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40話 詩織の謎



「……魔物使いの少女?」
「あぁ。以前お前も言ってただろ。
 気を付けた方がいいって。」
「どういうことだ?」
1周目はカデンツァではなくイムヌスの方を調査してたリオンが疑問を口にする。
俺は詩織について二人に情報を共有していた。
「俺のクラスメイトに詩織って娘がいるんだけど。
 彼女は魔物と仲良く出来るらしいんだ。
 まぁ小動物レベルの魔物だけらしいんだけど。
 そういうのってあるだろ?」
「……いや、あると言われても聞いたことがないが。」
リオンまで過去の哀音と同じようなことを言う。
……そんなに、珍しいものなのか?
俺は自分の中でざわざわするものを感じていた。
「た、例えばボールマウスとかいう魔物。
 顔の大きい、ネズミみたいな魔物だってお前も言ってただろ?
 そいつを俺は魔導研究所で見たんだけど……」
「……あぁ、それは確かに私も見た。
 その直後に奴等が現れはしたが。」
……直後?
奴等とはもちろん七罪魔のことだろう。
俺もリオンもそのネズミの魔物を目撃し、リオンが目撃した直後に奴等が出現?
「ほら、何かあるかなって思ってさ。」
「何かって言われても……」
哀音は何故か戸惑ってるように見えた。
気のせいかリオンにも同じ目で見られてるような気がする。
……なんだ?俺がおかしいのか?
別に詩織がどうのこうのって話じゃない。
「もしかしたら、何か知ってるかもって思ったんだ。
 ほら、ネズミの魔物なんて操れたらどこだって見張り放題じゃないか?」
……知ってるかも?
……違う、俺が本当に思っているのは。
「……聖二。お前はその娘が……」
リオンが真剣な顔で口を開く。
「周回者に関係あると、そう考えてるのか?」
「………」
周回者に関係がある?
あぁそうだ。きっと俺はその疑念が消えないんだ。
今まで周回者はその尻尾すらまともに見せなかった。
けれど魔物を操れるのであれば?
この都には小動物レベルの魔物は割とそれなりの頻度で見かける。
たまにどこかから入り込むのか魔導研究所のせいかは知らないが、見かけるのは確かだ。
……つまり、どこにいたところで不自然とは感じない。
その魔物達を使って、俺たちの動向を把握している。
動向さえ分かれば妨害する方法なんて、いくらでも思いつくだろう。
「正直な私の感想を言えば。」
リオンは俺に向き合い。
「お前の言うことは論理が飛躍している。
 ……いいや、少し違うか。
 疑えるものがなくなったから、仕方なく疑っている。
 本当はその娘を疑いたくない。
 違うか?」
「……う……」
リオンの指摘は今の俺の心情を的確に捉えてるように感じた。
「まず魔物を操れるという話。
 成程、その娘が何者かと接触しそんな力を与えられたとしよう。
 その力によって私達の動向を探っていたと。
 だがそこまで便利な力があるなら、一体いつまで動向を探ってる気なんだ?」
「……え?」
「魔女の家でも、魔導研究所でもその娘の姿を見た訳じゃない。
 違うか?」
「そ、それはそうだけど、裏で魔物と情報を共有して、たのかも?」
「成程、それは便利な能力だな。
 そこまで出来るのであればお前一人殺すくらい訳がないと思うが。」
「………」
確かに、そうかもしれない。
そんな能力があるなら少し行動が地味過ぎる気もした。
詩織を周回者だと疑うなら、他にも疑える奴はいくらでもいるように感じる。
「だが……」
とリオンは続ける。
「その娘と何者かが組んでいると仮定した場合。
 その何者かが周回者のリーダーの可能性はある。
 なにも相手が一人と限定する必要はない。」
「……それは、そうかもしれない。」
そしてその何者かを知るためには。
詩織を尾行するしかない。
「まぁ推測に推測を重ねるような話ではあるが。
 他に候補もいない。
 哀音の情報収集魔法で探るのはありだと思う。」
「わ、分かった……じゃ、じゃあその子について教えて。」
哀音が承諾する。
あくまで、そう。
これは疑念を拭うために過ぎない。
詩織が周回者?
あのいつもびくびくしてるような娘が?
(……それでも、下層にいた頃の俺なら。)
その程度のことなら疑いを解いたりしなかっただろう。
なんだろう。俺は自分がどんどん甘くなってるように感じる。
「だが決めつける必要はない。
 少し落ち着くんだ。」
リオンが窘める。
……そうだ。あくまで推測の更に推測でしかない。
無理矢理、納得する必要なんてないんだ。
俺は哀音からの調査結果を待つことにした。


