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29話 彼女達の軌跡(中編)
「え、何それ?
そんなスーパーな話があるの?」
「そこそこ信憑性はあると思います。」
案の定食いついてきたエキドナさん。
「ところであんた最近縮んでない?」
「貴方が大きくなったんですよ。
私はなんか時間魔法?か何かでそのままだそうです。」
まぁあのエイプリルとかいう魔女が言ったことだが。
エキドナさんは僅か4年で身体が大幅に成長した。
身長的には当時の刹那さんはおろか、私と同じくらい?
このペースだともうすぐ抜かれそうだ。
それはさておき。
「……でもその話ってさ。
要するにいま音羽たちナイツが頑張ってあの闘争の悪魔ってやつ倒しても、
結局また戻ってくるって事よね。」
「そうなりますね。
そもそも一度は追い返したんですから。」
それによって刹那さんの寿命が大幅に削れて、アリンさんも帰らぬ者となった。
実のところ顛末は見えなかったが、おそらくそんな感じだろう。
「……なんかズルいわよねそれって。
こっちはあんなに頑張ったってのにさ。」
「まったくです。
まぁだからこそ理不尽な存在と言えるのかもしれませんが。」
結局のところ。
その星の中心にある結界だか境界線だかが存在する限り。
私達は何度でもあの脅威と対峙しないといけない事になるわけだ。
「そうは言ってもどうしようもありません。
私達の時代では追い返せることを願うほかないでしょう。」
「……結界って言ったわよね。
要するに魔法の類なんでしょ。」
「まぁおそらくは。
魔法の定義が曖昧すぎてなんともですが。」
エキドナさんは何か考えているようだ。
正直なところ少しばかり期待してた部分はある。
「……師匠にもちょっと話してみたいんだけど。
大丈夫?」
「えぇ。結界の話についてであれば。」
情報漏洩についてはぼかして欲しいけど。
そして後日。
「何か分かりましたか?」
「分かったって程じゃないけど。
あの結界ってやつ?
あれって正確にはあちら側から来た連中と、
こちら側の連中との境界の差を示してるんですって。」
「……境界の差、ですか。」
天使や悪魔は弱いものでも僅かながらの結界値を持つ。
それはこちらの物理だろうと魔法だろうと、その威力を減衰させてしまうものだ。
特にそれが七罪魔であればその減衰分は洒落にならない程のものになる。
「つまり結界値が高ければ高いほど、
”あちら”側に属してる、みたいな感じ。
単純な強さとかそういうものじゃないのね。」
「いくらオーガストさんとはいえ、よくそんな事を知ってましたね。」
「なんか昔いろいろ研究してたみたい。
師匠もそういう話大好きだから。」
それはエイプリルさんの話とも無関係ではないだろう。
「で、ここからは実証できないから師匠の仮説なんだけど。
もしその境界が緩んだりした場合。
こちら側にいる存在は、より親和性の強い側に引っ張られるんじゃないかって。」
「引っ張られる?」
あちら側の存在はこちら側への存在が許されなくなる、といった感じだろうか。
「その基準はおそらく減衰が半分以上か半分以下か。
つまり50%がボーダーラインだと師匠は考えてるわ。
そして七罪魔連中はおそらく結界値が50%を超えている。
たぶん高位悪魔って奴らも。」
「………」
もし星の中心の結界を基に七罪魔が存在してるのだとすれば。
そこになんらかの異常が発生した場合、存在が出来なくなる、ということか?
あくまでオーガストさんの推測に過ぎないが。
「……たとえそうだとしても、その結界とやらはどうにか出来る代物なのか。」
この事に気づいた人間は決してオーガストさんだけではないだろう。
そんな簡単に七罪魔を封じれるのであれば苦労はない。
「でも最初から無理だって諦めなくてもいいんじゃない?
だって私達にはいろんな種族の連中がいるのよ。」
「………」
かつて刹那さんを中心に集まったメンバー。
吸血鬼……はもういないが、人魚、氷鬼、アンデッド、生成生物、元スライム?など幅広い。
それだけ集まれば一つか二つ、なんらかの案が浮かばないだろうか。
「……ですがその殆どはもう国にいません。
いま誰がどこにいるのかも。」
「あら、そこはあんたが頑張ればいいじゃない。
国のお偉いさんなんじゃないの?」
「そんな簡単に言われましても……」
たかが一介の諜報員にそんな事を期待されても困る。
「何よ。スーパーじゃないわね。
足りなければ足りるようにすればいいだけでしょ。」
「どういう意味ですか?」
「鈍いわね〜。
刹那がいなくなってから鈍ってるんじゃないの?
