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27話 星の中心の結界



月詠夜夜子の施設の最深部。
その最奥の空間。その周りに存在する6つの魔法陣。
いまその魔法陣は1つを除き、その光を失っていた。
残ったその1つは暗い、闇い、漆黒の光を放っている。
無論それは残った醜悪の悪魔の分だろう。

俺はカイゼルの術式が刻まれた方の手を伸ばす。
手から白い、白い、力が放出される。
その力は黒の魔法陣に注がれ、そして。
ぱきぱきと音を立て、その魔法陣は消えていく。

そしてその時。
今までこの空間から感じていた圧力が徐々に小さくなっていく。
30秒程で何の力もない空間と化しているのが感覚で理解できる。
そして俺の手に刻まれた術式も既に機能を停止したのか、術式そのものが消滅していた。

「おぉ、おぉ、通れるねぇ。
 ついに此処まで来たって感じだねぇ!」
闇月が不可視の空間を一番乗りで渡る。
ついに七罪魔によって機能していた結界は消滅した。
俺たちは星の中心に入る資格を得たということだ。
「それはまぁいいのですが。
 本当に僕たちだけで乗り込む気なのですかねぇ?」
「仕方あるまい。
 ロイもキラも此処に入ることを拒否した。」
鬼の直感か、死の使いの規則か。
この先に進むことを彼等は望まなかった。
考えるまでもなく、今までにない未開の領域。
まともに考えて、正しいのは奴らだろう。
「それは私だって同感だねぇ。
 でもさぁ、此処まで来て退くとかないだろぉ?」
人類未踏の一番乗りをはたして満足したのか闇月が戻って来る。
北方で負ったダメージも癒えたのか、少なくとも傍目には動きに問題は見られない。
どちらかと言えば。
「あんたの方が万全じゃないように見えるけどぉ?」
「仕方あるまい。」
北方で混沌の穴に飛び込んだ代償。
その力は俺の身体を蝕んでいた。
あくまで予感だがあと1年は生きられまい。
あれほどの治癒能力を持っていたティーナでさえ治療が出来なかった症状だ。
治療手段がないとまでは断定できないが、そんなあるかも分からないものを探す位ならば。
「是非もない。
 これが俺の最期の戦いということだ。」
「ふ〜ん。まぁ私はいいけどねぇ。」
そして更に言えば。
闘争の悪魔との決戦。
「………」


……闘争の悪魔との決戦日の少し前。

「紹介しよう、零騎士グレイス。
 彼が私直属の戦士、戒だ。」
楼閣が俺を零騎士に紹介する。
この俺が戒として零騎士と接するのはパンデモニウム以来だ。
「まさか本当に連盟筆頭の直轄だったとはな。
 正直出鱈目だとばかり思っていたが。」
当然、零騎士の言うとおり出鱈目だ。
俺は万一に備えた詰め。
向こうの指定人数を超えるため、最初から決戦場に臨む訳にはいかないが。
「殺す、という点において私は彼以上の適任はいないと思っている。
 どうかな?零騎士グレイス。」
楼閣は敢えて連盟命令とせずに、零騎士に聞く。
実際に決戦に臨むのはあくまでナイツ。
俺の出番があったところで大した事が出来るとは思えない。
だが。
「あと僅かというところまで奴を追い詰める事が出来ていれば。
 必ずや奴を仕留めよう。」
「あぁ。俺としては異存はない。
 勝つための手を一つでも打つって意味ではな。」
ただ。
「こちらが約束を破れば、向こうも約束を破る。
 二度と復活しないという約束をな。
 あくまで最終手段だ。
 そこは念頭に置いてくれよ。」
「勿論だ、零騎士グレイス。」
悪いが、百年後の事など俺にはどうでもいい。
奴を仕留める機会があれば必ず俺は殺すために動くだろう。


……だが不思議なことに。
俺はあの戦いの結末を思い出す事が出来ない。
脳に障害を負ったのか、またはそれ以外の理由か。
(……それだけ激しい地獄の戦いだった、と思うほかない。
 もう俺の身体はまっとうに機能していないのかもしれないな。)
そう考えるほかなかった。
当然今日まで集めた全ての消耗品を持ってきてある。
もはや温存の必要はない。
正真正銘これが最後の戦いなのだから。
「神だか何だか知らないが、全ての元凶を地獄に送る。」
「はは、貴方は必ずそう言ってくれると思ってました♪」
「この数年、私もあの時の力を扱えるように特訓してたからねぇ。
 新生闇月ちゃんの力に期待しろよぉ♪」
俺、希殺、闇月。
「……ご武運を。」
そしてアート。まぁ戦力としては期待してないが。
僅か4人で神とやらに挑むなど正気の沙汰ではない。
だが元から正気の沙汰でないのだから、別に構いはしまい。
「行くぞ。」