そして二日後。
哀音は詩織個人に情報収集魔法とやらを使って、彼女を探った。
その結果は。
「……その子、結構いろんな場所に移動してる。
 でも私の探れた範囲だと言動におかしなところはない。
 確かに貴方の言うとおり、魔物と話してるような素振りは見えるけど、その……」
哀音は少し言葉を置く。
「……別に遠慮する必要はない。」
もう覚悟は出来ている。
たとえ詩織からどんな真実が出て来たとしても。
「……いや、ただの痛い子なんじゃないかなって。」
「……は?」
「……いや、出会った魔物にいちいち名前つけて、それで呼んで。
 一人芝居してる、というか、その……」
言葉を置いたのは、言葉を選ぼうとしてただけらしい。
まぁ、詩織らしい行動と言われてしまえばそんな気がする。
「ただ……
 魔導研究所の方に行った、気もする。
 あそこは魔法が通じなくて、よく分からなかったけど。」
「なに?」
……詩織が魔導研究所に行く理由はない。
何故?
やはり、周回者と関連が、あるのか?
それとも他に理由が?
「……えっと、聞いてる?」
「……っ!?
 あ、あぁ、聞いてる。」
「……魔導研究所に行った、というか私の魔法が途切れたのは。
 一昨日が夜の9時、昨日も、それくらいだったかな。」
……夜の9時。
ますます違和感を覚えた。
どうしてそんな時間にあんな場所に行く必要がある。
そもそも学生が入れる場所ではない。
いや確かに今は神楽魔姫の影響で警備は緩くなってるだろうけど、けど……
「……張ってみる。その時間。」
「……う、うん。分かった。
 じゃあ私も魔法をかけたままにしておく……」
単に、そう。
哀音の魔法が途切れたという事実しかない。
念のため、でしかない。


そしてその日の夜9時少し前。
魔導研究所は以前と状況がそれほど変わってるようには見えなかった。
警備の数は減っている気がするが、建物にも異常がない。
だがこの場所から必ず奴等は現れる。
中に入る権限があればどれだけ楽か、そう思わずにはいられない。
(……誰か、来る。)
この辺りは物影に隠れられる場所など殆どない。
だから俺は魔導研究所に近い木々の裏で張っていた。
そこに現れた人影は……
(……詩織。)
彼女だった。
まっすぐに魔導研究所に向かっている。
その足取りに迷いは、見えない。
「………」
追うしかない。
後ろを振り向かれたら、アウトだが。
魔導研究所の少し前で詩織は足を止める。
そして。
「……っっ!?」
詩織の服の中から、あのネズミの魔物、ボールマウスが現れた。
詩織と何か、話している?
そしてその後ネズミは魔導研究所の裏に回り……
「……いや、さすがにこれは。」
痛い子、では済まないだろう、いまの行動は。
ネズミの魔物に何かの指示をしている。
そうとしか、見えない。
(……どんな指示を?
 たとえば。)
魔導研究所を探る際の安全なルートの確保。
たとえカデンツァの上層部でなくても、結局は中に入る事さえ出来れば。
実際俺だってハイド・サンドドルの力を借りて中に入った。
それが魔物に置き換わっただけ。
入ることは不可能ではない、んじゃないか?
「……え?」
詩織が俺の方を向く。
……あぁ、考えすぎていたらしい。
だったらもう、直接だ。
俺の中でその疑念は確信に強まっていた。
「よう、詩織。」
「せ、聖二君……?」
詩織は戸惑っている、ように見える。
確かにいつも彼女はこんな感じだ。
……だがそれが、本当の彼女である保証なんてない。
(今は下層の頃を思い出せ。
 あの頃の俺はなんだって疑ってかかった筈だ。)
俺は心を鬼にする。
「こんなところで何してるんだ?
 なんかいま魔物と話してるように見えたんだが。」
「……え、えっと。
 確かにマウマウと話してたけど、その……」
詩織は指をツンツンしながらしどろもどろで話す。
……何かを隠したがってる行動と言動。
「へぇ、そうなのか。
 どんな話をしてたんだ?」
「え、えと、それは……」
詩織は俺から顔を背ける。
……片方の足がその場から逃げたいように後ろに引いている。
「せ、聖二君……こ、怖い、よ……」
「魔導研究所に入って、何をしようとしてたんだ?」
「……っ!?」
詩織の表情が青くなる。
……そうか。
本当に、お前が。
「……お前が、周回者なのか?
 ずっと俺を謀って仲良くしてたフリをしてたのか?」
そして。
「七罪魔の奴等を呼び出し、
 何度もこの都を滅ぼした、その犯人なのか?」
容赦なく攻め立てる。
……もはや、気のせいだと思うことは出来ない。
「答えろ。
 お前は何者だ?」
その答えは……


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