もっと偉くなれ、って言ってんの。」
「………」
偉くなれって、連盟にでもなれと言ってるのだろうか。
確かに諜報局長への昇格の話はあったが。
それに連盟のポストも零騎士グレイスが拒否してる影響でまだ余っている。
そもそも何故、砂上楼閣はいまだに余らしてるのだろうか。
「面倒ですね。」
「それも嘘ね。
……あぁいや面倒くさいのも本音だろうけど。
でもそれはそれとして、あんた絶対あの頃は愉しんでたでしょ。」
「……そうですか?」
言われてみれば否定は出来ない……いやそんな事はない。
刹那さんの世話のために私がどれだけ苦労したか……だから世話ではない。監視だ監視。
「もっとでっかいことしてみたいと思わないの?
別に国のためとか人類のためとかどうでもいいじゃない。
私はスーパーなスケールでなんかやってみたいわ。
あんな風に解散しちゃったのもなんか消化不良だったし。」
「………」
彼女達が解散したのは刹那さんがいなくなったからだ。
地味にアリンさんがいなくなったのも利いてるのかもしれない。
だがしかし。
「……煮え切らないわね〜。
じゃあ私が最初にスーパーになってあげるわ。
実は私、スーパーな魔導師部隊を作ろうと思ってるの。
まぁ師匠の部隊が基盤になるとは思うけど、今のこの教会のメンバーって年寄りばっかりじゃない?
そんなんじゃなくて、もっとフレッシュな感じで。」
よく意味が分からない。
だがやろうとしてる事は理解できた。
「……要するに国への影響力を強めるって意味ですか?」
「ま、そういうこと。
だってこの国はいま力が何より欲しいんでしょう?」
その通りだ。
闘争の悪魔に対抗できる戦力がなければ、数年後にこの国は滅んでしまう。
もし強力な魔法使い部隊なんてものが発足されれば、間違いなく大きく優遇されるだろう。
「そうすれば散らばったみんなを探すことも、
その結界とやらを調べるのにも有利に働くでしょ。」
「……なるほど。」
思った以上に考えている。
ただいくらなんでも連盟は……ぶっちゃけめんどくさい。
「ていうかあんたそういう事を言って欲しくて、私にこの話したんじゃないの?」
「……そう、なのでしょうか。」
よく分からないが。
「うん。そう考えると俄然やる気が出て来たわ。
もしかしたらお姉ちゃんを直す事にも役立つかもだし、やりましょやりましょ。
決定よ、決定!」
強引に決定された。
なんか面白くない、気がする。
ただ……
「……はぁ、エキドナさんも勝手な人ですね。」
「あんたも似たようなもんだから。
少しは自覚もてや。」
「はいはい、そうですか。」
勝手にいなくなった刹那さんやアリンさん程ではない。
……ただ、そう。
「……刹那さんより大きいことをやってみるのは悪くないですね。
そうすれば案外悔しがるかもしれません。」
「へ?」
エキドナさんは驚いたような顔をする。
そんなおかしい事を言っただろうか。
「く、あはははははっ!
そうねそうね、それはいいわ!
目にもの見せてあげましょう!」
「はぁ。」
なんだか押し切られたような感じだが。
まぁ、いいか。それもまた。
「まぁやれるだけの事はやってみますよ。」
「えぇ、やってちょうだい。
目標は1年くらいね。」
「1年で連盟になれと?
簡単に言ってくれます。」
「そう?
その気にさえなれば、あんたなら割と余裕じゃない?
私も1年くらいあればスーパーな部隊を作って見せるわ。」
「まぁ少しくらいは期待してますよ。」
そんな訳で。
私は1年で連盟になる事を目指す羽目になった。
まぁなんていうか、そう。
これで負けるのも少し癪な気がするし。
それだけだ。それだけ。
……エキドナさんにも、刹那さん達にも。
負けるのは癪なのだ。
それだけだ。それだけ。
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