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28話 彼女達の軌跡(前編)



今から6年前。
イコールあの闘争事変から4年後。

私、雨宮古都は以前同様、連盟直属の諜報員として仕事をこなしていた。
刹那さんの件もあって、諜報局長への昇格の話もあったが。
その手のまとめるのはめんどくさいので、私はきっちりお断りしていた。
まぁ刹那さんの世話をするよりは楽かもしれないが……
……だれが世話だ。

だからその日も単なる仕事の一環。
新たなナイツ候補を探すための各地の調査。
私は単独その地に訪問していた。
その地の名は、セリアリア。

「……?」
妙に活気がある。
いや4年前も活気がない村ではなかったが。
此処の生活水準は以前と変わらない。
ここだけまるで俗世から閉ざされてるかのような、そんな雰囲気を感じる。
ただなにか違和感があった。
「……ふむ。」
私はある機械を取り出す。
「作用、している。」
この村にはかつて魔物の手から人々を守る結界が存在していた。
だが刹那さんが触れたことによってその結界は消失した。
ならばこの”新たな”結界は何か。
「……聖女様、ですか?」
私は村人に聞き込みを開始した。
以前刹那さんと一緒にいた人という事で、私のことを覚えてる人もいたようだ。
そのおかげで聞き込みはスムーズに進んだ。
「はい。是非古都さんにはお会いして頂きたく……」
村の村長にそう言われ、流れで聖女と会うことになる。
今のイムヌスが求めているのは強い戦士であって、聖女ではない。
まぁ仕方ないとして私は聖女に会う。

「初めまして。私がこの村の聖女のティーナと申します。
 貴方が雨宮古都さんですね。」
聖女と呼ばれた人物はとてつもなく幼かった。
刹那さんや当時のエキドナさんよりも小さい。
一体いくつだ?
「はい。今年で齢4になります。」
……何を考えてるんだ、この村は。
内心そう思わずにはいられなかったが、彼女と話してその違和感も薄れていく。
到底4歳とは思えないはっきりとした受け答え。
私のような怪しい人物に対して、まったく臆さない態度。
そして魔物からの襲撃を予知したりと、聖女らしい力もあるようだ。
……成程、確かに元々聖女を讃えていたこの村人からすれば、新たな聖女と見てしまうのも無理はない。
刹那さんと違って、面倒もなさそうですしね。
そんな彼女と少し話していたら、妙なことを言い出した。
「……?
 古都さん、もしかして……」
「はい。なんでしょう。」
「もしかして、”お二人”いらっしゃいますか?」
「は?」
失礼な反応をしてしまったが、私は質問の意図を考えて返答する。
「医者に二重人格と言われたことはあります。
 ただ私自身にその兆候はないのですが。」
私は妥当なところで回答する。
彼女は少し考えると、人払いをさせた。
村人たちも刹那さんが連れてた人ということで、快く言われた通りに引き下がった。
そして彼女は話し出す。
「実は私も同じなんです。
 私の中にはもう一人、私が産まれた時から一緒に住んでる方がいるんです。」
「はぁ……」
この子も変わった言い回しをする。
「その方は虚偽の悪魔と、そう名乗っていました。」
……面倒な事に巻き込まれてきた気がする。

虚偽の悪魔については巡教会の一般的な伝承。
そして記憶収集装置があった月詠夜夜子の施設にあった情報。
それらから得た情報が私が知る虚偽の悪魔の知識だが。
正直あまりはっきりしない情報が多かった。
どうにも時代によって変わる、だのなんだの。
ただそれは。
「宿主となる人間が変わる。
 そういう意味でしょうか?」
「古都さんからお聞きした話からすると、そうだと思います。」
そして今その宿主が目の前の幼子だという。
なんとも厄介な話だが。
「なんだかおかしな話ですよね。
 七罪魔は凄い強大な力を持っている筈なのに、とても不自由な存在に見えます。」
「不自由、ですか。」
彼等と直接戦った身からすると、そんな事は到底思えなかったが。
けど知らない人からみれば……いやそんな発想は普通湧かないだろう。
彼女個人から見た特異な視点。そのように思えた。
「ところで古都さん。
 その夜子さんという方のおうちには他にはどんなお話があるのですか?」
「話、ですか?
 まぁそれはいろいろと。」
なんか興味津々に尋ねてきた。
適当に誤魔化しても良かったのだが。
「もしよろしければ、また聞かせて頂けませんか?
 古都さんのお話はとても面白いので。」
「……えぇ、まぁ時間があれば。」
ついついそう答えてしまった。
彼女の勢いに押された訳ではない。
ただ私が知ってる情報から、彼女の視点で何を返してくるのか。
それが少し興味深かった。
(さすがに砂上楼閣に伝える訳にもいかない。)
いうまでなく、機密漏洩である。
我ながら変なことしてるなぁとは思ったが。
……あの頃みたいに、少し面白いことがあるかもしれない、と。
少しだけ思ってしまった。
というかあの聖女も実は暇なんじゃないだろうか。

