SS TOPに戻る
前へ
次へ
32話 七罪魔の螺旋
どこまでも同じ風景が続く世界。
それは幾何学的で、幻想的、とでも表現するべきなのだろうか。
「……様、悪魔王様。」
その空間に響く波長。
「くす、くす、どうしたの?
オルフィレウス。」
その空間に一つの少女が現れる。
それが本当に少女なのかは、この場において定かではないが。
「掌握の悪魔より例の苦情が入っております。
小生では判断できませぬ。
如何なさいましょうか。」
「そう。では通して良い。」
「御意。」
その波長は途絶える。
代わりに少女とは別のものがその場に現れる。
禍々しい光を放つ書物。
絶命の書グリモアの素体。
「で、何か?」
少女はくす、くす笑いながら問う。
書物は口など存在せずとも、どこからともなく声らしきものを出力した。
「調停者に異議を申し立てます。
今回のダルバックを除く壊滅。
その要因が何処にあるかご存じですか?」
「貴方の戦略ミス?」
くす、くす、と笑いながら冗談染みっ”ぽさ”を出して返す。
グリモアは無視して続ける。
「碌に戦いもせずに散った虚偽にも大いに問題がありますが、それはまだ良い。
奴が悪役としての体を成していないという私の異議は以前、却下されている。
虚偽は"そういう枠"だから、と。
だが……」
グリモアの表紙の眼が細まり、更に眼の数が増える。
その表現は怒りの表れか。
はたまた失望の表れか。
「その枠が"2つ"もあるとはどういった了見か?
裏切り枠など1つで十分。
しかもこの裏切りは"1度"目ではありません。
偶々だったで片づけるにはさすがに限度が過ぎると認識する。
ゆえに……」
それが本題。
「第6七罪魔、暴虐の悪魔ガルガンの”除名”を申請します。」
裏切り。
今回の七罪魔壊滅の件、元を正せば暴虐の悪魔が七罪魔全体の裏切りを図った事から崩れ始めた。
それがグリモアの見方であり、実際その一面がないと言えば客観的にも嘘になるだろう。
「貴方の戦略ミスじゃないの?」
「問題の挿げ替えは辞めて頂きたい。
私があの地に潜伏してる事を知っていたのは、
私の部下達以外では、ガラハドとガルガンのみ。
その情報をよりによって人間達に渡し、揃って攻めてきた。
これは眺める者であれば即消滅レベルの違反。
情報によるアドバンテージは語るに及ばない。」
グリモアの苦情は続く。
少女は冗談染みた”フリ”を止める。
「貴方達は眺める者ではないけど、
確かに貴方の異議には一定の理屈がある。
ただ調停者としての判定は、否だ。」
「……その理由はなんですか?」
「暴虐の悪魔の裏切りは、これが”最初”だ。
月詠夜夜子の件では裏切りという程の行動を取っていない。
あれは暴虐の特性範囲の戯れと判断する。
ゆえに1度であれば偶々の範疇。」
「……あくまでそう判定すると?」
「そう。調停者は決定を変えない。変えられない。
くす、くす、くす。」
異議は却下された。
「それに”次の”七罪魔の候補も現在(いま)はいない。
除名した場合、補充がいる。
七罪魔という”設定”を保持するために。」
「それは貴方達の怠慢でしょう。」
「くす、くす。
それはまぁそう。」
少女人形は笑う。
そこに人間味など微塵もない。
「まぁ2度目があれば、次は除名しよう。
加えて次は、”例の”夢の世界の知識を暴虐に経由しない。
この辺りが妥当かな?」
「………」
その回答にグリモアは満足したのか単に無駄と悟ったか、禍々しい光を放って空間から消える。
空間には少女を模したものだけが残る。
「次があるかは、知らないけど。
くす、くす、くす。」
「さてこの状況。
どう思う?」
俺は暴虐の悪魔らしきものと斬り結びながら言葉を投げる。
近くにいる希殺は退廃の悪魔らしきものにひたすら銃弾を撃ち込んでいた。
「攻撃はして来ますが、なんていうか機械的ですねぇ。
いわゆるコピー品とかそういう類では?」
「コピー品にしては姿が微妙に違うのが気になるがな。」
暴虐はそうでもないが、退廃は特に顕著だ。
髪型がポニーテールでなかったり、服装も少し違いがある気がする。
