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31話 それぞれの行方
「……今更、なんだけど。」
エキドナさんが尋ねて来る。
「ティーナを殺したのってやっぱりあいつらだと思う?」
あいつらとは勿論ルキ・サンドドル一行だ。
今は戒という名前を名乗っているようだが。
「状況的には可能性はだいぶ高いと思っています。
ですが決定的な証拠がある訳でもありません。」
それにあの戒という男。
ティーナさん亡き後にあの男が村に来なかったかと尋ねた。
ただ村人からのあの男への評価は意外なほど高く。
あの男とティーナさんの関係も良好だったと聞く。
「……それでもあの男の本音のところは分かりません。
所詮は伝聞情報です。」
「……そうね。
確かにあの戒って奴については私達は何にも知らないわ。」
でも、と。
「……あの子はそれで仇を討ってってタイプじゃないわよね。
そんな形の憎しみなんて。」
「それは、そうでしょうね。」
あれはあまりに聖女らし過ぎた。
それが彼にとって幸運だったのか不幸だったのかは、私達には分からないが。
「……ごめん。
話を戻しましょう。
結界の”適合率”の件よね。」
「えぇ。」
結界の適合率。
簡単に言えば一定空間に任意の結界が適合するか否かを算出したものだ。
勿論それは100%が望ましい。
つまり私達の望む結末は。
「七罪魔結界の代わりの結界を張り、
七罪魔結界以上の適合率でその結界を正式なものとする。」
そのために用意したのがこの逆記憶収集装置。通称ダンゼーツ。(名称がひどい)
細かい理屈は省くが、この装置は七罪魔結界の代わりの結界を常時張り続けることが出来る。
無論定期的なメンテナンスは必要になるが、それは国の正式業務として後で砂上楼閣に掛け合えば彼なら乗るだろう。
あくまで月詠夜夜子の施設の範囲に限るので、どこまで効果があるかは定かではないが。
とはいえ全地表地点からの地中10km全てはやりようがない。
それでも何らかの成果はあると期待して、自分達の計画を進めるほかない。
だが。
「……弱い。
これでは此処と地表を"切り離す"にはまだ足りない。」
「うーん、そうだねー。
適合率40%って出てるよー。」
その成果は40%。
それは私達の努力など無駄なんだよと侮蔑されたかのような数字。
ちなみに一度測定した七罪魔結界の適合率は当然のように100%。
つまり”最低でも”100%に達しなければ話にもならない。
「100%にするためにやるべき事は一つ。
”あちら”に取り残されてる方を”こちら”側に戻すことです。」
”あちら”と”こちら”に繋がってる方々が、この結界の適合率を上げる邪魔になっている。
それはおそらく瑪瑙さんだけでない。
人数と適合率が比例する訳ではないが、この国には何人かいるのだろう。
”夢の世界”に取り残されてしまった人々が。
「……やはり、いるみたいですね。
夢の世界に人々を誘っている存在が。」
私は少し前を思い出す。
「……何やってるの貴方達?
そこにいるのは真那でしょ。」
音羽さんがいない時、私達は人外面子を連れて瑪瑙さんの病室を訪れていた。
そこで気になる反応をしたのは鈴蘭さんだった。
「……真那?
そこにいるのは瑪瑙さんですよ。」
……いや。
彼女の感覚は私達とは完全に別のものを見ている。
かつて刹那さんを真那としか認識しなかったように。
ただそれは、まさか。
「……”あちら側”の存在が、鈴蘭さんには見えている?」
それが、真那?
「……鈴蘭さん。
申し訳ないですが一つお願いがあるのですが。」
「……めんどくさい。」
私は鈴蘭さんを連れてイムヌス中を歩いた。
そしたら僅かではあるが、存在した。
鈴蘭さんが真那と認識した人々が。
「……”あちら”側の真那から、人々を解放する。
おそらくはそれが適合率を上げるための鍵。」
既に国内で鈴蘭さんが真那と認識した人々の選別は済んでいる。
その内訳は全部で15人。
思ったよりは多くないが。
「……たった15人いるだけで、適合率を40%まで下げて来るなんて。」
国外がまだとはいえ、人類の大半はイムヌスに住んでいる。
世界中の内訳は20人くらいが妥当に思えた。
15人でも20人でも大差はない。
七罪魔結界の強制力を思い知る。
完全な遮断が出来ない限り、この結界は絶対に本当の意味では消えない。
そう思えた。
「……問題はどうやって彼等を解放するか。」
「そこは私に任せなさいよ古都。
スーパーな私が解決してあげるわ。
ただちょっとだけど手が足りないのよね。」
「手、ですか。」
それは彼女が真那が生み出した人形である事に関係するらしい。
他にも人形がいればどうにかなるという事だろうか?
