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22話 雨宮古都
雨宮古都。
現連盟の一人。
元々は旧連盟の一人、文武兼備・砂上姫香配下の諜報員の一人。
能力は優秀だが、何に関しても熱意がなく、砂上姫香は彼女を使いあぐねてた節がある。
その彼女に良くも悪くも変化があったのは今から10年前。
旧連盟の一人、矛盾曲・巡真那に瓜二つの少女、刹那が現れた時。
砂上楼閣は刹那が現れた時、すぐさまこの雨宮古都を彼女の監視役に任命した。
何故ならそれこそがウルイエル卿との約束だったからだ。
そう、雨宮古都の正体は、旧連盟の一人、妖娼婦・隠脳魅彪(みあや)の娘。
隠脳魅彪がただの下層の娼婦であった頃の名、雨宮彩奈だった時に産んだ娘の一人。
その頃の名は雨宮琴。
妖娼婦には他にも沢山の子供がいたが、雨宮彩奈が娘と認識していたのはこの雨宮琴のみ。(つまらない言葉でいえば認識障害の類と思われる)
だがその母子の仲は実の父親であった砂上厳國によって引き裂かれた。
国のデータベースにおいてはその辺りの詳細な情報はない。
雨宮古都の年齢も経歴も、雨宮琴の件について完全に省かれた、嘘八百のものになっている。
雨宮琴時代から数えれば、雨宮古都の年齢はもう結構なものの筈だ。
巡教会のカルナス司祭に扮していたウルイエル卿によって、雨宮古都は砂上厳國から引き抜かれた。
だが巡り巡って今度は砂上楼閣に引き渡され、そのまま砂上姫香の下に配置される。
そして今度は巡真那の姿を持つ、刹那のある意味一番の相談役的なポジションとなる。
こうして整理してみるとなんて数奇な運命だろうか。
僕にもこんな運命が欲しかったものだ。
あぁちなみにウルイエル卿は僕と密接な関係にあると思ってる方もいるかもしれませんが。
彼は僕に刹那と雨宮古都の情報を少し渡しただけで、肝心要の事は何も聞かされていませんよ。
僕は僕が望む英雄劇を見たかっただけ。その過程がたまたま卿にとって都合が良かっただけでしょう。
まぁつまり卿にとって僕なんてただの駒の一つ。
闘争事変が終わった後は一度たりとて接触して来た事はありません。
当然、刹那の結末がどうなったのかも僕は知らされないまま。
哀しいなぁ。
「まぁ普通に考えてウルイエル卿が砂上厳國から引き抜いた時に、
雨宮古都はなんらかの肉体改造的な何かを施されたと考えるべきでしょうね。
さすがに身体年齢に変化がなさ過ぎる。」
そしてその時に精神も変化したのかもしれない。
雨宮琴がどういう人物だったかまでは僕には分からないが。
砂上厳國に連れ去られ、その後の過程で雨宮琴の精神は壊されてしまったと考えるべきだろう。
では新たな主人格となった雨宮古都は雨宮琴が生んだ別人格か何かか?
「病院のカルテにはそうありますねぇ。
まぁこの辺りは一般的な解離性同一性障害の話でしかないので、別にいいや。」
連盟時代に念のためコピーしておいたカルテを投げ捨てる。
別人格の件はともかく、彼女はいろんな旧連盟との関わりがあった。
妖娼婦、文武兼備、代行に、そして矛盾曲。更に今は自身が連盟。
ある意味で連盟になるべくしてなったと言えなくもないが……
「そりゃ砂上楼閣にとっては都合が良いでしょうが、
彼女の意思なくしてはたして連盟にまで取り入れたかと言うと……」
否だろう。
彼女が連盟になったのは、彼女自身の意思だ。
一般的には国の最高権力である連盟は、権力者にとっては理想のポストだ。
だが雨宮古都がそういったものを望む人間だったかと言うと。
「まぁさすがにそこまで断定は出来ないか。
僕は彼女の人となりをさして知っている訳ではない。」
こんなものはただの文字の羅列に過ぎない。
今の彼女が何を考えてるかなど、彼女にしか分からない。
(そういえばあのメイドは……)
特に気にも留めていなかったから忘れていたが。
「あの刹那のパーティーにいた気がしますね。
他にはどんなのがいたかなぁ……」
僕は脇役の顔と名前を覚えるのが苦手なのですよね。
全員思い出すには時間がかかりそうだなぁ。
「あとは謡さんのとこのエルフに……
あぁこれ誰かと思ったら昔なんか壊れた娘じゃないですか。
いましたねそんなの。」
僕は記憶を辿りながら人間関係をメモする。
当時はどうでもいいと思っていたが、メイドがいた以上は他の面子も可能性がある。
連盟である雨宮古都を中心に何らかの暗躍をしているかもしれない。
さすがに考えすぎとは思うが、まぁどうせ暇潰しだ。
別に外れてたところで僕に害はない。
「さてこの中で国のデータベースにあるのは……と。」
エキドナ・スーパー。
桜坂音羽。
桜坂君代。
入鹿・キリアス。
セイレン・ホワイトパール。
……しかし適当な姓つけてる奴多いなぁ。
姓は貴族の関係者とかでなければ、割と自由に自己申告が可能だ。
この中で一般的に有名なのは桃騎士の桜坂音羽と、巡教会の筆頭魔導師エキドナ・スーパーだろう。
(もちろん国のデータベースにない人物が暗躍してる可能性はある。
ただその辺りの管理は10年前に比べればかなり厳しくなっている。)
国に属していない人物は今では簡単に出入りは出来ない。
ほぼ全てのルームメイターには国による監視網がひかれている。
「ただ雨宮古都は連盟だ。
監視網を抜けることは不可能ではない。」
やはり全員チェックしておいた方がいいだろう。
「あー。疲れた。」
