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23話 謎の魔導師
エキドナ・スーパー。
10年前あたりに突如現れた謎の天才少女魔導師。
同じく同時に出現したセレリア・レインベリル、イビレア・ランカースと共に、
カデンツァ三魔女と呼ばれるようになった。
……なったというか本人達が名乗ったのだが。
当初は彼女達は冒険者として登録されていたのだが、
エキドナが当時の巡教会筆頭魔導師オーガストと親交があり、それを皮切りに彼女達が教会の魔導師部隊のエースとなった。
要するにオーガストのスカウトである。
だがエキドナに関しては実際は突如などではない。
あの刹那が現れた少し後、下層で謎の大爆発が起こり、下層住民の多くが帰らぬ者となった。
そのすぐ後に刹那のパーティーに比較的古株で入ったメンバーの一人。それが彼女だ。
これを知る者は今では殆どいない。
彼女は下層に頻繁に出入りしてた訳でもなく、肝心の刹那が少しずつ都市伝説扱いされてるので仕方ないことだが。
(その筆頭魔導師の彼女と1対1で会話をする機会、となると。)
当然、容易ではない。
彼女が見栄っ張りの幼女だった時代とはもう何もかもが違うのだ。
僕は物影に隠れてその魔導師部隊の新米隊員の噂話を聞く。
「ねぇねぇ、私いつエキドナ姉さまとお近づきになれるかしら?」
「あのねぇ貴方。
そんなんじゃ此処の魔導師部隊は務まらないわよ。
なにせ巡教会の魔導師部隊って言ったら、
国から直接イムヌス最高の魔法使い部隊と勲章まで受理された栄誉ある部隊なのよ。
そこのところ分かってる?」
「わ、分かってるけど、せめて一目お会いするくらい……」
いやいや隊員でも話せない彼女と、どうやって話す機会を設ければいいんですかねぇ?
(はぁ、面倒になって来たしもう諦め……)
その時、巡教会の表門が開いた。
そして一人の女性が姿を現す。
黒の魔導師の衣装に身を包み、片目で髪を隠し、赤い髪を持つクールビューティーな女性。
彼女を知らない人が見たら第1印象はそんなイメージだろうか。
彼女が現れただけで女性隊員たちから黄色い声が上がる。
「あ、姉さま〜〜!!」
「あぁ、待って、私せめて一言だけでも……」
ナイツ程ではなくとも、かなりの人気だ。
それを見たエキドナはやれやれと言った風に。
「あのねぇ貴方達。
そんなところで遊んでないでもっと精進しなさい。」
「は、はいっ!
私かならず姉さまのお役に立って見せます!」
ざわざわ、ざわざわ。
ようやく歩けるようになったかと思えば、また更なる女性隊員が彼女に声をかけようとする。
正直キリがない。
変装して出て行けばいいのではとも思うが、どうも彼女はそういうことが嫌いらしい。
それになんだかんだ慕われてるのが嬉しいのだろう。
そういうところはまだ若くも見える。
「やれやれ。今日も時間がかかったわね。」
ようやく巡教会の入口を抜けて彼女は大通りを歩く。
それ以降も「い、いけません!護衛の騎士を!」とか言われてたが。
僕は離れた位置で彼女の尾行を続ける。
だがここでネックになるのは彼女が有名人であることだ。
彼女が歩いてるだけで「あ、エキドナさんだ〜」とか「おぉ今日はお一人なのか」とか「姉さま〜」とかいう声がちょいちょい発生する。
どう考えてもそんな彼女に話しかければ目立つ。
いったいどうしたものかと僕が考えあぐねていると……
……スゥッ……
「……ん?」
自分の視界を”何か”が掠めた。
眼鏡のピントでもずれたような、そんな違和感。
(……これは、以前にも。)
雨宮古都を見かけた日にも感じたもの。
やはり目の錯覚などではない。
(彼女達の近くに、何かがいる。)
僕は精神を集中する。
五感を総動員する。
そして。
「お前か?
あの娘たちをちょろちょろ追いかけているストーカーは?」
僕は銃をポケットに入れたまま、その砲口だけを”そちら”に向けた。
(何者だ?)
その姿は明らかに魔法使い。
しかも箒などにまたがるというおまけ付きだ。
これほど古風で目立つ出で立ちなのに、周りの人間は誰も彼女に反応してる素振りがない。
「何者ですか?」
「お前が先に答えろ。ストーカー。」
魔女は答える。
魔法使いなどではない。彼女は魔女だ。
エキドナはまだ若さが見えるが、この女性は違う。
”正真正銘の”魔女だ。
「これは失礼を。僕はタケシと申します。
以後お見知りおきを。」
「ケハっ、そうかそうか。
ストーカーにしてはなかなか好青年ではないか。
ならば妾も答えてやろう。」
魔女は不気味に笑いながら答える。
「妾はエイプリル。
全てを知る者。時魔導師エイプリルだ。」
(時魔導師エイプリル?
