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8話 北方突入



「……以上が楽槙と話した内容だ。
 まぁひとまず奴とは同盟を結ぶ。
 勿論ラピスティアのようなその場だけの口約束でなく、中期ベースの同盟だ。」
闇月、希殺に情報を共有する。
こいつらならあっさり呑む内容かと思ったが、案外驚いてるようだ。
「……七罪魔と、同盟、ねぇ。
 なんていうか……」
「……あんまり僕好みの展開ではないですねぇ。
 やはり英雄は巨悪に打ち勝つことこそが王道。
 それと手を結ぶのはやはり、ねぇ……」
「別に関係あるまい。
 元々俺たちは英雄ではなく、裏で動く悪党みたいなものだ。
 真の英雄は俺たちの思惑など軽く超えていくだろう。」
希殺好みの言葉を適当に並べておく。
だがやはり反応は芳しくない。さすがに適当な言葉を並べすぎたか。
何がそんなに不満なのか俺にはいまいち分からないが、この認識の差はあまり良い傾向ではないな。
そうでなくとも次の戦いは今までとはレベルが違うというのに。
「……そういえばアート。
 貴様もあまり良い反応をしてなかったな。
 一応理由を聞いておこうか。」
「……別に戒の好きなようにすればいいと思いますよ。
 ただやはり七罪魔はこの世界の悪役的存在。
 同盟という形は”この”物語としては美しくない。
 物語に反した流れが都合よく回るとはあまり思えないもので。」
眺める者から見た考え方といったところか。
まぁ俺も奴との同盟など長く続くとは思っていない。
何故ならば。
「俺たちと奴の目的は最終的にはすれ違っている。
 いずれ必ず向こうから裏切ってくる。
 そしてそのタイミングはおそらく、次の北方の戦いのタイミングだ。」
「……それこっちとしては最悪じゃないのぉ?」
闇月がジャンクフードを食べながら不満気に言う。
そう。
楽槙の目的は掌握の悪魔グリモアの素体……絶命の書を捕縛すること。
そうすれば新たな永遠の現象が現れることなく、ずっと捕縛した状態で奴の都合の良い形に出来る。
だが俺たちの第1目標はあくまであの星の中心の結界を突破すること。
そのためには七罪魔を倒さなくてはならない。
つまり絶命の書を捕縛という形ではなく、破壊しなくてはならないのだ。
それは奴の目的に真っ向から反する。
奴がそれに気づいていない訳はない。
「白竜の時と変わらないじゃんねぇ。
 しかも今回は私達全員でも負けるかもしれない相手なんだしさぁ。」
「可能な限りのツテで次の戦いに備えてメンバーを集める。
 日時は25日後。
 出来る限りの戦力を各々用意するのが当面の対応だ。」
「そうは言ってもねぇ。
 あたし達は所詮イムヌスからのお尋ね者な訳だしぃ。
 希殺はイムヌスから戦力絞れないのぉ?」
「さすがに難しいでしょうねぇ。
 カイゼルの時はあくまでイムヌスにメリットがあっただけですし。」
残念ながら俺以外は大したツテはなさそうだ。
まぁ致し方ない。集められる面子でどうにかするほかない。
「それより闇月は参加してくれるのか?
 なにしろ戦場は北方だ。」
「……まぁ防寒対策は万全にするつもりだよぉ。
 前回の気に入らない終わり方の元凶がいるんでしょぉ?」
「あぁ。」
楽槙と組んで行う、次の作戦目的はただ一つ。
掌握の悪魔グリモアの素体、絶命の書の捕縛。
楽槙から開示された情報。それは奴はいま北方にいるということ。
おまけにそいつはカケラを扱えなくなっており、大きく弱体化しているとの話だ。
もちろん掌握の部下たち等、ある程度戦力は残っているだろう。
だが掌握自身が戦闘できる状態でない事も重なり、七罪魔相当の戦力は持っていないという話だ。
だったら俺たちなど必要ないだろう。そう進言したが……

「いやいや、そこはグリモア殿よ。
 戦力はなくても手札を常に隠し持っている。
 いよいよとなれば何が飛び出して来るか分からぬ。」

……とのことだ。
下手をすれば俺たちは私兵扱いで戦わされ、適当なところで捨てられる可能性すらある。
絶対に奴自身も戦闘させて疲弊させる必要がある。
「そんな事より裏切られなかった場合の私達へのメリットは抑えてるんだよねぇ?」
「あぁ。
 絶命の書はそれ自体が情報の宝庫らしい。
 俺たちや楽槙までもが知らない情報を、必ずや知っているとのことだ。」
月詠夜夜子の施設で得た情報から考えても、これは間違いないだろう。
奴が裏切らなければ、俺たちへのメリットは大きい。
星の中心の結界をもっと簡単に突破する方法も知っているかもしれない。
「……ふむ。まぁやるしかないですねぇ。
 僕も出来る限りの暗部を抑えておきましょう。」
「あたしは期待するなよぉ。」
希殺も闇月も乗り気は微妙なラインだが、参加自体はする気のようだ。
アートには別に聞く必要はない。
私は戒を眺めるだけですといつもの言葉が返ってくるだけだ。

