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9話 ゴーレムの力
「……お坊さん、かぁ。
残念ながら、この辺りじゃあ……」
「……そうですか。分かりました。」
此処にもあの方の情報はない。
やはり一足遅かったということだろうか?
イムヌスでは確かにあの方の目撃情報があったのに。
となると普通の人が行けない場所に……
「……あの。」
「ん?」
声をかけられる。
女物とは思えない黒い服を着た、可愛らしい女性だった。
見覚えはまったくない、が……
「……もしかして、東方の方、ですか?」
「……えぇ、そうですが。」
正確ではないが、そう答えておいた方が無難だ。
夢から覚めたとか言っても、おかしな人としか思われないだろう。
「……すみません。どことなく雰囲気が似てると思ったので。
もしかして、と思うのですが。」
女性は胸のポケットから何かを取り出す。
それは、紙で出来た人型。
それを見て私は心臓が跳ねた。
「貴方が探しているのは、楽槙、という人ではないですか?」
「そ、そうですが、何故それを……?」
「失礼しました。
僕は蜜柑と申します。
出来れば少し話したいのですが。」
そして更に驚愕した。
この可愛らしい女性はどうやら男らしい。
北方は雪と氷の世界だ。
極めて危険な魔物が生息してるとされ、人間にとっては未開の地も多い。
逆に言えば隠れるには最適な場所。
マッドネスダルマ、ブリザードなど特に七罪魔と関係なさそうな雪や氷の魔物が俺たちを度々襲う。
こんな何の益もない場所に近づく冒険者はまずいないだろう。
「はぁぁぁぁぁ。マジさむいぃぃぃぃ。はぁぁぁぁぁ。」
厚手に厚手に厚手を重ねた闇月がそれでも足りないのか、両手を合わせて息を吹きかけている。
「こんな程度で寒いのかァ?
猫の癖して軟弱だなァ。カーッカッカッ!」
「……猫にどんな偏見持ってんのさぁ?」
ロイは散々動いてる事もあってまるで寒そうではない。
此処の魔物との相性の良さもあってずっと前線だ。
それ以外に前線に出ているのは楽槙が連れているゴーレム達。
正直言うと戦っているのは殆どこいつらだ。
俺も一応前には出ているが、一度の戦闘で炎砲斬一発撃っている程度。
その間にゴーレム達が魔物をタコ殴りにして戦闘はいつの間にか終わっている。
(……さすがにレベルが違うということか。)
いつぞやの楽槙の子飼いの子供が使っていたゴーレム達とはまるで統率力が違う。
性能はそれほど変わらないのかもしれないが、動きに無駄がない。
おかげで現在戦闘不能者はゼロ。こちらの疲弊も最小限で済んでいる。
俺がゴーレムの方を向いてるのに気づいたか楽槙はニヤリと笑う。
「まぁこの程度の相手は拙僧のゴーレムに任せておけば良い。
まだまだ本命は遠いであろうからなぁ。」
「そうだな。頼りにさせてもらう。」
……この場で裏切る気なのであれば、自分の戦力を率先して戦わせるか?
いやそう思わせて後ろから、という可能性は十分あり得る。
どのみちこんな序盤ではまだ何も判断できないだろう。
「今のところ掌握の悪魔は何も仕掛けて来ませんねぇ。
来ている事に気づいていないとは考えにくいですがねぇ。」
キラが掌握の悪魔の行動について思案する。
不安に思うのは分かるが、まだ肝心のエバレストすら遠い。
仕掛けて来るとしたら山のふもと辺りだろう。
そもそもまだ普通の冒険者が迷ってるだけと判断……はこちらに七罪魔がいる時点でないか。
キラと楽槙の共通の情報によると掌握の悪魔は魔力探知が非常に優れているらしい。
となれば暴虐の悪魔がいる時点で、見つけられない道理はない。
(……まぁそもそもあの山に本当にいるのかも怪しいところだが。)
そもそも戦える状況にないならば、形勢が悪くなれば逃げてしまうのではないか?
