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18話 英雄達の結末
灰騎士カイゼル。
西方の隠された国家カイゼルの皇子。
カイゼルはイムヌスに比べれば弱小も弱小の小規模国家だった。
イムヌスから見れば村のようなもの。
そんな彼らが魔物の脅威に立ち向かえて来たのはカイゼル王家の力と隠蔽魔法あってこそだった。
だが白竜ラピスティアによりその隠蔽が破られ、国は崩壊の危機に陥った。
私達ナイツは彼等に援軍を送ったものの、
最後に白竜の喉笛を掻っ切ったのは今代の皇子カイゼルだった。
歴代でも最強と謳われる彼は、本当にこの国を守るためには悪の根幹を絶つしかないと判断。
イムヌスのナイツの席とカイゼル皇子の兼任(実際はナイツやってる時は影武者を立ててるらしい)を条件にこの決戦への参戦を約束した。
……とまぁここまでを読むと凄い優等生皇子を想像するかもしれないが、私の前では凄い舌打ちしまくる可愛くない奴である。(私の1コ下)
かと思えばたまに情緒不安定になって年下の瑪瑙にママプレイをお願いするやばい奴である。
緑騎士リコッタ。
南方の魔物達の姫。(要するに野生児)
彼女は草食の魔物達に育てられたため、自分を魔物だと思い込んでいた。
その腕っぷしというか怪力は凄まじく、身体が一部魔物化してるのではとすら推測された。
イムヌスは彼女を何度かナイツに勧誘するものの、彼女は魔物を退治する人間そのものを嫌っていた。
なんとか彼女と少しでも友好的になれないかという事で、エキドナが開発した魔物化薬マンモマンモを使用して近づく事を決定。
何故か私が使う羽目になり、いろいろ大変な事になったのだが、なんとかリコッタと仲良くなる事に成功した。
だが死霊王ナイトリッチというアンデッドにより、リコッタの家族の魔物達を次々と殺害。
奴は以前からリコッタを狙っており、掌握の悪魔とかいう奴に捧げる目的でやってきたらしいが、なかなか隙が出来なかったようだ。
戦意喪失するリコッタを瑪瑙が過去の経験から元気づけ、最後は二人でナイトリッチの討伐に成功した。(私は魔物化しただけか!)
七罪魔から家族の魔物を守るためにもナイツに加入することを決意。
今は瑪瑙より年下のナイツ最年少であり、私や瑪瑙に懐いている。瑪瑙やカイゼルとは違い、素直ないい娘だ。
だがたまに魔物化をお願いされ、その度にエキドナが新開発薬を持ってくるのはまじでやめろ。
上記2人の加入と同時に、緑騎士リードレイト、灰騎士幸玄はナイツを引退。
幸玄叔父様はもともと若い子が入るまで、という条件でナイツをやっていたらしくその引退は妥当だったのだが。
最年長のナイツであるリードレイトさんの引退は、さすがにナイツ各々に引き留められたりもした。
とはいえ見た目にあまり変化がないリードレイトさんもついに50に差し掛かり、身体が言う事を聞かなくなってきてるらしく、そろそろ引退時だと悟ったという。
ナイツは引退したものの、緑騎士の称号はリコッタに譲った事もあり、彼女の師となり、娘のように可愛がっている。(師匠がそれでいいのかとは思うが)
「私に娘がいたら、こんな感じだったのかな……」
……その言葉がやけに重かった。
実は結婚したかったのだろうか?
いやそんな訳はない。リードレイトさんは長年ナイツの副リーダーを務めた人。
その身命を、国に、人々に捧げた偉人である。
……忙しない毎日だった。
正直毎日のように苛立ってた気もするし。
まぁ、酷い目にも結構あった気がする。
でも。
最後に一緒に戦う事は、出来ないんだなぁ……
本当は 12 vs 6 ではなく、18 vs 6 とかにして、
全ナイツを戦いに参加させるという事も出来ただろう。
だがもし。もしもだ。
それで闘争の悪魔が失望とか言って、奴の軍勢をイムヌスに差し向けられたとしたら?
