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5話 崩壊のカイゼル
「う、うわあぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「い、いや……やめて、やめ……あ、あぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっっ!!!」
宮殿の入口付近は地獄絵図と化していた。
突如現れたドラゴン達の登場により人々は逃げようとするが即座に追いつかれ、頭から噛み砕かれる。
兵たちはドラゴン相手に立ち向かうが、その殆どが一撃で昏倒し、手足をもがれていく。
圧倒的だった。
言うまでなくドラゴンは強い。
冒険者の中ではもっとも強い魔物といえばその多くがドラゴンを上げる。
その撃破には、イムヌスでいう金等級、銀等級クラスの冒険者たちがパーティーを組むことが推奨されている。
だがカイゼルは表向き外界から隠蔽されている国。
当然、冒険者などいる筈もない。
結果、次々と人間の死体が積み重なっていく。
更にその死体を暇を持て余したドラゴンが喰いちぎるといった地獄の光景が広がっていた。
「わっははははは。久々に沢山喰えるぜぇ。」
ここでも1体のドラゴンが人喰いに精を出してると。
そのドラゴンの首を更に巨大なドラゴンの手が掴む。
「ウ、グェ……」
「なに遊んでるんだお前ら?
いまは食事の時間じゃないだろうが。
さっさと王と王女を探してひっ捕らえて来い。」
ラピスティアはそのまま苦しむドラゴンを投げ捨てる。
投げ捨てられたドラゴンは「ハ、ハハァッ!!」とだけ怯えたように言うとその場を去っていった。
「いいか!
何度も言うが殺すんじゃないぞ!
絶対に生かして連れてこい!
あとおまえら仕事が雑だから手足もぐな!
死んだら困るからな!」
ラピスティアは大声でドラゴン達に怒鳴り散らす。
ドラゴン達は我に返ったように、怯えながら四方に散っていった。
(公私を弁えられない馬鹿共が。
所詮は竜王殿にも入れられないような下っ端共。
まぁそれでもこんな小国潰すのには十分だろうが。)
ラピスティア自身も入口から動き出す。
10メートル近くの巨体が豪風と共に飛ぶ。
それだけで多くの人々が紙切れのように飛ばされ、そのままぐちゃりと血の花を咲かすのだった。
……ようやく入口にいたドラゴンが減ってきたな。
先程の白竜の怒声。
戒の言っていたとおり、やはりこの国の隠蔽魔法が奴の目的らしい。
戒の言葉の裏付けがようやくとれた。(あの男の言葉を全面信用するほど、私は愚かではない)
ならば戒と白竜が完全な協力関係にあるならば、あの白竜の前にこの王女を連れていけば私の仕事は終わりだが。
(それはない。)
そもそも白竜は私の顔を知ってるのか?
知っていたとして、この娘を差し出せば私を生かして返すのか?
そんな希望的観測に賭けてつまらない死に方をする気はない。
やはりこの小娘を誘拐したまま、この国を脱出するのが最善手だろう。
だが。
(……入口から動かないドラゴンが4体。
しかも全部レッサーじゃない奴だ。)
この国は隠蔽魔法のせいで入口からしか脱出できない。
しかもあのドラゴン4体。先の好き勝手に暴れてた奴らと違って入口から微動だにしていない。
おそらくこのドラゴン達の中でも統率がとれた個体だ。
この国からターゲットを逃がさないための見張りだろう。
1体ならいざ知らず、王女を連れながら4体ものドラゴンから逃げるのは不可能だ。
(……さてどうするか。)
幸いいまこの国にはイムヌスのナイツ4人がいる。
桃騎士は私のせいでたぶん死ぬが、残り3人。カイゼル王子も同等の戦力と考えれば4人だ。
敵のドラゴンは、おそらく10体以上20体以下。
ドラゴンの集団で一気に襲われなければ各個撃破戦法で人間側に勝機はある。
あの様子を見る限り、大半のドラゴンは統率がとれていない。集団で襲われる心配はあまりない。
この国の兵たちもナイツの指示の下で動けば戦力にはなるだろう。
(……天井裏でしばらくやり過ごすが吉か。)
私はそう結論づけて、人やドラゴンの死角を動き、天井裏まで……
「……っっ!?」
危険、危険、危険。
私は間一髪。”その”爆発から逃れた。
だが右手に違和感。十全には使えないと判断。
(……火薬の臭いはしなかった。
だったら今のは……)
その瞬間、私に放たれる無数の氷の刃。
確定だ。
「……その辺りか?」
私は目星をつけてナイフを数発。
うち一発が跳ね返される。
姿は見えない。だがそこに誰がいるのかは分かっている。
(……白騎士ユグド。まるで暗部みたいな戦い方。)
桃騎士は白騎士の直感で、私が暗部だと睨んでいたと言った。
暗部の臭いが分かるのは暗部だけだ。(刹那とか妖娼婦とかの規格外は除く)
となるとあの男。
「まさかあんたが元暗部だったとはねぇ。
よくそんなサマでナイツの白騎士なんてやってられるねぇ★」
煽って反応を見る。
返って来たのは氷の刃だけだ。
あんなものを食らえば一瞬で氷漬けになる。
現に氷の刃が通った場所は氷の建物と化している。
私にとって相性最悪の相手だ。
「今この国大変なんだよぉ。
みんなで力を合わせてあの竜ども倒さないと駄目じゃないのぉ?