それから何度かセリアリアに通うことになった。
どうせ私の今の仕事内容は酷く曖昧だ。
少しくらいサボったところで文句は言われない。
そんなある日のこと。


「クハハッ、お前か。
 奇妙な状況にあるという娘は。」
見るからに関わりたくなさそうな魔女に会った。
刹那さんがいる訳でもないのに、なんでこう面倒そうなのに絡まれるのか。
「誰ですか?」
「頭が高いわ。
 人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが常識じゃろうが。」
横暴な態度の相手に対し、常識を守る必要はないと思うが。
「雨宮古都です。」
「うむ。妾はエイプリル。
 全てを知る者。時魔導師エイプリルだ。」
「そうですか。」
常識は守ってあげたので、スタスタと通り過ぎる。
「おいこら待て。
 それはさすがに情がなさ過ぎるというものであろうが。」
「はぁ。」
何に情を寄せればいいのか。
「其方身体が成長していないな。
 誰にその魔法をかけられた?」
「魔法とか言われましても。」
「妾は時魔導師。
 時間魔法は妾の得意分野じゃ。
 其方にはその類の魔法がかかっておる。」
「へぇ。」
適当に返す。
隙が出来たっぽいので再度スタスタと通り過ぎる。
「おいこらだから待て。
 何をそんなに急いでいるのじゃ。」
「別に急いでる訳ではありませんが。」
「その先はセリアリアじゃな。
 まさかと思うがあの娘に用があるのか?」
「どの娘の事か知りませんが、まぁたぶん。」
たぶん聖女の事を指しているのだろう。知らないが。
こんな怪しい魔女が聖女なんかと会いたくないと思ったのでそう匂わせたのだが。
「ふむ。ならばちょうどいい。
 妾もあの娘とは知り合いじゃ。
 一緒にいろいろ話そうではないか。」
なんでこうなる。
というかその交友関係はおかしいだろ。
結局この魔女は私の後をついて行った。
隠蔽魔法とやらで、他の村人に気づかれる事はないらしい。


「妾は虚偽が生まれ変わったら、
 できるだけ幼少の頃に声をかける事にしておる。
 まぁだいたい逃げられてしまうのだがなぁ。」
「あはははー。」
聖女は乾いた声で笑っている。
それはまぁ普通の子供はこんな怪しい魔女に話しかけられたら逃げるでしょうね。
という訳でぱっとみ接点皆無そうな面子で何故か話をする羽目になった。
「あ、でもエイプリルさんの話も面白いですよ。
 古都さんも聞かれてはどうでしょうか?」
「遠慮したいのですが。」
「クハハッ。恥ずかしがりやさんめ。
 そんなに聞きたければ貴様ら小娘共にこの世界の成り立ちについて教えてやろう。」
小"娘"じゃないですけどね。
もしかして気付いてないのだろうか、この魔女。
「この世界の中心には、超常の力が集まっておる。
 厳密にはこの世界はその力を基盤として生まれたのじゃ。」
そういえばウルイエルが星の中心に天使長がどうの言ってた気がするが。
「その超常の力とは世界と世界を繋げる力。
 そこの境界線から”あちら”と”こちら”を出入りできる。
 まぁ実際は”あちら”から”こちら”に一方的に出入りして来るのだがな。
 今では”こちら”で産まれた者が大多数であろうが。」
嘘臭い話だが境界線という言葉には聞き覚えがある。
「天使だの悪魔だのが存在するのもそのせいじゃな。
 まぁ厳密には高位の存在が通る境界線のようじゃが。
 七罪魔などは倒されても”あちら”側に一度帰還し、
 時間が経てば”こちら”側に戻って来る。
 まさに堂々巡りという訳じゃな。」
「へぇー。面白い話ですね。」
たぶんこの聖女も信じてないな。
私の話を聞きたがるところを見るに、外からの話を聞きたいお年頃なのかもしれない。
だから話の内容が面白ければそれでいいのだろう。
(……いや待て。)
だったら刹那さんは?
そこからどっかの世界に行ったということだろうか?
私は期待はしてないが、魔女の話を遮った。
「でしたら”こちら”側から”あちら”側に行く方法はないということですか?」
「基本はない。
 何故なら”こちら”と”あちら”の間には七罪魔によって機能してる結界があるからな。
 七罪魔が全員倒されれば機能しなくなるのかもしれんが、まぁそんな事はありえないことじゃ。」
……そうだろうか。
記憶収集装置があった空間。
あの底に刹那さんとアリンさんは落ちた筈。
その先が”あちら”への出入り口?いいやそんな訳はないだろう。
(……いや本気になってどうするのか。
 この魔女の話など何の根拠もないホラ話だ。)
「……え?本当なんですか?
 えぇ!?作り話じゃないの!?」
「?」
聖女が一人で何か話し始めた。
今までと違ってリアクションが激しい。
「どうしましたか?」
「え、えっと。
 私の中の方が、その話は本当とか言ってるみたいで……」
「中の方?」
虚偽の悪魔とでも言いたいのだろうか。
それを聞いた魔女は途端に不機嫌になる。
「……貴様、妾の話を信じていなかったのか。
 フンっ、ガキの癖に舐められたものじゃな。」
「あ、あぁぁぁ。違うんです。
 ただエイプリルさんはそういうお笑いの人だと思って……」
そんなことを思っていたのか。
ただそうなるとこの話にはそれなりに信憑性があるのだろうか。
「………」
だとすると、少し気になることがある。
私はこういう話を気に入りそうな人間に、ちょっと話してみようと考えた。


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