聞いた事もない名前ですが。)
だがこの女性は彼女達を知っているようだ。
”あの娘たち”というのは状況的に見て、雨宮古都やメイドの入鹿、そしてエキドナの事だろう。
つまり僕は見事、”何か”を掘り出したということだ。
もうエキドナの姿は見えないが、僕の興味は既に目の前の古風な魔女に向いていた。
「そうなのですか。
僕はご存じないですが、さぞ高名な方とお見受けしました。
無知をお許しください。」
僕は笑顔で目の前の魔女に会釈する。
「ほう?」
意外だという風な反応。
この魔女の中で僕の評価が少し上がったように感じた。
案外、根は単純なのかもしれない。
そしてもう一つ。
「ところで僕と貴方のお姿。
実は周りからは見えてないとか、ありますか?」
「………」
魔女の眼が細目になる。
少し考えれば分かることだ。
この魔女が周りに見えていないなら、僕は一人で喋ってる怪しい男だ。
なのに周りから怪訝に見られるかのような反応が何もない。
「何者じゃ?貴様。
どうやら只者ではないようじゃが。」
「いいえ、僕は只者ですよ。
単に英雄達の舞台を見たいだけの、典型的な小物です。」
僕は恭しく礼をする。
沈黙が続く。
そして。
「クハッ。面白い。
どうやら退屈凌ぎにはなりそうだ。」
「有難うございます。
僕もいろいろ暇してたもので。」
意気投合、ではないだろうが。
話をするためのテーブルには座ることが出来たようだ。
「で、貴様は何をしている?
あの娘たちとの関係はなんだ?」
魔女は僕を値踏みするように質問する。
僕は素直に答えることにした。
「単なる興味本位ですよ。
彼女達とはあまり関係が宜しくないものでして。
10年前にいろいろありまして、ねぇ。
そして10年経ったいま、どうなったのかな、と。」
まぁ僕が興味があった存在は彼女達ではないのだが。
「ケハっ、なるほどなるほど。
貴様はいわゆる悪党の類じゃな。
じゃがさすがにそれに答える訳にはいかん。」
やはり何か知っているらしい。
とりあえず口は軽いようだ。
「お前が答えたら、話は別かもしれんがなぁ。」
魔女はニヤリと笑う。
先に誠意を見せろ、とでも言いたいのか。
「ではこういうのは如何でしょう。
僕が先に僕の秘密を答えたら、
彼女達の秘密を卿が答える。
どうですか?これこそ人類平等のあるべき姿では?」
「ほう。」
魔女の笑いが消える。
少し考えるかのような素振りをしたが。
「いやじゃ。
妾のルールは妾が決める。
貴様のような小僧に決められるのは甚だ不愉快じゃ。」
「それは失礼いたしました。」
僕は態度を変えずに深々と謝罪する。
(さてどうしたものか。)
さすがにこんな怪しい魔女に星の中心の件について話す訳にもいかない。
そして僕がなにか話したところで、この魔女は”何も話す気などない”
少し態度を低くし過ぎたせいか、舐められているのだろう。
別にそれでも構わなかったのだが……
「しかし立場上、僕は僕のことだけ話す訳にはいかないのですよ。
なんらかの交換条件がないと……」
態度を少し強くする。
さぁ、どこで仕掛けて来る?
「……貴様。」
魔女の笑みはもうない。
少し苛立った。
そして。
バン!!
鉄砲のような衝撃が鳴った。
「……っっ!?」
僕からではない。
魔女の背後からだ。
その間に僕は。
「古典的な魔女は、古典的な手段にかかる。」
銃口を至近距離で魔女の額に向けていた。
僅かでも魔法詠唱の素振りを見せれば撃つ。
そう、態度で示して。
「……今のはどんな魔法だ?答えろ。」
魔女は質問する。
「さぁ?
それを答えるなら、まず貴方が何か答えるのが筋ではないですかねぇ?」
僕は銃を更に5cm近づけて笑顔で回答した。
それを見て魔女は溜息を吐く。
「分かった、分かった。
舐めていたのは謝ってやろう。
じゃからその物騒なものを降ろしてはくれんか?
”300年前”の妾の肉体に傷をつけとうない。」
「えぇ。次はないですよ。」
意味深な単語を聞けたのでまぁ良しとしよう。
そして僕は恭しくお辞儀をする。
「失礼いたしました。時魔導師エイプリル殿。
では魔女のお茶会とはいきませんが、ランチタイムと致しましょう。」
「ケハっ、つくづく食えん小僧だな貴様。
だがまぁ良い。男らしく妾をリードして見せい。」
お互い暇を持て余していたであろう二人は、今度こそ話をするためのテーブルに座る事が出来たようだ。
さてこの古風な魔女が好みそうなお店はどこか。
イムヌスのお店というお店を知り尽くした僕のセンスをお見せ致しましょう♪
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