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4話 理性と獣性
「も、申し訳ありません、ユグドさん……」
返す言葉もないとはこのこと。
カイゼル王子が瑪瑙の手にキスして母上とか言い出す奇行から約3時間後。
栄光の騎士ナイツ・オブ・グローリアの一角たる私、桃騎士音羽は頭を下げる羽目になっていた。
瑪瑙はまだ混乱している。
「……初っ端から面倒な事になりましたね。
あちらもいろいろ気まずい感じになってしまったし。」
ユグドさんは溜息を吐く。
いやいやだってこんな展開予想できないだろう。
このカイゼルの亡くなった王妃は元東方の人間。
で、その母親に瑪瑙は凄い似ていたとのことで、あの王子はああなったらしい。
……だからといって歳が違い過ぎるだろうに。大丈夫なのかこの国は。
「……あ、そうか……ボクは実は、王妃様の、生まれ代わり……?」
「阿呆な妄想に逃げ込むんじゃない!」
瑪瑙の頭をはたいて正気にさせる。
「……とはいえ音羽。
貴方の力ではびくりとも動かせなかった。
腕は確かかもしれません。」
「ま、まだ腕力が強い事が分かっただけでしょう。
あんなマザコン王子を本当にナイツの灰騎士として迎え入れるつもりですか?」
「それが私達の仕事です。
多少性癖が尖ってる位、アーカイドみたいなのがいる時点で今更問題はありません。
それよりも……」
多少で済むのかあれは。
「……妙な感じがしました。
私達が入口で侍女長と挨拶してた時に、ね。」
「ユグドさん……?」
「……お、お兄様は大丈夫なのでしょうか……?」
「エイジ様のことです。
必ずや明日は元気な姿を見せて頂けますよ、カレン様。」
まぁ知らないが。
マザコン騒動のせいで若干かける言葉も投げやり気味だ。
あれから侍女たちは何をしていたのかとか兵士長に怒られた。
王子の性癖を侍女のせいにするとか訳が分からない。
その後もいろいろあって今日は無駄に疲れた。
王女も少々取り乱しているし、多少演技が雑でも大丈夫だろう。
「……ラインさん。
お兄様はとてもお母様をお慕いしておりました。
いつか自分が強くなってお母さまを守るのだと、そのように仰っていました。」
母親、ねぇ。
私にはそんなものはいないので感覚が分からない。
一応私を生み出したという意味では母親は……うぇ、嫌な顔を思い出して吐き気がしてきた。忘れよう。
「……ので私もお兄様やお父様の力になりたいのです。
ですからこれからもお力添えお願いします。」
私が吐き気を抑えている間に話は終わったらしい。
「はい。カレン様の想いはきっと国王陛下やエイジ様にも伝わっております。」
まぁこんな事を言っておけばいいだろう。
模範回答って便利ー。
「………」
だが王女は不思議な目線で私の方を見る。
まるで"観察"するかのように。
……少しだけ、緊張する。
「……カレン様?どうかなされましたか……?」
「……え?
あ、あの、すいません。
ただ、ラインさんが……」
すごい、無理をしている、感じがして……
無理をしている。まぁそれは間違えていない。
実際今日は疲れたし。ただ今の言葉の真意はそんなところにはないだろう。
「………」
見破られた?そもそも何を?
私は半年前にこの国にやってきた侍女。それは間違いなく事実。
その経歴が元暗部だろうとその事実は変わらない。
だけど。
「……カレン様。それはどういった意味でしょうか?」
「え?」
その言葉の真意を聞きたくなった。
……あぁ、悪い癖が出てるな。
……今すぐ侍女の精神に戻れ。
理性と獣性が私の中でせめぎ合う。
だが今この瞬間、運が良いのか悪いのか他の侍女は出払っている。
先の騒ぎで人の出入りが激しい状況。すぐに人が戻ってくることは間違いない。
それでも今この瞬間は私と王女の二人しかいない。
私は王女の前に立つ。
それこそ息を吹きかけることが出来る程の距離で。
……脆すぎる、私の理性。
「どういった、意味でしょうか?」
「ラ、ラインさん……?」
私は王女の手首を掴む。
……無理をしている?
