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6話 違和感の正体



(……妙だな。)
白竜ラピスティアは違和感を感じていた。
見かけた人間はその多くが死んでいる。
中にはひき肉みたいになってる人間もいるが、所詮は野良のレッサー共。
無駄な人間遊びに時間を要したのだろう。
それはまぁいい。
問題は。
(生きてる人間も、レッサーもどこにも見当たらない。)
既にどこかに集まり、僕たちを撃退する作戦を練っている。
そう考えるのが妥当だが、僕たちが襲撃してからまだ碌に時間も経っていない。
こんな小国程度が、レッサー込みとはいえドラゴン16体を相手にここまで統率がとれるものか?
どのみちレッサーまで見あたらない理由にはならない。
(まさかと思うが……全滅した?)
こんな小国の人間如きに?
イムヌスのナイツじゃあるまいし、ありえない。
……いや。
僕の白の脳細胞がピカリと閃く。
だがその時、僕の純白の肉体がちくりとした感覚を覚えた。
……ん、何かぶつかりでもしたか?
僕は微かに感じた気配の方向を探る。(人間の気配は小さすぎて探るのも手間だ)
「お、おおおお、おまえの目論見通りには、い、いきません!!」
どもりながら僕の方を向いて剣を構える、黄色の鎧に身を包んだ男。
まさかと思うが、ナイツの黄騎士とやらか?
「く、くくく、くらえぇっっ!!
 黄騎士奥義・雷刃の嵐!」
ちくりちくりとくすぐったいものが僕の身体に走る。
……まさかと思うが、これは攻撃だったのか?
イムヌスのナイツってもっと警戒するべき存在だった気がするんだが。
ガラハド卿が気に入っているからどれ程のものかと思えば。
「……はぁ、どうでもいいか。
 さっさと死ねよ。」
狙いを定めるのも面倒なので、ホーリーでも撃っておく。
こんな雑魚と遊んでるほど僕は暇じゃないんだ。
さっさとターゲットを探して……
「……消えた?粉々に砕け散ったのか?」
だが死体すらない。
「ま、ままままま、まだだぁぁっっ!!」
また目の前に黄色の鎧。
ちくちくちくちく、これはこれで若干鬱陶しい。
もう一発ホーリー。聖なる竜の一撃で消し飛ぶがいい。
だが本当の意味で消し飛んでいる。死体が一切ない。
……なんだこれは?
(……まさかこいつ、戦士に見せかけて魔法使い?)
フェイリィ様ならこういった芸当も可能だろうが。
人間如きの魔法使いに、この僕が見間違う程の幻を扱えるのか?
だが魔道具の可能性もある。
……違和感、違和感、違和感。
この違和感の正体はなんだ?
たとえ幻だとしても、こんなちくちくで僕は倒せない。
時間の無駄……いや、時間稼ぎか?何のための?
「お前を倒すための、だ。」
目の前に突如現れた人間のガキ。
この格好、この国の王子の……
眼を狙った攻撃。だが僕は寸でのところで腕で防ぐ。
次の瞬間、僕の腕に斬撃が落ちた。
「……一撃じゃ、斬れない。」
「……十分です。瑪瑙さん。」
いつの間にそこにいたのか、黒い鎧のガキ。
次から次へと鬱陶しい。
そして目の前に更にもう一人。
……いやあいつは流石に知ってるぞ。なにせグリモア様の……
「……白騎士。
 だったらそいつは黒騎士、先のは黄騎士。
 なんでナイツがこんなにいるんだ!?」
状況が分からない。
僕が襲撃するこのタイミングに偶々ナイツが3人も滞在していた。
そんな馬鹿な事があるか!

なお実際は4人なのだが、桃騎士はまだ闇月の毒で倒れてることはここだけの秘密である。


「この辺りまで来れば、ひとまずは安全かなぁ?」
私は王女を一度降ろし、一息つく。
ようやく先程やられたダメージが癒えてきた。
白騎士と桃騎士からのダメージを負ったまま、王女を運びながら移動するのはそれなりにしんどい。
まったく今日は厄日すぎる。
「……レッサードラゴンはおそらくもう全滅している。
 となると残るは白竜と入口の4体だけか。
 入口さえどうにかなればなぁ……」
ナイツが倒してくれればいいが、その場合、今度はナイツに隠れて王女を連れて逃げる必要がある。
やはり王女を連れて逃げるのにもう無理があると言わざるを得ない。
正直もう放置してもいいのだが……
(……なぁんか違うんだよなぁ。)
……違和感、違和感、違和感。
なぜ私は王ではなく、こちらの王女を狙ったのか。
狙うのが容易いという理由はあるが、そもそもの目的を考えればどう考えても王の方が適任だろう。
自分の勘に従ったまでといえばそれまでだが。
「知りたいか?」
コツコツと鎧の靴跡が聞こえる。
私はその音を聞いて、恨みの籠った視線を向ける。
「あぁまったくだねぇ。
 いったい今日は何回死にそうな目にあったってねぇ。」
「そうか。それは悪かったな。」
毛ほども悪いと思ってない顔で奴は、戒は王女の方に視線を向けた。
私は文句を言われると思って先手を打つ。
「王様の方じゃなくて悪かったねぇ。
 なにせこんな大騒ぎになるとは思ってなかったんだからさぁ。」
「いいや、これでいい。
 さすがに王の方は問題がある。」
「……はぁ?」
戒は王女の襟首を引っ張ったと思いきや、そのまま乱暴に運ぶ。
さすがに引く。
「……レディに対してその運び方はないだろお前さぁ。
 マジで人の心がないなぁ。」
「貴様に人の心についてどうこう言われる筋合いはないが、どのみち関係ない。
 この娘はもう死んでいる。」
「……え?」
そんな訳があるか。
つい先程まで私はこの娘を運んでいたんだ。
死んでるとしたらいまお前が殺したってだけだろ。(この男ならやる)
どこに連れて行く気か知らないが、戒は私が知らない何かを知っている。
ここはおとなしくついて行くほかない。(どうせ単独じゃ逃げられないし)