それだけは絶対に避けなければならないのだ。
奴からすればそれをしない理由は特にないのだから。
どんな気まぐれが働くか分かったものではない。
今の条件で破格と考えるべきなのだ。
そう、理屈は分かっている。
そもそもが、私の実力不足が原因。
この5年間、私は大きく実力が上がったりはしなかった。
5年前の時点で既に頭打ちであり、これが私の限界。
もう、どうしようもないのだ。
そして。
そんな私の葛藤を余所に。
その日は来てしまった。
「音ねぇ!私がんバルから!
瑪ねぇと一緒にがんバルから!」
「……えぇ。
リコッタ、貴方ならできます。」
いつでも素直なリコッタには抱擁を。
「まぁ、勝ちますよ。
音羽さんはせいぜい指咥えて悔しがっててください。」
「あーそうですね。
せいぜい大事な時にママプレイ始めないようにしてください。」
憎まれ口ばかり言ってるカイゼルには皮肉を。
「……音羽先輩。
行って来ます。
二人の事は、任せてください。」
「……はい。
お願いしますよ。瑪瑙。」
そして瑪瑙には友誼を。
瑪瑙はこの5年でだいぶ変わったように思う。
あの負力とやらが瑪瑙の精神を蝕んでいた、と今では見られている。
いや、もうそれだけではないのかもしれないが。
「……黒鉄も、どこかで見守ってくれてるのかな。」
「そう、ですね。きっと……」
……黒鉄さんはあれから姿を見せなくなってしまった。
瑪瑙の事は私達ナイツに任せた、という事なのかもしれない。
その期待に、私は応える事が出来たのだろうか。
そして今度は先輩たちの方を向く。
「俺は勇者にはなれなかったが、
騎士にはなれた。
必ず邪悪な魔王を討伐するぜ。」
「……お願いします。エクス先輩。」
頼れる先輩のエクスさんには敬意を。
「この赤騎士アーカイドが可愛い後輩達を死なせると思うか?
そのために私がいるんだからな。」
「……絶対ですよ。」
いつでもぶれないアーカイドさんには願いを。
「……では行きましょう、グレイス。」
「あぁ。
留守は任せた、音羽。
……万が一のために。」
「……はい。
”こちら”の方は任せてください。」
そして10年間ナイツを率いたグレイスさん、ユグドさんには忠誠を。
「あら?
私には何もないわけ?」
……あ、エキドナのこと忘れてた。
けど魔物化薬の恨みは忘れてないからな。
そうして私は、私達は、英雄達を見送った。
もちろん私達には留守番役の任務がある。
留守番役のリーダーは私なのだ。
……だがその内容は。
もし彼等が負けた場合の最悪に備えたもの。
少しでも世界中に人々を避難させるための準備だった。
人類の絶滅を、避けるための、準備。
本当は心からやりたくない準備。
だが、やらなくてはならない。
私達はナイツなのだから。
「……少しは落ち着いたらどうですか、アカシャ。
貴方は留守番役の副リーダーなんですよ。」
「……寧ろなんでお前はそんなに冷静なんだ。
私達は朗報を待つ以外、どうする事も出来ないんだぞ。」
「……リーダーですからね。
貴方も内心はさておき、外に不安を出してはいけませんよ。」
「……分かっている。
分かっているんだ。」
まぁ今はここには私とアカシャ、チルッチルの3人しかいない。
多少は本音を漏らすのも仕方ないか。
「……このまま行った奴らが死んだら、
私は大昇進、とか昔の私なら思ってただろうけど。」
チルッチルはなんとも複雑そうな顔で。
「……今では全員生きて帰ってきて欲しい。
それ位しか、思えなくなっちゃったわね。
私も丸くなったもんだわ。」
「……まぁ、昔からそんな感じでしたけどね。」
……俗物ではあっても、外道ではなかった、という事だろう、この女も。
そう。
全員生きて帰ってきて。
またあの忙しない日々を過ごせれば。
私は、それで良かった。
たとえ私には才覚なんてものがなかったとしても。
もう、そんな事はそれほど重要な事ではなくなっていた。
あの女に完膚なきまでに敗北したあの時から。
才覚を、才能を、欲した事もあった。
でもそれも、もう過去の話だ。
今の私は、あの女の顔を思い出す事も出来ない。
思い出す必要も、もうない。
何故なら私は桃騎士音羽。
誇りあるナイツ・オブ・グローリアの一角。
それだけで。
本当に、良かったんだ。
その戦いが。
その決戦が。
どれほど熾烈なものだったのかを、私は知らない。
だから、私に分かるのは、結果だけ。