……あぁもしかして憐れまれたのか?
……小娘風情に?
自然と手首を掴む力が強くなる。
「……っ……あ、つ……」
王女の表情が苦し気に歪む。
あぁいい顔するなぁ。
……そうではない。
……今は”そこ”ではない。
だが。
豪快な金属の音が響き渡る。
音が向かって来る。どこに?誰に向かって?
無論、私に向かって。
「何やってるんですか?変態侍女。」
攻撃は回避したつもりだった。
だがモーニングスターの鉄球は巧みに私の回避先を捕らえていた。
とっさに腹への一撃を右手で防ぐ。
なんとか着地に成功。だが右手はしばらく使い物にならないだろう。
「……どうされましたか?桃騎士様。」
侍女の雰囲気を崩さず、私はお客様に語るように話す。
……侍女がこんな攻撃を受けて雰囲気を崩さないこと自体が既に不自然だが。
「どうやらユグドさんの直感が正しかったようですね。
貴方、元イムヌスの暗部ですね。それも……」
……あぁ、今の動きのせいで尻尾が出てたか。
「元暗部三巨頭の一人、闇月。
まさかこんな場所に潜んでいたとは。」
桃騎士は武器を構え私に敵意を抱く。
王女の方を一瞬振り向くと、すっかり萎縮してしまっている。
……あぁ、これじゃあ何の真意も聞けやしない。
既に冷めている自分がいる。
桃騎士は悪党退治で気分が高揚してるのかもしれないが。
こっちはいい迷惑だ。
私は冷静にナイフを王女に向ける。
「なっ!?」
「なに驚いてんの?
こうするに決まってるでしょぉ。」
一本を桃騎士、一本を王女に放つ。
桃騎士は自分に放たれたナイフをダメージ覚悟で受け、王女へのナイフを必死に防ごうとする。
私のことは無視して。
「ぐっ!?」
あの距離から王女のナイフを受けるとは。
序列6位に一度は上がったというのも伊達ではなかったようだ。
そのおかげで。
グサリ
「……ぅぐっ!?」
「私は”まだ”任務失敗とはならない。」
お前たちは騎士だ。
戦う術のない人間を必ず守るために戦うだろう。
そのおかげで王女は無傷。
王女が必要な私には都合が良い。
しかも王女は初めての殺し合いを見ての緊張か、それとも極度に身体を動かされたからか、気絶している。
やりやすくなった。
そして当然、本命は3本目のナイフ。
闇月ちゃん特製の毒つきだ☆
「ひ、きょうもの……」
だからなんだ?
私はお前一人を相手にしてる訳にはいかない。
この国にはお前を除いて残り3人のナイツが滞在している。(オーガストは既に帰っている)
プラスこの国の王子。
その4人中、3人はこの桃騎士より戦闘力は上と見ていい。
正面突破できる訳がない。
人質を使っても脱出は厳しいだろう。
だが。
いくつもの爆発音。
音の方向からして国の入口からか。
ナイツがこの国に来たその夜にこの”襲撃”。
あぁ、やはり全ては繋がっている。
根回ししたのは誰だ?
戒か、希殺か、それとも。
いずれにせよ。
この流れに乗らない手はない。
「さぁさぁ、人間ども。
少しはこの僕を愉しませろよ。」
爆発音の元凶。突如現れたドラゴン達を率いるは巨大な白き竜。
白竜ラピスティア、襲来。
役者が混沌と渦巻く戦場。
だが私は戦場で輝いたりはしない。
そんなものは光の英雄たちの舞台。
私の戦場は闇。
暗い昏い闇の中で光る月の裏。
熱の溢れる戦場になど興味はない。
この王女を盾にしながら攫う。
そんな薄汚いただの野良猫だ。
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