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8話 音羽と瑪瑙
「……父様?」
あたしは憧れの人の名前を不安そうに呼ぶ。
父様の姿が遠くに映る。
「……父様っっ!?」
遠く離れていく姿を追う。
あたしは走る。
でも父様はどんどん離れていく。
どれだけ走っても追いつく事が出来ない。
「ま、待ってください!
父様っ!
瑪瑙を置いて、いかないで、くださいっ!!」
あたしは縋るように手を伸ばす。
その手は父様に届いた。
その温もりにあたしは安堵し……
「……違う。」
「……殺しなさい。」
「……英雄を殺せ。」
「っっっ!?」
ボクは青ざめた顔で目覚める。
そこに父様はいない。
もうずっといない。
此処は上層の宿舎とかいう場所だ。
「……嫌な、夢。」
ボクの身体に何か黒い影みたいなものが纏わりついて……
……いいや、夢の内容なんてどうでもいい。
どうでもいいんだ。
「……瑪瑙様。」
黒鉄が心配そうにボクの名前を呼ぶ。
「……問題、ない。」
いつもの返事。
「……いいえ、そうはいきませぬ。
前回、瑪瑙様は死力を使い過ぎました。
少しお休みされるべきかと。」
「……そうは、言っていられない……」
とはいっても敗北すると、しばらく入替戦は挑めないんだっけ?
どのみちもう一度挑んだところで結果は同じだろう。
「……瑪瑙様。
やはり、これ以上は……」
「……でも、それでも……」
ボクは父様の無念を晴らすことが……
宿舎の外に出る。
なんだかナイツの集まりがあった気がするが、行きたくない。
行けば零騎士の姿を嫌でも見る事になる。
「……忘れたことにしよう。」
後で怒られるとは思うが、それでも今は行きたくない。
相変わらず此処は賑やかな町だ。
東方とはまったく違う。
あそこは気がつけば鬼が沸いて人々を喰らうのだ。
父様がいた頃は鬼なんて物の数じゃなかったけど。
でもこの町は強い騎士が沢山いる。
それこそ魔物なんて物の数ではないのだろう。
「あ、お姉ちゃん!」
「……え?」
小さな子供がボクの前にいた。
「この間はありがとうっ!」
「……?」
……あぁ、思い出した。
この間、変なのに絡まれてた子だ。
でも、どうして?
「……瑪瑙様。」
黒鉄が何か言いたそうにボクの名前を呼ぶ。
ちょっと意味が分からない。
………
………………あ、そうか。
ボクは子供に背を合わせる。
「どういたしまして。
次からは気をつけるんだよ。」
「はーい!!」
その子は嬉しそうに母親の元に駆けていった。
あんまり気をつけてはくれなそうだ。
「そういう顔も出来るんじゃないですか。」
違う方向から声が聞こえた。
「あ……ボクに負けた人……」
「……相変わらずご挨拶ですね。
まぁ、いいです。」
負けたのは事実じゃないか。
……まぁ、ボクも、負けたけど。
「それで瑪瑙。
貴方はこんなところで何してるんですか。
今日はグレイスさんに呼ばれていること、忘れたんですか?」
どうやらボクを探しに来たらしい。
ボクはあからさまに目を逸らす。
「……はぁ、強くても所詮はお子様ですね。
私達ナイツは入替戦をするためにいるのではないんですよ。
常に国の人々の模範となる騎士でなければならないんです。
その義務を怠っていればいくら強くても、ナイツをクビにされますよ。」
音羽先輩のお説教が始まる。
12位のくせに。
「どうせグレイスさんに負けたことで拗ねているんでしょうが。
まぁこれで少しは程度というものが分かったでしょう。
私も貴方もまだまだ未熟ということです。」
「……同じに、しないでください……」
……未熟。
確かに父様に比べればボクはまだまだ未熟だ。
あの零騎士は父様に匹敵する位、強いと思う。
今のボクでは勝てない。
この力を使っても、なお……
「……はぁ。」
音羽先輩は溜息をついて近くのベンチに座る。
店主ー、お団子2人分ー、と頼んで。
「このお団子ってやつ、東方から輸入した食べ物みたいですね。」
餡子だ。
美味しそう。
ボクのお腹が鳴る。
「……っっ!?」
真っ赤になる。
それでもお腹は空く。
「今日は特別にこの桃騎士音羽が奢ってあげましょう。
光栄に思ってください。」
「……うぅ……」
なんで負けた癖にこんな偉そうなんだと思いつつ、食欲には勝てなかった。
そもそもこの人はボクを呼びに来たんじゃないのだろうか。
「……そちらの黒い鎧の人。
貴方が黒鉄、さんでいいんでしょうか?」
「……はい、桃騎士様。
私は未踏様、いいえ今は瑪瑙様の執事。
黒鉄と申します。」
「……ちょ、黒鉄!