く、興味のない人間を思い出すのは骨が折れる。
暇潰しにしてはちょっと苦行が過ぎる。
「シャルディーナ・エレインが所有していた33号についてはギリ分かりましたが、
他はもう分かりませんね。
国のデータベースにない人を特定するのは手間すぎる。」
なにせ10年前だ。
刹那がいなくなった後にこのパーティーは解散している。
その後の個人的な付き合いまで今から追うのは手間すぎる。
さすがにそこまで本気で取りかかる気はない。
(なんか割と重要な人物を見逃してる気がするのだが。)
あくまで僕の直感だが。
あとは当人達に確認するほかないか。
(また適当な人間を洗脳して間接的に確認させますか。)
さて誰を狙うか。
有名人物への接触は足がつきやすい。
とはいえ所在が分かるのは、データベースに存在する5人のみ。
(……しかしこの入鹿というメイド、まさか雨宮古都の下にいたとは。)
元はイサカ・キリアスという貴族の下だったらしい。
こうなると彼女を狙うのは危険か。まぁ雨宮古都と行動してる時点で無理だが。
ナイツの音羽、巡教会のエキドナは有名人だ。接触は避けたい。
桜坂君代は……貴族とはいえ冒険者としての側面が強い。
ただ割と油断できない人物ではある。
(……となると一番安全そうなのは。)
この人造エルフか。
なんかトロそうだし。
僕はそこら辺で見かけた15,6程の娘と少し会話した。
さして身分も高くない一般的な学生の娘だ。(今では学院に通えるハードルも大分低くなっている)
たぶん親から虐待を受けており自我が脆い。その影響で冒険に憧れてる節があったので今回の洗脳対象に選んだ。
彼女にセイレンと接触させ、当時の冒険譚について話させる。
それを僕が聞いて、確認は終わりだ。
その後に記憶が残って僕に繋がると面倒なので、1週間後に行方不明というシナリオにしよう。
暗部時代の常識。物的証拠は一切残さない。
ちなみに一番楽な方法は魔物の餌だ。
「それで、どうでした?」
僕は洗脳した少女に確認する。
「とても、愉しい、お話でした……
私も、あんな、冒険が出来たら、ほんとに……」
「あー、貴方の希望とかどうでもいいので。
僕が質問した事にだけ答えてください。」
僕は手を2回叩く。
すると少女の眼は更に虚ろになる。
自我が脆い系だと、質問形式でしか聞き出せないのが難点だよなぁ。
「じゃあまず刹那、古都、エキドナ、音羽、君代、入鹿、セイレン、33号以外で、
このパーティーに所属していた人物の名前を全て答えなさい。種族は問いません。」
「……アリン。コダマ。世良。バロン。スラーク。鈴蘭。」
アリンは吸血鬼。
コダマは氷鬼。
世良は人魚。
バロンはアンデッド。
スラークは……よく分からないが自称元スライムらしい。
鈴蘭というのは33号の呼び名のようで、刹那がつけた名前らしい。
「ほんと選り取り見取りですねぇ。
じゃあ今挙げた全員と先に僕が挙げた全員。
その中で刹那と仲が良さそうな人物は?」
「……古都、アリン、エキドナ。」
まぁあくまでセイレンの主観に過ぎないが。
あの人造エルフの人間観察力が大して優れてるとも思えない。
ただその中に古都とエキドナが入ってる以上、このアリンという娘も割と重要人物か?
「では雨宮古都と仲が良さそうな人物は?」
「……たぶん刹那。」
「それ以外では?」
「……分からない。よく喧嘩してたけど、アリンかも?
エキドナとは少しだけ仲良かった、かも?」
……概ね刹那、古都、アリン、エキドナが中心と見れるか?
アリンという吸血鬼が気になる。
「このアリンは今はどこにいるか?」
「……分からない。」
一応もう一つ。
「刹那の居場所は?」
「……分からない。」
こっちは期待してない。念のためだ。
さてアリンという娘は気になるがこれ以上情報を引き出せそうにない。
雨宮古都以外だと、エキドナに接触するのが一番の近道のように思えた。
あとは現在の動向だ。
「パーティーが解散した後、雨宮古都とは接触していたか?」
「……分からない。でも汗を流して、言葉がしどろもどろになってた。」
接触してるな。
入鹿だけでなく、セイレンとも雨宮古都は接触している。
元パーティーメンバーぐるみで何かやっている可能性が少し上がった。
(……さてどうしたものか。)
手段1。セイレンを誘拐し更なる情報収集。
ただ雨宮古都とセイレンの接触頻度次第では、雨宮古都に勘づかれる可能性がある。
それはイコール連盟を敵に回す事と同義だ。
最悪、戒との同盟にすら亀裂が入る。
そこまでのリスクは冒せない。
手段2。エキドナと接触し情報収集。
手段1よりはマシだがセイレンからの情報収集に比べればリスクは格段に上がる。
この洗脳した娘を引き続き使うのも難しい。
これ以上使うと1週間経つ前にこの娘が壊れる。
その場合処分を急ぐ必要があり、すると僕に足がつきやすくなり……
だからといって僕が直接訪ねに行くのは……
(相手は魔法使いだ。
逃走経路さえ確保しておけば。)
とりあえずその方針で行こう。
(この国に長居する時間も残り僅かですし、ね。)
隙がなさ過ぎるようなら諦めるしかない。
僕は少女の洗脳を解除し、家に帰る命令と1週間後の命令だけ残しておいた。
さて鬼が出るか、蛇が出るか。
それなりに面白いものが見れるといいんですけどねぇ。
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