暴虐も攻撃方法が槍でなかったりと変化はある。
「彼等は夢の世界の七罪魔。
その終わった夢の欠片です。」
「……夢の世界?」
何度か聞いた言葉だ。
真那の目的にも関わる重要なファクターらしいが。
「その夢の世界とやらにもこんな連中がいるのでは、
現実も夢も大差はない気がするな。」
「それはまぁ仕方ありません。
彼等はいわば遊ぶ者の嫌がらせですので。」
「嫌がらせ?」
「えぇそうです。
幸せで平穏な夢を穢すために遊ぶ者はこの連中を夢の世界に送り込んだ。
それを皮切りに、次から次へと悪夢が量産されていったのですが。」
「ますます現実も夢も大差がないな。」
何処の世界だろうと超越者共は人々を弄ぶために行動する。
その行動に大した理由はない。
何故なら奴等は"そういうもの"だからだ。
そんな連中に対しもっともシンプルな解決法は。
「殺す。
所詮はそれだけだな。」
「出来ればですがね。」
出来るか出来ないかなど知らん。
だがやるという意思を変える気はない。
「そんな事よりこの状況、どうすんのさぁ?」
「闇月、お前が先頭だ。
先に進むための経路を確保しろ。」
「特攻隊じゃねぇそれ。
まぁいいけどぉ。」
闇月がこの場を離脱する。
暴虐の悪魔が闇月を追おうとするが、させはしない。
「混沌斬。」
混沌の刃が僧を襲う。
ダメージは入っている。それにそれほど耐久力が高い訳ではないようだ。
こうなるとひたすら攻めた方がいいかもしれん。
「攻めの姿勢だ、希殺。
この先に何が出て来るのか予想がつかない事もないが、
こいつらは一回倒す。
どれくらいで倒れるか確認しておきたい。」
「やれやれ。仕方ありませんねぇ。
僕もとっておきを使いますか。」
希殺の懐から黄金の弾。
それを銃に装着する。
「………」
退廃の悪魔は魔法詠唱に入った。
撃ってくるのはあの規格外のドラゴンメテオだろう。
「さぁその威力、見せてくださぁい!
ガンウィング・オブ・テスタメント!!」
希殺の銃から黄金の光が放たれる。
それは如何なる原理か、退廃の悪魔の結界を貫通し、その身体を貫いた。
「………」
ぼろぼろ、ぼろぼろ。
退廃の悪魔は表情を変えることなく、散っていく。
どうやら撃破したようだ。
「それが例のロンギヌスの欠片か。」
「えぇ。決戦の現場から調達してきました。
肝心のロンギヌスは砕けてましたが、これでも使えない事はないでしょう。」
退廃の悪魔が倒れても、暴虐の悪魔は何も気にせず俺たちに攻勢を仕掛けてくる。
やはりこいつらには意思はない。
ただ目の前の存在を排除するだけの、ただのガーディアン的存在だ。
「ならばたかが知れる。」
本物と違って慢心も油断もないというメリットはあるだろうが、だからといって戦い方が単調過ぎた。
どう見繕っても本物の方が倍以上は強い。
俺は奴の単調な動きを完全に見切り、跳躍。
「月。」
暴虐の悪魔の首を”消滅”させた。
一人先行した闇月。
この広い空間のどこが神とやらの寝床かなど知らないが。
この手のものは底へ、底へと進んでいけばいいと相場が決まっている。
(あっちにもう1体、退廃や暴虐が見えた気がするけどぉ。
無視だね、む〜し。)
都合の悪いものは見ないに限る。
だが目の前に現れればそうも行かない。
「………」
「……ま、そう来るよねぇ。」
目の前に見える巨体。
その姿には見覚えがないが、自分の感覚器官がそれが誰かを特定していた。
無論、闘争の悪魔ガラハドである。
(逆に言えば目的に近づいてる気はするけどぉ。
さて、さすがにこれは最初から全快じゃないと即死だね。)
最深部まで使いたくなかったが、そうも言ってはいられない。
闇月の身体を黒い光が覆う。
その光の後に闇月の姿は変貌する。
青紫の肌に銀色の髪。更に濃くなった紅眼。
「この新生闇月ちゃんのお試し台にしては丁度いいってもんだねぇ!
いつまでも最強の面を保てると思うなよぉ!」
その相手は意思なき存在の筈なのに、私の言葉に少しニヤリと笑った気がする。
……なんだよ、気持ち悪いな。
やっぱさっさと終わらせよう。
SS TOPに戻る
前へ
次へ