ナイツ・オブ・グローリアは、勝利した。
闘争の悪魔ガラハドは、倒された。
人類は、生き残った。
魔王は、滅びた。
二度と、あの災厄が人々を襲う事はない。
人々は、英雄達の勝利に安堵した。
心から、自分達が生還した事を喜んだ。
たとえ英雄達が”生きて戻って来れなく"ても”彼等にとって”はもう”重要な事ではなかった”
補佐であった魔法使い組5人は生き残った。
まぁ全治数ヶ月、ではあったが生きて帰れたのだからそれでいい。
エキドナ曰く、興味を持たれなかったゆえにだと思う、だそうだ。
あの乱戦は最初は闘争の悪魔は参加せず見ているだけだったという。
前哨戦である奴の部下5体との戦いで、魔法使い達は戦闘不能になってしまったらしい。
……というか、部下5体はそのための存在だった、のかもしれない。
奴の関心は最初からナイツだけにあった。
そして皮肉にも、魔法使い組に”とって”は、それが、幸いした。
だから戦闘不能になってしまったエキドナ達にも、分からない。
彼等の戦いを。
彼等の生き様を。
彼等の、最期を。
国中が喜びの笑顔に溢れている。
自分達が生き残り、もう災厄が訪れない事に、心から安堵しているためだろう。
記念碑として建てられた英雄達の銅像に感謝を捧げる者はいる。
その死を悲しむ者もいない訳じゃない。
ただ、なんだろうか。
悲しむ、自分に、酔ってるだけではないのか、と思えてしまうのは。
私の、錯覚で、あって欲しい。
橙騎士アカシャと紫騎士チルッチルは3日後にナイツを辞めた。
耐えられなかった、のだろう。
この国からも、出て行った、のかもしれない。
残ったナイツ、千騎士シグナムと黄騎士イエーロも2週間程ナイツを続けていたが。
……もう無理だ、と。
上層部に辞表を提出したようだ。
残ったのは。
私だけだった。
私は北方を訪れていた。
そう、かつて闘争の悪魔が再臨したこの地を。
彼等が、戦った、その場所を。
空から隕石が大量に降って来たのか、と思わんばかりの巨大な穴。
それがいくつも、いくつも。
大地など、一切の原形を留めていない。
これでは、死体を、探す事など、不可能だろう。
国は一度は、もしかしたら生きてるかもと、捜索を試みたという。
だが、あまりの有様に断念するほかなかったという。
それを聞いた時は、殺してやりたいとすら一瞬思った位だが。
……絶句する以外できなかった、のだろう。
想像を絶する戦いが此処で行われたのだ。
それに、私が、参加できていたら。
「どれ、だけ……」
少しでも、勝利のために、その架け橋となれていたら。
そうでなくても、せめて後輩を庇って、死ねていたら。
「………」
もう、いい。
此処には、誰もいない。
我慢の、限界だ。
「あぁぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁああああああああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!」
決壊した。
ただ、泣き続けた。
涙も、身体中の水分も、全て枯れるまで泣いてしまえとすら、思った。
此処で、死んでしまえばいいと、心からそう願った。
でも。
ズズズズズ
「……え?」
……これは、何の音だ?
いいや。
私はこの音を、いいや、この力の感覚を知っている。
「……こっち、か?」
私は自分の感覚を頼って歩く。
大穴の一つ。
気のせい、なのかもしれない。
その先にあるのは、絶望だけかもしれない。
でも。
でも、それでも。
「あ………」
そう、それは。
その感覚は、負力の発現だ。
「瑪瑙!!!」
そこに瑪瑙の身体があった。
……たとえ、いろんなものが欠けて、いたとしても。
だがよく見れば、右手と左足が千切れた先を、あの黒いものが繋いでいる。
「……負力、と呼ばれた……?」
でも、それだけかもしれない。
だってあれから2週間だ。
普通に考えれば生きてる訳がない。
「………」
脈も呼吸もない。
心臓音も何も、ない。
それでも。
「……駄目だ!!」
私は瑪瑙を運ぶ。
あらゆる状況が瑪瑙は死んでいる事を示している。
でも。
そんな事は、どうでもいい。
「貴方だけでも!!」
生きてて欲しい。
お願いだから。
それが。
それだけが。
今の、私の、最後の、願いだ。
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