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25話 人類の勝利を叫べ
「闘争遊戯?」
「……そうじゃ。
今回のガラハド卿は集団戦がお望みだ。」
魔女は先ほどまでとは違い、苦虫をかみ潰すかのような顔をしていた。
心底、それが不本意であるかのように。
「いわゆる魔王の気まぐれって奴ですかね?
別にいいじゃないですか。
何がそんなに不満なのでしょう?」
「不満に決まっておろうが!
それはつまり妾たちに死ねと言っておるのじゃぞ!」
魔女は机を叩く。
周りが何事かと驚く。
「場所、変えてもいいですかね。
それか貴方の力で僕たちを認識できなくさせて貰えますか?」
「………」
魔女は無言で手を僕にかざす。
すると周りの人間は僕たちの事などいなかったかのように自然に振舞い始めた。
「便利な力ですねぇ。
こんな力があるなら逃げるなりなんなりすれば良いでしょうに。」
「……それが出来るならそうしておるわ。
この程度の隠蔽ではガラハド卿はおろかアルファ殿すら誤魔化せぬ。」
そんなに勝つ自信がないのだろうか?
現実的に考えて勝率が高いのはそちらだろうに。
「……あぁ、まさかガラハド卿が妾たちと協力して戦うとでも思っておるのか?」
「思うも何もそうじゃないと集団戦にならないのでは?」
魔王がこの魔女のサポートを受けながら戦うとか。
正直ナイツ側に勝ち目がない気がするなぁ。
地方の強者を頑張って集めた僕の努力も無駄に終わりそうだ。
「クハッ、貴様は分かっておらぬ。
ガラハド卿はそのような方ではない。
闘争遊戯なんぞ所詮はただのお遊び。
ガラハド卿にとってはただの観覧試合だ。」
「……あぁ、集団戦って部下達にやらせるだけなんですか。」
確かにそっちの方がらしい気がする。
「……おそらくあちらのナイツとやらと、
こちらのメンバーとの集団戦になる。
そしてガラハド卿は妾たちは負けると思っておる。
そういう方じゃ。」
「まぁそこで終わってしまったら、魔王としてはつまらないでしょうね。」
それは期待外れということだ。
つまり部下達の全滅は最初から込みという事になる。
なんということはない。
闘争事変の時と同じだ。
闘争の悪魔にとっては、城も部下も、自身の闘争を盛り上げるための演出道具に過ぎない。
しかしまぁそれは分かったが、なんていうか……
「……出来るだけ北方の大陸の掃除を遅らせたが、もうこれ以上は伸ばせない。
妾には時間がないのじゃ。」
……なんていうか、こいつつまらないなぁ。
もう少し大物かと勝手に期待してみれば。
「となると貴方が雨宮古都なんかに協力してる理由も一つしかありませんね。
闘争の悪魔から逃げる手段でも一緒に探してるんですか?」
「……利害は一致しておる。
あの娘は境界線について調べておる。
その道を開く事が出来れば、妾はそこから……」
「逃げられると?ふーん。」
境界線とやらが何なのかは知らないが、おそらく世界に稀に起こる空間の歪み。
あれに似たようものかもしれない。
元々僕の目的もこの世界を脱し、新たな英雄劇を見つけることだった。
神殺しという目的も、英雄劇の筋書きとして文句ない壮大なものだ。
後者はともかく、前者については確かに利害は一致している。
一致しているが。
「まぁ、分かりました。
概ね大体の構図は見えたので、僕は失礼させて頂きます。」
僕は席を立とうとする。
「ま、待て!
これだけ聞いて何もしないと言うのか!?」
「は?なんで僕が?
僕はナイツが闘争の悪魔と戦うまでの、暇つぶしがしたかっただけですよ。」
「ひ、暇つぶし、じゃと……」
魔女はわなわなと震える。
別に僕にとって暇つぶしだろうと、この魔女に不都合などないと思うが。
「ふ、ふざけおって!
たかが人間の小僧の分際で!
1000年を生きる魔女たる妾を侮辱する気か!?」
ん?僕はいつこの人を侮辱したのでしょうか?
ずれた老害はこれだから。
「侮辱なんてしたつもりはないですけどねぇ。
強いていえばまぁ興味がなくなった、てくらいでしょうか。」
「……興味、じゃと?
馬鹿が。まるで状況が分かっていないようだな。」
そうだろうか?
魔女はニヤリと笑い、意地の悪そうな顔で。
「ガラハド卿が勝てばどうなるか。
こんな国は魔物の大群に蹂躙される。
それはつまり人類の終わりと言っても良い。
このイムヌス以外に人類が繁栄できる場所はもうないのじゃぞ!」
いまさら何を言ってるんだ。この老害は。
「それはそうでしょう。
分かり切ってることじゃないですか。
だからこの国のナイツはその覚悟を持って今を生きてると思うのですが。」
「か、覚悟じゃと……
馬鹿が。覚悟だの意思だの精神論でどうにかなる相手ではない!
この1000年の歴史を知らない貴様らには分からんじゃろうが。
闘争の悪魔という存在はな、何度も何度もこの世界の人類の文明を洗い流して来たのじゃ!
掌握の悪魔が覇帝がいない頃を見計らって、闘争の悪魔を呼び戻すせいでな!
いくら覇帝が強くても、いない時を狙われれば人類など一溜りもない!
覇帝がいなくなった時点で、この時代で妾も、人類の命運も、終わると決まっているのじゃ!」
終わると決まっている?
