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7話 楽槙再び



カイゼルの例の一件。
その始まりは一人の男との接触から始まった。
男の名は楽槙(らくしん)。
七罪魔の一角・暴虐の悪魔ガルガンの仮の名。
この男に比べれば、白竜ラピスティアなど組む価値もないことが分かるだろう。
無論リスクの程は語るまでもないが。

奴と再会したのは白竜が俺に接触する少し前。
偶々その日の俺はイムヌスに戻っており、一昔まえ通っていた路地裏の店に寄ったころ。
「おや、久しぶりじゃのう。ぐっふっふっふっ。」
いやそんな訳がないだろう。
なんでこんな場所にこの男がいる。
さすがに1秒程思考停止したが、いくらか話したあと奴は俺に情報を与えた。(さすがにイムヌスで暴れる訳にはいかない)
それがカイゼルの例の情報。
その真偽を確認できたら、また会おうと言い残し、去っていった。

もちろん奴の情報を信じた訳ではない。
だがどのみちカイゼルについては調査候補の一つとして上がっていた。
そもそも七罪魔が俺のような一介の戦士に接触してきたのだ。
この際、利用できるのであれば七罪魔だろうと利用する。
ただそれだけの話だ。

そしてその情報は100%真実だった。
その力は確かにあの星の中心を阻む結界。
本来なら七罪魔を倒さない限り突破できないあの結界を、一部とはいえ破壊できる代物だった。
奴の情報は確かに俺の役に立った。

ならば奴は本気で俺と手を組む気なのか?
そもそも奴は俺のことなど忘れた筈ではなかったのか?
疑問は尽きない。
だがいずれにせよ。

「再度会わない選択はない。
 それが俺の結論だ。」
俺は闇月、希殺を集め、楽槙との邂逅について話した。
この連中にこの話をするのはこれが初めてだ。
アートはいつも通り勝手に俺を眺めている。まぁこいつはこれでいい。
「あんたにしちゃ思い切ったことしたもんだねぇ。」
「実際このままでは時間がない。
 俺たちの寿命は永遠ではない。
 だが七罪魔共の時間感覚は人間のそれではないだろう。
 100年くらい居場所が分からない可能性も十分あり得る。」
「確かに確かに。
 未だ撃破されてる七罪魔は退廃と闘争のみ。
 しかもその闘争も……」
「復活が示唆されている。
 未だ1体だけが実情だ。
 仮に暴虐との約束を破り、奴を襲撃したとしても……」
「残りの七罪魔の居場所は検討もつかないってねぇ。
 こう考えるとほんと無理筋極めてるねぇ★」
闇月、希殺と状況を改めて認識する。
アートは黙りっぱなしだ。
案外こいつは俺以外がいると、あまり喋らない傾向にある。
「それで、貴方の方針としては?」
「俺は奴と同盟を組むのも悪くないと思っている。
 もちろん奴の真意を確認するのが先だがな。
 現在俺は七罪魔1体分なら肩代わりできる力を手に入れた。
 つまり暴虐だけを放置しても俺たちにとっては不都合がない。」
「いうて居場所分かんない奴らばっかりだし、難しくないのぉ?」
「まぁあくまで理想論だ。
 奴が本気で人間如きと同盟を結ぶとは思えんからな。
 いずれにせよ話をしなくては始まらん。」
結局、楽槙との話は俺とアートだけで臨むこととなった。


