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10話 白竜包囲網
「にぃー。遊びに来たよー。」
ふよふよふよ。
あれ、いないなー。
「どこかに出かけたのー?」
それって何百年ぶりくらいー?
でもせっかく北方まで来たんだから。
「もう少し探してみよーかなー?」
ふよふよふよ。
東西南北。
俺たちを囲むように現れた四体の白竜ラピスティア。
こんなことあり得ない等と狼狽している暇はない。
四色ドラゴン級が4体も一斉攻撃してくれば、楽槙以外は即座にご臨終だ。
1秒で状況を把握する。
……まず最悪のパターン。
4体全部が実は本物。もしくは白竜ラピスティアと同程度の力を持つドラゴン達。
その場合、逃げの一択だ。(逃げることすら難しいとは思うが)
本来、四色ドラゴンはトップクラスの冒険者やナイツが一斉にかかって対処にあたらないといけない程の大物。
それが4体など話になっていない。
だからまずはその可能性がないことを確認する必要がある。
……現実的なパターン。
1体のみが本物で、残り3体ははりぼて。
幻か、偽物か、理屈の程は分からないが。
掌握の悪魔は今は戦力を持ってないという情報も踏まえれば、この可能性が一番高い。(情報の大元が信用できないが)
この可能性を確認するのが最優先。
「……楽槙殿。3体をゴーレムで抑えることは出来ないか?」
3体を一時的に抑え、1体を集中攻撃して倒す。
その1体が本物でなければ、そんなに時間はかからない筈だ。
「そうさのぉ。では残り1体はお主たちが倒す、という事でよろしいかな?」
「あぁ、それが俺たちの責務だろう。
もちろん1体を倒せば残りの撃破にも協力する。」
ゴーレムとは本来攻撃よりも守備に優れた生成生物。
時間稼ぎにはこれ以上ない存在だ。
楽槙が信用できないなどと言ってられる状況ではない。
彼が味方のうちは協力を願うほかない。
(このタイミングで裏切ることは考えにくい。
裏切るなら掌握の悪魔が出てくるタイミングだ。)
無論可能性はゼロではないが、どのみちこれ以上考えてる暇はない。
「ニューホワイトブレス!」
東西の白竜が氷のブレスを吐く。
「正面だ!全員で一気に正面の白竜を倒す!」
「仕方ありませんねぇ。運動は苦手なのですが。」
「ハハッ!待ってたぜェ!」
俺を先頭にロイ、希殺、キラ、アートが続く。
5vs1に持ち込めば倒せない相手ではない。
東西から放たれたブレスは俺たちではなく、真上に放たれていた。
たちまち凍った空気が氷となって俺たちの元に落下する。
「アイスウォール!」
キラが即座にウォールを張る。はたしてこれでどこまで持ちこたえるか。
「こんな、激しい運動を、眺める者の、私に、要求、されても、ねぇ……っ!」
アートはなかなか前に進めないようだ。鈍間め。
「撃ち込め!希殺!」
希殺が俺の指示と共に銃弾を撃ち込む。
ただの銃弾では連射できないので、大した牽制にはならない。
だが正面の白竜は未だに微動だにしていない。
はりぼて案が当たりか?
そう思ったのも束の間、正面の白竜が右足を前に出す。
そのまま一気に加速した。
俺は剣でその一撃を受け止める。
……と思わせ光学迷彩を発動。即座に回避。
狙うは内側だ。
「体内爆!」
白竜の首元を狙う。
「ハッハァ!!」
後ろからロイが続き、拳に炎を纏い、一撃一撃を着実に打ち込んでいく。
はりぼてならそろそろ倒せると思うが……
「………」
白竜の表情は変わらない。
ただニヤニヤ笑っているだけだ。
ただ向こうの攻撃はそれほど激しくない。並のドラゴン程度だ。(それでもきついが)
(……並のドラゴンが白竜を演じている?だがこの手ごたえのなさはなんだ?)
