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10話 迫る肉塊達



東方から戻って来てから5日程が経過した。
未だにあの謎の肉塊の出現について、原因は判明していないらしい。
「……ですが東方の人々は、
 リードレイトさんが先んじて逃がしてくれていたようです。
 もちろん全員、とはいかないでしょうが。」
「………」
慰め、という訳ではない。
単に上から来た情報を瑪瑙に教えてあげているだけだ。
序列的にはこいつは情報を得る事が出来る筈なのだが、その辺りの段取りがまだ分かっていないのだろう。
いくら強くてもこれじゃなぁ。
あの入替戦以外にも序列を入れ替える方法はあった方がいいのではないかと思う。
「生き残った人々はイムヌスへの移住が決定しました。
 まぁ、良かったんじゃないですか。」
「………」
聞いてるのか聞いてないのか。
いやまぁ聞いてはいるのだろうが、せめて何か反応しろ、反応。
以前みたいに嫌味の一つくらい飛ばしてくれた方がまだ気が楽だ。
「あーもう!めんどくさいですね!
 最初の頃の威勢はどこに行ったんだか!」
「……音羽先輩。」
「お?」
ようやく口を開いた。
さすがに任務中はまともに戦うようにはなったが、平時だと口を開かせるのも精一杯だ。
私の教育係の任はいつまで続くのだろうか。
「ありがとう、ございます……」
「……っ!?
 い、いや、私がした事ではない、ですよ。
 礼を言う相手が違います。」
……うぐぐ、どうにもやりにくい。
ほんと情緒不安定というか、危ういというか。
……いま聞くべきではないのかもしれないが。
「……似非英雄ってどういう意味ですか?
 なんであんなこと言ったんですか。」
軽い感じで聞いてみた。
優しい先輩が軽い話題を振った感じ、の筈だ。
これなら快く話せるはず、だよね?
「………」
また黙った。
く、今のどこが悪かったというんだ。
もう少し脇の方から攻めよう。
「……そういえば瑪瑙の得物は刀ですよね。
 私の聞いた限り、未踏の得物は剣だったはず。
 となると誰に教わったんですか?」
未踏の話はエクスさんから聞いた。
なんでも昔、こてんぱんにやられたとか。
「……黒鉄に。」
黒鉄。あの黒鎧の執事だ。
最初は何者かと思ったが、実際に話してみると瑪瑙より遥かにまともだった。
というかうちの阿呆ナイツ共よりまともな気がする。
「あの人は未踏に仕えていた、とのことですが。
 だったら未踏がこの国に来た時、一緒に来そうなものですが。」
「……それは、ボクが……」
「……あぁ。」
娘を置いていけなかった、ということか?
そもそも未踏はどうしてイムヌスに来たんだ?
「……ボクは昔は、身体が弱かったので……
 父様はこの国に、ロストライフという秘薬を探しに行くって……」
「ロストライフ?」
聞いた事もない。
とはいえ、未踏が冒険者になったのはそのロストライフとやらを探すため?
黒鉄さんは瑪瑙のガード、ということか?
しかしそれなら何故?
「……身体が弱いのにナイツを志願したんですか?」
「昔の、話です……」
それだけ喋ってそっぽを向いてしまった。
昔は病弱だったけど、今は違う、ということか?
それとも入替戦で見せたあの黒い力が関係してるのか?
……なんていうか、どうにも話が繋がらない。
「………」
瑪瑙はまた塞ぎこんでいる。
……なんだろうか。どうにもあやふやなのだ。
情報は出そろっているように見える。
だがそれぞれの情報がまるで繋がらない。
瑪瑙が嘘をついているようにも、あまり思えない。
多分、そんな器用なタイプではないだろう、この小娘は。
まだ1週間程度の付き合いだが、そんな気がする。
「黒騎士様!桃騎士様!」
私達に声がかかる。
恰好からして諜報員のようだ。雨宮古都の部下あたりか?
「一大事です!
 直ちにナイツ全員、主天閣に集合とのことです!」

私は瑪瑙と共に主天閣のナイツ用の集合場所に赴いた。
既に他のナイツはリードレイトさん以外は集まっている。
グレイスさんが前に立ち、話し始める。
「東方で現れた肉塊どもがこの国に大挙して向かっているとの情報があった。」
「肉塊、ですかぁ?
 そんな魔物、いましたっけぇ?」
「東方で現れた魔物たちだ。
 俺たちも結構苦戦させられた。」
「な、なんと?
 青騎士様がいて、ですか?」
エクスさんの補足に、下位ナイツ達は驚いた顔をする。
そういえばあの肉塊、パンデモニウムでも少し戦った気がする。
「なんでこいつらが国に向かっているのかは分からないが、
 国に到達する前に全て撃退せよ、とのことだ。」
「……確かにあんなもの、イムヌスの領地に一歩たりとも入れてはいけませんね。」
「そうだ。
 一度奴らと交戦したエクス、アカシャ、音羽……
 の3人は隊を分けさせてもらう。
 主隊、補佐隊、予備隊の3隊に分かれ、それぞれ兵を率いてこの肉塊たちを殲滅する。」
……グレイスさんは瑪瑙の名前は出さなかった。
殆ど交戦しなかった、からだろう。
それ以外の理由もあるかもしれないが。

