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4話 序列入替戦



序列入替戦。
言葉通り、ナイツの序列を賭けたナイツ同士の決闘。
下の序列の者が上の序列の者に挑むことで成り立ち、
下の序列の者が勝利した場合、勝利した相手の序列と入れ替わる。
それが基本ルール。
だがこの場合は。

「……本当に受けるのですか?」
ユグドさんから確認される。
私が瑪瑙からの入替戦を受けるかどうかの確認だ。
この入替戦はお互いの序列が2つ以上空いてる場合、拒否を可能とする。
当たり前だが上の序列の者が勝ったところで、序列の変更はない。
上には入替戦を受けるメリットが何もないのだ。
ただそれでは入替戦が成り立たないため、序列差が1つしかない場合のみ拒否が出来ないルールとなっている。
おかげで私はあのホモオレンジに過去2回程、入替戦を挑まれたことがある。
だが今回の場合、私は序列6位、対して瑪瑙の序列は12位。
ここまで開いてる相手との入替戦を受けるなど、普通に考えればないだろう。
だが。
「……はい。騎士に二言はありません。」
「……分かりました。では上にもそう伝えましょう。」
普通に考えれば、たしかにない。
が、この入替戦、実のところ受けるのが暗黙の了解となっている。
入替戦を拒むということは、言い換えれば負けることを怖がってるのではないかとも取られるからだ。
ナイツ・オブ・グローリアは国の象徴。
目の前の戦いから逃げる等、象徴として許されることではないのだ。
……ただそれでも6位も差がある相手との入替戦など初である。
多くても3位差か4位差だった記憶がある。
入ったばかりの新人がよくやるのだ。
それで当然のように敗北し、自身の実力を正しく認識していくことになる訳だが……
「……汗。」
……だが、あの小娘は。
そんなレベルの類のものなのだろうか?
勝手に流れた冷や汗を拭いつつ。
「……何を考えているのですか、私は。」
私は桃騎士音羽。ナイツ序列6位。
5年前の戦いが終わってからも、私は鍛錬に鍛錬を重ね、凶悪な魔物達との死闘を繰り広げ、強くなった。
ナイツ最弱だった頃とは違うのだ。

あの女に手も足も出なかった頃とは、違うのだ。

「……受けるとは、思ってませんでした。」
瑪瑙が黒い鎧に身を包みながら意外そうに言う。
「……まぁこれはナイツの通過儀礼のようなものですから。」
新人が先輩に挑んで敗北するという。
「そうですか……」
それ以上特に話すことはないのか、瑪瑙は口を閉じる。
私も入替戦の前にあれこれ無駄話をする趣味はない。
「う〜む。
 音羽とあの新人ちゃんは仲が悪いのか?ユグド。」
「……さて、どうでしょうね。」
立ち合い人のナイツは赤騎士と白騎士。
「こらぁっっ!!桃騎士音羽!!
 そのような礼儀のなってない小娘など、
 さっさと叩きのめせぇぇっっ!!」
……あとホモオレンジ。
普段はお前が私に挑んでる癖に。
まぁだからこそ、私が他の奴に負けることは許されないとかいう奴かもしれない。
あとはグレイスさんだけだが……
「悪いな。遅くなった。」
「……ふむ、彼女が。」
グレイスさんに、あれは幸玄叔父様?
まさか5名ものナイツが立ち合い人になるとは。
そのうえ。
「誘われたカラねぇ。
 僕もこの試合、見物させてもらうヨ♪」
あの男はマーティン・ハイケル!?
5年前、唯一市民から連盟になったよく分からない男だ。
なんで連盟までが立ち合い人に?
……いや、そんなことは今はどうでもいい。
「……瑪瑙様。」
巨大な黒い鎧が瑪瑙に話しかける。
あれが瑪瑙と共に東方から来た黒鉄(くろがね)とかいう男らしい。
全身が鎧姿でどことなく不気味だ。
パンデモニウムでそんな鎧と戦ったことがあるような気がする。
「問題、は、ない……」
瑪瑙はそう応える。
前までのボソボソした喋りとは違う。
あの視線の瑪瑙はいわば戦闘態勢、ということなのだろう。
あの鎧男もそうだが、揃って不気味な連中だ。
「これより序列入替戦を執り行う。
 挑戦者はナイツ序列12位・黒騎士瑪瑙。
 対するはナイツ序列6位・桃騎士音羽。
 桃騎士が勝利した場合、序列の変動はなし。
 黒騎士が勝利した場合、序列の入替が行われる。
 両者、異論は?」
「……ない、です。」
「……ありません。」
「了解した。では。」
グレイスさんが試合開始を宣言する。
「入替戦、決闘、開始!!」

即座に距離を詰めて来たのは瑪瑙。
既に一刀は抜かれている。
瑪瑙の武器は刀。それも二刀流。
右を先に抜いたという事は右利き、か?
先日暴れていた男の腕を落としたのも確か右だった。
とはいえ決めつけは出来ない。
そもそも二刀流なら利き手でない側も相応の腕であるのが定石。
だが私の武器、フルモーニングスターなら両刀を防ぐ事が出来る。
この武器は手懐けるのは大変だが、使いこなせれば四方からの攻撃を防ぐ事が出来る。
昔はハンマー系の武器を扱っていたがあれは駄目だ。隙が大きすぎる。
あれを1回振ってる間にあの女なら4、5発は余裕で入れて来る。
そう、"予想”していたから。

