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24話 時間魔法
僕は考えていた。
「はむっ、もぐっ、うぐ、ぐ……」
一気に口に物を入れて咳き込む。
僕は一口も飲んでいないので水を差し入れした。
「ごく、ごく、ごく、ぷはぁっ!
おのれぃ、死ぬかと思ったぞ。
やりおるなこのドーナツとやら!」
僕は考えていた。
「あ、甘い、なんという甘さだっ!
これがケーキか!?」
この魔女はあとどれくらい食べる気なのかと。
「うむ。なかなか美味であった。
誉めて遣わそう、タケシとやら。」
「えぇ、光栄です。」
お金はあるがだからと言って無駄遣いしていい訳ではない。
暇潰しのためにこんな出費するとは計算外だ。
「それでいい加減、僕としては話を進めたいのですが、
宜しいでしょうか?」
「もぐ、もぐ、もぐ。
んん、話ぃ?
勝手に話せぃ。」
まだ食べるのかよ。
まぁもう無視するか。
「時魔導師エイプリル殿、で良いですか?
貴方はいったい何者……」
「図が高いわ小僧。
妾のことはエイプリル様と呼べ。」
どうでもいいよ。
「ではエイプリル様。
貴方は一体何者ですか?
雨宮古都やエキドナ・スーパーと知り合いなのでしょうか?」
「んん?さてな、知り合いと言えば知り合いじゃし。」
ごくごくごく。
「それでお代わりはまだか?」
このババア。
「ふぅ。まぁいいです。
あーそこのお嬢さん、このお店のお菓子全部持ってきてください。」
「あ、はい。分かりました。」
僕は話の聞き方を考える。
「では雨宮古都に何か手を貸していますか?」
ようやく魔女の手が止まる。
「貸しているといえば貸しておるかな。
少々物珍しいと思ったのでな。」
「物珍しい?」
雨宮古都がか?
この魔女もあの娘の経歴を知っていたりするのか?
「あの娘の肉体”時間”は止まっておる。
妾はその手のものは一目見ればすぐに分かる。」
「ほほう。ですから声をかけてみたという事でしょうか?」
確かにあの娘は成長していない。
ウルイエル卿が何か肉体改造的な何かを施したかと思っていたが。
この方の話だとあの娘があのままなのは魔法の類に要因があるらしい。
「妾は時魔導師エイプリル。
時間魔法は妾の専門分野じゃ。」
時間魔法。
元未来永劫の一人、時劫が得意としている魔法だと僕は記憶しているが。
「つまりは時間停止の類ですか。」
「時間停止ぃ?
ケハハハッ。
そんなもの初歩じゃ、初歩。」
たとえば、じゃな。
と魔女は椅子を立ち上がる。
僕は当然立ち上がった彼女の方に目が行く。
「どっちを見ておる?タケシとやら。」
その声は逆方向から届いた。
「……二人?分身?」
「「いいや、違う。」」
僕の左右から魔女の声が響く。
魔女は一番最初に立ち上がった位置にいる。
その反対側にいるのは?
「……少しですが、透けて何かが。」
「椅子に座っていた時の妾。
その時の時間の妾を残した。」
「へぇ。手品みたいですね。」
「まぁそうさな。これだけなら手品じゃな。」
魔女の声が一つになる。
立ち上がっていた彼女は再び椅子に座った。
「じゃがこの時の時間の妾を永遠に残しておけるとしたらどうじゃ?」
「どういう意味ですかねぇ?」
「この時の妾の記憶・肉体・精神、そういったものを永遠に残せる。
つまりは。」
「……不老、という事でしょうか?」
「そうじゃ。これこそが時間魔法の真骨頂。」
一概には信じられないが。
まぁ信じた方が”面白い”ので信じよう。
「なるほど、なるほど。
要するに貴方は結構昔から生きて来られたとそういう事でしょうか?」
「そういうことじゃな。
覇帝が君臨していた1000年前から”この”時代までの妾を、
妾は知っておる。」
彼女の話がハッタリでなければ、覇帝同様、彼女は人類の歴史の生き証人ということになる。
「となると未来については分からないということですか。」
「……いいや。未来の妾から”残される”ことも出来る。」
どういう意味だ?