リーダーの君がこんなところで油売ってていいのかなぁ?」
更に煽るが氷の刃が私の周りを囲む。
冷静に私を追い詰めていることの証。煽りは効果なしと見ていいか。
ドラゴンより私を優先してるあたり、私が王女を連れてたところを見られたな。
このままいけば私は氷漬けにされる。その後はすぐ殺されるだろう。(尋問してるような余裕はない)
……さすがに王女を投げ捨てるか?
そうすれば白騎士は王女の救出を優先する。その勢いでこの場の逃走は可能だろう。
だいたい未熟な王女単体を連れ帰ったところで、あの空間を突破できるとは思えない。
所詮は案の一つだ。
無理する場面ではないし、戒も特別咎めたりはしないだろう。
だが。
(気に入らないなぁ。)
このまま逃げたら、私の半年の頑張りは徒労に終わる。
それもあるが。
(暗部でコソ泥みたいな仕事してた分際で、白騎士なんて名乗るなんて。)
その冷静沈着なクール面が気に入らない。
王女の先程の微妙に憐れんだ顔も気に入らない。
……全員その顔、歪ませてやるよ。
「まー私の相手するのは構わないけどぉ。
今もこうやって死体どばどば、だぁれも守れない無様な騎士。
あーでもそれも仕方ないかぁ。」
まったく変わらず冷静に放たれる氷の刃。
とうとう手足の感覚がおかしくなってきた。
だが私は特大の爆弾を投げ入れる。
「なにせ必ず守ると誓った砂上理沙ちゃんに、自殺されちゃうような騎士様だもんねぇ。
あっはははははははははは!」
攻撃が変わった。
大量の札が私に向かって放たれる。
氷の刃と違って数が限られている代物を。
(効果覿面過ぎ★)
自分に向かってまっすぐ向かってくる札など。
私のナイフで全て空中起爆させてくれる。
私と白騎士の間で起こる連鎖爆発。
空気が揺れる。爆発音が宮殿中に響く。
だがこの手の不安定な状況で動き回るのは私の得意分野。
小奇麗な騎士をやってたお前とは年季が違う。
(ざまぁない。あっはははははは。)
私は王女を運んだまま、上機嫌でその場を離脱するのだった。
闇月と白騎士が攻防する少し前。
カイゼルの中心メンバーと、イムヌスから来た貴族は大部屋に集まっていた。
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉおぉぉ!!」
「食らえ!カイゼル奥義・地走!」
カイゼル王子、エイジ・カイゼルの衝撃がレッサードラゴンを転倒させる。
「今だ、かかれ!」
士気の上がった兵たちがレッサードラゴンに対し武器でめった刺しにした。
たまらずレッサードラゴンは息絶えた。
「これで、5体目……」
「素晴らしい、パニッシュ卿の戦術が上手く嵌りましたな。」
「いえ。上手くいって何よりです。」
パニッシュ卿と呼ばれたイムヌスの貴族は罰が悪そうに言う。
「ですがカイゼル王。
敵の主犯はあの巨大な白き竜。
いま四方で戦っているであろうナイツも集めなければ撃破は難しいでしょう。」
「うむ……」
そんなことを話してる間にも次のレッサードラゴンが現れる。
だが状況はレッサードラゴンを各個撃破するという、闇月が考えていた理想的状況を描いている。
同じ戦法でまたもレッサードラゴンは倒される……
「もう1体!?」
逆方向からもう1体のレッサードラゴン。
壁を壊して突入してきたようだ。
「お、オマエが、おう、サマ……。
ラピスティア様ぁぁ、オデはやりましたァ……」
涎を垂らしながら襲い掛かるレッサードラゴン。
(剣を抜くしかないか?)
だが次の瞬間。
王を捕まえようとしたレッサードラゴンの腕が落ちた。
「ウ、ギャアアァァオオオオオオオ!!!」
レッサードラゴンが激痛で叫んでいる間、人影がレッサードラゴンの首元まで接近する。
「聖爆剣っ!!」
光を放った刀がレッサードラゴンの首を落とした。
そのままレッサードラゴンは崩れ落ち、黒い鎧の少女騎士は危なげなく着地する。
「つ、強い、これが新世代の黒騎士か!」
「あ、はい……皆さん、無事、ですか……?」
これでこの場の戦力は整った。
ナイツがこの場に集まりつつあるのだろう。
おそらく四方に散ったレッサードラゴンはもう殆どが倒されている。
残るは入口のドラゴン4体と、親玉の白竜ラピスティアのみ。
「カイゼル王。
戦況はこちら側に有利です。
一刻も早く他のナイツとも合流し、白竜を仕留めるべきでしょう。」
「……パニッシュ卿の仰るとおり。
では兵たちを向かわせ……」
「いえ、ここは私にお任せください。
あちらの部屋に我々の守護兵を待機させております。
ここはまだレッサードラゴンが来るかもしれません。」
「そ、そうですか……?
何から何まで世話になります……」
そう言ってパニッシュと呼ばれた貴族はその場を強引に離脱する。
(希殺が寄こしたカモフラージュの兵たち。
まぁ中身は奴の信奉者だろうが。)
俺は王に説明した部屋とは逆方向に進む。
どうせ信奉者たちは既に全員死んでいる。
(王女はいまだ見つからず。
白竜のドラゴン共が命令違反をしていなければ、闇月が仕事をしていることになる。
状況は悪くないな。)
邪魔なカツラを脱ぎ捨てる。
(……さて仕上げだ。
”あの男”の真意がどこにあるか、見極めてくれる。)
戒は隠していた鎧を身に着けると、その場を高速で離脱するのだった。
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