瑪瑙の先制の連続攻撃。
やはり速い。
グレイスさんの一撃を受けた時の佇まい。
先日のあの男の腕を落とした時から考えても、瑪瑙の動きが私より速いことは明確。
だがそれは正直予想していた。
一撃目をかわし、二撃目を武器で受け止め、三撃目が放たれる前に。
「……っっ!?」
瑪瑙の右からモーニングスターの鉄球が襲い掛かる。
この武器の優れたところは攻撃と防御を同時に兼ねることだ。
もちろん私の技量あってこそ、ではあるが。
実際ここまで扱えるようになるには相当の苦労を要した。
攻撃をくらった瑪瑙は私から一度距離を取る。
が、当然そんな休息はさせない。
向こうが怯んでいる間に畳み掛ける。

「ほほう。
 あの新人ちゃん、速いな。」
赤騎士アーカイドは感心したように零した。
「もしかしたらお前より速いんじゃないか?グレイス。」
「心にもない事を言うんじゃねぇ。」
「技量、動き、速さ……
 あの歳であることを考えれば間違いなく有望株、ですね。
 正直な事を言えば……」
「音羽の数倍はそっちの才能があるな。」
白騎士ユグドが濁した言葉を、零騎士グレイスはあっさり言い放った。
「えぇぇ、音羽への擁護はないのかい?三騎士様は?」
「誤魔化しても仕方ねぇだろ、幸玄さん。
 それに音羽自身、薄々は分かってるだろ。」
「うーん、そうなのかなぁ。
 叔父としては姪に勝って欲しいんだけど……」
「ただこの決闘の勝敗って意味なら分からねぇけどな。
 現に音羽が推している。」
「おそらくあの手の武器との交戦経験がない、もしくは少ない、といったところですね。
 数年後ならさておき今回は……」
「え?え?音羽が勝てるの?どうなの?」
「勝っては困るのだ!あのようなふざけた子供が!
 さっさと勝負を決めろ、桃騎士音羽ぁ!!」
そんなナイツによる勝敗予想がされている中。
「フフフフ。そろそろ温まって来た頃かナ?
 どうするノ?
 そのままじゃ勝てないヨ。」
新連盟マーティン・ハイケルは一人愉快そうに決闘を眺めていた。

私はモーニングスターを巧みに操りながら、瑪瑙からの攻撃を防ぎ続ける。
確かに瑪瑙の動きは私より速い。
が、この程度の速さならまだ対処は出来る。
速いといってもあの女やグレイスさん、先代黄騎士程ではない。
それに私はこれでも、あの闘争の悪魔と対峙した事があるのだ。
戦いにはまったくならなかったが、あの意味不明な速さだけは体感することが出来た。
そんな化物連中に比べればこの程度……
「屁でも、ないっっ!!」
ついに私の鉄球が瑪瑙の刀を弾く。
勝負ありだ。
……この女が二刀流でなかったら、だが。
だがこの女はずっと右の刀だけで攻撃を仕掛けている。
実は二刀流は扱えないのか?左の刀は単なる飾りか?
いやそんな筈はない。
グレイスさんの一撃を防いだ時、確かにこいつは二刀を使用した。
「……問題、ない……問題、ない……」
ブツブツ一人で呟いている。
闘気は収まっていない。油断はまだ出来ない。
どうにも不気味だ、この娘は。
「……だって、ボクは……」
左の刀を抜く。
やはり扱え……
「……の、無念を、晴らすんだから……」
「……?」
左の刀が急に光り出す。
聖魔法でも撃つ気なのだろうか?
だが魔法の詠唱など騎士同士の戦いで出来る訳がない。
魔法で先手は取れない。
「……いや、違う。」
本当に刀が光っている。
その光は黒。
あの光、どこかで見たような……?

「……っっ!?
 しまったっ!!」
そんな事に気を取られてはいけない。
この娘は私より速いのだ。
ならば。
まだ最速でなかったと考えるべきだったのだ。
「……取った……」
「……っっ!?」
その左の刀は私の首元に突きつけられていた。
光っていて見えなかった?
まさか。そんな低次元の話ではない。
刀"自体”が速くなった。
瑪瑙の速さと合わせ、その不可解現象に私の動きがついていけなかった。
理屈の程は分からない。
分からない、が。
「……くっ……」
人間は首を斬られれば死ぬ。
すなわち。
「……勝負ありだ。」
勝敗が決した。
「勝者は黒騎士瑪瑙!
 よって黒騎士瑪瑙が序列6位!
 桃騎士音羽が序列12位に入れ替わる!」
グレイスさんが宣言する。
「ば、馬鹿なぁぁぁぁっっ!!?」
ホモオレンジが崩れ落ちる。
「え、えぇ?
 なんなの今の?あんなのズルじゃないの?」
幸玄叔父様が文句を垂れる。
「成程ネ。
 オーケーおーけー。フフフフフ。」
マーティン・ハイケルは何がそんなに楽しいのか知らないが。
だが勝負は勝負。結果は結果。
この結果を受け入れられない程、私は子供ではない。
涙など出る訳はない。
そう。

"涙すら"、出なかった。


あぁ、私の5年間は何だったのだろうか。

年下の小娘に、あっさり超えられていく。

圧倒的、才能の、差。

あの女の時と、何も、変わらない。

でも……

「……問題、ない……」

なんで勝った側のお前が。

「……果たす、必ず、はたす……」

そんなに苦しそうにしているのか。

不可解で仕方がなかった。


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