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15話 夢の終わり
……夢を。
……夢を、見ている。
……終わらない、螺旋の、夢。
……想い続ける者が夢見て、遊ぶ者が穢した、無限に続く夢。
「……何ですか貴方は?
ジロジロ見ないでください。
それとも貴方は楽槙様がどこにいらっしゃるのか、
知ってるとでも言うのですか?」
……そこは、町の酒場。
冒険者の、憩いの場。
冒険者が、集まる場。
……そう、自分の想いを、夢を、諦めきれない者たちが……
……夢叶わぬ道化たちの……
「……楽槙様は私が幼い頃、私を拾ってくださいました。
今考えればきっと気まぐれのようなものだったのでしょう。
特に大した理由もなく、その日の気分で私を拾ったのだと思います。」
……どこにでもいる捨て子。
……それが”現実”の私。”現実”の名もなき小娘。
「でも今考えれば、楽槙様は過去の悪行についても、
私に話していた気がするんです。
にもかかわらず、私はそれに気付きもしませんでした。
甘い幻想に浸っていたんです。」
……だから夢見た。
……誰かに拾われて、人の生活をする夢。
……人らしくあれる夢を。
……想い続ける者は、私の夢を拾ってくれたのかもしれない。
「捨て子でもそのような事を思うものか?
ほっほっ、人間を拾うとグリモア殿がうるさそうではあるが。
これも運命というものかのう?
まぁ、そんなものを信じた事はないがなぁ。」
……その拾う相手が楽槙様だったのは。
……遊ぶ者が穢した結果かもしれない。
……予想される最期を弄ぶために改変された夢。
あれは、そういう世界。
想い続ける者と、遊ぶ者による、夢の改変合戦世界。
誰かが夢を見て、更にその夢が改変され、想われ、穢され、それが永遠と、永遠と……
「ゲームと現実の区別もつかないお子様なんかに、
私達は負けてやる義理はありません。」
だが夢はいつか覚めるもの。
その夢の繰り返しも、いつかは。
……けどならば。
そこで見た夢はどこに行ってしまうのだろう?
その夢が現実になって欲しいと。
実現して欲しいと。
そう考えてしまうのはいけない事なのだろうか?
夢が覚めるその瞬間、私の脳裏によぎった考え。
そのとき一瞬だけ垣間見た。
知らない女の、姿。
「須らく、救ってあげよう。
みなみな、拾ってあげよう。
君たちのその夢を。
たとえそれが。
終わりなき悪夢だったとしてもね。」
……そう。
その甘い囁きこそが、全ての……
だが……
「いやいやそれは困る。
拙僧はもう少し見てみたいのよ。
この者たちがこの夢を通して。
どんな現実を生きていくのかをな。
そのザマを酒を飲みながら爆笑すると決めておるのじゃ。
拙僧の愉しみをお主は奪う気か?んん?」
「やれやれ、なんて酷いことを言うのかな君は。
地獄のような現実を生きろとか、悪魔かよ。
あ、悪魔だったわ。
じゃあしゃーねぇな。」
そしてそこで見たものも。
私から取り上げられた。
閉じられた。
それで、終幕。
夢の、終わり。
……だから……
「………」
そこは、きっと現実。
その小娘は、捨て子だった。
誰にも拾われなければ、そのまま飢え死するだけの小娘。
世界に山のようにいるようなエキストラ。脇役。モブ。
「……死なない。」
……でもそんな事は、知らない。
何故ならば私は……
「……私は、花千代だ。
このまま、ただ死んで、たまるか……」
意思。
生きるための意思。
私はあそこで見た夢を、必ず。
実現して見せる。
やせ細った四肢をずるずると引きずりながら。
私はその捨て子の山から脱出した。
夢を見る、のではなく。
その夢を、実現するために。
都合のいい誰かが。
楽槙様が拾ってくれたりなど、しない。
甘えるな。
そんな夢のような出来事が、現実に都合よく降って来ると思うな。
今度は、私が。
私の方が、叶える番なんだ。
あの方は、七罪魔だ。
たとえどの時代が私の生きていた時代だろうと、必ずどこかに存在する。
そう、決してこれは。
実現不可能な夢なんかじゃない。
そしてもう一つ。
可能な限り、見つけようとした。
夢で見た、私達の仲間を。
でも、その望みは。
私には、叶えることが出来なかった。
所詮は、なんの役割も与えられていない、ただの小娘の悪あがき。
そんな風に囁く声がたまに聞こえてくるのは、私の幻聴だろうか?(幻聴です)
「……だったら。」
でも。
それでも。
「私も混ぜてくださいよ。楽槙様。」
……一つは、叶えた。
私は、その邂逅を果たしたぞ。
ざまぁみろ。くそったれな夢の道化師め。
勝手に哀れと決めつけて救おうとした、どこかの誰かめ。
だからこれは、私の勝ちなんだ。
たとえ……
「……その娘。」
「誰だったか?まぁ良い。
余を愉しませてくれれば、その過程など問わぬ。」
此処でその命運が、尽きるとしても。
「究極・物理防壁っ!!」
会話は、要らない。
語る言葉は、ない。
そんな甘い時間、この化物に挑んだ時点でないものと知れ。
「闘争乱舞!」
「婆娑羅羅漢拳!!」
火花が散る。
大地が震える。
七罪魔同士の殴り合い。激突。
だが、楽槙様へのダメージは私の結界で半減された。
「ほう。
では次は魔法合戦と行こうか。」
奴の掌から放たれるは地獄の雷。
敵味方関係なく巻き込む、滅びの力。
だったらこっちは。
「アダマンティス!!」
魔法なら、これで防げる。
詠唱速度で人間の小娘の私が、七罪魔に勝てる道理はなくても。
私には、知識がある。
お前たちと戦うための知識が。
だから全て先読みする。
それができない限り、勝ち目はない。
「……防いだ?
