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5話 連盟の思惑



「それで、お前から見てどう思う?」
「イエイエ、それはモウ。
 愉しい時間でシタ。」
「それは良かった。
 それで、どう見る?」
「ヤハリ、我々の睨んだ通りでスネ。
 見込みあり、と見ていいカト。」
「成程。
 ならばこの件は引き続きお前に任せよう。
 マーティン・ハイケル。」
「ハイ、それはもう。
 連盟筆頭サマ。」

「………」
私はマーティン・ハイケルが退出するのを訝しながら見ていた。
5年前は国の運営にも携わっていなかった、元民族学者。
「不満かな?」
「……そうですね。
 胡散臭い、のは事実ですし。」
私は現連盟筆頭、砂上楼閣と向き合う。
「皮肉だな。
 5年前は私が君に詰問されていたというのにね、古都。」
「失礼ながらいつの話をされているのでしょうか?」
「はは、すまない。
 だが東方の情報は私も殆ど握っていないからね。
 彼に任せるのが適切ではないかな?」
「あの手の輪を乱すタイプは旧連盟の妖娼婦のようなものでしょう。
 筆頭が彼を連盟に迎え入れたのは今でも不思議に思っています。」
「そうかな?
 妖娼婦は実質政治に参加していなかっただろう。
 だが彼は違う。」
「……しかし。」
「不安なら君もナイツのいずれかに、”彼女”の調査を依頼すれば良いのではないかな?」
「……”君も”、ですか。」
「あぁ、”君も”、だ。」
そうは言うが、ナイツとはあまり親しくない。
まさか零騎士グレイスに依頼する訳にもいかない。
しかしそうなると……


「はぁい、お元気ですかぁ、音羽せんぱぁい♪」
「………」
相変わらずこの馬鹿紫、チルッチルは派手な装飾だ。
アーカイドさんもそうだが、肌出しの鎧に意味はあるのだろうか。
「あれぇ?
 序列10位の私に挨拶もないんですかぁ、”元”せんぱぁい。
 序列最下位のせんぱぁい。」
「……喧嘩でも売ってるんですか、チルッチル。
 それなら入替戦で……」
「えぇ、入替せぇん?
 10位の私が12位の音羽先輩の挑戦を受ける義務って、
 ないんじゃなかったでしたっけぇ?」
「………」
チルッチルの言う通り、12位の私の挑戦を拒めないのは11位の黄色のみ。
そのうえ、入替戦に敗北した者は1ヶ月入替戦を挑むことが出来ない決まりだ。
つまり1ヶ月の間、私はナイツ最下位の烙印を押される事になる。
「……失礼します。」
私はチルッチルの横を通り過ぎようとする。
「……勝手に行こうとすんな。
 まだ話は終わってないだろ。」
チルッチルに肩を掴まれる。
ドスの効いた声。
こっちが素なのだろう。
「ずーっと小生意気だと思ってたけど、もうそんな口も叩けないだろ?
 今は私の方が上なんだからさ。
 目上の人間の言うことをちゃんと聞けっての。
 零騎士様の決めた序列ルールでしょ、ナイツの桃騎士さまぁ。」
「………」
序列は序列。
負けは負け。
けど私はこの阿呆に負けた訳じゃない。
今でもこいつに負ける気はまったくしない。
……なのに、どうして。
「よっ。
 女同士で何やら愉しそうだな。」
そこに通りかかったのは青い鎧の騎士。
「……あ。
 エ、エクス様ぁ♪
 そうなんですよぉ、私達こんなに仲良しなんですぅ♪」
チルッチルはわざとらしくにこやかな顔をエクスさんに向ける。
「ほー。それは何よりだな。
 で、悪いんだけどちょっと桃騎士を借りていいか?」
「……え?」
「あ、もちろんでぇす。
 序列5位の青騎士エクス様の頼みですものぉ♪」
「そうか、ありがとな。
 じゃあちょっくら借りてくな。」
「ちょ、ちょっとっ!?」
エクスさんは私の抗議も無視し、私の手を引っ張っていった。