ただそんな当てなど……
コツ コツ コツ
自分達の靴音が響く。
俺たちは時折湧いて来る魔物やら天使やらを駆逐しながら、底へ底へと続く金網の上を歩き続けていた。
金網なのに底に進んでいく時点でもう物理法則は期待できないのかもしれない。
とはいえ戦闘への支障はなかった。
「ところで、だ。」
俺は希殺に確認する。
「たまにこの施設で感じた人の気配。
あれは誰だったと思う?」
そう。
何度か七罪魔結界の様子を伺いに来た事があったが。
たまに背後に気配を感じた事があった。
そのまま斬撃を放っても良かったが。
「あえて見逃した。
何故だか分かるか?」
「えぇ、それはまぁ。
あの場所に来る方の目的は全員同じでしょうしねぇ。」
希殺もやはり同意見のようだ。
同じ目的の人間を無駄に消す必要はない。
勿論俺たちのことを嗅ぎまわってるだけの可能性もあったが。
「一度もそれらしい接触はなかった。
あちらが俺たちに関わりたくなかっただけだろう。」
「ま、そんなところだろうねぇ。」
「………」
(この人たち、基本は碌でもない連中の集まりなんですが。)
アートは一人考える。
(変なところで波長が合う。
そのおかげか今まで一度も不和が起きていない。
ただそれはおそらく。)
お互いがお互いの信念を持って、人を殺したり、殺さなかったりする。
だが彼等はそれぞれの信念に不必要に踏み込んだりしない。
「まぁ雨宮古都の一派だと思いますよ。
状況的にね。」
「イムヌスに一番いた貴様が言うならまぁそうだな。
あの女が連盟などになった理由にも関係ありそうだ。」
更に頭の回転もお互い極めて高い。
それはいちいち無駄な問答をしなくて済むということ。
おそらく一緒にいてストレスにならないのだろう。
逆に仲間だの友情だの絆だのといった認識も一切ない。
お互いを見捨てる事にも何の躊躇もない。
そういった共通認識が出来てるから、単純に組むのには最適なチーム。
(人間はお互いの表や裏を知り、時にぶつかり合いながらもお互いの絆を深めていく。
いわばそれは王道の物語。
しかし彼等は違う。)
彼等はぶつかったりしない。
信念の違う者同士でそれをやる事に意味がないと知っているからだ。
徹底して無駄がなく、合理的。
だからこそ、彼等の間に生まれるものは何もない。
自分の信念で、自分の世界だけで終始完結している。
(ただその精神性。
”この先”においては逆に致命打になるかもしれない。)
善悪だの倫理だのを除けば、彼等は現実で生きる手法が充実していた。
だが”この先”にあるのは。
「……?」
金網が途切れる。
ここで行き止まりか、それとも他に分岐道でもあったのか。
「うんにゃ、道はあるよぉ。
闇月ちゃんの勘がそう言ってるからねぇ。」
そう言って躊躇なく闇月は金網の先を歩く。
よくもまぁそんな真似が出来るものだ。
ただ有難いと思って俺たちも後を続く。
だが次の瞬間。
「……っ!?」
上空から大量の隕石が落下してきた。
断っておくが此処は地表から10km底より更に底。
隕石なんて降って来る訳がない。
「そんな常識はとうに捨てるべきか。」
自身のドラゴンメテオで撃ち落とす。
”最初の”隕石群は処理したが。
「次が来たみたいだよぉ。」
今度は前方より竜巻の大群。
「こんっ、とんっ、ぎりっ♪」
闇月がまとめて斬り落とす。
だがこんなもので終わる訳がない。
「ククク。
まさに今のは挨拶代わりという事らしいですねぇ。」
希殺は笑っているが状況はちっとも笑えない。
俺たちの前に現れたのは今の攻撃を行使したと思われる存在。
「………」
「………」
見覚えのある2体。
暴虐の悪魔ガルガン。
退廃の悪魔フェイリィ。
少しばかり髪型や服装は違うが、まず間違いはないだろう。
「成程、こういう手合いか。
最初から難易度はベリーハードということらしい。」
俺たちは今までにない緊張感を持って、奴等に挑む。
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