それは言っちゃ駄目だって!?」
父様の事は秘密だと!
「別に貴方が未踏の関係者って事くらいもうとっくに知ってますから、
今更隠す事なんてないですよ。」
「……え!?」
……ボクは誰にも父様の事を喋ってはいないのに。
となるともしかして黒鉄が漏らして。
「イムヌスを甘く見ないで欲しいですね。
東方のような田舎とは違うんです。」
「……うぅ、偉そうに……」
別に音羽先輩が掴んだ情報、という訳でもないだろう。
でもお団子は美味しかった。
……団子、団子三兄弟……
「貴方が東方からイムヌスでのし上がろうとしてるのか、
それとも騎士が嫌いなのかは知りませんが。」
音羽先輩がキリっとボクの方を指さす。
……口元に、まだ餡子がついてる。
「今の貴方はナイツオブグローリアの序列6位・黒騎士瑪瑙。
人々を守る騎士なのですから。
さっきみたいに人々を安心させなければならないんです。」
……餡子のせいでカッコがついていない。
「まぁ、6位の座はすぐに私が奪い返しますが。
それまでの間はちゃんと序列6位の騎士としての威厳を……」
……この人の無駄な自信はどこからやって来るんだろうか。
でも、そう。
あの頃もこんな自信があれば、もしかしたら……
「……おい。
桃騎士音羽。」
オレンジの人がやって来た。
「なんで迎えに行ったお前まで、一緒になって団子を食べている!
揃いも揃って零騎士様のお言葉をなんだと……!」
「あーもう、うるさいですね。
せっかく私が先輩としていいことを言っていたのに。」
……なんだか喧嘩が始まった。
人々の見本がこんなのでいいのだろうか?
「……まぁ、仕方ないですね。
瑪瑙、いい加減来る気にはなりましたか?」
「……あ、はい……」
来る気になったというか、なんか馬鹿らしくなったというか。
「……瑪瑙様。
国に仕える以上、お仕事はこなさなければなりません。」
黒鉄にまで説教される。
正論過ぎて何も言い返す言葉がない。
「わ、分かってるってば……」
……先ほどは何も言わなかったが、やはり心配に思っていたらしい。
黒鉄の気遣いに感謝する。
「ようやく来たか。」
待っていたのは零騎士グレイスだった。
「ははっ!
申し訳ありません、零騎士様っ!!
この橙騎士アカシャ!このような不手際、何卒……」
「はいはい。
それよりも、瑪瑙。」
「は、はいっ!?」
ボクは怖気づく。
「無事、任務には出れそうか?」
「……あ、はい。
た、たぶん……」
「そうか。ならいい。」
「……え?あ、あれ……?」
叱責されると思っていたのでポカンとする。
「さて早速だが、仕事だ。
青騎士、黒騎士、橙騎士、桃騎士。
お前ら4人には東方に向かって欲しい。」
「……え?」
……何故、東方に?
まさか八岐大蛇が復活した、訳ではないと思うけど。
「向こうに言ってリードレイトさんと合流しろ。
仕事の内容はそっちでリードレイトさんが共有してくれる筈だ。」
……緑騎士、だったかな?
「何かあったのか?グレイス。」
青い騎士が零騎士に聞く。
「さぁな。少々厄介な事になってるらしい。
人手が欲しいってことだ。
それに瑪瑙、お前は東方には詳しいだろ?
少なくとも俺たちよりは。」
「……そ、それは、はい、そうです……」
ボクは畏まってしまう。
「ほら、いつまでボサっとしてるんですか。
さっさと向かいますよ。
道案内をしてください。」
音羽先輩は相変らず偉そうだ。
「おいおい。
今のお前は12位じゃねーか。
この勇者エクス様の言うことにみんな従えよー。」
「よ、余計な事を言わないでください!
あと勇者はもう返上したんじゃないんですか!」
「さて、返上したつもりはねぇな。」
「零騎士様直々の任務。
必ずや成功させなければ……っ!」
……うるさい人たちだな。
ボクはもっと静かな方が好きなのに。
……でも、悪い人たちではないんだろう、きっと。
だったらボクは誰に対して憤ればいいのだろうか。
父様を奪ったのは英雄と呼ばれた騎士たちだ。
騎士さえいなければ、本当に英雄だったのは父様。
そう、考えていた。
……でも。
それは、どうして?
頭が、ズキズキする。
その痛みが何なのか、ボクには分からなかった。
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