そうして俺たちは。
地中10kmの壁を越えた先。
人類が辿り着けない領域へと足を踏み入れた。



「………」
それから十分程。
その空間にはもう誰の気配もなかったが。

「もういいみたいです。
 古都様、エキドナ様。」

一人のメイド、入鹿が空間から姿を現す。
それを皮切りに、更に二人の人影が姿を現した。
「……あいつら本当に行ったのね。
 なんていうかほんと狂人集団だわ。」
「別にいいじゃないですか。
 おかげで私達も目的を果たせるんですから。」
そして更に。
「ははははは!
 いつ見ても探索し甲斐のありそうな施設だな!」
豪奢な鎧に身を包んだ貴族冒険者、君代。
「つ、ついに私が造ってきた、
 この世界からおさらばダンゼーツ!が役に立つ時が来たんだねー!
 感動だー!」
「……いや別にあんただけじゃないから。」
そして一人感動するセイレンの後ろには大きな機械。
何人かの人間で運ばせているそれは全長約10m程。
そしてその姿は。
「……”逆”記憶収集装置。
 セイレンさん命名で、世界からおさらばダンゼーツ。
 今こそ使う時です。」
「いまいちスーパーな感じがしない名前なのがあれだけどね。」
「えー?いい名前だと思うんだけどー。」
3人が会話をするなかで、入鹿は一人残念そうに。
「……師匠の力がなければ、この機械は完成しませんでした。
 もっとこの力について教えて欲しかったです。」
「エイプリルさんについては仕方ありません。
 私達は私達の成すべき事をしましょう。」
古都、エキドナ、入鹿、セイレン、君代の5人はその巨大な機械を機能停止した魔法陣の中心まで運ぶ。
すると消えた筈の魔法陣が白い光を灯す。
他の魔法陣も同様に、白い光を順々に灯していく。
だが。
「……弱い。
 これでは此処と地表を"切り離す"にはまだ足りない。」
「うーん、そうだねー。
 適合率40%って出てるよー。」
セイレンが機械の方を見てそう答える。
「……七罪魔の魔力みたいなものは感じないけど。
 まだ私達が知らない機構があるってことかしら?」
エキドナが考える。
「あっても不思議ではありませんが。
 まずは考え得る可能性を潰す方が先でしょう。
 まだ”こちら”と”あちら”を繋いでる存在。
 それが残ってるとすればおそらくそれは……」
「……眠ってる瑪瑙様の、ことですね?」
入鹿の回答に古都は頷く。


「……音羽?」
その日、エキドナがその姿を見かけたのは偶然だった。
「……エキドナ?
 っっ!
 お願いです、どうか……っ!!」
音羽が担いでいるその少女は四肢の一部が千切れていた。
だが千切れた先を何か黒いものが繋いでいる。
(……まさか、あれって?)
一瞬考えたが、今はそれは後回しだろう。
私はすぐさま古都に魔法電話で連絡する。
「……エキドナさん。どうかしましたか?」
「重病人……なんてレベルじゃないわね。
 あの瑪瑙って娘。
 その娘の四肢が千切れてるんだけど、その先に……」
私は軽く状況を説明する。
古都はすぐさま回答を返した。
「……”可能性はあります”ね。
 貴重なサンプルです。
 今から言う場所に彼女達を連れてきてください。
 入鹿さんも向かわせます。」
「……サンプルとか言うんじゃない。
 相変わらずね、あんたも。」
そしてその場所を聞き。
「……えぇ、分かった。」
音羽と瑪瑙を、古都が指定した場所に案内した。


「……今は音羽が毎日のようにお見舞いしてるらしいけど。
 いつまでもあのままって訳にはいかないでしょ。」
「この結界が崩れたのであれば可能性はあります。
 いずれにせよ瑪瑙さんとの関係性が強い、音羽さんの協力が不可欠ですが。」
「……そうね。
 なんか利用するみたいで癪だけど。
 音羽は何も知らないんだし。」
「それは仕方ないだろう。
 彼女はナイツの一人として、今日まで頑張って来たんだ。
 これ以上負担を強いる訳にはいかないだろう。」
君代が珍しくまともな事を言う。
でも、そうね。
「あの娘のことは音羽に任せましょう。
 私達は私達で出来ることをするわよ!」

……そう。
この状況を整えるために。
私は連盟などという面倒な役職まで得た。
今の好機を逃し、もし七罪魔のいずれかがなんらかの理由で復活を遂げてしまえば。
七罪魔の存在で機能している結界は復活する。
もしそれが闘争の悪魔であれば、今度こそ終わり。
覇帝がいない今、永遠に復活する七罪魔を何度も食い止める事など出来ない。

(……しかしまぁ、妙なことになったものです。)
私がこんな面倒な事をする羽目になるなんて。

全ては、そう。
6年前に、あの地を訪れた時から。
この計画は、始まった。

ここにあるのは。
"もう一つ"の人類の歴史に刻まれない戦い。


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