さて現実的に考えればこの北方の戦いの勝率。
”俺たち”が勝利するという意味では、高くは見積もれない。
最大の問題点は、楽槙が最悪のタイミングで裏切る可能性が高いこと。
奴は俺たちが驚愕する顔を見て爆笑するようなタイプだ。
正直裏切って来ない可能性は1割以下だと思っている。
裏切って来なければその後のメリットは大きいが、まぁそっちの展開は今は考える必要はないだろう。

そしてその問題点に付随した更なる問題点。
今回の作戦は楽槙の情報が元になって作戦が立てられている。
つまりこちらが事前に作戦を用意することが難しい。情報は武器だ。
予想できる状況を検討し、事前に行動パターンを決めておく位しか正直対策はない。

楽槙の目的自体が嘘である可能性。
これはかなり低い。
カイゼルの件もあり、俺は既に楽槙から大きなメリットを得ている。
もしこれが嘘ならば、手間をかけ過ぎている。
俺たちを嵌めて何の意味があるのかという話だ。
それに加えて、月詠夜夜子の施設の研究員のリスト。
あれはやはり楽槙本人の可能性が高いだろう。
その頃も今と似たようなことを目論んでいたのかもしれない。

それと掌握の悪魔はそんな簡単に捕縛できるような相手なのか?
七罪魔の司令塔がそんな容易い相手とは思えない。
楽槙が裏切りに走ってることを予想していないのか?
如何せん直接会ったことがないからこれについては想像の領域を出ない。

まぁ問題は山積みだがそれでも得難い機会であることに変わりはないだろう。
最悪全滅の可能性もあるが、まぁその程度のリスクはいつものことだ。
最初から俺たちは神殺しなどという無理難題に挑んでいる。
この程度で臆する位なら最初からこんなことは始めていない。


そうして迎えた25日後。
俺たちは北方の指定された場所にいた。
北方は魔物がもっとも強い雪国の地。
当然人間などが住める場所は存在しない。

こちらの戦力は俺、闇月、希殺、アート。
「希殺さん!
 とうとう英雄様と会えるんですね!」
「あたしとても愉しみにしています!」
希殺が口八丁で集めた、これから奴の犠牲になるであろう男女が8人。
「ハッハァ!
 このワイを呼ぶとはさすが旦那ァ!
 この炎鬼ロイ、この程度の吹雪は燃やしつくしてやるぜェ!」
俺にサシ勝負で負けて以降、扱いやすい手駒となった炎鬼ロイ。
「きひひひひひっ。
 わたくしとの約束、忘れてなくて何よりですねぇ。
 捕まった奴の間抜け面が今から愉しみです。」
「……本に面はないでしょぉ?」
掌握の悪魔に恨みがあるという、死の使いキラ。
正直こいつの存在は掌握の悪魔の情報がなさ過ぎる現状、有難かった。
聞ける限りのことは事前にキラから聞いてある。
(残念ながらギルセイヌは見つからなかった。
 まぁ元々協力してくれるかどうかは微妙なラインだが。)
そして。
「ほぉほぉ、さすがは戒殿。
 面構えの良い者たちを集めてきてくれたなぁ。
 これは拙僧も楽が出来そうじゃわい。」
楽槙こと暴虐の悪魔ガルガンがニヤニヤ笑いながら現れる。
後ろに立つのは以前戦ったダイバーンというゴーレムに、アダマンゴーレムが10体。
奴の登場に俺以外の殆どが身構えてしまう。
もちろん今回は味方であることは事前に伝えているが、一度激戦を繰り広げた相手。油断できる訳がない。
それ以前に裏切ってくる可能性があると事前に伝えているのだから、身構えるのは寧ろ当然だ。
「今日は宜しくたのもう。ぐっふっふっふっ。」
「あぁ。」
以上がこの場に集まった面々。
目指すは北方の更なる北方。
世界で一番高い山とされる通称エバレスト。
そこに隠れ潜んでいるという絶命の書の捕縛。
(……もっとも真の敵はどちらか。)
俺、楽槙、掌握の三つ巴の戦い。
俺たちはエバレストに向けて、足を踏み出した。


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