倒れる気配を感じない。
どうする?時間をかければ……
東西の白竜はひたすらブレスを空中に向かって吐き続けている。
これ以上極寒地獄に晒されれば楽槙以外は全身氷漬けになってお陀仏だ。
私は一人動かず、四方の白い巨体を”同時に”観察し続ける。
猛吹雪のせいで視覚はもう何の役にも立たない。
ゆえに五感全てを総動員して観察し続けていた。
厚手に厚手に厚手をしてきたが、もうその多くが白一色に染まっていた。
既に猫耳、尻尾は凍っている。
だがそれについてはもう無視する。
私が完全に凍結するまでもう僅かだろう。今回の戦いは相性が元々悪いのだ。
だがその前にこの仕掛けだけは看破する。
(……やはりこいつら、動きがおかしい。)
東西のドラゴンはただブレスを吐き続けている。
南北のドラゴンは物理的な攻撃を仕掛け続けている。魔法は一発も撃ってこない。
”対照的”
(ならばその仕掛けは、それぞれの中間の位置。)
灯台下暗し。
空中か、地中か。後者なら最悪だ。
だが仕掛けは確実に存在する。
私は大声を出そうとするが、肺まで既に凍り始めている。声が出ない。
だがこの猛吹雪の前ではジェスチャーしても見えないだろう。
ならば伝えられるのは”これ”だけか。
私は自分の氷漬けの尻尾を無理矢理”引き千切った”。
凍ってるせいで痛みは今は感じない。後のことを考えると地獄だが今は無視する。
千切った尻尾を正面で戦ってる男に投げつける。
そこで私の思考も白に染まった。
闇月から投げられた贈り物。
闇月には戦いには参加せず、状況だけを見極めろと指示している。
だがちゃんとしたメッセージを用意する余力などなかっただろう。おそらく既に闇月は凍結している。
奴からのメッセージの意味を即座に読み解け。
……深い意味は用意できない。メッセージはいたって単純だ。
(……千切った尻尾。尻尾切り。そこから連想できる言葉。)
尻尾切り。
切り捨て。
不要。
偽物。
この場の白竜の相手は。
(……無駄か。)
つまりはそういうこと。
この場に本物の白竜はいない。
そして戒以外にもう一人。
この男も確かに闇月からのメッセージを受け取っていた。
(闇月さんは有能だ。彼女の有能さはあの男よりも僕の方が知っている。)
彼女がいま氷漬けで”立っている”位置。
僕は僕たちが紡いだ絆を信じるとしましょう。
ならばいまこそ手駒を使うとき。
「さぁ共に英雄劇を求める僕の同士たちよ!
闇月さんの周辺を焼き尽くすのです!
今こそその開幕を、派手に迎えようではありませんか!!」
「は、はいっ!」
僕の可愛い手駒たちが闇月さんの元に向かう。
今回は氷の舞台。
ならばこの手の用意は、並の冒険者でも考える。
「い、行くぞぉっ!
全ては英雄様のためにぃっ!」
僕の手駒たちはクリムゾンウェーブの巻物を一斉に投擲した。
たちまち闇月さんの周辺に炎が舞う。
その様子を僕は瞬きせず注視した。
見るべきは炎ではない。
「魔法耐性は、まぁあるでしょうが、これはどうですかねぇ!」
銃を構える。
炎が一瞬消えている位置。
”それ”は魔法耐性があるのだろう。その空間だけ不自然に火が灯らない。
変に魔法耐性をつけたがるのは、魔法使いの性か。
七罪魔であってもそれは同じらしい。
”そこ”に向かって銃を撃つ。
そして。
ガッシャアアアアアアアン
その仕掛けは”砕け散った”
四方の白竜の虚像と共に。
だが勝利の余韻こそがもっとも危険な瞬間。
俺は目の前の白竜が砕け散った瞬間、精神集中した。
前方。後方。
後方にはロイがいる。直接俺には仕掛けられない。
上。
ドラゴンなら空中から仕掛けるのが定石にして王道。だが。
氷のドラゴン。
そして俺が会った中で、もっとも腐った臭いのドラゴン。
ならば王道は守らない。
「地中だ!!」
精神集中解放。
俺は伝承ソードで視界全てを葬り去った。
目の前には腕を落とされた怒りの白竜。
「くそ、人間がああぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっっっ!!!」
奇襲が成功すると確信していたのだろう。
こんな反撃を受けるなんて思ってもいなかったか?
策謀家気取りは、自分が仕掛けられることに対して鈍感だ。
自分の策に酔いしれた結果。
「貴様は死ぬ。
まぁ、どのみち殺すがな。」
怒りのまま突撃してくる巨体など狙いやすいだけの木偶の坊。
俺は跳躍して回避、そのまま白竜の両目を斬り捨てた。
だが吹雪は止まない。
氷漬けの世界は続く。
そしてそれだけにとどまらない。
「……これ”以上”、この地に腐った臭いを撒き散らし続けるか。
下等なものどもが……」
深い、不快、怒りが大地を揺らす。
白竜の包囲網を突破した俺たちの心にその嘆きと怒りは伝搬する。
白竜をも超える巨体。
3つの首。
「ならば喰らってくれようわ!
この地を穢したこと、地獄の底で懺悔せよ!!」
魔狼フェンリル、来襲。
神魔の宴が、始まる。
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