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3話 白竜との接触



時は闇月が侍女を始めるより数週間ほど前に遡る。

大都市イムヌスから北方の地。
北方の大半は雪と氷の世界。
人間がこの地方を歩くにはそれ相応の準備が必要だろう。
「最初の頃は戒も遭難しかけていましたしね。」
アートが後ろでニヤニヤ笑いながら煽ってくる。
それ自体は事実だし、あの頃の俺に備えが足りなかったのは事実。
まぁそんな昔の事はどうでもいい。
「さてそろそろ約束の時間だが。」
そう思って上を見上げると雪に混じって白い巨体が降りて来る。
人間など軽く圧死させられるであろう巨体。白いドラゴン。
「へぇ。ちゃんと約束の時間に来るなんて。
 やはり人間にしてはやるようだね。」
その巨体、白竜ラピスティアは野太い声でそんな言葉を発した。

この白竜が俺に接触してきたのは数日ほど前。
当然俺は即座に戦闘態勢に移行したが。
「あー、待て待て。
 僕は君と戦いに来たんじゃない。
 取引に来ただけなんだ。」
この竜は突然そんなことを言い出した。
無視して良い。俺の理性はそう訴えるが。
「取引だと?どういうつもりだ?
 それ以前に貴様は何者だ?」
戦闘態勢は一切解かずに俺は尋ねる。
相手はドラゴンだ。組み伏せられたらこちらは即座に敗北する。
「ま、そうやって警戒されるのも無理はない。
 馬鹿な同族共が力任せに暴れてばかりいるからね。
 ただ君はギルセイヌを知っているんだろう?」
「………」
ギルセイヌ。
おそらく俺が唯一友好的に接する事が出来るドラゴンだろう。
同族なのだからこの竜がギルセイヌを知っていてもなんら不思議ではない。
だが俺がギルセイヌと旧知であることを知っているということは。
「……ギルセイヌが喋ったのか?」
「あぁそうだ。
 僕とギルセイヌは昔からの友竜でね。
 いろいろと君のことは聞いていたんだ。」
嘘だ。
俺は即座にそう判断した。
だがそんな事は顔に出さず、俺は気になるなという風を装って話を続ける。
後ろのアートも特に言葉を発する気はないらしく、経過を見守っている。
眺める者として正しい姿勢だ。
「成程。詳しく聞かせて貰えないか?」
「あぁ。ギルセイヌの友として君とは話してみたいと思っていたんだ。」
当然これも嘘になる。
だがギルセイヌ以外で唯一、俺と話をする気があるドラゴンだ。
単純に興味があった。
……何かに利用する気なのは明白だが。

「……掌握の悪魔グリモアの部下だと?」
「あぁそうさ。
 けどいい加減うんざりしてきてさ。
 僕としては鞍替えしたいと常々思っていたんだ。」
竜王から鞍替えしてた奴がよく言う。
「それは分かったが、それで俺に何を求めている?
 竜や悪魔の勢力争いに対し、ただの人間である俺に何が出来る訳もないだろう。」
これは半分本心だ。
イムヌスの権力者ならいざ知らず、今の俺は単なるフリーの冒険者。
人間勢力と手を結ぶことが目的だとしても、明らかに俺では不適格。
「ふふ、慎重な事だね。
 さすがにそこら辺の馬鹿な人間とは違うようだ。
 けど君は元イムヌスの権力者だろう?」
俺は白竜を少し睨む。
何故知っている?そう脅すように。
だが白竜はその反応が気に入ったように、面白そうに話す。
「僕の主が教えてくれたんだ。
 まぁ裏切る気なんだから元主になる訳だけどね。
 けど実際は君はイムヌスとは手を切っている。
 僕にとっては組みやすい相手さ。」
「………」
情報を整理する。
組みやすい相手。イムヌスとは関わりたくない。でも力のある相手との協力関係は欲しい。
その相手に人間を選ぶ判断はドラゴンにしては相当変わっているが、実際このドラゴンは変わっている。
何故ならば、ここまで腐った臭いのするドラゴンを俺は見たことがない。
端的に外道の類。
以前なら容赦なく斬り捨てていた相手であることは間違いない。
だが今は。
「……いいだろう。
 詳しい話を聞こうか。」
「懸命だ。さすが主が警戒してただけの事はある。
 ただこの場所は少し悪いな。」
なにが悪いか知らないが、この辺りにドラゴンと敵対する勢力でもいるのか?
場所を変える時点で怪しくはあるが、わざわざ今の俺を嵌めようとする輩がそうそういるとは思えない。
イムヌスからの刺客であれば可能性はあるが、さすがにこんな奴と楼閣が手を組んだりはしないだろう。
「分かった。場所を指定しろ。」
そうして今に至る。