さすがに言い方が確信的過ぎるように聞こえた。
「そういえば貴方はさきほど僕の質問の回答を濁しましたよね?」
「まぁ理屈の程は。
ただそうなると一番未来の貴方は”いつ”になるんですか?」
「………」
魔女は押し黙る。
この魔女は過去の自分を残す事が出来る。
だがそれもこの魔女が生き残る事が出来る時点までに限られるだろう。
つまり。
「貴方は既にこの国が滅んだ、この先の時間を知っているのですね?」
「……そうじゃ。」
この魔女は、未来の自分が残した、過去の自分。
だから未来の知識がある。
だがだからこそ、その絶望感は計り知れない。
その先に行けないということは。
「いくらやり直しても、勝てない。
そういう事ですか?」
「……ガラハド卿が闘争遊戯を提案するのは毎回ではない。
闘争遊戯を始めれば、妾はその後の勝敗に関係なく死ぬからな。」
なぁんだ。
「それじゃあその後に人類が勝つ可能性は残されてるって事じゃないですか。
だったら別にいいじゃないですか。」
「いい訳があるかっ!!」
魔女は机を蹴り飛ばした。
あーあ。食べ物まで飛んでしまった。
食べ物を粗末にするべきではありませんよ。
「あの悪魔が闘争遊戯を提案せず、かつ人類が勝てば貴方は生き残る。
だったらその可能性を信じればいい。
それの何が問題があるのか僕にはまるで分かりませんね。」
「は、はぁ!?
貴様は何を言っておるのじゃ!
皆無だと言っているのだ!」
さっきから皆無だの無理だの。
何故そういうつまらない事しか言えないのか。
そんな夢見る事の出来ない老害に、夢を見る若者が教えてあげましょう。
「信じなさい。
人類が培ってきた叡智を。
その絆を。
それは人類の勝利に繋がるのだと。
それが英雄劇。
その物語は完結する。
その先に僕たちの、未来があるっ!」
僕は大仰な動きで、僕の想いを伝えた。
魔女は何故かポカンとした顔で僕の方を見ている。
「き、貴様、さては、馬鹿か?」
「はて。
絆を信じる事の何が馬鹿なのか。
僕にはまるで分かりませんが。」
この話はどこまで行っても平行線だ。
議論に値しない。
ならば。
「じゃあいっそのこと賭けませんか?
どちらが勝つのか?」
「は、はぁ?」
僕は提案する。
「もちろん僕は人類側に全ベットです。
当然この命も含めてね。
貴方は闘争の悪魔に賭けるのでしょう?」
「い、いや、だから妾はこのあと……」
「それなんですが、此処に貴方の過去を残しておいたら、
貴方は生き残れないのですか?」
「妾を馬鹿にしておるのか……
そんな真似が出来るなら最初からそうしている。
一番未来の妾が死んだ時点で、過去の妾が未来に行く事など出来ぬ。」
理屈の程はよく分からないが、そういうものらしい。
「では闘争遊戯に過去の貴方が出ればいいんじゃないですか?」
「……無駄だ。アルファ殿にばれる。
手抜きをしてきた、等という事が知られればその場で殺される。」
というか闘争の悪魔はまだしも、その部下の目を誤魔化す位の努力はして欲しいものですねぇ。
「ガラハド卿の力は、その手の小細工が一切通じぬ。
過去だろうと何だろうと、左手で殺されれば終わりじゃ。
あれは、そういう力なのじゃ。」
「じゃあ一瞬たりとて生き残れないという事ですか。
それじゃあ貴方が賭けに負けても、その悔し顔を見る事も出来なそうですねぇ。」
「……時間のずらし方によれば、あるいは……
ラグが出来る可能性はあるが……」
「ふぅん。じゃあそれでいきませんか?
どうせ貴方は人類が勝てないと思ってるんですから、それでいいじゃないですか。」
「……本気か?」
「そりゃまぁ。」
どうせ負ければ僕たちも終わりだ。
賭けも何も、最初から僕たちはそういう戦いをしている。
「……まぁ良いわ。貴様がどれだけ愚かな事を言っているのか、分からせてくれる。」
「えぇ。分からせてください。」
「ただし!」
魔女はナイフを僕に投げる。
僕はそのナイフを受け取った。
「そのナイフは、呪肉の芽吹きという呪物。
そのナイフで斬られれば呪いにかかり、人間なら確実に死に至る。
もし貴様が賭けに負ければ……」
「このナイフを僕に突き刺せと?
まぁいいですよ。
僕の方は特にありません。」
こうして僕は今日出会った魔女と奇妙な賭けをすることになった。
人類の命運を賭けた遊戯、闘争遊戯。
最初からこんな賭けなどなくとも、人類はその命運をナイツに全ベットしているのだ。
その覚悟の有無になど関係なく。
そうして。
その知らせはイムヌス全域に届いた。
1週間後に迫った闘争遊戯。
その代表を決めるため、12人の人間がこの国から選ばれた。
セブンズ・ナイツと呼ばれるナイツから選ばれた7人。
それをサポートする魔法使い達が5人。
人類はその12人に自分達の命運を託し。
彼等はその覚悟を背負い、北方に、決戦の地に臨んだ。
……だが僕はもう一人知っている。
あの男が何もしない筈などない。
誰かに夢を託すなどあの男にはもっとも不釣り合いな行為だ。
ナイツが敗北した際に備えて、必ずなんらかの準備をしていたはず。
だが僕は敢えて今回は。
人類の一人として、託す道を選んだ。
(なにせ賭け、ですからね。)
そして。
その結末は……
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