さすがに少し感覚が分からない。
「この時の時間の妾を残せるということは、
残"された"妾にとって、残"した"方の妾は未来じゃ。
分かるかな。この感覚が。」
「まぁ理屈の程は。
ただそうなると一番未来の貴方は”いつ”になるんですか?」
僕は何気なく質問する。
だが魔女はその質問には答えなかった。
「まぁ大したものじゃろう。妾の時間魔法は。
もっと誉めよ誉めよ。」
「あぁ、はい。
素晴らしいっ!」
僕は適当に拍手をする。
正直何に使えるのかよく分からない力だなと思った。
ただおそらくもう少し応用が効くのだろう。
そこまで僕に教える気はないということか。
「それでその時間魔法を扱える貴方は、
雨宮古都と何をやっているのでしょうか?」
「別に何も。
ただ単に時間魔法を教えているだけじゃ。」
「教えれば誰でも出来るようになるのですか?」
いまいち魅力的な力じゃないが。
「いいや。資質ある者だけじゃ。
妾が教えているのはあの入鹿とかいうメイドにじゃな。」
そっちか。
あのメイドはこの魔女に弟子入りでもしたのだろうか。
「まぁそれなりには面白かったですよ。
雨宮古都の目的は分かりませんでしたがね。」
「目的?
そんな事を知りたいのかの?」
「まぁ一応は。」
暇潰しだけど。
「さすがにそこまでは言えんな。
これ以上聞きたければお主の事ももう少し教えるのが礼儀というものじゃろう?」
礼儀の話をするのであれば、僕がお金を出してるからと言ってどれだけ食べたのかと問いたいが。
機嫌を悪くするだけなので黙っておこう。
「まぁいいですけど、僕なんかの何を知りたいのですか?」
「お主の目的じゃ。何か狙いがあるのじゃろう?
あの娘の目的を知るに足る目的が。」
いいえ、まったく。
暇潰しなので。
「まぁ強いて言えば世界平和ですかねぇ。
七罪魔を倒して世界を平和にしたいと思ってまして。」
目的ではなく手段だが。
七罪魔を倒さないと僕の英雄劇は完成しないので間違ってはいない。
適当に喋ったつもりだが魔女は怪訝な目線で僕の方を見つめていた。
「……お主、冗談のセンスないのう。」
「冗談ではないんですがねぇ。
実際もう残り2体な訳ですし。」
1体は封印されてるらしいが。
「………」
だがその言葉を聞いて魔女は今度こそ仰天したように。
「な、なんで……なんでそんな事を知っておる?
七罪魔が残り2体?
そんな事があり得るのか……?」
狼狽していた。
明らかな動揺。
……よく分からないが、この魔女は実は七罪魔の配下だったりするのだろうか?
少し興味が向いたので探りを入れている。
「七罪魔を知っておられるので?」
「と、当然じゃろう。
なにせ妾はガラハド卿の……」
ビンゴ。
やはりこの魔女。どうにも口が軽い気がする。
「成程ねぇ。
じゃあ英雄劇を目指す僕にとって、
僕と貴方は微妙な関係ってことですねぇ。
ですが以前は貴方のような方は見受けませんでしたが。」
「……以前?」
もちろん僕が言っているのはパンデモニウムの件だ。
刹那という英雄の卵が力を育むためにエキドナさん(七罪魔の部下の方)に協力した。
僕もあの城には入れさせて貰った事があるが、こんな魔女の姿を見たことはなかった。
「……ふぅ。まぁそうじゃな。
確かに妾は知り合いじゃ。
ただし厳密にはガラハド卿ではなく、その直属部下のアルファ殿の方じゃが。」
「あぁその名前はなんとなく聞き覚えがありますね。」
確かあの悪魔達の貴族悪魔の中でもリーダー格の名前、と聞いた気がする。
「知り合いという事は部下という事ではなさそうですねぇ。」
「……確かに部下ではない。部下ではない、のじゃが。」
魔女は明らかに先程までとは顔色が悪くなっている。
……僕の直感では、この魔女にとって都合の悪いことがあり、それと雨宮古都への協力が関係している。
「何かお困りのようですねぇ。
僕で良ければ聞きますが。」
「い、いいのか?」
「えぇ。
これでも僕はお悩み相談室タケシと評判なのですよ♪」
魔女は先とはうって変わって弱気になっていた。
案外脆い気がするなぁこの人。
ただまぁこれはチャンスだろう。
さすがに闘争の悪魔に関係する人物となれば、暇潰しとも行かなくなった。
(本気で取り掛かるとしましょう。)
僕の英雄劇を完成させるためにも。
そしてこの世界の裏に潜む神殺しを達成するためにも。
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