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33話 悪党達の矜持
……さっきから、うるさいな……
……ようやく、落ち着いたと思ったのに……
……なに?誰か来ているの……
……あぁ、どうでもいい、ほんとどうでもいいよ……
……いつまでもこんな場所にいないで……
……早く次に行ってしまおう……
……あぁ、でも眠い、だるい……
……あと、10年、だけ……
……Zzzzzzzzz……
「やれやれ。
まぁあれで終わりとは思っていませんでしたが。」
必殺ロンギヌス弾を早くも3発使ってしまった。
そんな羽目になったのも。
「………」
「………」
目の前に現れるは先ほど同様、退廃と暴虐。
だが今度は更に。
「………」
上空に炎の翼を広げて飛び回る人型。
あの男の予想だと虚偽の悪魔。
3体もの七罪魔に囲まれ、僕は絶体絶命のピンチのど真ん中にいた。
つい先程も退廃と暴虐に囲まれはしたのだが。
「なんとか脆そうな退廃をこじ開けここまで来ましたが、
その間に囲まれて今度は3体ですか。
やれやれ、単純な暴力相手ではどうしようもありませんねぇ。」
元々僕は戦闘向けではない。
こうなってしまえばもはや僕など無力。
とはいえ。
「銃弾を温存したいのであれば、
こちらで戦うほかないですねぇ。」
ナイフを数本取り出す。
”後のこと”を考え、必殺の弾は温存する策。
成程、正しいだろう。
正しい、が。
「どれだけこれで凌げるかは、分かりませんが、ねっ!」
”この場”においては、別である。
(はっ、こいつ、ほんと……)
私は混沌斬を連発する。
威力そのものは最初に発揮した時より僅かに落ちる。
だが自身の精神があの時より安定しているため、その精度は格段に上がっていた。
しかし問題なのは。
「………」
奴は私の攻撃を巧みにかわす。
ただただ正確に、的確に。
そこに慢心や油断は感じられない。
(当ったんねぇ……)
問題なのは、いくら強力な混沌斬といえど当たらなければ意味がない。
混沌竜や魔狼の時の私は明らかに暴走していたが、肝心の的が大きかった。
今回はいくら巨体といえどそれはあくまで人型の範疇。
とはいえ私はノーコン選手ではない。普通の相手ならば確実に命中している攻撃の筈だ。
言うまでもなく、相手は普通ではないのだが。
「………」
(……やっべ、どんどん距離を詰められてる。)
混沌斬を回避しながら少しずつ私の前に迫って来る。
これでも他の七罪魔同様、大きく劣化してる状態である事に間違いはないだろう。
だがそれでようやくである。
「………!」
「あ、やべ。」
闘・争・乱・舞!!
「ぐはっっっっ!!?」
一瞬の隙をとられその一撃が私に入った。
そして相手は当然のように追撃を仕掛けて来る。
ただただ的確に殺しにやって来る。
こういう点は闘争を愉しむ本物にはない部分かもしれない。
「一旦、退避するしかないかなぁ、これはっ!?」
私は混沌斬を撃ちながら、後方に走る。
さすがに背を向ければ即死だ。少しずつ、少しずつ……
だが……
「……いやほんと、ふざけんな……」
空から降って来る炎弾の山。
その更に上空には炎の翼を広げた人型が私の上に鎮座していた。
「くそっ!?」
炎弾を避けるしかないのだが、そんな事をしている間に目の前の闘争が迫る。
だがその闘争の相手をすれば上空からの炎弾に対応できない。
「まじ、難易度ふざけてるでしょぉ、これはぁ。」
そもそもこの七罪魔パチモン集団はあとどれだけ湧いて来るのか。
ザシュッ
「………」
俺は何度目になるか分からない退廃の悪魔を斬り捨て、走り続ける。
ちなみに退廃の悪魔を狙うのは、単純に耐久力が低いからだ。
(希殺とも闇月とも完全にはぐれたな。)
アートだけは必死に俺の後方について来てるようだが。
「ヒールウォーターだ。
ここからは10秒に1回よこせ。」
「……えぇ。」
俺自身が回復などに手数を割いている余裕はない。
このひたすら沸いて来る夢の世界とやらの七罪魔軍団。
耐久力は本物に比べてかなり低い。混沌斬2,3発程度で沈む場合もある。
だが攻撃能力は決して低くない。2体以上で強めの攻撃を受ければこちらの即死もあり得る。
出て来る七罪魔は、暴虐、退廃、虚偽、闘争のいずれか。
厄介なのは空中を飛び回る虚偽と、攻撃が碌に当たらない闘争。
単純に倒すのに時間がかかるため、この2体との鉢合わせは極めて危険。