話をまとめると白竜ラピスティアの話はこうだ。
自分は掌握の悪魔グリモアの勢力から脱したい。
だがグリモアとやらは空間魔法の扱いが非常に秀でているらしい。
ちょっとやそっとの事では裏切りが発覚し、見つかってしまう。
そこで目をつけたのが西方の国カイゼルの隠蔽魔法。
元々は巡教会本部を狙っていたらしいが、彼の地は既に滅んでいる。
その魔法奪取の協力者を求め、グリモアが握っていた俺の情報を利用し、俺に接触したという経緯らしい。
見返りは掌握の悪魔グリモアとその部下たちの情報。
だが情報では信用が出来ない。確かなものをよこせと俺は白竜に要求。
結果として、情報プラス七罪魔が所有してたという魔道具を貰うことで取引は成立した。


ま、そんな訳で。
白竜の話はさておき、カイゼルの話の真偽の確認のために、頼れる闇月ちゃんがこの国に潜入した訳だが。
まさかこのタイミングでナイツが現れるとは。
(……ったく、間が悪いったらない。
 なんでこう私の人生は悪運が続くやら。)
そう愚痴を吐きたくなるが、私はカレン王女の忠実な侍女でなくてはならない。
「わぁ、あれがイムヌスの騎士様なのですね。
 でも結構お若い方が多いのですね。」
更に幼い小娘に言われたらおしまいだ。
侍女長の話だと連中が来た目的は、ナイツへの勧誘らしい。
勧誘相手はこの国の王子エイジ・カイゼル。
わざわざこんな小国まで来て国の戦力増強とはご苦労なことだ。
とはいえ今の私にとっては悪い話ではない。
この国屈指の戦力であるあのお坊ちゃんがいなくなれば、私は格段に動きやすくなる。
この国の王子とナイツの掛け持ちの形になるとは思うが、いずれにせよ外出する機会が増えるだけで十分有難い。
……とはいえ。
「でもお兄様、断ったようですわ。
 そうですよね。お兄様は責任感が強い方ですから。」
1度目の勧誘は失敗したようだ。
当然といえば当然。
カイゼルで一番強い王子をこの国から離せば、いざというとき魔物との戦いに支障が出る。
下手をすれば全滅もあり得るかもしれない。
いくら隠蔽魔法があるとはいえ、いざという時の戦力を準備するのは当然のこと。
この国の第1王子として、承諾することは出来ないだろう。
……本人の希望は別として。
「……でもお兄様。本当は行きたいんですよね。」
この国の唯一の役割は妹が握っている。
ならば自身は戦士として、騎士として、栄光のナイツ・オブ・グローリアに加わりたい。
そんな欲求がない訳ではないだろう。
(王族も、めんどくさいな。)
自由がない。
意思はあっても、責任が重くのしかかる。

「は、母上っ!!??」
そんな事を考えてたら大声が聞こえてきた。
この声は第1王子のものだ。
国の兵士達が王子の元に駆けつけようとするなか、私はゆっくりと現場に向かう。
ちょっと興味あるな、わくわく風を全身で表現。
本音はナイツの登場で精神的に疲れたので居眠りしたい。
「な、なにをやってるんですか、貴方はっっ!!
 瑪瑙から離れなさいっ!」
……なんだあれ。
まぁ自分の視界に入ったものを簡潔に表現するなら。
この国の王子が明らかに年下の少女騎士の甲にキスをしながら跪く姿。
瑪瑙と呼ばれた少女は呆然としている。
それはそうだろう。
「……こうして母上にまた再会できたこと。
 エイジは嬉しく思います。
 不甲斐ない息子をお許しください。」
「……え……は、はへ……?」
「意味分かんないこと言ってんじゃねぇ!
 いいからさっさと離れなさいっ!」
桃騎士が王子を引き離しにかかっている。(びくともしていない)
他のナイツはいないようだ。まぁこの部屋二人部屋だし。
白騎士と黄騎士は別の部屋だと思うが、騒ぎを聞きつけて戻って来る気配もない。
となると王と何か話してるのか。
……王も白騎士もいないのでは、この騒ぎは誰が収めるんだ?
(……予想外の方向に面倒になって来たなぁ。)
とりあえず今日も碌に睡眠時間がとれない事はほぼ確定だ。
……あぁ、たまにはかび臭い場所でゆっくりお昼寝したいなぁ。


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