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12話 黒鉄の真意
時は少し前に遡る。
「……え?黒鉄さん?」
「……このような時に失礼致します。
桃騎士音羽様。」
肉塊巨大版かと思ったら、黒鉄さんだった。
「……味方なの?」
「えぇ、瑪瑙と東方に来た人です。
瑪瑙よりかなりまともな人ですよ。」
「……お初にお目にかかります。
自分は黒鉄と申します。
紫騎士様。黄騎士様。」
「こ、これは挨拶が遅れました!
僕は黄騎士イエーロと申します!」
まともな人だと知ったからか、阿呆黄色が慌てて挨拶する。
阿呆紫の方は相変らずちわ〜とか適当な挨拶をしている。
だが今はそんな事を諫めている場合ではない。
「……しかし何故、此処に?
いまイムヌスを襲う敵が来ているところです。
黒鉄さんはすぐに離れてください。」
「……敵はどのような?」
「そ、それは機密事項で……」
「なぁんか変な肉塊なんだってぇ。
なんか気持ち悪い奴らみたいだし、
汚れそうで嫌なんだけどぉ。」
「チルッチル殿!また勝手に!」
また黄色と紫が言い合いをしている。
言い分は黄色の方が正しいが、今は余計な喧嘩をしてる場合ではない。
……ていうかこいつらすぐに話を脱線させるな。
昔も吸血鬼の阿呆娘がよく話を脱線させてた気がするなぁ。
そういえばあの吸血鬼はあれから姿を見てないけど、実家にでも帰ったのだろうか。
……だからそんな事は今はどうでもいいんだってば。
「とにかく此処は危険です。
今すぐ離れて……」
「……肉塊、ですか。
やはり来るべき時が来たようですな。」
「……来るべき時?
あの肉塊が何故現れたか知っているのですか?」
もともとあの肉塊は東方で見かけたものだ。
いま聞くべき事ではないのかもしれないが、話す気があるというのなら。
「前にも申し上げました通り、私は未踏様の執事でした。
ですが瑪瑙様は未踏様とは会った事がありません。」
「……会った事が、ない?」
娘なのに?
「……はい。それは改竄された記憶。
瑪瑙様は確かに父子家庭ではあったようですが、
その父親は未踏様ではありません。
未踏様と私が瑪瑙様を見つけた時、瑪瑙様以外はもう……」
「……成程。」
一瞬驚いたが、記憶の改竄がこの国で行われていたという話は聞いている。
黄色と紫は何の話か分からないという顔をしているが、こいつらはまだ新人だから情報が伏せられているのだろう。
しかし田舎と思っていた東方にそのようなハイテクノロジーが眠っていたとは。
「……それで未踏と黒鉄さんは瑪瑙を引き取った、ということですか?」
「……未踏様は”私がいると逆にその記憶が強固なものになってしまうかもしれない”と、
私のみが瑪瑙様の面倒を見る事になりました。
とはいえ、もちろん東方の他の村の方に引き取ってもらおうとは考えていたのですが。」
黒鉄さんは一呼吸置く。
ただ単に家族を失った、のなら話はそこで終わりだ。
となると考えられるのは。
「……あの黒い力。あれですか?」
「……お察しの通り。
あれは死力(しりょく)、この国だと負力(ふりょく)と呼ばれているのでしょうか。
命力とは対極に位置する力でございます。」
……命力?
「命力とは己の命を代償に発揮する力のことです。
東方だと昔の巫女様が八岐大蛇を封印するための力でもあったとか。」
「やぁねぇ。
自分の命を削ってまでとか、ないでしょそれぇ。」
「……チルッチル殿。
我々は身命を賭して市民を守るのが……」
……また始まった。
もう無視しよう。
「……しかし負力ですか。
負力……負の力……」
……いや待て。
そのワード、どこかで聞いたような気も……
そもそも瑪瑙のあの光は確かにどこかで……?
「……っ!?
思い出した!
貴族シャルディーナが所有していたあいつの力か!?」
あの女は鈴蘭とかいう名前をつけていたが。
「……だから黒鉄さんは瑪瑙を放っておけなかった、という事ですか?」
「……はい。非常に危険な力と感じました。
ゆえに他の村の方に預かってもらう訳にもいかず。」
あくまで黒鉄さんが保護者として、どこかの村に住んでいた、といった感じか。
「……となると鬼退治とかの話も瑪瑙の嘘記憶だったりするのですか?」
「……いいえ、それは事実でございます。
あの力とは関係なく、瑪瑙様には戦士の才能があった。
ゆえにあの力を制御する事に繋がると思い、私は瑪瑙様に刀術を教えました。
……まぁもっとも、瑪瑙様はすぐに私の腕など抜かしてしまいましたが……」
元々持っていた才覚に、その負力とかいう力。
黒鉄さんと会えた事も含めれば。
……あの女を彷彿とさせたのは完全に間違いでもなかった。
それを幸運などとは呼んではいけないが、瑪瑙は運命には恵まれていた。
「ですが瑪瑙は病弱だったのでは?」
「……少なくとも私が知る限り、そのような事はなかったと思います。
推測するのでしたら……」
「……負力、とやらが関係ありそうですね、それも。
となると私達ナイツを似非英雄とか呼んでいたのも、その辺りの関係でしょうか。」
「……あの力はおそらく、人の心を黒く染めていくものなのだと思います。
瑪瑙様は昔はもっと快活な方でしたから。」
成程、瑪瑙の背景は大雑把だが理解できた。
だが。
「……黒鉄さん。貴方の目的は何ですか?