歩くついで、私は確認の意味も込めて聞く。
どうせ今は人間は一か所に集まり、ドラゴン共は入口の奴らと白竜のみ。
そして今頃はナイツと白竜の戦いが始まってる筈だ。
よってこの辺りには一切の気配がない。
「あのナイツを呼んだのは、希殺って事で合ってるのぉ?」
「厳密にはマーティン・ハイケル。
 希殺がいま扮している連盟の一人だな。
 だから楼閣もナイツを派遣することに同意してるということになる。」
相変わらずだな、イムヌスも。
そして戒と白竜は本音はどうあれ協力関係を結んだ。
白竜の襲撃日を戒が聞いていれば。
「……あんたから希殺、希殺から砂上楼閣。
 となればそのタイミングでナイツを送れるって訳か。」
だったらカイゼルがこんな大打撃を負う前に警備体制を強化する事も出来ただろう。
それをしなかった理由はただ一つ。
「この国に恩を売ってぇ、
 王子をナイツにさせるってところかぁ。」
「楼閣にとってはそれがもっとも重要だろうな。」
結局ジョーカーを引いたのは白竜のみ。
それ以外は全て自分達にとっての利を得た。
白竜と組む気なんてこの男にはカケラもなかったのだろう。
「私達は私達で隠蔽魔法の秘密を得られるってことかぁ。」
「それもあるが、俺の本命はこっちだ。」
話してる間に辿り着いたのは、この国の地下室だ。
とはいっても牢屋くらいしかないと思っていたが。
「……え?」
王女の身体が光り出す。
「……封印、解除します。」
死んだと言っていた王女が機械的に話す。
急に得体の知れない衝撃があったと思えば、違う場所に出ていた。
空間転移?
「これがこの国の本当の隠蔽魔法だ。
 王家の人間はそのための道具だ。」
そう言って戒が向いた方角にあるのは……力。
そう、表現する以外にない。
ただただ、強大な、白い、白い、力だ。
「……白い。ただただ白い。なんだこりゃ……?」
「見た事もない術式だな。
 どうやら”奴”の話は100%真実らしい。」
戒はその力に対して手を伸ばす。
するとその白い力は戒に向かって伸びていく。
「右手が術式にでもなったのぉ?」
「そのようだな。
 俺の感覚ではあの結界の、
 七罪魔1体分を賄えるだけの力がある。」
つまり目的達成というわけだ。
だがまだ気になる事がある。
「……私に全部教えなかったのは文句言う気も起きないけどぉ。
 奴ってのは誰なのさぁ?」
「そうあせるな。此処を脱出したら教えてやる。」
どうだか。

地下室に戻り、王女の死体に私は目を向ける。
戒はまるで興味がないらしく、さっさと牢屋を出て行こうとする。
あとは変装でもして、機を見て脱出しろということだろう。
私達の関係として実に正しい対応だ。
だが一つだけ、今だからこそ聞きたいことがある。
「……なんで王女の方が都合が良かったわけ?
 答えろよ、それくらい。」
こっちは今日は散々な目にあったんだ。
あんまり都合よく使う気ならこちらにも考えがある。
「……その娘は、どのみち力の負荷で死ぬ寸前だった。
 支配能力の負荷でな。」
「え?」
私は王女の方を向く。
齢10程で死を覚悟していた、とでもいうのか?
馬鹿な、とてもそんな風には……
「何故貴様がその娘の方を気にかけたかは知らんがな。」
「……支配能力って何?」
「必要な時だけ支配する能力。
 さきほどあの空間への扉を開けたようにな。」
誰かがあのタイミングで仕組んだってこと?
そんな大層な力の持ち主なんて。
「まぁ間違いなく七罪魔クラス。
 つまりはそういう相手だ。
 次の戦いは俺たち全員で臨む。
 覚悟しておけ。」
そういう相手がこれから待っている。
そう言いたいのだろう。
戒はそれだけ言ってさっさと地下室を出て行った。

私は外の騒乱が止むまで王女の死体と共に眠りこけていた。
……何故、憐れんだ?
……何故、気づいた?
……自身が死を迎えると悟っていたから、普段は見えないものでも見えたのか?
……私の勘も、その死を察知していた、とでもいうのだろうか?
「阿呆らし。」
私は小娘の眼を閉じる。
「ゆっくり眠りな。」
私は適当にそこら辺にあったもので小娘を包み、適当な部屋に安置しておいた。
あとは城の誰かが勝手に見つけるだろう。
白騎士を通して闇月のことはもうバレている筈だ。
こんな場所に長居は無用。
私は適当な侍女に変装し、夜の間にその国を後にした。


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