よく余の攻撃パターンが分かったな。」
「……そうではありません、ガラハド。
あの娘は夢の世界の記憶を持っている……」
「ほう?
器でもないのにか?
どういう流れでそんな事になったのかは知らぬが。」
奴の気配が変わる。
遊びの時間が、終わる。
「……こうなると互いに全力でないのが惜しいと感じてしまうな。
まぁそれも仕方あるまい。
貴殿等の命運がなかったというだけの話だ。」
「くっくっ、で、あろうなぁ。
だが花千代よ。
ガラハド殿の全ての攻撃を見切れれば、
勝敗は五分まで持っていけるぞ。」
「成長した私であれば、そんなこと余裕です。
勝つのは、私達です。」
不思議と。
自然と、共闘していた。
既に、別離すらもしていたというのに。
人生は、現実は、何があるのか分からない。
……そこが、私にとっての夢の終わりだったのか。
……それは、私には分からない。
……あぁ、でも。
……悪くない、現実だった。
その最期は。
何のドラマも風情もなく訪れた。
闘争の悪魔から放たれた左手の一撃。
花千代の結界では防ぐ事が出来ない類の一撃。
それをまともに受けて、だから当然のように彼女は。
絶命した。
一瞬の、決着。
味気など何もない、夢の終わり。
「………」
現実は、まぁ甘くないものよなぁ。
その邂逅は、奇跡だったのかもしれない。
花千代は、確かな成長を遂げた。
その意思が矮小だったわけでは決してないし、その戦い方はベストなものだっただろう。
それでもこの結末は、動かせない。
ただ単純に、拙僧と花千代の連携を足しても、ガラハド殿の方が上だった。
総合値で負けたというだけの、つまらない勝敗の理由。
奇跡は、ここまで。
「さらばだ、ガルガン。
次の時代か、次の世界かで、また会おう。」
幾重にも続いた、北方の戦いも。
これにて一つの終幕を迎える。
だがあくまで一つの終幕。
次の戦いが、騎士達と魔王の戦いが、この地で繰り広げられる。
それはそう、遠い未来ではないだろう。
「どうでも良い、が……」
その戦いに関心がないグリモアは、亀裂が全身に走り、あっけなく崩れ落ちた。
ガラハドはその様子を見向きもしない。
ただ単に、次の戦いに向けて瞑想するだけだ。
「……あぁ、ちくしょう、ちくしょう。」
そしてもう一つ。
本当に全員から忘れられていたラピスティアの残骸が。
混沌竜だったものから剥がれ落ちた、30cm程のトカゲみたいな何かと化して、ずるずると動いていた。
「回復、しない……ドラゴンでも混沌竜でもなくなった……ちくしょう、ちくしょう。」
それでも、まだ死んでいない。
悪あがきだと、言いたければ、言うがいい。
僕は、まだ死にたくないんだ。
だがその身体すらも、崩れ落ちていく。
あぁ、ちくしょう、こんな終わり方なのか……
……グリモア様が消えた時点で、力の供給はもうない……
……どう考えても、こんな姿では生きられない……
だからラピスティアは。
生存を完全に諦めた。
現実にただ屈した。
だからそれが完全に死骸になる前に。
私はそれを手に取り、そして。
口の中に突っ込んだ。
まだ、生命力が残っている。
ならば、私の苗床となるがいい。
「ははっ、あははははは……」
私は、闇月は、ラインは、まだ生きている。
死にたい筈なのに、生き汚い、野良猫。
「夢の終わり……?
はは、知らねぇそんなもの……」
……私は私が死にたい時に死ぬ……
……それ以外は認めない……
だから彼女は。
生還した。
そして。
(……収穫はゼロではなかった。
七罪魔は残り半分。)
当然ながらこの男、戒もまた無事に帰還を果たした。
だが今回の戦いで負ったダメージは、小さくはない。
そうでなくとも自分の肉体の全盛期は、とうに過ぎている。
(……老いによる肉体の衰え。
戦士にとっての当然の宿命。
いずれにせよ時間はないな。)
だが変わらない。
俺は俺の成すことをもう決めている。
どう生きて、どう死んで、その後どんな地獄に落ちるかまで。
ゆえに。
(最後の、療養だ……
”あの地”に、一度帰還するとしよう。)
希殺、ロイ、キラと別れ。
俺は一人、ある地を目指す。
当たり前のように後ろを歩く眺める者と共に。
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