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4話 夜会



小テストとやらを乗り切ってはや1週間。
結論から言うと今回の小テストはカンニングなしで俺一人で乗り切ることが出来た。
毎日メモを取っていたのも無駄ではなかったらしい。
しかしガライの話を聞く限り。
「流石に最初のテストだからか、易しかったな。
 聖二はどうだったよ?」
「あ、あぁ。
 まぁなんとかって感じだ。」
……先行きが不安だ。
最終的なテストは殆どの授業毎にあるらしく、そのテストで合格点を取らないと単位?とやらが取れないとか。
それとは別に共通のテストやら実地試験とやらもあるらしい。
テストばっかりじゃねぇか。金さえあれば良かった下層の生活が懐かしいぜ……
「で、でも聖二君。
 私達でなんとか、乗り切って……っ……」
詩織がしどろもどろに言う。
……ま、そうだな。
俺一人の能力なんてたかが知れている。
それはこの場所でも同じことだ。
(……どこに行っても、俺はこんなんなのかもな……)
技能も、魔法も、知識も、中途半端な能力しか持ち合わせていない。
それが封座聖二という人間だ。
「そんな事より今夜はどうよお二人さん。
 夜会の方に一緒に行ってみないか?」
「や、夜会?」
……えーっと、確かこのカデンツァのお偉いさん達が開く集まり、的なものだっけか?
「い、いいけど。
 ガライ君、どこの夜会に……?」
「ヨーロの夜会だ。
 あのアンヌさんもいるらしいぜ。」
……そいつは確か教師の一人の名前だ。
「そ、そうだな。
 時間はあるし、行ってみるか。」
情報は積極的に集めた方がいい。
俺はその誘いに乗ることにした。

魔法使いの都カデンツァ。
元々は迫害された魔法使い達が集まってこの地を作り上げたという。
ただお約束というか、今ではその魔法使い達もいくつかのグループに分かれている。
要は派閥的なやつだ。
俺たちの時代の連盟の連中も派閥が2つに分かれていたが、まぁどこの時代もそんなもんらしい。
そして俺たちが今から会う連中は……
「その恰好、似合わないなぁ聖二。」
「うるせぇな。お前だって似合ってないぞ。」
「そ、そんな事、ないと思う、けど……」
俺たち3人は黒いローブに身を包んで、ある場所へ向かっていた。
その場所とは……
「……洞穴?」
このカデンツァって場所は一応は町、だった筈だが。
「あり?確かに此処で合ってる筈なんだけどなぁ……」
ガライも少々困惑してるようだ。
おいおい言い出しっぺが大丈夫かよ。
「うわぁ♪」
だが詩織はどこかはしゃいでるように見えた。
こういう場所が好きだったりするのか?
「あら。もしかして貴方もそっちの同好の士?」
そんな詩織に話しかけるツインテールの女が一人。
背丈は大分小柄で、いや待て、あの女は……
「……え?
 あ、貴方は、コダマさん……!」
「何よコダマさんって。
 同級生でしょ。」
コダマ・オラトリオ。
ガライ曰く俺たち同級生の中ではトップ3の一人らしいが。
「え、そ、そんな事を言われても。
 そ、それじゃあコダマ様……?」
「いや悪化してるでしょそれ。
 呼び捨てで構わないわよ。
 そういう堅苦しいのは好きじゃないし。」
サバサバした感じの女だ。
グループの一つの中心人物だからもっと近寄りがたい感じだと思ってたが。
「まぁ詩織は誰に対してもそんな感じみたいでな。
 勘弁してやってくれないか。」
「あら貴方達も来てたのね。
 そういえばいつもつるんでるみたいだし。」
「い、いやぁ。
 俺たちのような落ちこぼれトリオに貴方のような人が声をかけてくれるなんて……」
ガライがへりくだって言う。
なんだよそのキャラ。
「そういう面倒くさい格差はいいわ。
 そんな事より今日はこの夜会を愉しみましょう。」
「は、はい、コダマさ……え、えと。」
「……もういいわよ、コダマさんで。
 貴方は、詩織でいいわよね。」
「え、う、うん……い、いえ、は、はいっ。
 よ、宜しくお願いしますっ……」
まぁそんな感じで。
俺たちは3人ではなく、4人でその洞穴に入ることになった。

夜会は早い話が魔法使い達の集会。
カデンツァの派閥毎で夜会を開くことがあるらしい。
このヨーロの夜会もその一つ、ということだ。
「あー、貴方達が最後みたいですねぇ。
 早くしてくださぁい。」
洞窟らしき場所を抜けた先。
見張りみたいな女の後ろには大きな家が一つ。
外装がやたら黒い家だ。
ちなみに俺たちが今着ている黒いローブはこの夜会の正装らしく、夜会と言うからには黒ってことなのだろうか?
此処の魔法使いの考える事はよく分からない。
「あらコダマちゃん。
 貴方も来てくれたのね♪」
家のドアから一人の女が姿を現す。
全身真っ黒の薄気味悪い女だ。
「えぇ、アンヌ先生。
 今日は宜しくお願いします。」
コダマが恭しくお辞儀をする。
俺たちもそれに倣った。

