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6話 未踏という男
「……父様。」
あたしは憧れの人の名前を呼ぶ。
「お、ようやく少し元気が出て来たようだな。
とはいえこの薬じゃ完治とまではいかないか。」
「……はい、未踏様。
やはりロストライフでなければ……」
「……そうだな。
とはいえあの薬は……」
父様は黒鉄と真面目な話を始めてしまった。
あたしは少し寂しくなる。
どうしてこの身はこうも窮屈なのだろうか。
父様はこんなに強い人なのに、どうして……
少し冷えてきただろうか。
こんなにも活気に溢れている国だというのに、酷く寒気を感じる。
そう。いつもと同じように。
「おとうさーん!待ってよー!」
「なぁに心配するな。
父さんはいつでも此処にいるからな。」
家族ぐるみの人も多い。
何かお祭りでもあるのだろうか。
……いいや、違う。
またナイツ・オブ・グローリアの凱旋で人が集まっているようだ。
ある意味、お祭りのようなものだ。
「……似非、英雄……」
ボクは小声でその言葉を呟く。
その言葉は誰にも届く事はない。
「……瑪瑙様。」
……そうでもなかった。
全身黒鎧の黒鉄がボクの様子を伺うように沈黙する。
ボクは現実に引き戻された。
「……似非英雄たちを、超えるまであと5人。
桃騎士が挑戦を受けてくれたおかげで、楽が出来た。」
「……ですが、よくありません。
死力(しりょく)まで使ってしまっては。」
「少し、焦っただけ……
問題は、ない……」
嘘だ。問題しかない。
桃騎士は序列6位。まだ上に5人もいる。
序列入替戦は勝者は連続で挑むことが許されてるようだが、
こんなペースで5回も戦えばボクの方が危険だ。
6位程度でこの力を使ってしまったのは、正直よろしくない。
……だが。
「……要は決闘が成立すればいいだけ。
12位なのに6位が応じたことを考えれば、他の人たちも多分同じ。
英雄を、気取っているから、きっと成立する。」
……早い話が、そう。
ナイツ序列1位。
零騎士グレイスにさえ、勝てばいい。
「父様の無念は……」
ボクは歯ぎしりする。
「ボクが、必ず晴らす……」
「……おいおい古都さん、どんな冗談だそれは?」
エクスさんが呆れたように言う。
かつて最強の冒険者パーティーと呼ばれていた未来永劫。
そのリーダーが未踏だ。
だがその未来永劫も今では2人しかいない。
その二人も、今はそれぞれ別の冒険者とパーティーを組んでいるらしく、未来永劫は解散したと言っていいだろう。
「もちろん未踏と瑪瑙の年齢差を考えれば本当の娘ではない可能性は高いでしょう。
ですが東方を調査中の緑騎士からの情報です。
信憑性は高いでしょう。」
「りょ、緑騎士!?
そんなことしてたんですか?」
初耳だ。
何か独自任務をこなしてるのではとナイツの間でも噂になっていたが。
当然グレイスさんやユグドさんは知っていたんだろう。
「……けど古都様。
なんで東方なんかを調査してたんですか?
まさか今更、過去の連盟について調査してる訳でもないでしょう。」
幸玄叔父様が雨宮古都に尋ねる。
過去の連盟というのは5年前に闘争の悪魔との戦いで死んだ双剣鬼・巡剣座郎のことだ。
奴は東方の出身だったという。
「もちろん双剣鬼とは関係ありません。
……あぁいえ、まったく関係ないという事もないのですが。
ただ東方はいま魔物の勢力が増しています。
元々はその調査が目的だったのですが、いろいろときな臭い話が出て来たもので。」
「……きな臭い話?」
闘争の悪魔が復活するというだけでも手に余っているというのに。
雨宮古都は「失礼、話が飛びました」とわざとらしくその話を端折る。
「そんな折にその東方からやって来た、
年齢の割にやたら強い娘と、謎の黒鎧。
これを怪しまない訳はないでしょう。
ただでさえその手の類はあの人のせいで上層部が警戒しているので。」
あの人。
言うまでもなく、あの天然ふんどし女だ。
ていうかお前もその上層部でしょうが。
「……だったらなんでそんな怪しい娘を、
グレイスさんはナイツに入れたのですか?
どうせあの時から知っていたんでしょう?」
案の定「えぇ、零騎士には情報共有してました」とぬけぬけと言う。
「内に入れてしまった方が情報は得やすいですし、
それに丁度近い年齢の方がナイツにいたものですから。」
要するに私は面倒を押し付けられたらしい。
どいつもこいつも。
若干苛立ちつつも話を続ける。
「要するにあの小娘を私に見張れと、そういうことですか?」
「えぇ。そのために青騎士と灰騎士にも協力を頼みました。
貴方一人ではいざというとき抑えきれないかもしれませんので。」
嫌味か。
「……とはいっても、今の私は序列12位ですよ。
あの娘に言うことを聞かせられない立場になってしまったんですが。」
「その辺りはなんとかやってください。」
おい。
「なぁに安心しろって。
いざとなったら俺が言い聞かせておくからさ。」
序列的には確かにそれは可能なのだが。
「……ですが気をつけてください、エクスさん。
瑪瑙はどうも妙な力を使うようですし、私に入替戦を挑んだ以上、次は……」
「そりゃそうかもだが、なぁに安心しろ。
このエクス様が男って奴を見せてやるさ。」
エクスさんは自信ありげだ。
当たり前だがエクスさんも5年前とは段違いに強くなっている。
私との戦いにおいてもあの妙な力を使われるまでは私の方が推していた。
勿論そういう演技をしていた可能性はゼロではないが、瑪瑙にそんな余裕があったようには思えない。
順当に考えればエクスさんが勝つだろう。そうは思うのだが……
その時、トゥルルルルと魔法電話の音が鳴る。
雨宮古都への通信のようだ。
私達もこれ以上ここにいる必要はないだろう。
瑪瑙の件について、エクスさんや幸玄叔父様とも今後の段取りを考えて……
「……なんですって?」
雨宮古都が少し驚いたような顔をした、気がした。(こいつもあの女同様、無表情組なので分かりにくい)
雨宮古都は魔法電話を切った後……
「……黒騎士瑪瑙と、零騎士グレイスの序列入替戦が成立したようです。」
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