どうして貴方と瑪瑙はこのイムヌスに来たのですか。」
先程この人は来るべき時が来たと言った。
瑪瑙と黒鉄が元々は無関係の他人だったとしたら、彼には彼の真意がある筈だ。
瑪瑙の扱う負力とやらについてはおそらく上層部が情報を持っている。
何故ならあの鈴蘭を所有していたシャルディーナ・エレインは今は連盟の一角だ。
先日の入替戦で連盟が集まっていたのも、その力を確認する目的があったのだろう。
「……私は”本来ならば”未踏様と共に、
あの肉塊たちを浄化する事こそが役割でした。
ですがそれはもう叶いません。
未踏様はもうこの世にはおられません。」
……確かに未踏は5年前から行方不明だが。
「……そう、瑪瑙様の件は"本来なら"無関係。
イレギュラーなのでございましょう。おそらくは”あの方”にとっても。
ですがそれでも。
私は瑪瑙様と出会いました。
たとえそれが私の役割でなかったとしても。」
「……そう、ですね。」
貴族としての役割。
ナイツとしての役割。
私は生まれついてから貴族であり、幼少の頃から戦士の才能があると言われてナイツになった。
そこに何の疑問も抱いた事はなかった。
……5年前までは。
あの時期、私をナイツに選べたのは誰だ?
砂上命閣。先代零騎士。
……否。闘争の悪魔ガラハド。
選んだ理由に大した意味はないのかもしれない。
あの時期に選ばれたナイツは別に私だけではない。
あの悪魔の、単なる気まぐれ、なのだろう。おそらくは。
そこに何の意味もないのかもしれない、が。
「……ただ役割だから、などと。
何も考えずに享受する事は出来ませんね。」
「……はい。仰る通りかと。」
そう。
ナイツとしての役割に準ずるだけでは、私に未来はない。
何故ならば。
私は瑪瑙に勝てない。
いいや、瑪瑙だけでなく、これから出会うであろう圧倒的才能達に。
今はやり方次第では勝てても、いずれ距離を離して追い抜かれる。
それは喜ぶべき事なのだ。
それだけナイツ・オブ・グローリアが精強となっていくという事なのだから。
それはイコール闘争の悪魔の再来の備えに繋がっていくのだから。
でも今は。
「あの小娘は戦闘は強くても、
それ以外はダメダメですからね。
この桃騎士音羽が先輩として厳しく指導してあげないといけません。
ですからまぁ、それ位は付き合ってあげますよ。」
「……ありがとうございます。音羽様。」
その黒い鎧から顔は見えないが、もしかしたら泣いているのかもしれなかった。
だが今は感動されていても困る。
「……さて、本来ならあの肉塊を浄化するのが役目、という事でしたよね。
だったら何をどうすれば、あいつらを殲滅できるのかも知っている、という事でいいですか?」
「……はい。ご明察の通り。
あの肉塊達を扇動しているのは遊ぶ者プレイ。
最悪の夢の道化師の、その髪の毛のようなもの。
それこそがこの事態の元凶かと。」
「……へぇ。
そうなると私達が元凶退治、できそうじゃない。」
ずっと黙っていたチルッチルが乗り気だ。
……まぁこの女は昇進を狙っている節があるから、手柄が欲しいのだろう。
「で、ですが宜しいのでしょうか。
この事、零騎士様にすぐに報告するべきなのでは?」
阿呆黄色のイエーロにしては、妥当な意見だ。
「えぇ、それはもちろん。
すぐに兵たちを送ってユグドさんに伝えましょう。」
魔法電話なら一瞬なのだが、この場所では使えない。
そもそもあれは貴重品だ。
「………」
黒鉄さんが黙る。
「……どうしました?何か懸念でも。」
「……いえ。
何故、遊ぶ者プレイはわざわざこの国に肉塊を仕向けた、のかと。」
「そいつはどんな奴なんですか?」
「……一言で言えば、愉快犯。
人々が苦しみ、もがき、絶望に堕ちる様を嘲笑う事が何よりの至福、という存在です。」
「とんだクソ野郎って事ねぇ。
ひっくわ〜。」
本当にクソ野郎だ。
「この国に勝てる、と考えている訳ではないと思います。
あの肉塊の戦力は耐久力こそありますが、戦闘力は大したものではない。
この国の騎士の方々であれば、殲滅は容易、とまでは行かなくとも負ける事はまずないでしょう。」
「……となると考えられるのは。」
「瑪瑙ちゃんじゃないの?
その負力とかいう力と、その遊ぶおバカって奴、
無関係って考える方が阿呆なんじゃなぁい?」
「そ、それは確かに!」
チルッチルの言うとおりだ。
そいつに明確な”目的がない”のであれば。
単なる愉快犯なのであれば、十分に考えられる。
「……チルッチル、イエーロ。
私は少し席を外します。
黒鉄さん。」
「……ありがとうございます。」
「えぇぇ?音羽先輩いいとこ取りですかぁ?」
「……り、リーダーが勝手に抜けるのはどうかと。」
二人から苦情が入る。
「えぇい、うるさいうるさい!
この隊の隊長は私です!
リーダー命令です!」
少しは言うことを聞け、新人共。
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