次の日、俺は楽槙が指定した場所に向かう。
楽槙が指定した場所。
それは。
「ぶわっはっはっはっはっ!
 ようこそ戒殿。
 だがまずは一つ、お愉しみといこうではないか!!」
「もう〜、楽槙さんったら〜、好きねぇ〜(ハート)」
娼館だった。
「あら君〜。此処は子供の来る場所じゃないわよ〜(ハート)」
娼婦がアートにまで絡もうとする。
というか単に仕事柄追い出そうとしているだけだ。(まともな対応である)
「まぁま、リザ殿。
 今回は拙僧の頼みということで勘弁して貰えぬか?」
「あら〜、仕方ないわね〜。
 楽槙さんも物好きね〜(ハート)」
あっさり引っ込んだ。
……少し催眠にかかっているな。
アートが追い出されそうになったから、それを防いだ位の意図のようだが。
つくづく読めない七罪魔だ。
「それで戒殿は何番が良いかな?
 拙僧のお薦めは……」
「如何せん女には困っていない。
 それよりも早いところ話を始めないか?」
「くっくっくっく。
 まぁ戒殿はそうかもしれぬのう。
 その気になれば女などいくらでも寄って来よう。」
俺の本性を知って近づいてくる女がいるとは思えんがな。
俺たちは楽槙が借りていた部屋に入る。
まぁ内緒話をするにはそれほどずれた場所でもない。
「さてでは早速だが……」
「うむ、そうさのう、そうさのう。
 では拙僧の女性の好みだが上から……」
「まずは楽槙とやら。
 俺のことをどれだけ覚えている?」
こんなところで七罪魔の名を出す必要はない。楽槙でいいだろう。
楽槙が何を覚えているかについては最優先で確認しておく必要がある。
心が既にいないとはいえ、アートの話だと他の七罪魔に俺たちのことが知られる、とのことだからな。
「やれやれ、冗談が通じぬ御仁よのぅ。
 まぁ良かろう。つまらぬ話はさっさと終わらせてしまうか。」
「あぁ。そうしてもらえると助かる。」
あまりがっつくと話が進みそうにないタイプだ。
ある程度は向こうに合わせる必要がある。
「お主が問いたいのはお主と拙僧が戦ったことについてであろう?
 ならば結論から言うとそれはそもそも拙僧のことではない。」
「どういうことだ?
 まさか貴様は二人いるとでも?」
「そうではない。
 夜子殿の研究室で見た筈であろう。
 我等は永遠の現象。
 ”この”世界で何をしたところで、生も死も我等にはない。
 また新たな虚像をもってこの世界に現れるのみよ。」
俺は楽槙の言葉を脳内で反芻(はんすう)する。
「……前に現れた貴様と、
 いま此処にいる貴様は、”器”が違うとでも?」
いや記憶のことも考えればおそらくは。
「その通り、中身もまた同様。
 拙僧はお主が戦った拙僧であり、拙僧ではない。
 もっとも永遠を通じて少なからず前回の拙僧の記憶を辿ることは出来なくはないがなぁ。」
俺はアートの方を向く。
知っていたのか?と。
それに対し、アートは首を横に振る。
「七罪魔から見たこの世界、という意味では私にも分かりません。
 それは彼等だけが持つ感覚ですので。」
「ま、そういうことよ。
 あくまで拙僧にとっての感覚じゃ。
 他の者たちがどう感じてるかまでは分からぬ。」
……成程な。
人間である俺たちにその感覚は理解し難いが。
つまり七罪魔は同じ個体が復活するのではなく、新たな永遠の現象がこの世界に君臨している。
それが俺たちからみればまったく同じ代物、というだけなのだろう。
「……まぁ、人間的な感覚で理解できる範疇ではあるか。」
「そうさな。
 拙僧の器は元来人間であるからなぁ。
 中身もそれに付随するというものよ。
 他の者たちはそんなこと感じてもいないかもしれぬ。」
「器が人間?」
「いくら現象といっても、素体は必要であろう。
 まぁプロトタイプとでも言った方が我等には分かりやすいかな?」
「………」
再度、この男の言葉を反芻する。
七罪魔は何度も新たな現象がこの世界に現れる。
だがその現象の下地となる素体。
それはすなわち。
「……遥か大昔に貴様らの元となった存在がいる。
 それが貴様にとっては誰かしらの人間であった。
 そういうことか。」
「ぐっふっふっふ。
 さすがに理解が早いわ。」
だからこの男からは悪魔や魔物の気配を感じない。
こうして接していても力のある人間くらいにしか感じない、ということだ。
知識としてこの男が七罪魔だと知っているから、既に前提は崩れているが。
「他の連中もそれは同様か?
 あぁあくまで元となった存在がいるか、という意味だが。」
「さてさすがにそれは分からぬな。
 例外がいないとは言い切れぬ。
 だが少なくとも……」
楽槙はそこで言葉を一度切る。
「グリモア殿に関してはそうだと、拙僧は睨んでおる。」
「………」
掌握の悪魔グリモア。
カイゼルの王女にかかっていた支配能力。更に白竜ラピスティア。
おそらく本題に入ったのだろう。
「そいつの素体は人間か?」
「それはまぁないであろうな。
 グリモア殿の素体は書物。
 人間たちは絶命の書(ぜつめいのしょ)と呼んでおる。」
先のこの男の話を考えれば、プロトタイプが人間であるとは限らない。
絶命の書とやらについては月詠夜夜子の施設でも僅かだが情報があった。
曰く大昔の狂人が描いた呪いの書。
その呪いの書に意思が宿った存在。
それがグリモアとやらのプロトタイプということだろう。
「成程な。
 それでそのグリモアと貴様の目的はどう関係する?」
本題を切り出す。
この男は俺にとって有益な情報を既にもたらしている。
ならばこの男の目的にも協力する素振りは必要だ。
「いまグリモア殿は自由に身動きがとれておらぬ筈じゃ。
 今のうちに素体だけを捕縛し、拙僧がグリモア殿の役割を奪い取る。」
「……役割?」
この男が欲しがる役割とはなんだ?
……いや役割自体が欲しいのではなく、この男の気性を考えれば。
「……七罪魔の事実上の司令塔。
 それを貴様が有してしまえば、貴様は自由に動けるようになる。
 それが貴様の目的か。」
「さよう、さよう。
 理解が早過ぎる。まったく怖いくらいじゃぞ。」
さてこの話どう転ぶか。
いや、どう転ばすか。
いずれにせよ七罪魔同士の諍いを利用しない手はない。
(よほど不利な条件を提示されない限り、一時的な同盟はほぼ決定だ。
 あとはどう自分たちにとって都合の良いシナリオを進めるか。)
俺は脳内でプランを立てながら、楽槙との話を続けた。


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