かにドラゴンメテオにデス・メギド。
 あの少女、いったい何者?)
哀音と中位天使ラナーの戦い。
ドラゴンメテオとデス・メギドは未だエルカサスのオリジナル魔法に過ぎない。
ゆえにエルカサスが疑問に思うのは当然だが。
(……残念ね。
 彼女が魔法学院の生徒であれば、間違いなく人類の魔法の歴史において偉人となれたのに。)
だが敵対相手を勧誘するほど、エルカサスは悠長ではなかった。
(相手が中位天使ラナーである以上、彼女の命運は決まったわ。)
何故ならば。
(私でもおそらく勝ち筋はない。
 何故ならばラナーは……)


「……え?」
何度も何度も私はLv3魔法の中でも強力な魔法を目の前の天使に叩きつけた。
にもかかわらず、未だこの天使は。
「うぅ、痛い痛い、痛いよぉ。
 もういやだぁあぁ。ひっくひっく……」
魔法の余波による煙の中に天使の影。
ダメージは負っているがまだ動いている。
地上に墜落などもせず、空中で飛んでいる。
「だったら、もう一発……っっ……!」
ガクンと自分の身体が崩れる。
力が入らない。
(……どう、して?)
魔力が切れたのではない。
まだ自分の魔力は半分以上は余力があるはず。
そして無論その崩れは最悪の隙である。
「……っっ!?」
天使は巨大な剣を手に持ち、目の前にいた。
「消えちゃえぇぇぇっっ!!
 伝承ソードぉぉぉおおおぉぉぉおっっ!!」
一閃。
その一撃は私の身体を、完全に斬り裂き。
……私は意識を、落とした。


ラナーの一撃で少女の身体が地上に墜落する。
墜落の際、大量の血しぶきが周囲に舞った。
死んだわね。
生きていたとしても、もう戦えないでしょう。
(馬鹿ね、撃ちすぎよ。)
エルカサスには哀音の敗因が分かっていた。
魔法を戦闘で使うことに彼女は慣れていない。
魔力さえ残っていれば撃ち続けることが出来ると思っていたのだろう。
魔法使いとしては極めて優秀であっても、戦闘者としては素人だった。
要するに。
(ただの疲弊、体調不良。
 そしてラナーは絶対的な魔法防御性能の持ち主。
 もちろん天使が持つ自己再生能力も有している。)
そのように、”調整された”天使。
……という話だけれどね。まぁとにもかくにも。
「さぁ、これでラナーが入って来るわ。
 いろいろ詳しい話を聞かせて貰おうかしら。」

勝敗は決した。
時の放浪者たちの敗北である。


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