「スターライトアロー!」
「……っっ!?」
大量の矢が空中から放たれる。
いや右側が高台になっており、そこから放たれたか。
「ウワァァァァッッッ!!」
希殺が連れて来た男がもろに喰らう。
矢の威力は高く腕、足、胸がもろもろ消し飛んだ。即死だろう。
高台の上にいるのは腕が四本もある緑色のデーモンが数匹。
(見たことのないタイプだ。)
いずれにせよあんな場所からあんな攻撃を連続で放たれたらひとたまりもない。
「なぁになに。
今こそダイバーンの真価を発揮する時よ。」
楽槙が愉快そうに言うと、ダイバーンと呼ばれたゴーレムから岩の翼が生える。
そして飛んだ。
「……いや飛ぶのかよあれ。」
闇月がツッコミを入れてる間にもダイバーンは空高く飛翔。
緑色のデーモンは呆然とそれを見ている。
その間にダイバーンの両腕が胴体から離れデーモン達に直撃した。
「……いやあれじゃ謡さんの機械的なアレじゃん……」
闇月のツッコミが止まらない。
心がいたら喜んでそうな場面である。
その後も両腕が何度も生えて、その都度発射。
ひたすら続く腕の攻撃に、デーモン達はあっけなく倒れた。
そしてダイバーンは両手を上げた。そしてぐるぐる回りだす。それだけだが。
「……なんだあれ。」
あとは闇月のツッコミに任せる。
その後も何度かハイデーモンや四本腕の緑色のデーモン(デモンズガードと言うようだ)が襲ってきた。
だがその殆どはゴーレム軍団によって叩きのめされ、俺やロイが討ち漏らしを担当した。
おまけにゴーレム軍団は戦闘が終わると気力もダメージも回復するらしく、疲弊はほぼゼロに抑えられている。
こちらの損害は死亡者一人のまま、ついにエバレストのふもとが見えてきた。
(……本当に俺たちは必要だったのか?)
そう思わずにはいられない。
「……しかしそれらしい魔力を感じないな。
まさか本の状態で無防備にいる訳もないだろう。」
「それはわたくしにはなんとも。
奴の本体がまさか本などと、思いもしなかったものでして。」
キラはその事を知らなかったらしい。
仕方ないので楽槙に尋ねる。
「まぁグリモア殿は魔力を隠蔽してるであろうな。
お主も知っておろう?」
「カイゼルの件か。」
だとしたらあの国にあった白い力は。
「まぁそれはいま考えることでもなかろう。
ほれ、いよいよ本番のようじゃ。」
それはどういう意味だ?
そう尋ねようとした時、叫び声が上がる。
音の方角が掴めない。
それもそのはず。
叫び声の大元は一つではない。
「……声からしてドラゴンか。」
白竜ラピスティアが配下にいた事を考えればおかしくはない。
さすがにゴーレムだけでは今度は厳しいだろう。
全員が戦闘態勢に移行し、そして俺たちが見たもの、それは。
「……白い竜。まさか……」
東の方角からナイツが討伐した筈の白竜ラピスティアが出現した。
それとも別個体か?
「前回はよくもこの僕をコケにしてくれたなぁクソ人間共。
この借りはここで万倍にして返してやるよ!」
どうやら別個体ではないようだ。
楽な相手ではないが、勝てない相手ではない。
他方面から来るであろうドラゴン達を二軍で相手するよう指示し、俺たちは白竜を……
「な、これはどういう事だァ!?」
ロイが驚きの声を上げる。
何事かと視界でロイが向いている方角を見ると……
「……白竜、ラピスティア?」
南からも白いドラゴンが現れる。
「うわあっちからも来たしー……」
闇月がもはや呆れたように西の方角を指さした。
どうやら西にも白竜がいるらしい。
そして正面北。
もはや驚くのも億劫。
当然のように白竜ラピスティアが其処にいた。
ありえない事態に驚愕すべきなのだろうが、如何せんそんな暇はない。
動くことを止めた者から死ぬだけだ。
「さぁ今こそ僕の本気を見せてあげよう。
全員まとめて氷漬けにして、僕の城のエントランスに飾ってやるよ!」
「ほっほぉ。面白い事を言うではないか。」
笑っているのは楽槙だけだった。
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