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9話 東方へ



「……ゲェゲェゲェゲェ。」
形容し難い肉の塊が、耳障りな音を上げる。
「ギヒ、ギヒヒヒヒヒヒヒッ!」
その音は一つではなく。
「ゲラ、ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
無数の肉の塊たちが、そこには徘徊していた。
その周りにはかつて人であったと思われるもの達が無造作に投げ捨てられていた。
肉の塊たちはそれらに飛び掛かる。
なにか足りないものを求めるかのごとく。


「此処が、東方、ですか。」
私達ナイツ4人はかつての双剣鬼の部屋にあったルームメイターを潜り、東方へと到着していた。
さぞイムヌスに比べるとひどい田舎なんだろうなぁと思いつつ。
しかし瑪瑙の面目のために多少はその発言は控えてやろうかと考えていたが。
「な、なんだこれは!?」
ホモオレンジが驚愕する。
目の前にあるのは死体、死体、死体。
そしてその死体に群がるのは。
「……うっ、く、な、なんで……?」
瑪瑙は青ざめている。
こいつにとって此処は故郷なのだろう。
そう考えれば無理はないが。
「……構えなさい。」
だがそんな感傷に浸ってる場合ではなさそうだ。
その死体に群がるものは、異様な物体だった。
「ギ、ゲゲゲゲゲゲゲ……?」
「ゲ、ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」
正しくは、物体たち、とでもいうべきか。
「……来るぞ。
 全員、迎撃態勢!」
エクスさんが槍を構える。
その物体たち、ただただ気持ち悪い肉の塊たち。
それらが一斉に私達に向かって飛びかかる。
「地層波動!!」
大地に武器を叩きつけ、肉塊どもはその衝撃で吹き飛ぶ。
戦闘開始だ。
「マッハラッシュ!」
エクスさんが先制して攻勢に出る。
肉塊たちはあっさりと切り裂かれる。
だが。
「はっ!
 ちょっとやそっとじゃ死なねぇってか!」
8分割はされたであろう肉塊たちは、そんな事は意にも介さず、逆に動きやすくなったとばかりに。
「ゲラゲラゲラゲラ!!」
更に細かな肉塊となり、しつこく襲い掛かる。
「アカシャ!そちらは頼んだ!」
「言われるまでもない!獄炎斬っ!」
アカシャの大剣から炎が舞う。
またも肉塊たちは複数の肉塊に分割される。
だが奴らはまったく意に介さず活動を続ける。
「……気持ち悪い奴らです。
 瑪瑙、貴方ももっと動きなさい!」
先程からずっと青ざめている瑪瑙に発破をかける。
えぇい。この豆腐メンタルめ。
「一気に洗い流す!
 青騎士奥義・五月雨ノ慈雨!!」
エクスさんの奥義の一撃が、一気に肉塊どもを蹴散らす。
さすがにここまで細切れになれば活動できなくなるようだ。
とはいえ、こいつら数が多すぎる。
3人では少々分が悪い。
瑪瑙め。いつまで戦意喪失してるつもりか。
「カマイタチっ!!」
明後日の方向から無数の風の刃が肉塊たちを細切れに引き裂く。
その方向から現れたのは。
「リードレイトさんか!
 助かったぜ!」
「それはこっちの台詞だよ。
 だがまずは。」
「こいつらの殲滅が先ですっ!」
緑騎士リードレイトの参戦により、戦況はこちらに優位となった。

「……ふぅ。」
この場にいた肉塊たちは活動を停止したようだ。
到着早々激戦だ。
「助かったぜ、リードレイトさん。
 正直危ないところだった。」
「いやいや。
 先も言った通り、危ないのは私の方だったんだ。
 グレイスが気を利かせてくれたみたいだね。」
「……どういう意味ですか?」
リードレイトさん以外の人影は見あたらない。
東方には何人かの調査員がリードレイトさんと一緒に来ていたと聞いたが。
「……全滅、ということか。」
エクスさんが舌打ちする。
「……まぁ、そういうことだ。
 突然あの肉塊たちが沸いて来てね。
 あまりにも数が多すぎて孤立無援状態だったんだ。」
「それで連絡がないのを怪しみ、
 零騎士様が我々を送ったという事か。
 さすがは零騎士様だっ!」
ホモオレンジは相変らずグレイスさんを称えているが、そんな事よりも。
私は殆ど役に立たなかった小娘の胸ぐらを掴む。
「……貴方は何をやっていたんですか、瑪瑙。
 入替戦の時の気迫はどこに行った!?」
「……ぅ……」
瑪瑙は目を逸らそうとするが無理矢理、顔を向けさせる。
平時で落ち込むのは勝手だが、ここはもはや戦地だ。
ナイツが戦意喪失などあってはならない。
「まぁそう攻めるな音羽。
 新人によくある失敗だろ?」
「……新人といっても肩書きは6位ですけどね。」
私は皮肉げに言うが、いつまでも攻めても仕方ない。
「……そちらが、例の?」
そういえばリードレイトさんは初対面か。
「おう。新人の嬢ちゃんだぜ。
 音羽を破って6位に君臨中だ。」
「入替戦でいくら強くても、
 実践でこのザマでは意味がないだろうが!」
ホモオレンジも激昂している。
「まぁまぁ。
 喧嘩はイムヌスに戻ってからにしよう。
 いろいろと報告したい事もあるからね。」
確かにこの場所だと、いつあの肉塊どもが沸いて来るか分からない。
残念ながら、瑪瑙の故郷案内という状況ではなくなってしまった。
肝心の瑪瑙は未だ伏せている。
きっと顔馴染みの人たちが沢山いたのだろう。
それは分かるし、ショックが大きいのも理解は出来る。
だが私達は市民ではない。ナイツなのだ。
立ち止まってはいられないのだ。
たとえ仲間が散ったとしても、だ。
「……戻りますよ。」
「………」
序列がどうであれ、私は瑪瑙の教育係を任されている。
私はナイツの先輩として何を教える事が出来るのだろうか。


「あーあ。
 せっかくの肉塊くん達、だいぶ数が減っちゃったなぁ。」
幼い少年の声か、それとも少女の声か。
ソレは人型と肉塊を混ぜ合わせたかのような奇怪なオブジェ。
ソレは今度は聞き取りにくい声で。
「ゲ、ゲェゲェゲェ。
 つ、使えねェェ。ゴミ、カス共、がァ……」
「そうしょげるなよ。
 まだまだお愉しみはこれからじゃないか。」
二つの声が、音が、同じモノから発される。
そしてその場には他にも人影があった。
「その通りでス、我等が神ヨ。
 遊びの舞台の準備は整えておりマス。」
その場にいたのは、新連盟マーティン・ハイケルだった。
彼はひれ伏すようにソレに首を垂れる。
「上出来だ。
 さて、英雄の物語の外伝。
 モブ騎士共の外伝。」
奇怪なオブジェは、愉悦の表情で。
「存分に愉しませてもらうよ。
 この遊ぶ者プレイがね。」
「グ、グェグェグェグェグェ。
 どうでもいいから、もっと喰わせろォォォォォ!」
ソレを愉悦と表現できるかは、分からないが。
「では、そろそろ、デスカ?」
「あぁ、種明かしの時間だ。
 この時こそが、一番楽しい時間なんだからね。
 受け入れられない真実を、モブ共に教えるその時が。
 希望と見えたものが、絶望であったことを知るその瞬間の情けない顔が。
 く、けひゃ、きひ、あははははははははははははははははははははは!!」


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