広場にまでやってくる。
「……どういうつもりですか?」
「どういうつもりはねぇだろ。
 助けてやったっていうのによ。」
エクスさんは呆れ気味に応える。
「……そう、ですね。」
私の様子を見て、エクスさんはわざとらしく笑った。
「ったく、少しはお子様から卒業したと思いきや。
 まだまだおしめの取れないがきんちょのままか?」
「……そう、かもしれません。」
「……っと。」
さすがにおどけるのは無理と考えたのか、今度は真面目に。
「そこまで落ち込むこともねぇだろ。
 ……てのも難しいかもしれねぇが。
 1ヶ月の猶予が終わればお前ならすぐ上に戻れるだろ。
 それまでの間、また鍛え直せばいいだけじゃねぇか。」
慰められている。
下手な慰めだ。
本当に昔は女にモテてたのかと問いたくなる。
……けれど慰められるのはさすがに屈辱だ。
「……べ、別にっ。
 そんな事は分かってますよ。
 すぐに6連勝して序列を取り戻して見せます。」
「おう。その意気だ。」
ニシシと笑われる。
……なんだか面白くない。
「ま、それはさておき、仕事の話だ。」
「……仕事?
 今度はどんな色のドラゴンですか?」
「冒険者組合の方じゃねぇ。
 お上からだよ。」
……上。
貴族制度は今では見直されているため、私達の上となると一つしかない。
「……どういう事ですか?
 そういうのはグレイスさんを通して来るはずじゃ。」
「要は秘密裏ってことだろ。
 ……あんま此処で長話するのもまずいぜ。」
「……えぇ。」
連盟からの依頼。

「久々ですね、音羽さん。」
雨宮古都。
かつてあの女のパーティーにいた人間の一人。
無論、国からの命でいたとは思うが。
この根暗女はどういう訳か連盟の一人になっている。
エキドナと違い、5年経っても特に姿形に変化は見られない。
それはそれで妙な話だ。
あの女の関係者はつくづく変な奴らしかいない。
「……幸玄叔父様?」
「やぁ、音羽。
 元気そうで何よりだよ。」
「……ナイツを3人も秘密裏に呼んで、
 どういうつもりですか?」
秘密裏にしてはナイツを呼び過ぎだ。
いくら連盟だといっても暴挙ではないのだろうか?
「深い意味はありません。
 灰騎士幸玄は貴方と仲が良いと思いましたので、
 まぁ、疑う必要もないかな、と。」
「疑う?」
妙な言い方だ。
「それで用件ってのは何なんだい、古都さん。
 まさか俺とデートって訳でもねぇだろ。」
エクスさんが茶化す。
その手の冗談に乗る女でもないでしょうに。
案の定、雨宮古都は無視して話を始める。
「音羽さん。
 直接戦った貴方に聞くのが一番です。」
「……?」
「黒騎士瑪瑙の印象を聞かせてください。」
……瑪瑙。
エクスさんが苦笑する。
まぁそれはそうだろう。
つい先日あの小娘に負けた私に何の配慮もせず聞くあたり、この女は相変わらずのようだ。
ただそれはそれ。
ナイツとしてこの場に呼ばれている以上、ちゃんと答えなければいけない。
「……印象、ですか。」
礼儀知らずとか、根暗とか、いろいろあるが。
一言であの小娘の印象を答えろと言われたら。
「危うい、でしょうか……」
それが一番適切な回答のように思えた。
確かにあの小娘は強い。
今時点での年齢を考えれば、その才覚は私やエクスさんの比ではない、だろう。
だがそんな才覚とは対照的に。
「自らの使命に、憑りつかれてる、というか。
 最初に会った時は、たしか……」

「……似非英雄、共。」

そう。
そんな言葉を確かに放ったのだ。
私達ナイツを憎んでいる、とでもいうのだろうか?
だがそれなら似非英雄という言葉は適切なのだろうか。
「……成程、分かりました。
 参考にしておきます。」
何の参考だか。
「……一体どういう事ですか?
 まさかと思いますがあの小娘は矛盾曲一派の残党とか?」
「………」
雨宮古都は何も答えない。
その代わりに「そういえば」という言葉から違う話を始める。
「未来永劫の元リーダー、未踏。
 知っていますか?」
「……は?未踏?」
予想外の名前が出た。
その名前を聞いて一番に反応したのはエクスさんだった。
「……あぁ、そりゃもちろん知っているさ。」
エクスさんが苦虫をかみ潰したような顔をする。
過去に未踏と何かあったのだろうか?
「彼は5年前の退廃の悪魔との戦いで行方不明。
 未だその消息は掴めていません。」
いったい何の話だ?
「私は密かに彼の情報を探っていました。
 彼は東方で生まれ、このイムヌスにやって来ました。
 東方にいた頃から冒険者として類まれな才能を持っていたようです。」
「……東方。
 古都様、まさかここでその話をするという事は……」
幸玄叔父様は何かに気づいたようだ。

「瑪瑙と名乗ったあの少女は、未踏の娘です。」


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