「それにしてもひっどいなぁ。
 序列最下位の音羽先輩が一緒なんてぇ。」
チルッチルが愚痴る。
「チルッチル殿。
 音羽先輩に対してその態度は失礼かと思います。」
「あら、なぁに言ってるのぉおめかし黄色君はぁ。
 今は私達の方が序列は上なのにっ♪」
「……序列が上でも実力は僕たちより音羽先輩の方が上です。
 現に零騎士様は音羽先輩をこの隊の隊長に任命された。」
「……っんと。訳分かんないったらないわね。」
チルッチルは機嫌が悪そうだが、文句を言いたいのは私の方だ。
よりによって仲の悪いこの阿呆紫と阿呆黄色が同じ隊だなんて。
しかも私にこの二人を率いろなどと。グレイスさんめ。
最近、私は問題児を押し付けられてばかりいないか?
「無駄口を叩いている場合ではありません。
 私達は予備隊とはいえ、常に万全に動けるよう……」
「予備、隊、かぁ。
 はぁぁ、なんだかやる気失くしちゃったー。」
「チルッチル殿!
 いい加減、ナイツとしての自覚を……っ!」
「なぁに、やる気?
 私より序列下のガキんちょが。」
……また始まった。
「……私達だけならまだしも、
 今回は兵達を率いる役割も期待されています。
 トップである私達が喧嘩などすれば兵からの信用を失います。
 二人とも、自覚してください。」
「は、はい!
 申し訳ありませんっ!」
黄色の方は畏まるが、こいつはこいつで兵士に微妙に舐められているんだよなぁ。
ドジが酷過ぎて。
どうやってこの二人をフォローしたらいいやら。
……しかし問題児の組み合わせといえば、瑪瑙とホモオレンジの方も大丈夫なのだろうか。
「……っ!?
 気配!?」
大きな影。
肉塊巨大版でも出て来るのか?
私達は武器を構えた。


「……いいか、黒騎士瑪瑙。
 この間のような失態は今度は許されないからな。」
「まぁまぁ、アカシャ君。
 彼女は初めての任務だったんだし、仕方ないじゃないか。」
……またオレンジの人と任務、か。
もう一人は音羽先輩の叔父さん、らしい。
名前は、灰騎士幸玄、だっけ?
「まぁ不満はあるだろうが、
 今日は叔父さんがこの隊の隊長に任命された。
 ちゃんと言うことを聞いてくれよー。」
「……まぁ、不満だな。
 貴方はこの中で序列が一番下だというのに、何故?」
……序列、というやつだとこの中だとボクが一番上なんだっけ。
一番上しか目指してなかったから誰が何番とか覚えてなかった。
兵を率いるとか、やりたくないからこれでいいんだけど。
「まぁまぁ、そう言わずに頼むよ。
 叔父さん達は補佐隊。
 主隊と足並みを揃えて動く。
 みんな、宜しく頼むよ。」
「……まぁ、仕方ない。
 零騎士様が決められたことだ。」
オレンジの人は納得したらしい。
そういえば音羽先輩はホモオレンジとか呼んでいた気がする。
だったらそう呼べばいいのかな?

ぐちゃり

何かが落ちる音がした。
それはボク達の後ろから。
「……っ!?」
ボクは即座にその場を離れる。
落ちたのは後ろの兵士の首だった。
これはいったい?
「……っっ!?
 この感覚、まさかお前たち、あの肉塊に……っ!」
オレンジの人も叔父さんも目の色を変える。
兵たちの何人かの首がぐちゃりと落ちる。
まるで溶けるかのように。
「っっ!?
 全員、離れてっっ!!」
ボクは叫び、左の刀を抜く。
この流れは、まずい。
首が落ちた兵はあの肉塊と同じものになってるのかもしれない。
となれば、一気に……

「そう怖い顔をしないでくれよ。
 せっかくサプライズを用意してあげたのにさ。」

その声は兵から発されていた。
正確には首がない兵”たち”が一斉に"同じ"声を発した。

「さぁ、遊びの時間だ。
 盛大に、滅茶苦茶に、無慈悲に、始めよう。」


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