その間に更なる援軍が来れば、その瞬間詰み。
攻撃の当たりやすさ、耐久力を考えれば退廃が狙い目。ただしドラゴンメテオは極めて危険なので撃たせてはならない。
そしてどの七罪魔だろうと3体以上で囲まれればほぼ詰みと思っていい。
「……囲まれたな。」
目の前に暴虐と退廃。空中に虚偽。
言ってるそばから3体に囲まれた。
こうなると突破難易度は大幅に上昇する。
(分散された時点で既に詰んでいたようなものか。)
俺は冷静にそう判断する。
1体を突破してる間に残り2体に攻撃を受ける。
伝承ソードで暴虐と退廃に同時攻撃しても、虚偽に攻撃を受ける。
まともな手立てなし。
ならば。
「まともでない手立てで攻めるまでだ。」
俺は左手を自分の胸に突っ込んだ。
「……何を?」
そこから取り出したものは俺の身体を蝕んでいた混沌。
それを目の前の相手にぶち撒けた。
ぐにゃり……
その場の空間が歪む。
目の前の相手との距離感を掴めなくなる。
ならばそれは相手も同じということだ。
「つまりは隙だ。」
俺は行動を躊躇した退廃のどてっ腹に混沌斬を放っていた。
一早く行動に復帰した虚偽が俺に向かって炎弾を放とうとするがもう遅い。
奴の攻撃は俺の影を踏んだだけだ。
(温い。この程度の陽動ごときで。)
この七罪魔軍団の動きは、七罪魔そのものの意思ではない。
だがこいつらを”操縦”している奴は存在している。
今の躊躇した動きは自動操縦のものとは思えなかった。
そしてその操縦者自体は。
(戦いの素人だ。
七罪魔のスペックを存分に使いこなせていない。)
ならば突破は決して不可能ではない。
……はぁ?誰が素人だって?
……この僕を相手に、調子に乗ってくれるじゃないか、人間。
……だがあの人間だけは、この空間の戦い方を学んだそうだな。
……だったらこれ以上は、時間の無駄か。
……やれやれ、悪くない遊びだったんだけどなぁ。
……まぁ最低限の仕事はしただろ。あとは頑張れ。お母さま(笑)
目の前の戒は迷いなく、底へ底へと走る。
その姿は英雄、とは言えないかもしれないが、一つの人の極限であると私は思った。
(意識的かは知りませんが、戒はこの空間の戦い方を学んだ。)
何故なら此処はもう地表の延長戦上ではない。
夢と現実の境にあるもの。いわば境界線。
いわば信じた未知(みち)こそが、道(みち)となる。
無も有になるし、逆に有が無となる事もあり得る。
この場において現実主義者(リアリスト)的な戦い方はかえってNGなのだ。
(……他の二人は、どうなったか。)
このメンバーの欠点。
……いや本来なら欠点とは呼べないものなのだが。
それは現実主義が過ぎること。
要は効率良く戦えるという意味であり、本来なら誉められるべき点なのだが。
(此処では逆効果。
此処ではありえない事をありえると信じられる、頭のおかしさが必要になる。
それこそが最大の力となる。)
先程、戒は自分の中に溜まっていた混沌を力にして放出するとかいう真似をした。
混沌に蝕まれていようが、それを力にする事など出来る訳がない。
だがまぁやれそうだろ、という程度のノリでそれを実行した。
つまりはそういうこと。
本人がやれると思ってしまえば、やれてしまうのだ。
それが、人の夢というものである。
(おかしな話ではあるんですよね。)
戒は別に夢見がちな男ではないのに。
何故ここぞという時で夢見がちな発想に至れるのか。
現実の世界にも、夢の世界にも、適応可能な人間。
どんな精神性を獲得すれば、そんな事になるのか。
(まだまだ、眺め続けていたい。)
それは私の本心だ。
……だが。
……なに?まだ終わってないの……
……あぁ、あいつ、何してんの……
……もしかして勝手に人を連れてきた?眺める者なのに?……
……あぁよく分かんない、考えるのもめんどくさい……
……だったら、もういいや……
ぶちっ
「………っ!?」
私の中で何かが壊れる。
だがそれが何なのかは、本能的に理解した。
「……ついに、私も、
斬り捨てられる、ときか……」
眺める者としての範疇は逸脱していない筈だ。
だからこれは、母が”適当に”力を行使しただけだろう。
「……まだ……」
戒の姿が遠ざかる。
まだ、足りない。
まだ、眺め足りない。
でも、それも、ここまでか。
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