家の中には同じ黒のローブに身を包んだ奴等が沢山いた。
特に口を開く事もなく、ただ一点の場所を見ている。
「………」
それは黒い、羽?
気のせいかどこかで見たような。
魔物の羽、か何かだろうか?
魔法使いの魔法の触媒に使うとか?
「じゃあコダマちゃんも来てくれたことだし、
 最初から話すわね。
 今日のメインはみんなも見てる”これ”よ♪」
アンヌは嬉しそうにその黒い羽を指差した。
「みんなも知ってるとおりこれは吸血鬼の羽。
 けれどノーマルやレッサーなんて低級のものじゃない。
 伝説のオリジンヴァンパイアの羽よ。」
オリジンヴァンパイア。
吸血鬼は大きく分けて4種類に分かれる。
最下級のレッサーヴァンパイアから、ヴァンパイア、ナイトヴァンパイア。
そしてその頂点に立つ存在がオリジンヴァンパイアだ。
「吸血鬼さんの、羽……?
 どうして羽だけがあるんです、か……?」
詩織がボソボソと小声で話す。
だがアンヌにはそれは質問と受け取られたそうだ。
「うちの警備隊隊長、メイク・ザルツブルクが討ち取ったのよ。
 まぁ本体は魔導研究所だから、此処にあるのは羽だけなんだけど。
 でもこれだけでもおこぼれに預かれるとは思わないかしら?」
「お、おこぼれ……?」
「オリジンヴァンパイアは貴族悪魔級の強大な存在と教わってますが、
 それを討ち取ることが出来たのですか?」
詩織の疑問は余所に、コダマが質問する。
「うーん、メイクさんの事だから卑怯な手でも使ったのかもしれないわね。
 まぁそんな事は些細なことよ。」
そんな事より羽よ羽と。
「オリジンヴァンパイアの羽。
 それは不老不死の入口と言われているわ。
 もし不老不死を得ることが出来れば、私達ヨーロの地位も盤石なものとなるでしょう。
 これはそのための第一歩なのよ。」
そこから先は何やらカデンツァの権威が、魔法使いの研鑽が、などと胡散臭い話が続いた。
(不老不死、ねぇ。)
同じ時を繰り返してる俺にとってはまったく興味の惹かれない概念だった。
いろいろ知った今となってはホラ話とは一蹴できないが。
「先生。
 そのオリジンヴァンパイアの名前は何と言うのですか?」
アンヌの話を遮り、コダマがまた質問する。
「え、名前?
 なんだっけ、たしかアなんとかって言ってたような。
 それ重要なことなのかしら、コダマちゃん。」
アンヌはどうでも良くない?という風に答えた。
「……分かりました。
 ありがとうございます、先生。」
コダマはそれだけ聞くと立ち上がり入口の方に歩いて行く。
「コ、コダマさん……」
詩織もコダマの様子を見て慌てて追いかける。
俺たちもこんな場所にいる気にはなれず、二人の後を追いかけた。

「此処は合いそうもないわね。
 詩織もそう思わない?」
「う、うん……」
コダマと詩織は二人で話してるようだ。
どうやらコダマも此処には初めて来たらしい。
「私の村は吸血鬼の人もいたから……
 ああいうのは……」
「……そう。
 だったら此処にはもう来ない方がいいわね。」
詩織の村に吸血鬼?
この時代ではそんな場所があるのだろうか。
まぁ今は深入りしない方が良さそうな雰囲気だが。
「も、もしかして、コダマさんの村にも……?」
「……いいえ、吸血鬼はいないわね。
 炎の精霊様はいたけど……」
「せ、精霊様ってイフリート……?」
「いいえ、もっと高位の精霊様だと思うわ。
 私は直接お目見えした事はないんだけど。」
女子二人で話が弾んでるようだ。
少し話題には興味があるが。
「女同士の会話には口は挟めねぇよな。
 な、聖二。」
「分かってるっての。」
ガライが後ろから声をかけて来る。
そういえばコダマも北の村の出身と聞いたが。
「お前もどっかの村の出身だったりするのか?ガライ。」
「え?いやちげぇちげぇ。
 俺の出身はイムヌスだよ。
 てか前も言っただろ。」
そういえばそうだったな。
「……ま、俺は家の落ちこぼれって奴でさ。
 なんとか此処でもう一度始めてみたいって思ってたんだが……」
なんか自分語りを始めた。
口を挟むのも空気が読めてないので黙って聞いてやる。
「なんとか入学こそ出来たけど……
 まぁ、現実はそう易しくねぇよな。
 俺なんかが卒業できるかどうかも疑わしいぜ……」
それを言ったら俺は次のテストすら怪しいのだが。
まぁ最悪また哀音に力を貸してもらうほかないだろうけど。
「イムヌスからカデンツァに来たって、
 此処って魔法使いの都なんだろ?
 イムヌスよりレベルが高い場所なんじゃないのか?」
「……え?
 聖二、おまえどんなド田舎から来たんだよ。
 イムヌスに勝てる国なんてある訳ないじゃないか。」
呆れたようにガライは言う。
それに何より、と。
「イムヌスにはあの神楽魔姫様がいるんだ。
 魔法方面だけでも、勝負にならねぇんじゃないかな。」
こういうこと言うとセンコーに怒られそうだけど、と笑いながら言う。
神楽魔姫。
哀音が言っていたこの時代最強の魔法使い。
そいつに会う事さえ出来れば、彼女を救う事が出来るのだろうか?
(……先は長い、な。)
俺のような凡俗の魔法使いが、そんな人物に会うことが出来るのか。
会うことが出来たとして俺たちの問題を解決してもらえるのか。
未だ底辺の落ちこぼれトリオである事を考えると、それは途方もない事のように思えた。


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